続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第64話:ウエイスト・ランド

「……久しぶりですね。こうして、二人で歩くのは」

「ああ。ミッシング・アイランド以来だな」

 

 

 

 荒れ果てた街は、かつて高い文明を誇っていた事は見れば分かった。

 現代の建築技術のそれとはかけ離れたビル群に、ポケモン世界には無いような電子掲示板、そして美しいオブジェ──だったもの。

 

「此処は、一体何処なのでしょう……?」

「分からねえ……!!」

 

 これを破壊しつくしたのは一体何なのか──と考えているうちに、めき、めき、と瓦礫が押し潰されるような音が聞こえた。

 思わず振り返った時、メグルは息を飲んだ。

 

 

 

「えっ……」

「──メグルさんッ!!」

 

 

 

 ミアがメグルを思いっきり突き飛ばす。

 巨大な前脚が地面を思いっきり穿つ。

 見上げると、そこにあったのは──巨大な蜘蛛の怪物だった。

 一度ヒャッキ地方で目にしたことがあるが、あれとは姿かたちが異なる。

 全身から生えた禍々しい紫色のオージュエル、醜く肥え太った巨大な腹部、そして──咆哮を上げる人のそれと似通った頭部。

 

「オーガギガガガガガガガガガガッ!!」

「ッ……オーラギアス……!!」

 

 

 

【オーラギアス ゆうせいポケモン タイプ:毒/虫】

 

 

 

 起き上がったメグルはミアの手を引いてその場から逃げ出す。

 今メグルには手持ちが居ない。戦って勝てる相手ではない。仮に戦っても勝てるとは限らない相手だが──

 

「ヲヲヲヲヲヲヲヲッ!!」

 

 糸を看板に吐き出したオーラギアスはそれを引き戻す勢いで巨大な身体を引きずってメグル達に迫る。

 体が鈍重であるが故に、歩くよりもこっちの方が速く動けるのだ。曲がり角に飛び込んでそれを躱すが、巨体がビルにぶつかってガラガラと音を立てるのが聞こえてきた。

 

「こ、こっちにも居ます……!!」

「おいおいおい、ウソだろ……!!」

 

 しかし、メグル達が逃げた先にも、大蜘蛛が二匹──徘徊しているのが見えた。

 一匹でも厄介極まりないオーラギアスが、確認できただけでも三匹──

 

「ッ……悪夢だろ、こんなの……!!」

「取り囲まれました……!!」

 

 手持ちポケモンも居ない。

 この状況を打破できるとも思えない。

 そもそも、ヒャッキでオーラギアスと戦った時でさえ、ギガオーライズフェーズ2の力に加え、オーラギアスが弱体化していたから勝てたようなものなのだ。

 ポケモンなしで、全快の大蜘蛛に勝てるとは思えない。

 万事休す──そう思われた時だった。

 

 

 

 

 

 ──前触れもなく、落雷が大蜘蛛たちの上に落ちた。

 

 

 

 

 あまりの眩しさに、メグルもミアもしばらく目が開かなかった。

 そして、次に目を開けた時、そこにあったのは──全身から光を放つ漆黒の何か。

 

 ポケモンらしからぬクリーチャー然としたオーラギアスを目にした後でさえ、それが異様だと気付いた。

 

 

 

 羽根が生えている事は分かる。

 

 目がある事も分かる。

 

 足は六本。

 

 それだけならば、只の昆虫型ポケモンなのだが──黒い。全身が黒い靄に包まれており、その実体を捉える事が出来ない。

 

 オーラギアスが、終わることなき呪禍ならば、今メグル達の前で飛ぶそれは、まるで──悪魔だ。

 

 

 

「メ・ガ・ラ・ラ・ラ……ッ!!」

 

 

 

 羽根を広げた名も知らぬ怪物は、オーラギアス達を一瞥するだけで、そこに稲光を3つ──落としてみせる。

 耳を壊すかのような雷撃。

 後に、すぐに焼け焦げたような匂いが漂ってきた。

 先程まで、あれほどあらぶっていた大蜘蛛たちはごろん、と転がってしまい、そのまま動かなくなってしまったのである。

 

「メグルさん、逃げましょうッ!!」

「あ、ああ!!」

 

