続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
第54話:他が為のカルラ
「──状況を、整理しようか?」
「あんたが仕切ってると腹立つな……」
──各自。
イデアを此処でふんじばってしまいたいのを抑えて取り囲み、作戦会議が始まった。構図だけで言えば尋問のそれであった。
異次元空間にポリゴンZが3Dプリンターによって構築した拠点は、空間内に人間やポケモンが長居出来ないという欠点をある程度克服している。
しかし、長くはもたず、およそ半日程度で崩壊してしまうらしい。だが逆に言えば、彼らはその間、絶対なる安全と準備の時間を得る事が出来たのである。
「誰のおかげで、束の間の安息を得ていると思っているんだい? 君達」
「はいはいござるござる」
今度は小型グラップリングフックを額に撃ち込むキリ。調子に乗るなと物理的に釘を刺したのだった。
「──ワームホール公団……というよりコチョウの目的は……全世界の生命体のクローン化だね」
自信たっぷりにイデアは言い切る。仮面の下では常に怪訝な顔なキリが問うた。
「その情報は何処から手に入れた?」
「コチョウ本人から直接聞いたよ。あいつ、僕の事を仲間に引き入れたかったみたいだからねえ?」
「荒唐無稽かつ不可能だ。そもそも、何故わざわざ生命体をクローニングするという手間を挟む? 直接操れば良いだろう、エスパーポケモンでも用いて」
「そういえば、クリーンを操ってる声……クローンじゃないと操れない、みたいなことを言ってたよ。ポケモンも人間も、クローンならリンクできるんじゃない?」
「そんな技術一体何処から……」
「簡単だよ。コチョウの正体……あいつ──ポケモンさ」
全員の顔色が変わる。
そして、信じられないものでも見るような目でキリはイデアの胸倉をつかんだ。
「──適当な事を言うなよイデア」
「本当さ。あいつ自身が正体を見せてくれたよ。僕に逃げられるって思ってなかったんだろうね」
「クローンを同時多数操れるようなポケモン……そんなものが居るわけがない。ましてや、今の話を聞く限り、人間と意思の疎通を簡単に行えている」
「……オオヒメミコ」
「ッ!!」
「よく分かんないけど、あいつは自分の事をそう名乗ってたよ。この時代の、ましてやこの世界のポケモンじゃない。クエスパトラ型ロボットみたいなポケモンさ」
その言葉を聞き、全員はイデアの言っていることを本当だと信じざるを得なくなってしまった。
オオヒメミコ──それは、かつて共闘した異世界からやって来たポケモンだったからだ。
加えて、オオヒメミコは只のポケモンではない。未来で製造された人造ポケモン、オーデータポケモンの一機だからである。
「どうも彼らの元居た世界は、オーラギアスってヤバいポケモンの所為で滅んじまったらしい。彼らはその技術で製造されたみたいだ。なーんて言っても君達は信じてくれないだろーけどさ」
「俺達その話すっげー知ってんだよ博士。オーラギアスも、そんでもって、そいつの力で生み出されたオーデータポケモン、ましてやオオヒメミコの事もな」
「あえ? マジで? 君達、僕の知らない所で何やってたの?」
色々である。
「ねえ、メグル……オオヒメミコって……確か」
「ああ。イクサ達と一緒に居たあいつだ。確かにオーデータポケモンなら、組織を乗っ取ってクローンを同時に操るくらいはできる……のか?」
しかし、同時に信じたくない気持ちもあった。
オオヒメミコは、過ごした時間こそ短いが──味方だと思っていたからである。
ショックを禁じ得ないメグル達に、キリが口添えする。
「恐らく拙者たちの知る個体とは別個体でござろう。オーデータポケモンは未来の技術で量産されている、と拙者は聞いている」
「そっか、じゃあミコちゃんじゃねえよな……多分」
