続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
(麻痺状態での……速度を補う方法は2つ)
骨を振り回して迫るゴウカザルを前に、アルカは考える。
(1つは──”りゅうのまい”、もう1つは”がんせきふうじ”。だけど、このいずれも多分、見切られやすい)
アルカは目を瞑る。
故に、セグレイブには1つ、奥の手を仕込んでおいたのだ。
以前キリから教えて貰った──相手の不意を突き、確実に足を奪う事が出来る技だ。
(確か、キリちゃんは……)
※※※
──色々試してみるべきでござるが……セグレイブの火力の高さを考えれば、”りゅうのまい”だけが最適解とも言えないでござる。
見舞いに行った際、キリはそう言った。
岩タイプ使いとして、彼女から見たセグレイブの技構成を聞いていたのである。
──そのセグレイブを使う上で、”パワフルエッジ”と”ストーンエッジ”が扱いやすすぎるでござる。そして、相手のオオワザさえも打ち破れる”きょけんとつげき”。拙者なら、後1つに……相手の不意を突くための技を入れるでござるな。
──と言うと?
──そのセグレイブはまだ進化したて。攻撃が大振りで、相手に命中させにくい。そこを反撃してくる敵も多いでござろう。それさえも見越し、不用意に突っ込んできた相手を返り討ちに出来る技でござる。
──あ、もしかして”アレ”!?
──済まない、”アレ”では分からぬ。
※※※
ゴウカザルが迫ったその時。アルカは叫ぶ。
「今だセグレイブッ!! ”ステルスロック”起動ッ!!」
「コォオオオオオオン!!」
【セグレイブの ステルスロック!!】
ゴウカザルの脚が地面に着く。
次の瞬間、爆弾のように岩が炸裂した。
この戦いが始まった時から、既にセグレイブは周囲に仕掛けていたのだ。
踏んだ瞬間、地雷のように爆ぜる”ステルスロック”を。
「っきゃい!?」
当然、足に岩の破片が突き刺さったゴウカザルは地面に転がる。
そしてその隙をセグレイブは見逃しはしない──
「行くよ、セグレイブッ!! ”ストーンエッジ”!!」
ゴウカザルの躰を串刺しにするようにして岩の刃が地面から生える。
だが、それでも尚、ゴウカザルはそれを軽々と避けて空中へと逃げてみせるのだった。
足が使えなくとも、まだ強大な腕力を誇る腕が残っている。しかし──空中では、もう逃げ場がない。
「”きょけんとつげき”ッ!!」
体が自由に動かなくとも、セグレイブは無理矢理ブレスを地面に照射し飛び上がる──しかし。
「ウッキィイイイイイイイイイイアアアアアアアアアアアーッッッ!!」
──辺りが震え、ヒコザルたちが縮み上がる。ヌシポケモン以外の全てを震え上がらせ、怯ませるゴウカザルのヌシ咆哮だ。
すっ飛んでくるセグレイブも、これに怯えて技の勢いを失う──はずだった。
【セグレイブの きょけんとつげき!!】
セグレイブの勢いはとどまる事を知らない。
最上位生物である龍は──獣の咆哮如きでは止まりはしない。
剣となった鰭がゴウカザルに突き刺さる。
「押し込めェェェェーッ!!」
ゴウカザルの躰がゴム毬のように飛んで行った。勝負はこの瞬間に決したのである。
「……やれ。ヌシの咆哮も効かんとは……恐れ入ったでちよ」
ゴウカザルは目を回していた。
勝者は──セグレイブだ。
※※※
「──さーて、傷を治してやるでちよ、ゴウカザル」
「キキキキィ」
戦いが終わり、ヤレユータンがゴウカザルの脚に薬を塗りこむ。
みるみるうちに傷は癒えていった。どうやら、パプリカが調合した薬らしい。薬作りの達人というのはウソではなかったようである。
そして、戦いを見届けたヒコザルたちと共に、ゴウカザルは何処か遠くへと帰っていくのだった。
「これで試練は終わりか?」
「後は──復活の祠に辿り着けるかどうか、でちね」
「何か含みがある言い方ですね」
「祠は、このフォートマウンテンの洞窟から地下に行った場所にあるでち」
「地下ァ?」
「つまり、この大岩の中でち」
「ややこしいな……で、その入り口はどこにあるんだよ」
「この先でち」
パプリカがガラガラ(ポケモンではない)で岸壁を指す。
そこには、人が二人入れる程度の小さい裂け目があった。
「この洞窟の最深部に、祠があるでち。ずぅぅぅーっと、先に行ったところにあるでちよ」
「おいおいおいおい……」
