続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第59話:黄昏の残光

 ※※※

 

 

 

 頭が痛い。

 くらくらする。

 瓦礫に押し潰され、全身が重い。

 

 

 

「キリさん……キリさんッ……!!」

 

 

 

 だが、それでも無理矢理意識を戻す。キリだ。自分が居なければ、キリは一人で戦っていることになる。

 

「ルカリオ、ずっと守ってくれたのか……!? オレっちが起きるまで……!!」

「ガォン」

「……毒は……」

 

 ルカリオは頷いた。今のルカリオが戦えるかどうかなど、傍に居るノオトが一番理解している。

 

「そうか、分かった──」

 

 瓦礫を押しやり、ルカリオに肩を貸してノオトは起き上がった。そして視界が開けた時、愕然とする。

 

「ッ!? キリさん──!!」

「ガォン!!」

 

 巨大な蜘蛛の怪物が──血塗れのキリに襲い掛かろうとしていた。

 

「──ルカリオッ!! ブッ飛ばせッ!!」

「ガオォオオオンッ!!」

 

 そこで一気にノオトもルカリオも意識が覚醒する。

 両者の目からは青白い稲光が迸る。そして、文字通り白い閃光となり、ルカリオは蜘蛛の怪物の側頭部を蹴り飛ばしていた。

 

「ドバァッ!?」

 

 ブランカは驚きの声を上げる。

 此処に来てノオトが意識を取り戻した事。そして、ルカリオがオーラギアスを蹴り飛ばしたことだ。仮にもギガオーライズしているとはいえ、両者の膂力には大きな開きがあるからである。

 

「キリさん──キリさん……腕が……!! 今、血を止める!!」

 

 右腕の無いキリに駆け寄ったノオトは蒼褪めた顔で彼女に呼びかける。

 そこら中に血が溢れ出しており、今も腕からは血が流れていた。すぐにルカリオに目配せする。

 間もなく腕の断面が凍り付き、無理矢理止血される。ルカリオが自らの波動で凍らせたのだ。

 毒、そして出血で既に意識が朦朧としているキリは、自らのパワードスーツを顔だけ解除した。

 

「キリ、さん……?」

「よかった。この眼が、見えるうちに……ノオト殿の顔を見たかった」

「ッ!? 縁起でもない事を言うんじゃねえッスよ!!」

 

 残った左腕でノオトの頬を撫でる。

 

「ああ……ノオト殿。こんなに、こんなに立派に、なって──拙者は……」

「ッ……キリさんには、これからもオレっちのカッコいい姿を見て貰うんスよ!! 絶対に、あいつに勝って助ける……だから!!」

「……ノオト殿は、サイゴクの。拙者の誇り……やはり、いざと言う時、拙者が任せられるのは……ノオト殿──」

「……」

 

 ふぅ、と左腕から力が抜け、ぽとりと落ちた。

 

 

 

「……頑張ったッスねえ、キリさん」

 

 

 

 キリは──それ以上喋る事をしなかった。辺りには静寂が満ちる。

 彼女のふんわりとした金の髪を撫で──ノオトは俯いた。

 

「ガキんちょ……生きてやがったのかァ!! 許せねぇ!!

「……オレっちが許せねえのは──」

「ああ?」

 

 ゆらり、と起き上がったノオトの目からは──黒い稲光が迸っていた。

 

 

 

「……不甲斐ないオレっち自身だ!!」

 

 

 

 オージュエルが黒く染まる。

 同時に、ルカリオを覆っていたオーラの装甲が光り輝き──完全にルカリオの身体と一体になる。

 

 

 

 全身は真っ白の体毛に覆われ、紫色の棘が生えた強大なる鬼の如き獣人。

 

 

 

 その名はウガツキジン。ルカリオがギガオーライズの次の段階に至った事で到達した境地だった。

 

 

 

 冷気は全てウガツキジンの腕に収束していき、掌からは毒を帯びた氷柱が生えていく。

 

「何がキャプテンだ。オレっちは……あんたに認めてほしくて……だから、強くなったのに」

「また姿が変わりやがった──だがそのルカリオはさっき、オーラギアスの毒を受けているッ!! だから、瓦礫ン中からなかなか起き上がれなかった、違うかァ!?」

「……オメー、頭悪ィっしょ」

「ドバァ!?」

「確かにスゲー猛毒ッスよ。だけど、猛毒にやられてんなら、何で今ルカリオは立っていられる? 時間が経てば経つほど、毒でポケモンの体力は減ンのによ」

「……オイオイオイ、待てよ。まさかと思うが……毒を克服したってんじゃねえだろうなァ!? オーラギアスの毒をッ!! 寝言を抜かすんじゃねえドバァァァーッ!!」

 

