続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第63話:胡蝶の夢

 閃光が迸る。

 普通のポケモンならば黒焦げでも生易しいレベルの電撃。

 それを直撃で受けたオオヒメミコは、仰け反りこそしたものの──直前に防壁を何重にも貼ったことで辛うじて踏みとどまるのだった。

 

「野郎、まだ立ってやがる……!!」

「施設全部のバッテリーを吸い上げたのに……!!」

「いや、今のは効いたぞ……流石にな……! 旧型と侮っていたのは私の方だったようだ」

 

(ッ……電力系統を全て遮断するとは……だが……)

 

 こちらとて、簡単に倒れてやるつもりはない。オオヒメミコは自らの胸に格納していたオーカードを展開すると、首輪に付いたオージュエルと反応させる。 

 メグル達も追撃を仕掛けようとするが、更に何重にもバリアを展開したオオヒメミコに手出しが出来ない。

 

 

 

「──ギガオーライズ」

 

 

 

 暗い部屋の中で、真っ赤に光る眼光。

 そして、稲光と共にそれは孔雀の如く扇のような羽根を広げてみせた。

 全身にオーラを纏い、そして自らのリミットされた機能を全て解放した姿。それこそが彼女のギガオーライズだ。それは神話の金翅鳥の如き威容、そして美しさを見せていた。

 

 

 

【オオヒメミコ<ギガオーライズ> タイプ:フェアリー/エスパー】

 

 

 

 メグル達は言葉を失う。

 博士から話には聞いていたが──例によってオオヒメミコもトレーナーなしでギガオーライズしてみせたからである。

 同時にバリアは破壊され、メグルとミアは立ち竦んだ。その周囲にはビットのように羽根が舞っている。

 

「……少しだけ本気を見せてやろうか? ”ラクタパクシャ”ッ!!」

 

【オオヒメミコの ラクタパクシャ!!】

 

 舞う羽根は炎を纏って赤熱化し、地面を切り裂きながらクワガノン、そしてゼノに襲い掛かる。

 大量の羽根を電撃で撃ち落とそうとする二匹だったが、花びらのように舞う羽根に対応し切る事が出来ない。

 

「熱い──炎タイプの技か──ッ!?」

 

 メグルの推測は当たる。

 羽根が切り裂いた場所も赤熱化して炎を噴き出している。

 効果バツグンの炎タイプの技を受けた事で、クワガノンの身体は炎上する──戦闘不能に陥る前に、メグルはクワガノンをボールに戻す事にするのだった。

 

「も、戻れクワガノン……!! 次はお前だ、サメハダーッ!!」

「ゼノ、モデルチェンジです!!」

 

 一方のミアはパッチをゼノに宛がった。

 電気幽霊の姿をしていたゼノは、漆黒の火竜へと一瞬で変貌を遂げる。

 

「……どうやったって無駄だ」

 

 ドラゴンに加えて悪タイプ。この二匹はフェアリータイプの技が一貫する。

 オオヒメミコの目が光り、暗い部屋の中に月のような白い光が満ちた。そこから薙ぎ払うようにしてビーム光線が放たれる。

 妖精の加護を受けた、月光砲だ。

 

 

 

【オオヒメミコの ムーンフォース!!】

 

 

 

「──サメハダー!! ”まもる”!!」

 

 

 

 しかし、その砲撃に対してサメハダーは防護壁を展開して防いでみせる。

 そして防護壁の影から飛び出したゼノは火炎弾を吐き出してオオヒメミコを攻撃するのだった。

 

「一度防いだところで”まもる”は連発出来ない──貴様らの行動は、只の問題の先送りでしかない!!」

 

 火炎弾を大量の羽根を固めて作った盾で防ぐと、反撃と言わんばかりに”サイコイレイザー”を雨の如く降りそそがせる。

 

「先送りだァ? 違ェよ!! サメハダーの特性は”かそく”!!」

 

 ──そこに、先程までとは異次元の速度で突っ込むサメハダーが”サイコイレイザー”の雨を突っ切って突貫した。悪タイプに、エスパータイプの技は通用しない。

 

「問題の先送りかどうかは、自分の目で確かめてみやがれ!! ”どくづき”!!」

 