メグルとアルカは並んで、下を覗き込む。暗くて何も見えない。
「……まさか、此処に飛び込めってのか?」
「絶対危ないよ、ケガしちゃう」
「その通りでちよ」
「えっ」
ヤレユータンがぬっ、とメグル、そしてアルカの背中を押した──
「ちょ待ッ──」
「無事に戦士様に会ってくるでちよー」
「この、でち公がァァァァァァーッッッ!!」
「いきなり突き落とすとかあるゥゥゥゥーッッッ!?」
ぼちゃん、ぼちゃん、と音が聞こえてくる。後ろで一部始終を見ていたミアは唖然としていたが──そして、すぐに真っ青な顔でベビーカーに掴みかかり、この暴挙に抗議したのだった。
「ななななな、何やってるんですか、貴女はァ!?」
「何って試練続行でちよ」
「うっかりおっ死んだらどうするつもりなんですか!? 何で突き落としたんですか!?」
「あのくらいで死ぬなら、どうせ闘神様も従えはせんでちよ」
「助けに行きますッ!! 私の仲間ですから!!」
そう言ってミアがヤレユータンを押しのけて岩の裂け目の中に入ろうとする。
しかし──突如、障壁のようなものが現れ、ミアの身体を弾いてしまう。
「キャッ!?」
「……ゴウカザルはお前を此処に通したのは──お前に悪意が無いから。本質的には、以前此処にやってきたなんたらかんたら公団の者達と同じのようでちね。だから、この先に進むのを拒まれてる」
「ッ……」
「でちには分かるでちよ……お前の躰は、科学の力で出来ているでち。自然の摂理に逆らった、科学の力」
「……ッ」
「なぁに、そんな顔をするんじゃないでち。これは、仕方のない事なんでちよ。むしろ、ゴウカザルがお前を此処に通したのが──有情中の有情でち」
ミアは地面の土を握り締める。
結局の所、自分は何処まで行ってもクローンなのだと思い知らされる。
その所為で肝心な時に、仲間を助ける事も出来はしない、と痛感させられる。
「
「ヌシは、一匹じゃない……!?」
「そうでち。あの洞窟の奥に残り2匹。ゴウカザルと同じくらい強いのが居るでちよ。フォートマウンテンの結界は、三匹によって展開されてるのでち。岩山の外を陣取るゴウカザル、そして洞窟の中を支配する残り2匹によって」
がらがら、とベビーカーがミアの方にやってくる。
この洞窟の奥に居るヌシポケモンは──ハナから、ミアを”異物”として拒絶しているのだ。
「それでも……少しでも、力になりたいんです」
ぽつり、とミアは言った。
「……私は、あの二人に散々助けてもらった。生きる意味を貰った……だから、足手纏いになりたくない……!! 助けたい……!!」
「どっちにせよ、この先の試練、お前に介入する余地は無いでち。それじゃあ試練の意味が無いでち」
「ッ……私にできる事はないんですか……! 少しでも、二人の力になりたい……!」
「でちは分かるでちよ。あの二人は歴戦のトレーナー……復活の祠にはきっと辿り着く。後は、お前自身」
ガラガラ(ポケモンではない)を振り回しながら──パプリカは言った。
「──あの二人が戻ってくるまで、でちがたぁっぷり稽古を付けてやるでち」
※※※
「ミアちゃん、来ないね……」
「……何でだろなあ……」
びしゃびしゃの服を絞りながら二人は立ち上がり、洞窟の入り口を見上げた。
幸い、水深が思ったよりも深かったため、二人は怪我をせずに済んだ。そのまま対岸まで泳ぐことが出来たのである。
向こうの方から光が差し込んでいる。アレが洞窟の入り口の場所だ。帰る時はどうしようか、と二人は顔を見合わせるのだった。
その時。
「メグルさーんっ!! アルカさーんっ!! 生きてますかーっ!!」
ミアの声が聞こえてくる。
洞窟の入り口である裂け目の方からだ。そして続いて──
「──ごめんなさい、私は行けません!! 絶対に、無事に復活の祠に辿り着いてくださーいっ!!」
「……だってよ。これ、闘神が二人だから入れるのも二人とかそういうオチじゃね?」
厳密には違う。
「これも試練だってなら、仕方ないよね」
二人は顔を見合わせる。せめて、ミアに心配だけは掛けぬまい、と。
「──分かったーっ!! 絶対に帰ってくるーっ!!」
「ドンと待っておいてーっ!!」
それで安心したのか、声は聞こえなくなった。
そして、メグルとアルカは──祠へと続く道に目を向ける。
先も見えない暗い洞窟が続いている。故に、此処から先はクワガノンに照らして貰う事にした。