「君達の出会った個体の事は知らないけど、少なくともコチョウはどうやら、元居た世界の住人に放逐されたみたいだね。アイツは無自覚だけど、エラーを起こしている」
「エラー……? そっか、ロボットポケモンだからか」
「本来、オオヒメミコは生態系の管理をするために作られた。そいつがエラーを起こした結果、手段を択ばずに”生態系の管理”という目的を愚直に実行する事になってしまった、ってところかな」
「もしかして、元居た世界でも似たような事をしようとしたんでしょうか。それで、疎まれて放逐された」
「その結果、この世界に居つき、今に至るってわけさ」
その話を聞き、ホッとしたようなしないような気持ちでメグルは溜息を吐く。やはり、自分の知るオオヒメミコとは別個体だったようだ。
オーラギアスと相対した後、メグル達もミコから彼女のこれまでの経緯を聞いていており、今こうして脅威となっているコチョウのそれとは異なるからだ。
同じオオヒメミコではあるものの、ミコとコチョウは完全な別個体である、と断じることができる。
「随分と詳しい話をヤツはお前にしたようでござるな」
「僕ね、一時期セレクト・ラボラトリィに居たんだよね」
「!? ……そうか。貴殿、名前を変えていたでござるな」
「そゆこと。顔も名前も何度も変えてるからね。ま、向こうの奴らと気が合わなくてすぐ脱退したけど。だってさあ、あいつら──雑だもんね? ポケモンの扱いとかさ」
「ビックリしたぜ。あんたにもまともな感性とかあったんだな」
「そりゃあ、僕にも譲れないものはあるのさ。君もあの島を見てきたなら分かっただろ? 概ね僕は当時、ほぼ同じ感想を抱いたと思うよ」
曰く。
最新鋭の遺伝子研究と聞いて来てみれば、中で行われてたのは杜撰な管理の生物実験に加え、到底実現できるとは思えない人造ポケモンの研究。
タイプ:ゼノが完成する前に、さっさとイデアはセレクト・ラボラトリィを抜け出したという。
「でも、コチョウの奴は当時から僕の事を知っていて、目を付けていたらしい」
それは、不死身の身体を持つイデア、そして──彼が従えるドーブルの事をコチョウが把握していたからだ、と彼は語る。
この二つを危険視すると共に、有力な研究素材と考えていたコチョウは、戦力が整ったこのタイミングで自分を拉致したのだろう、とイデアは推測する。
「しかし何で博士を……?」
「クローンの素体は死体……死なない博士は、コチョウからすれば絶対に操れない存在だから、ではないでしょうか」
「だと思うよ」
「して、貴殿はどうして逃げた? 牢屋から出られるならこれ以上ない話だろう」
「言っただろ。僕はもう、あそこから出るつもりは無かったんだよ」
肩を竦め、イデアは言った。
「正直ね、さっさとあの牢屋に僕は帰りたいんだよ。でも、そういうわけにはいかなくなった」
「……訳分かんねえ。関わんなきゃ良いじゃねーか、コチョウになんか」
「……アイツ、
「協力って──」
「やるしかないよね」
アルカが拳を握り締めながら言った。
「……オオヒメミコを捕獲する! これ以上、あいつに好き勝手させないよ!」
時間はもう無い。
イデアは信用できない。しかし、自分たちしか知らないはずのオオヒメミコを知っている辺り、彼の言ってることは本当だ。
加えてココナッツシティの惨状を見るに、彼女は自分の本拠地付近の住人を大量にクローン化していると見える。
この惨禍を止めるには、オオヒメミコを無力化する他ない。
「──そうだね。私の友も……既にクローンにされている」
「……シャイン」
レモン、そしてラズの姿を思い浮かべながら彼は言った。
オリジナルは既にこの世に居らず、今生きているのは記憶と姿形を保ったままのクローン。
そして彼らは、生前そのままの姿でオオヒメミコの傀儡と化している。
「彼らをこれ以上、コチョウの思い通りにはさせない」
「ッ……シャインさん」
「──終わらせよう。ワームホール公団の陰謀を。友を救う為に、私も協力しよう!」