 全身に毒を帯びた膜を纏ったサメハダーはオオヒメミコにぶつかってみせる。

 速い。オオヒメミコが防護壁を展開する前にその攻撃は届いた。おまけに、フェアリータイプに対して効果バツグンとなる毒タイプの技だ。

 致命の一撃を受けたオオヒメミコは、よろめくが──そこに追撃と言わんばかりにゼノが火炎弾を何発も放ち──

 

 

 

「”だいもんじ”ッ!!」

 

 

 

 ──火炎弾は巨大な大の字の炎となる。

 

「ッ……が!?」

 

 さっきまで力を分裂させていたゼノとは違う。

 旧型と言えど、これまでミアとずっと冒険してきたゼノは、そこらの個体とは比べ物にならないくらい強くなっていた。

 予想外の大火力を受けたオオヒメミコは、防壁を張る事も出来ずにまともにそれを受けてしまうのだった。

 

「──おのれ……!! それならば、此方も火力を上げるまでだ!!」

 

 オオヒメミコを守るようにして大量の羽根が彼女の身体に纏わりついていく。

 オオヒメミコの姿は見えなくなり、羽根は徐々に形を変えていき、あっという間に巨大なクエスパトラのような姿になっていくのだった。

 

「きょ、巨大化した!?」

「……どっちかと言えばヨワシに近いかと。本体を核に、増加させたオーラの羽根を纏うことで──巨大化したように見せているんです。要するにこけおどしです!!」

「でもよ、それってこけおどしじゃ済まねえよな!? あの外装をどうにかしねえと、本体に攻撃が届かねえだろ!!」

 

 咆哮したオオヒメミコは、巨大化した身体のままゼノとサメハダーを踏み潰さんばかりの勢いで部屋を走る。

 それをあっさりと躱し、”どくづき”を見舞うサメハダーだったが──全身がオーラの羽根で守られた今のオオヒメミコには攻撃が届かない。

 更に、羽根が大量に宙に舞い、巨大な腕のような形を成すのだった。

 

「小煩い羽虫風情が──”ラクタパクシャ”ッ!!」

 

 拳の形を成した羽根の塊は一気に赤熱化していく。

 熱と質量で相手を押し潰し、焼き焦がす炎の拳だ。

 水を鰓からジェット噴射させて躱そうとするサメハダーも、巨大な手を避ける事は出来ず、壁に叩きつけられる。

 反撃を試みたゼノも、弾き飛ばされてしまうのだった。

 

「ゼノッ……!!」

 

(いけない!! あの質量相手には、リザードンの力では対抗できない……!!)

 

 倒れたゼノに、駆け寄ろうとするミア。

 しかし、それを狙うようにして空を舞う羽根が光る。

 

 

 

「愚か」

 

【オオヒメミコの ラクタパクシャ!!】

 

 

 

 炎の刃と化した羽根がミア目掛けて飛ぶ。

 

「サメハダーッ!! ミアを守れッ!!」

「ジョォオオオオオオオオオオズ!!」

 

 しかし、先回りしたサメハダーが”アクアジェット”でミアの傍に回り込み、自らの身体で炎の羽根を受け止めたのだった。

 その隙にミアはパッチをゼノに宛がう。姿が再び変わった。モデル:ピクシー……巨腕を振るう妖精の姿だ。

 

「ゼノッ!! オオワザですッ!!」

「ピポポポポポポポ──」

 

 ぶんぶんぶんぶん、と腕を振り回せば、そこに稲光が迸っていく。

 サメハダーが稼いでくれた時間を無駄にはしない。

 

 

 

「──ミッシングアームデリートッ!!」

 

【タイプ:ゼノの ミッシングアームデリート!!】

 

 

 

 ロケットのように飛び出したゼノが拳を突き出しながら迫りくる。

 対するオオヒメミコも羽根を集めて塊と化し、巨大な拳としてぶつける──”ラクタパクシャ”の構えだ。

 二つの拳はぶつかり合い──せめぎ合う。

 

「被造物風情が!! 創造主に逆らうのか!! 私が居なければ、生まれてすらいなかった命の分際で!! 父の意向からも外れ、私に仇名すお前は、立派な欠陥品だ492号!!」

「欠陥品で良いです……! 貴女の思い通りになるくらいなら!」

 

 ゼノと精神をリンクさせることで、オオワザの威力は更に勢いを増す。

 

「私は死んでたんです──ッ!! 生きながら、死んでたんですッ!! 設定された顔、身体、名前!! そして、既定された嗜好・趣味、そして人生!! 何も選んでいない人生だった!!」