光を放つポケモンは、洞窟でこそ役に立つ。
※※※
──かなり長い間歩いただろうか。
この地下空洞は、想像以上に長い道のりだった。
「ミアの奴、絶対心配してんだろな……」
「多分ね……くしゅんっ!!」
「寒いか?」
「寒いに決まってんじゃん、服が濡れてるんだよ」
「俺もだ、鼻水出てやがる」
「うーわ、ボクら決戦前に風邪引いてるんじゃないの」
しかし、祠らしきものはなかなか見つからない。
地下を探索しているうちに、巨大な空洞に辿り着く。
此処も、案の定地底湖が溜まっていた。飲み水には困らない。しかし、問題は濡れた服である。このままでは、進む度に体温を奪われ続ける。
奥に進むにつれて、気温も低くなってくるからだ。敵が現れる前に服を乾かしてしまいたい。
「何か燃やせるモノねーか?」
「こんな事もあろうかと、鞄の中に木炭用意してるよ」
「流石、準備がいいな」
「サバイバルもすっかり慣れっこだからね」
安全を確保した後、メグルは木炭をその辺に置き、そしてクワガノンに命じて電気を撃ってもらう。
すると、あっという間に燃え始めた。
「洞窟内は酸素があんまり薄い感じがしねえな」
「どっかに空洞があるのかも。空調はしっかりしてそうだよ」
「なら、中毒にはならなさそうだな。さっさと脱ごうぜ」
「うんっ……」
ずるり、とメグルが衣服を全て脱ぐ。
傷だらけの身体が、目に入り──アルカは思わず黙りこくった。
「アルカ?」
「あ、ううん……」
「どーしたんだよ。今更裸なんて見慣れてるだろ」
「そ、そういうことじゃなくって!! ……すっごい、ボロボロだって思って」
「……へへへ」
折れたアバラは、ノオトの”ルカリオ”の癒しの波動で治してもらいはしたが、それでもこれまでの戦いの傷が生々しくメグルには刻まれていた。
「お前の背中程じゃねえと思うけど」
「そんなわけない。もう、負けず劣らずだよ」
同時に、出会った頃からは考えられない程に、筋肉はごつごつとしており──日に焼けている。
アルカも服を脱ぎ──炎の近くで衣服を干した。
……視線を感じる。
「……そういうメグルこそ、見過ぎ」
「悪い──最近、全然それどころじゃなかったからさ」
「んもーう、分かってるの? 世界の危機なんだよ」
「世界の危機だからこそ、ほら、あるだろ。命の危険を感じると、子孫を残したくなるっていう──」
「メグル」
「ごめんて。睨むなよ」
真面目にやってよねー、とアルカは服を雑巾のように絞る。
しかし──メグルの顔は何処か穏やかだ。マーニャに来た頃に比べれば、憑き物が取れたようだった。
「っしゃー……」
「ああ、わり、クワガノン! 疲れちまったか!?」
ぺたり、と地面に張り付いたクワガノン。どうやら此処までずっと照らしていたのでくたびれてしまったらしい。
すぐさま彼をボールに戻す。また、この先も照らして貰いたいので、休んで充電してもらわなければならない。
「クワガノン、進化してから頼もしくなったね。あんなに赤ちゃんだったのに」
「皆、成長してるってことだよな。セグレイブも、すっげーカッコよくなっただろ」
「でしょ? ボクの自慢の騎士様だよ」
「騎士? ああ、確かにそれっぽいな。頭の鎧とか、剣とか。原種と顔違うからビックリしたぜ」
「でしょー?」
他愛のない話に花を咲かせる。
束の間の安息。だが、この時間がとても愛おしい。
「……ねえ、メグル。ちょっとだけ、元気になった?」
「……そうか?」
「ワームホール公団との戦いが終わった後から、昔のメグルに戻った気がする。ちょっと、気が楽になったみたいな」
「……そーだな。肩の荷が下りたっつーかな……いや、まだ何にも終わってねーんだけどさ」
メグルは──洞窟の天井を見つめた。
「確かに怖かったし、お前らを失うんじゃないかっていつも不安だったよ。でも──ビビってられねーって、背中押されちまったから」
「……イデア博士に?」
「ああ。悔しいけどな。それに……俺も、アルカも、ミアも──仲間達も、こうして生きてる」
拳を握り締める。この血脈こそ、自分が今生きている証だ。
「クローンの事とかさ、結局……俺達は見て見ぬフリをしねえといけなかっただろ」
「うん」
「それでも、シャインは……悲しいのとか、悔しいのとか、全部堪えて、あの二人とまたいつもの日々に戻っていった」
「……うん」