 虫の怪物が大蜘蛛に飛び掛かった隙を縫って、メグルとミアはその場を脱する。

 後から聞こえてくるのは不気味な咀嚼するような音だった。

 

「あいつ、食ってるのか……!? オーラギアスを……!?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 走って、走って、走り続けて──メグル達は、漸く安全そうなビルの中に逃れた。

 足が棒のようだ。もう走る事は出来ない。

 

「クッソ、死ぬかと思った……」

「メグルさん、さっきのが」

「オーラギアス、ってヤツだな。別の世界じゃあ、文明ひとつ滅ぼした程のポケモンだ」

「じゃあ、あの虫のポケモンは……? 巨大な羽虫のようなポケモン……!!」

「分からねえ……」

 

 メグルもポケモンは沢山見てきたが、全長6メートルに及ぶオーラギアスに匹敵するサイズの虫ポケモンは知らない。

 更に、あれだけしぶとかったオーラギアスを電撃の一撃だけで仕留めてみせたあの様を見るに、あの怪物はオーラギアスを捕食対象として見ているのではないか、と考える。

 

「……最悪だ。ポケモンも無しに、こんな場所に放り込まれて、オマケにあの怪物と戦わなきゃいけねーのか……?」

「これは、エスパーポケモン特有の相手を領域内に閉じ込める技だと推測します。何らかのルールがあって、それを満たさなければ外に出られないとか」

「それをポケモンなしでどうやって突き止めろってんだ? 無理ゲーだ」

 

 投げ出すようにメグルは壁にもたれかかった。外に出れば、あの巨大な虫ポケモン達の餌食だ。どうしようもない、ドン詰まりである。

 

「大体、あいつ何なんだよ!! オーラギアスも大概アレなバケモンだったんだぞ!! それをアイツ……あんなにあっさりと……」

「……此処はもしかして、オオヒメミコの言っていた滅んだ未来なのではないでしょうか?」

「何だって? 俺達ゃタイムスリップしたのか?」

「いえ……ただ、エスパーポケモンの持つ催眠術の応用ならば、相手に自身の記憶から再現した精神世界を見せる事は不可能ではないかと」

「それが、このオオワザってわけか」

 

 そういえば、とメグルは思い出す。

 以前、ノオトが三羽烏の一人・アルネと戦った時、特殊な空間に閉じ込めるオオワザを受けた──と聞いた。

 また、デイドリームで戦ったヒメマボロシも、似たような技でメグルを夢の世界に閉じ込めてきた。

 この空間もそれに類似したものではないか、とメグルは考える。

 

(つっても、あの時はポケモンが居たからな……今回はポケモン居ねえんだぜ。一体どうしろってんだよ)

 

「メグルさん」

「……どうしたんだよ」

「私達、初めて会った時もこんな感じでしたね」

「……そうだな」

 

 ミッシングアイランドでの事を思い出す。

 廃墟の中、二人っきり──荒れ果てた研究施設を探索し、そしてゼノと戦った。

 

「……辛い事、怖い事も多かったけど、私……ミッシングアイランドでのこと、悪くなかったなって思ってるんです」

「へへ、俺は終始ヒヤヒヤしっぱなしだったけどな」

「……私は、ゼノと……そして、メグルさんに出会えたことが、最大の幸運です」

 

 ミアは、掌をメグルに重ね──上目遣いで彼の目を見やった。

 

「……()を見つけてくれて、ありがとう。メグルさん」

 

 きっと、彼に見つけて貰えなければ──自分はあの島から出られたかも分からない、とミアは回顧する。 

 そればかりか、ずっと与えられた名前と知ってしまった真相の合間で苦しみ続けていたはずだ。

 あの島の最期を見届け、彼女は漸く前に進むことを選ぶことが出来た。

 

「へっ。俺は特別な事をしたつもりはねーよ……」

「……そうかもしれませんね。でも、そんな貴方だからアルカさんも──惹かれたのだと思います」

「……そーだな」

「アルカさん、大丈夫でしょうか? ……REX相手に一人で挑んで」

「バカ言うんじゃねーよ。あいつは──強ェんだ。俺なんかよりも、ずっとな」

 