 オーラギアスの身体から大量の糸が放たれ、地面にも、そしてノオトの身体にも纏わりつく。もちろん、ルカリオにもだ。

 しかし──もうルカリオは、毒で苦しむ事は無く、そればかりか自らの腕力であっさりと糸を引き千切ってみせる。

 

「ッ……オーラギアスの毒が効いてねえドバァ!? だが、ポケモンは無事でもテメェは無事じゃねえだろがァ!! アドレナリィィィンッ!!」

「……そうか。テメェは、この毒で──キリさんを苦しめたのか」

「ッ!?」

「ルカリオ!!」

 

 頷いたルカリオは、ノオトに迫ると掌に現れた棘を彼の腕に突き刺す。そして、横たわるキリの左腕にも棘を突き刺すのだった。

 

 すぐさま電気を流したかのような激痛がノオトの身体を襲う。しかし、みるみるうちに毒による呼吸の乱れ、そして頭の靄は消え──ノオトはその場に立つ。

 

「──な、何だァ……!? どういう、事だァ!? 何故立ってられる!? オーラギアスの毒を受けてェ!!」

「ウガツキジンはありとあらゆる毒手を極めた鬼人。だから、毒を一度は受けても──それを取り込んで対抗するための抗体を作ることができる。要するに、抗毒血清に近い物を体内で生成できるんスよ」

 

 もっとも、この毒の抗体を作るのに、流石のルカリオと言えどかなりの時間を要する上に体力を消費する。その為、瓦礫の下でノオトを守りながらじっとしている必要があったのだ。おまけに、オーラギアスの毒は毒タイプを苦しませる程強力だ。抗体が完成するまで、ルカリオは苦痛で動く事が出来なかった。

 ちらり、とノオトは倒れ伏すキリの方を流し見る。出血は酷い。だが、先程よりも呼吸が安定している。ルカリオの血清が効いているのだ。

 

「ギガオーライズしたルカリオがこの力を持ってるのはオレっちも知っていた。とはいえ、流石に毒タイプも苦しめる新種の毒にはビビったッスけどね!!」

「だから何だってんだァ!! テメェらまとめて、二度と娑婆に出られねえ身体にしてやるドバァ!! 怒りはパワーッ!! 怒りこそが俺の力の源だァ!!」

 

 怒り狂うように迫るオーラギアス。

 巨大な前脚による連続攻撃がルカリオに何度も何度も叩きつけられる。

 

「アドアドアドアドアドアド──ドバドバドバドバドバドバドバァァァァーッ!! アドレナリィィィィイイイインッ!!」

「……うるせぇヤツだな。怒り過ぎで頭ァ沸いちまったんスか」

 

 しかし──それらも全て、ルカリオは氷の障壁を展開してあしらってしまうのだった。

 そればかりか、前脚を掴んだルカリオは、そのまま力いっぱいにオーラギアスを投げ飛ばす。

 

「ぐぅっ!?」

「──ルカリオ、”こごえるはどう”ッ!!」

「避けろ、オーラギァァァス!!」

 

 糸を吐き出し、自らの身体を引きずって移動しようとするオーラギアス。しかし、その柔軟な動きを担保する糸がよりによって凍り付いて砕けてしまい、勢い余ってごろごろと転げてしまう。

 

「ドバドバァ!! 調子に乗るんじゃねえドバァ!! ドバドバの──”じしん”ッ!!」

「ヲヲヲヲラギァアアアアアアアアアアスッ!!」

 

 凍り付きながらも、脚を床に叩きつけ、衝撃波を起こすオーラギアス。

 だが、対するルカリオも地面に拳を叩きつけて衝撃波を起こし──相殺してみせる。

 

(ルカリオの考えてること、全部今分かるッ!! これが──フェーズ2の領域ッ!!)