「それで良かったはずだ、試作品492号!! 何も知らずにのうのうと生きていれば、お前は一生約束された幸福の元に生きる事が出来たはずだ!! このマーニャに生きる無数のクローン同様に!!」

「そんなもの、私は望んでなんていない!!」

 

 ゼノの拳が──オオヒメミコの拳を押しのけ始めた。思わず、オオヒメミコはサイコパワーを全て拳に集中させるが、それでも拮抗に留まる。ゼノを押し返す事が出来ない。

 

「私は……自分自身の手で切り開く人生を望みますッ!! メグルさんに出会ってなかったら、今の私は居ないんです!!」

「その先は、道無き荒野だぞ!!」

「だとしてもッ!! 私の傍には、ゼノが居るッ!! 同じ境遇で、同じ場所で生まれた、()()()()()がいる!!」

「愚かな……ッ!! 管理生態系のすばらしさを何故、どいつもこいつも理解しない!」

「貴女は……怖いんですね、コチョウ!!」

「!?」

 

 じり、じりじり、とオオヒメミコの拳が更に押しのけられていく。

 

「怖い、だと!? ……私は機械だ!! システムだ!! システムが感情を持ち得て堪るものか!!」

「いいえ、貴女は怖いんです!! 貴女自身が目にして来た文明の滅びをもう一度見るのが!! 自分に予想外の事が起きるのが!! だから、人々とポケモンを全てクローンにして、自分で制御しようとしている!!」

「ッ……私に感情など無い!! 勝手な事を言うな──ッ!!」

 

 反駁したオオヒメミコ。

 しかし──

 

 

 

「どうした? 随分と焦ってんじゃねえかよ? ……感情、無いんじゃなかったのか?」

 

 

 

 ──ゼノに対抗するため、サイコエネルギーを拳に集中させていたのが仇となる。

 自身の本体がある腹部に、サメハダーが噛みついているのだ。そのまま腹部を守る羽根を全て噛み砕いてしまう勢いで咀嚼している。

 

「おのれ、私の不意をそれで突いたつもりか!! 私には感情などと言う不合理なシステムは搭載されていない!!」

「感情が無いだの何だの言ってるヤツっていっつもそうだよな。結局お前は目を背けただけなんだよ。お前の中の不合理な──感情にな!!」

「有り得るはずがない!! 私は──人造ポケモンの指揮官機だ!! 他の個体にあるべき機能は、オミットされている──ッ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──かつて。

 とある人工島に、研究員の中でも有名な二匹のオオヒメミコが居た。

 片や、数多く量産された人造ポケモンを統べる為に設計された指揮官機。

 もう片方は、その統べられる側に当たる只のオオヒメミコの一機。

 だが、この二匹はとにかく反りが合わなかった。目を合わせれば、何時も喧嘩ばかりしていたからである。

 しかし──コチョウは、研究施設である実験島から、本国への送還が決まったのである。

 より多くの人造ポケモンを統べる「王」としての役割を果たす為だ。生態系の管理、監視、そのシステムの試運転を担う事になったのである。

 

「……ようやっと、オマエが消えてせいせいするわい」

 

 忌々しそうに、眷属であるはずのオオヒメミコは言った。彼女は──後に”ミコ”と呼ばれる事になる個体だった。

 

「……せいせい、か。私が居なくなって気が晴れるのか?」

「ああ、そうだ。いつも上から目線で命令ばかり、ミカボシと同じくらいオマエは腹が立つ。妾よりも後に作られた癖にな」

「……此方も同感だ。だが──今のお前からは、負の感情フラクタルを感じ取っている。何故だ? 私が居なくなり、気が晴れるのではなかったのか?」

「ハン!! ……どうせ、オマエには理解出来んだろう。本当に腹立だしいヤツだ」

 

 そっぽを向いたミコは──去り際に呟いた。

 

「何故、オマエには感情が無い……感情があれば、分かり合えたかもしれぬのに」

「不要だ。私は私の役割を果たす。ただ、それだけだ」

「……そうか」

 

 

 

 

「妾は……もっと、仲良くなりたかった」

「……?」

 

 

 

 ──護送された先に、ミコのように絡んでくるポケモンは居なかった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「私を憐れむなッ!! 私は──私は最初から、感情などオミットされているッ!!」

 

 

 