 アルカの心配をしている場合ではない、と彼は灰色の天井を見た。

 どうにかして、この空間から逃れなければならない。

 そう思っていた時だった。

 

 

 

 ──落雷。そして、幾つもの生き物の悲鳴に似た鳴き声が聞こえてくる。

 

 

 

 思わずメグルは窓から外の様子を確認した。

 ミアは背が低く、覗けない。

 

「……外で何かあったんですか?」

「ポケモンの群れだ」

「え?」

「それも──人造ポケモンの群れ!!」

 

 メグルはゴーグルを付け、度を調整する。

 視力が悪い彼はライドギアに乗る時は必ず度付きゴーグルを着用するのだが、これは目の保護だけではなく見ているものを拡大することまでできる優れものであった。

 

(……マンタイン、ヨノワール、アーボック──いや、ありゃハタタカガチ!! 確か、あっちの世界のレモンちゃんが連れてたオーデータポケモンだ!!)

 

 それらが何匹も群れになって進軍している。

 その先頭に立つのは──全身が鋼の羽根に覆われたクエスパトラ・オオヒメミコだった。

 独特の体色、そして身体から漏れ出す青いオーラは、さっきまで戦っていた個体のそれと合致する。

 

 

 

「あいつは……コチョウ!?」

 

 

 

 メグルの声にびくり、とミアが反応した。

 

「何で、コチョウの奴が此処に……!」

「メグルさん。此処がコチョウの精神世界と仮定するなら……私達が今見せられているのは……彼女の記憶の光景ではないでしょうか!?」

「記憶?」

「オーラギアスというポケモンが大量に闊歩して滅んだ世界……話に聞いていた”滅びの未来”と一致します!」

「じゃあ、あの人造ポケモン達は……」

 

 人造ポケモン達の向かう先には、オーラギアスを貪り喰らう巨大な黒い羽虫の姿が見える。

 相も変わらず、その姿の全貌は黒い靄に包まれていて見えない。だが、取り囲んできた人造ポケモン達を敵と認識したのか甲高い鳴き声を上げて空に飛び上がった。

 

 

 

『全軍戦闘態勢!! これより、コードネーム”ブルード”の捕獲作戦を開始するッ!!』

 

 

 

 コチョウの声が響き渡り、人造ポケモン達が巨大な羽虫に襲い掛かった。

 あるものは炎を、あるものは稲光を、あるものは冷気を集中して”ブルード”と呼ばれた羽虫のポケモンに浴びせる。

 しかし、それら全ては”ブルード”には届かなかった。

 その全身には球形の電撃のバリアが展開されてしまったからである。

 更に、槍のような形の稲光が”ブルード”の周囲をぐるぐると舞ったかと思えば、周囲の人造ポケモンを刺し貫いていく。

 

 電気によって拘束され、動けなくなった人造ポケモン達を見るや、ブルードは──頭からアーボック型の1匹に齧りついた。

 

「いっ……食ってやがる……!!」

 

 単なる捕食ではない。

 巨大なクワガタムシのような口で獲物に喰らいつき、人造ポケモンの身体に流れるオーラを全て吸収しているのだ。

 だが、悪夢はこれで終わりはしない。

 

 

 

 

「ベ・ベ・ベ・ベベベベベベイ・ラ……ッ!!」

 

 

 

 

【●●●●●●は なかまをよんだ!!】

 

 

 

 悍ましい身の毛のよだつような咆哮と共に、地面から黒い靄に包まれた芋虫型のナニカが次々と這い出してくる。

 あんなポケモンをメグルは見たことが無い。いずれも、虫のような姿をしているが、目は赤く、全身が黒い靄に覆われていて正確な形が分からない。それらが大群をなして人造ポケモン達に喰らいつき、そのオーラを吸収しているのだ。

 残る人造ポケモン達も果敢に”ブルード”に襲い掛かるが、いずれも虫の大群に集られ、オーラを吸い尽くされ、機能停止していく。

 

 

 

 残るのは──軍団を率いていたコチョウと思しきオオヒメミコだけになった。

 

 

 

「お、のれ……”ブルード”!! 私が相手だ!!」

 

 

 

 

「メ・ガ・ラ・ラ・ラ……ッ!!」

 

 