全員は頷く。
だが、ただ一人、メグルだけが──憂いの隠せない顔で溜息を吐くのだった。
※※※
「……完全に管理された、完璧な世界。それこそが、私の使命」
地下のクローンファクトリーに大量に並び、ドームの中で保管されたクローンたちを眺め、コチョウは笑み一つ浮かべず言った。
その傍らには、四天王たちの影。不具合を起こしたノーゼンの姿はそこには無く、代わりにクローバーが加えられる形にはなっていたが──
「……ブルード襲来の前に、後顧の憂いを断つ。マーニャに入り込んだネズミ共を……駆逐する」
四天王たちの目が緑色に発光した。
彼らの脳内に、コチョウによる命令が完全にインプットされた瞬間だった。
そして──四天王を率いるトップたるユリが恭しく礼をしながら彼女に近付いた。
「してコチョウ様。ヴォルカニドとブリザベオの行方についてですが」
「進展があったのか」
「ええ♪ 喜ばしい事に、あの二匹がどのようにして巨体を消したのか、分析班の調査で分かりました」
「……というのは」
「彼らは空気中に自らの身体を離散させることができるようです」
「!」
コチョウは目を見開く。
道理で見つからないわけだ、と嘆息した。
球体状態でエネルギーの消費を抑えるのみならず、自身の身体を空気中に完全に馴染ませて姿を消す事が出来るが故に、感知されることがなかったのだ、とコチョウは判断する。
「二匹が消失する瞬間の気圧情報、気候情報、そして大気中の分子データを再度洗い出した結果、ヴォルカニドとブリザベオは正真正銘、”熱波”そして”寒波”の概念がポケモンとなったアストラル的存在と断じて良いでしょう。似ても似つきませんが……ポワルンが類似の存在として当てはまるでしょう」
ポケモンの中には、ゴーストポケモンではないにも関わらず概念をそのまま具現化したかのような姿のものも多い。天候という概念を具現化したポワルンがその一例だ。
このポワルンと言うポケモンは、気象に応じて細胞を変化させてフォルムチェンジする。また、その細胞性質は水分子に極めて近いとされている。
ヴォルカニドとブリザベオもまた、その身体を形成する細胞は水分子に近く、それを熱気、熱波として出力するか、それとも冷気、氷として出力するかの違いでしかない、とユリは語る。
「やはり、マーニャの守護神は普通のポケモンの物差しで測れるものではありません。自然界で生まれるのはイレギュラーな存在。科学の極致に立つ我々とは対極に立つ存在ですね」
「だが結果的に、奴らが何故今更目覚めたのか……そして何を求めて活動しているのかは不明だぜ」
「ヴォルカニドとブリザベオの捕獲……どちらにせよこれは完遂せねばならない事だ。私の完全なる管理の遂行の為に」
コチョウは遠い目で、モニターを見つめる。
そこに映し出されたのは──恐ろしい速度でこの星に近付く大きな天体の姿だった。
「……やはり軌道を変えてきている。思った通り、この星を獲物に定めたか”ブルード”……!!」
※※※
やる事は限られている。
人間だけではない、ポケモンもボールから出してのメディカルチェックを行う。
ポケモンの生態に詳しいミアとイデアがこれを率先して行い、ケガや疲労度を確認し、各トレーナーも交えて決戦に備える。
そしてココナッツシティの見取図をノオトとキリが確認しながら作戦立案をしていた。
その合間の時間──何処か疲れ切った顔でメグルは彼らの顔を見渡すのだった。
「……代わり、か」
「どうしたの?」
その隣に立つのはアルカだ。
「……なあ、アルカ。もし俺が死んで──クローンになったら、どうする?」
「ッ!?」
「シャインの事を……クローバーの事を考えてたら……ふと、思っちまったんだ」
友人の実質的な訃報を、そして彼らの亡骸を好きなようにされている様を見ても尚、気丈に振る舞う彼を見て、メグルは呟く。「強いな、あの人は」と。