 

 体格はオーラギアスの方が大きく上回っている。だが──膂力はほぼ互角となっている。加えて、ノオトとルカリオの精神同調は完全なものになっており、

 

「ドバァ……!? バカな!?」

「ルカリオッ!! オオワザだッ!!」

 

 洗練された手刀は優れた剣に匹敵する。

 空気抵抗を極限まで減らし、目の前のものを貫くための穿つ一撃だ。

 

「ドバドバの糸で障壁を展開しろ、オーラギアスッ!!」

「オ、ヲヲヲヲヲガ、ギガ……!!」

 

 咄嗟に防壁を展開しようとするオーラギアス。しかし、その身体が動く事はもう無かった。

 念動力だ。金縛りにあったかのようにオーラギアスの身体が硬直してしまっている。下手人は勿論、キリの手持ちポケモン達だった。

 

「ド、ドバァッ!? シンボラー、ソルロック、ルナトーン……ッ!! ま、まだくたばってやがらなかったのか──ッ!! ゆ、許せねえッ!! こんな事、起こって良いはずがねえドバァ!!」

「許すか許さねえかはテメェが決める事じゃねえよ、頭スカスカ野郎」

「抜かせやァ!! くたばれ!! オーラギアス、オオワザ──”ジャミングオブボンド”ォ!!」

 

 手刀が連続でオーラギアスに放たれる。

 強固な外骨格はボロボロに撃ち砕かれ、穿たれていく。冷気で身体は凍り、そして次の手刀で貫かれ砕かれていく。

 対するオーラギアスも強大なジャミングウェーブを放ち、ルカリオを吹き飛ばそうとするが──ルカリオは全身に冷気を纏って突貫し突っ切る。

 

 

 

「オオワザ──”ウガツレンゲキ”ッ!!」

 

 

 

【オーラギアスの ジャミングオブボンド!!】

 

【ルカリオの ウガツレンゲキ!!】

 

 

 

 超高速で放たれるラッシュを前に、オーラギアスの身体は崩壊した。

 そして、REXとリンクしていたブランカもまた──様子がおかしくなる。

 

「あ、あぎっ、がっ、頭が割れる……」

 

 眼球が痙攣を始める。頭を押さえ、何度も何度も地面に頭を叩きつけるが、痛みは消えない。そればかりか。

 

「壊れる……俺がァッ、俺じゃあ、なくなる」

 

 

 

 

「……こ、こんなの、許せる訳が──無ェ──ア、アドレナリィイイイイイイイイイイイイン」

 

 白目を剥き、口から泡を噴き出したブランカは、そのまま仰け反ったかと思えば何度か痙攣。そして──動かなくなるのだった。

 

 

 

「……良かったじゃねえか。怒りはパワーなんだろ? そうやって不満撒き散らして……怒りを抱えて、沈んでいけ」

 

 

 

 それを一瞥したノオトは──キリの方へ駆けよる。

 千切れ飛んだ腕をルカリオに指示して冷凍保存させる。手術すれば、まだくっつく見込みがあるからだ。

 問題は、この地方の病院は信用ならない事だが──

 

「絶対死なせねえッスよ、キリさん……!!」

 

 

 

 

「ヲヲヲヲヲヲヲヲ……」

 

 

 

 

 呻くような声。

 ノオトは振り向いた。

 崩壊したオーラギアスから溢れ出した靄が、ブランカ、そしてノーゼン、更にオムスターの亡骸を飲み込んでいる。

 

「ッ……まさかこいつ、まだ生きて──ッ!?」

「ヲヲヲヲヲヲヲヲ……!!」

 

 間もなく靄はブランカとノーゼンの身体をブロックのように分解し、再構築。

 巨大な大蜘蛛が再びその場に現れる。そして、大蜘蛛は咆哮したかと思えば──装甲の如く自らの身体にオーラを纏わせていく。

 その姿は金字塔。ノオトも見たことがある、オシアス地方の古代文明が建造した「ピラミッド」に酷似していた。

 

 呪いは廻り──禍と化す。

 

 

 

「ドバドギァァアアアアアアアアアアアアアアアスッ!!」

 

【オーラギアス<ギガオーライズ・フェーズ2> タイプ:毒/虫】

 

 

 

 全長5メートルほどの巨大な建造物と化したオーラギアスは咆哮しながらルカリオに迫りくる。

 瀕死のキリを抱きかかえるノオトの額にも、流石に焦りを帯びた脂汗が滲み始めた。幾ら何でもしぶとすぎる。

 このままでは、ルカリオのギガオーライズが解除されるのが先だ。

 大量の糸が部屋中に張り巡らされていき、辺りはオーラギアスの巣と化す。

 

 更にオーラギアスの身体は爆炎に包まれ、身体の正面には巨大なガチゴラスの生首のようなものが現れるのだった。

 

【オーラギアス<ギガオーライズ・フェーズ2> タイプ:[ドラゴン/炎]】

 

「ヲヲヲヲヲヲ……イカリノアブラニヒヲツケロォォォォ……ッ!!」

「クソッタレ!! しつこすぎるっしょ!! なんか異物混入してるし!!」

 