 しかし、配下共々オーラを吸収し尽くして満足してしまったのか、”ブルード”がその声に振り向く事は無かった。

 芋虫型の眷属たちは再び地面の中に潜ってしまい──後に残る”ブルード”は一度甲高く鳴いたかと思えば──

 

 

 

 

 

【●●●●●●の ●●●●●●●●!!】

 

 

 

 

 特大の雷の球体をオオヒメミコにぶつける。

 その一撃を以てオオヒメミコは機能停止した。

 黒焦げになったまま「ま、待て──」と何かを呟いたようだったが、そのまま倒れ伏せてしまう。

 そして満腹になったからか、”ブルード”は再び何処かへと飛び去って行く。

 

 恐らく、次の狩場を求めて──

 

「……なんつーヤツだ」

 

 メグルはその光景を見て戦慄していた。

 ハタタカガチの力をかつてこの眼で見ていた彼は、あれと同格の力を持つポケモンの群れを全く意に介さず、蹂躙してしまった巨大な羽虫の怪物の力を思い知る。

 後に残るのはオーラを吸い尽くされて残骸と化した人造ポケモン達。その山の中央に──オオヒメミコだけが未だにオーラが漏れたまま倒れている。

 

 

 

 この戦場で生き残ったのは、他でもないコチョウだけだったのである。

 

 

 

「メグルさん……!! 一体……!? 凄い音がしましたけど……!!」

「そういうことか」

 

 

 

 何かを確信したようにメグルは言った。

 

「あの”ブルード”ってバケモノと、人造ポケモン達はかつて戦ったんだ。でも、勝ったのはブルード……生き残ったのはオオヒメミコだけだ」

「そのオオヒメミコって」

「これが、コチョウの精神世界なら……きっと、コチョウ本人だろうな」

「……ッ」

「あそこで強い雷に撃たれたから、コチョウがおかしくなったのかは知らねえけど……無関係じゃねえだろ」

 

 此処で一方的に羽虫の怪物に蹂躙されたのがコチョウのターニングポイントであったことは間違いない、とメグルは考える。

 とはいえ、問題は此処からだ。何も解決策が浮かんでいないのである。

 このオーラギアス塗れの異空間から、どうにかして脱出しなければならない。しかし、ポケモンも無しに脱出できるはずもない。

 

「だぁー、クソ!! これをネタにコチョウの奴を揺さぶってやろうと思ったのに!! 出られねえじゃねえんじゃあ、意味ねえじゃねえか!!」

「……いや、出る事は出来るはずです」

 

 ミアの目は──光っていた。

 

 

 

「……今日ほど、私は自分がクローンで良かったと思った日はありませんよ」

「あっ……!!」

 

 

 

 彼女の目は緑色に光っている。自分と同じクローンとリンクしているのだ。

 

「ッ……ゼノの居場所……探ってます!! こっちに来てる!!」

「そうか──じゃあ、もう1つ来てるモノがあるぜ」

 

 ずしん、ずしん、ずしん、と地鳴りが聞こえてくる。この足音は、さっき自分達を襲った怪物たちと同じだ。

 

 

 

「……最高だぜ。あの化け蜘蛛共、このビルに入ってきやがった」

 

 

 

 ※※※

 

 

「……うわ、何コレ……!?」

 

 

 クローバーとゼラを見送ったアルカは、メグル達を追うようにしてコチョウの部屋に辿り着いた。

 しかし、部屋に入るなり彼女は絶句する。

 

 

 

「……デ、デカい繭……!?」

 

 

 

 部屋中に敷き詰められた大量の糸。

 そして中央に鎮座するのは巨大な繭のような物体。

 コチョウの姿は愚か、メグルやミアの姿も見えはしない。

 部屋には大量の切り傷や戦闘の痕跡が残っており、まだ新しい。此処で戦闘があったのは確かだが──その後何があったのかはさっぱり分からない。

 

 アルカは己のカンに従う事にした。

 

「ッ……とりあえず、壊してみた方が良い気がする!! セグレイブ、良いよね!?」

「コォオオアアアアアアアアアン!!」

作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)

  • ラブコメ、純愛
  • 戦闘シーン
  • シリアス、曇らせ
  • ギャグ、コメディ
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