クローンにされた彼らを──それでも「友人」だと言い切って、救おうとしている。
同時に、亡骸を好きなようにされ、同じく傀儡と化したクローバーの話を聞き──心底落ち込んでいた。
「クローバーも、クローンになっちまったんだろ」
「……うん」
「あいつらを好き勝手にしてるのはコチョウだ。アイツを倒せば、クローンたちは支配から解放される。生前の姿、記憶、そのままなら……きっと元通りのまま、自分の人生を歩んでいく」
だが──メグルには、どうもそれで終わりにしていいとは思えなかった。
「記憶と姿が同じクローン……それを俺達は……同一の人物だって思えるのか、って思っちまった」
「……ボクは」
「……俺はきっと、耐えられねえと思う。もしお前がクローンになったら……多分、同一だなんて思えねえ。俺が出会ったお前は、お前だけだ。もちろん──ニンフィア、お前も」
「ふぃるふぃー?」
メグルの足元で丸まったニンフィアは「なんのこっちゃ」と言わんばかりに欠伸をする。難しい事は分からないし、理解するつもりもハナから無いらしい。
「ボクは──きっと逆だな」
「……!」
意外な答えにメグルは思わず彼女の顔を見た。
「もし、君が居なくなって、君と同じ顔の同じ記憶の誰かが現れたら……縋っちゃう……かもしれない」
メグルは──「そっか」と返す。彼女も自分と同じ答えだと思っていたが故に、不意を突かれた気分だった。
「……それくらい、大切な人を失うのってショックなことで、怖いことで、寂しい事だと思う」
「俺は……ずっと怖い」
「……うん。だから……ボクはきっと、目の前に出てきたそれをニセモノだって突っぱねられるくらい、強くないと思う」
「……」
「だって、クローンも生きてるから。クローンを生み出すワームホール公団を否定するけど、今を生きてるあの町の人たちや……レモンちゃん、ラズさんを否定する事なんて、出来ない」
「お前はどうなんだよ」
「え?」
「……自分が死んでも、自分の記憶を引き継いだクローンが居るなら……俺は大丈夫だって思うか?」
「それは──」
「俺は……この戦いでまた誰かを失うかもしれないって思うと──今も指が震える。こんなんで戦えるのかって思っちまった」
大丈夫なわけがない、とメグルは自分に言い聞かせる。
今、この場に居る全員のうち、誰か一人でも欠けてほしくはない、と思ってしまう。
だが、敵はあまりにも強大で──この中の誰かが「全く同じ姿と全く同じ記憶を持つ誰か」に置き換わる事を、メグルは酷く恐れている。
「それでもボクは行くよ」
「……ッ」
そんな彼を鼓舞するように──アルカは言った。
「俺はお前が──」
「……君の為だけじゃない。友達の為。ポケモン達の為。ボクにオーライズは使えないけど……それでも戦う。ボクはこの世界に救われたから、今度はボクが助けてあげたい」
「……何にも分かっちゃいない」
「そうだね。でも──」
「──アルカさん!! ちょっとこっちに来てほしいんですけど──」
ミアの呼び声が飛んでくる。
「またね」──そう言って彼女はメグルに微笑みかけると、その場を後にするのだった。
そんな彼女の背中を、メグルは見つめる事しか出来なかった。結局彼女は、いつも自分の先を行ってしまう。自由奔放で、好奇心旺盛で、いつか勝手に一人で野垂れ死ぬのではないか、とずっと不安で──
「俺は……」
目を伏せるメグル。そんな彼を、心配そうにニンフィアは見上げるのだった。
「やっぱり……見ない間に随分とくたびれたね? メグル君」
そんな彼に──軽薄な声が掛かる。
イデアが手を振りながらやってきたのを、気色ばみながらメグルは睨むのだった。
作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)
-
ラブコメ、純愛
-
戦闘シーン
-
シリアス、曇らせ
-
ギャグ、コメディ