 部屋中に咆哮が響き渡る。その咆哮はオーラギアスのものに加え、ブランカの声が重なっているように聞こえた。

 ルカリオは膝を突き、逆にオーラギアスの身体を黄金の光が包み込む。

 ”ゆうきのほうこう”でルカリオを立ち竦ませたオーラギアスは、全身に灼熱の炎を纏わせ、油を撒き散らしながら解き放つ。

 ガチゴラスのオオワザを再現してみせたのだ。

 

 

 

「ドバドバドバドバァァァァァアアアアアドレナリイイイイイイイイイン!!」

 

【オーラギアスの げきどごう・かさいりゅう!!】

 

 

 

 すぐさま氷の障壁を展開して防ぐルカリオ。

 だが、沸騰した油と熱の塊を氷で防ぎきれるわけがない。

 徐々に、徐々にだが氷は溶かされていく。このままでは、後ろのキリ諸共焼き尽くされてしまう。

 

「くそ……最後の最後で、これかよ……ッ!!」

 

 部屋は高温と化し、蒸し焼きにされてしまいそうな暑さの中、ノオトもルカリオも限界を迎えようとしていた。ギガオーライズがもう少しで解けてしまいそうだ。

 張り詰め切った糸が途切れてしまいそうなのだ。

 

「こんな所で、負けるわけには──ッ!!」

 

 

 

「ノオト殿──危ないから退くでござる──ッ!!」

 

 

 

 ノオトは振り返った。キリだ。地面に這ったままであるが、千切れ飛んだ自分の右腕に嵌められたオージュエルに手を伸ばしていた。

 そして、後ろには──二度目のギガオーライズを果たしたシンボラーが翼を広げ、部屋中の光を集めていた。

 

「”たそがれのざんこう”──ッ!?」

「……忍者が、そう簡単に……くたばるわけがないでござろう……」

「キリさん、無茶ッスよ──!?」

「ノオト殿が繋いでくれた首の皮、無駄にはせん──ッ!!」

 

 ルカリオとノオトが飛び退いた瞬間、極光が火砕流にぶつけられる。

 超火力のオオワザはぶつかり合う。

 己に残された力をシンボラーに注ぎながら、キリは喉いっぱいに叫ぶ。

 

「死んでも自分の代わりが居る──そんな薄っぺらい覚悟しか持ち合わせていない貴様達に、1つの命を全力で燃やす拙者たちが負けるわけがないだろう──ッ!!」

 

 徐々に、残光は火砕流を押し込んでいく。

 

「拙者は……使命を果たさねばならん……そのためには、まだ死ねない……死ぬわけにはいかない!! 人間を、ポケモンの底力を無礼(ナメ)るなッ!!」

「キュゥオオオオオオオオンッ!!」

「これが、たった1つの命しか無い者の、輝きと知れッ!!」

 

 シンボラーを纏うオーラが、完全に本体と一体化する。

 ”たそがれのざんこう”を後押しするように。そして、暗雲を切り裂く一筋の光のように。

 開眼した魔眼からパイプオルガンのように何重にも光芒が降り注ぐ。

 

 

 

【シンボラーの たそがれのざんこう!!】

 

 

 

 極光がオーラギアスを撃ち抜き、金字塔が崩れ落ち、中の大蜘蛛が現れる。

 そうして転がり出したオーラギアスを狙うようにして、ルカリオが接近する。既にギガオーライズは解除されていた。

 だが、最後の力を振り絞り──ルカリオは掌に極限まで波動を溜めていた。

 

 

 

「──”てっていこうせん”ッッッ!!」

 

 

 

 至近距離で放たれた”てっていこうせん”に、大蜘蛛の頭が貫かれた。

 

 

 

 呪いは──解ける。黒い靄は光の前に掻き消され──完全に蒸散したのだった。

 

 

 

「ドバ……ドバ……アド……レナ……」

 

 

 

「ッ……やった……」

 

 

 

 オーラギアスを仕留めたのを認めたノオトは、ふらり、と倒れる。ギガオーライズの反動だ。

 どうも──キリを抱えて脱出する気力は無い。

 

「……悪ィ……キリさん……オレっち……もう……」

「……良いのでござる。ノオト殿は……よくやった……」

 

 隣で横たわるキリは優しく微笑んだ。ノオトは、彼女の頬に手を伸ばそうとしたが──そこで力尽きるのだった。

 

 

 

 ──四天王、ノーゼン・ブランカ、撃破。

作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)

  • ラブコメ、純愛
  • 戦闘シーン
  • シリアス、曇らせ
  • ギャグ、コメディ
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