「俺達は時に、理不尽に大切な人を奪われて、それで怒って、悲しんだりするけど……でもさ、結局それで終わりじゃねえんだ。死んだ人に置いてかれたまま、俺達は生きていく。一日は24時間で……辛くても、同じ時間が皆過ぎてくんだよな」
メグルの脳裏には、かつて戦いで散ったリュウグウの顔が過った。アルカの脳裏には、かつて自分を拾ってくれた老夫婦の姿があった。
「ああ。そんでさ──俺、あれから考えたんだ。俺、周りの大事な人が死んだときの事ばっかり考えてて、俺自身が死んだときの事、考えた事無かった気がする」
メグルは──不安そうな彼女の手の甲に、掌を置く。
「きっと、俺の事で悲しんで……泣いてほしいとは思ったけどさ……それでも──いつかは笑って生きててほしいって思う」
「縁起でもない事言わないでよ」
「わりわり。でも、そう考えると皆同じだと思ったんだ」
「……同じ」
「ああ。結局皆、残った人にずっと泣いててほしいって……思っちゃいねえんだよ。俺もそうだ」
「……そうだね。ボクだって、そうだよ」
「結局俺達は、生きてる限り……ずっと残される側なんだ。じゃ……泣いたり、怖がったままなのは、やっぱ違う気がする」
そりゃ今だって怖ェよ、とメグルは己の胸に手を当てた。
「コチョウも結局……怖かったんだ。仲間を失った恐怖で、おかしくなっちまった。俺も、一歩間違ったらああなってたかもしれねェ。でも、俺には結局仲間がいる。ポケモン達が居る」
イデアの言葉を思い出す。
結局自分は──何処まで行ってもポケモントレーナーだ。命を扱う覚悟をした者なのだ、と。
「……俺は──
「残された者──か。そうだったね。生きてる限り……大事な人が先に死んでいくもんね」
大切な誰かが老衰で自然に亡くなるのはとても奇跡的な事で──理不尽に、ある日突然に命が失われることもある。
それが大切な人ではないとは限らない。それでも、残された以上は生き続けねばならない。
「敵だったし、やった事は許せねえけど……俺はコチョウからも、きっと残されたんだ」
「……ガルヴァチスから、この星を守る──ってことだよね」
「ああ。そして、証明してみせる。コチョウの力が無くたって……俺達はやっていける、ってな。それが茨の道でも、やるっきゃねえだろ」
メグルの目には、火が灯っている。
マーニャに来る前の彼からは考えられないくらい強い炎だ。
やっと──「戻ってきたのだ」とアルカは確信し、思わずメグルの手に指を絡ませた。
「……アルカ?」
「ね、メグル。ボク達も、残しちゃおうか」
「……あっ」
遠まわしだが──言葉の意味に気付き、メグルは思わず顔を赤らめた。
「後世に残すのは、思い出や言葉だけじゃないよ。えーと……こんな時に何言ってるんだ! って怒られそうだけどさ……きっと、それも大事な事じゃないのかな」
「……はは、考えたことも無かった。だけど俺も、相手がお前以外考えられねーや」
「覚悟しておいてよ。ボクは、狙ったものは絶対に逃がさないから」
「重々承知してる。どれだけ一緒に居ると思ってんだ?」
薪が消えるまで──二人は身を寄せ合っていた。
※※※
「──ほう、なかなかやるでちな。その、タイプ:ゼノとやら!!」
「……本気で来いと言ったのは貴女の方ですから」
日も暮れかけていた。
なかなか帰って来ないメグルとアルカを案じてはいるが、中の空洞が相当に長い事を聞かされている以上、今は信じて待つしかない。
その間、ミアはパプリカとの実戦形式の練習バトルをしていた。本気で、という言葉通り──ミアが出したのはタイプ:ゼノ。
一方、パプリカは子供たちが使っていた個体よりも更に大きなドサイドンを繰り出す。
「そして、ポケモンとトレーナーであるお前達が相互に高め合う相乗効果!! もしここで開花出来れば……闘神に匹敵する戦力になれるやしれんでちな!」
「私とゼノが……闘神に……!?」
「尤も!!」
「っきゃあ!?」
ドサイドンの腕が火竜の姿のゼノの頸を掴み、思いっきり捻じ伏せる。
そのまま──ゼノは動かなくなってしまった。戦闘不能だ。
「……今のままでは、遠く及ばんでち」
「……私はどうすれば……!」
「何、素質もそのポケモンの潜在能力も恐ろしいモノでち。後は、一皮剥けるだけでちよ」
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