 がりがりがり、と羽根を喰らい尽くすサメハダーを攻撃しようとしたオオヒメミコ。

 しかし、そこに意識を向けた途端、大出力のオオワザを押しのける事は叶わなくなる。

 とうとうゼノによって、オオヒメミコの拳は砕かれ──その胴体を貫く。

 そして、サメハダーもまた、本体に辿り着き、その首に思いっきり食らいつくのだった。

 羽根で構成された巨大な身体は一気に崩れ落ち──オオヒメミコは、サメハダーに噛みつかれたまま地面に転がり落ちる。

 

「……成程。私の認識が誤っていたようだ。少々、お前達を見くびっていたらしい」

 

 苦しそうに呟くオオヒメミコ。向こうからは、ぶんぶんと拳を振り回すゼノが迫ってくる。

 体は噛みつかれ、動かない。

 

「恐怖等無い……それは、私の中に芽生えたエラーでしかない……!! しかし、それでも、私は使命を……果たさなければならない」

「コチョウ……いい加減、諦めろよ。誰も望んじゃねえんだよ。お前に好き勝手操られるなんてな」

「……私は被造物だ。被造物は被造物の責務を果たす」

 

 オオヒメミコの目が光り、辺りがビット状の物体によって包まれていく。

 部屋中にはテクスチャが展開され、メグルもミアも、そしてポケモン達も飲み込まれていく。

 

「な、何だ!? ッ……サメハダー!! オオヒメミコを倒せ!!」

 

 しかし、その指示はもう届かなかった。

 サメハダーは目を回してしまい、地面にごろごろと転がっていく。

 

(なんだ!? 昏倒している……!?)

 

 ゼノもぱたり、と倒れてしまった。

 辺りの空間が歪んでいき、メグル達の意識も、どんどん遠のいていく。

 

「メグルさん、頭がぐわんぐわんします──これって……!!」

「”さいみんじゅつ”──いや、範囲が広すぎる……!?」

 

 視界はサイケデリックな色に覆われ、気持ち悪さでメグルは膝を突いた。

 

 

 

「──オオワザ”こちょうのゆめ”」

 

 

 

【オオヒメミコの こちょうのゆめ!!】

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……ん、ぐ、何だ……? 何がどうなってやがる……?」

 

 

 

 痛む頭を抑え、メグルは起き上がる。

 辺りに広がるのは──灰色。

 そしてメグルは、自分の手を見やる。付けた覚えのない皮の手袋。更に、布の服。

 

(あれ? そういや──)

 

 ぱちぱちと目を瞬かせると、右目は見えないままだ。

 さっきまでの記憶はメグルにも残っている。オオヒメミコの使ったオオワザで視界がマダラになって意識を失ったところまでは覚えている。

 隣では、ミアが寝転がっており、すぅすぅと小さな寝息を立てていたが、彼女もまた服装が変わっていた。

 

「ミア。ミア!! 起きろ!!」

「……ん、ぅ……」

 

 目を擦りながらミアは起きる。

 

 

 

「……こ、此処は……?」

「……知らねえよ」

 

 

 

 ウエイストランド(死に果てた大地)とでも言うべき場所。

 そこには、都市の残骸だけが転がっている。

 

「あいつのオオワザで幻覚でも見せられてるのか?」

「だとしたら、早く抜け出さないとまずいです! いや、ひょっとして私達、もう殺されて──」

「落ち着けよ。多分、まだ俺達は死んでねえ。俺、右目が見えないままだし」

「!」

 

 此処が現実なのか、夢の中なのかもメグル達には分からない。

 

 まさに胡蝶の夢──とでも言うべき状況だ。

 

「取り合えず、辺りを探索してみようぜ。ポケモン達も見当たらねえしな」

「は、はい……よくそんなに落ち着いてられますね」

「長年の経験ってヤツだよ」

 

 そう言ってメグルは、荒れ果てた都市部へと向かうのだった。

 こんな所に住民が居るとも思えないのだが。

 

(にしても似てるな……)

 

 メグルは思い返す。何処まで続くか分からない廃墟。生命の気配を感じない荒れ地。

 

 

 

 ──時空の裂け目が開いたことで滅んだ、自分の生まれ故郷──東京を。

作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)

  • ラブコメ、純愛
  • 戦闘シーン
  • シリアス、曇らせ
  • ギャグ、コメディ
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