続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
「……あまりにも穏やかでござるな……」
その頃──ココナッツシティの病院にて。
「いつどこでクローンにされるか分かんねえのに、安心して手術を任せられるわけねえっしょ!! キリさんに妙な事したらブッ殺すぞ!!」
と、怒るノオトの希望により彼は白衣のまま手術に付き添う事になった。無論、常にモンスターボールを構えて、である。
緊急性が高かったため、院内の誰がワームホール公団に通じているのか分からないまま、オペをすることになったのだ。
その後、彼女は国際警察やノオトの護衛の元、ココナッツシティの外の病院で療養をすることになった。出血が酷く、腕も完全にくっつくまでは経過観察が必要だからである。
この数日のマーニャは、特にひどかった。クローン研究に関与した者が次々に捕まっていくのである。
彼らがどのような処遇を受けるかは分からないが、やった事が極めて重大であるが故に一生娑婆に出てくることが無い事は確実だ。
「結局、クローンの多くは自分がクローンである事を知らぬまま生きていくのでござるな……」
「それが一番っしょ。社会が混乱するとか、そういうレベルじゃねえッス」
「今回の件で、命が何なのか考えさせられたな。クローンは果たして、同一人物なのか」
「……キリさん」
「とはいえ、オリジナルが死ななければならない時点で公団のクローンは失敗も良い所でござる」
「……まさかと思うッスけど、オリジナルが死ななくて良いなら、クローンは良いんじゃないかとか思ってるんじゃねえッスよね」
「正直……拙者個人としては拙者の意思を継ぐことができるならば、それがクローンでも構わないのでござるが……拙者が死んだときの代わりになるでござろう」
勿論、クローンを操る存在を加味しなければ、の話でござるよ──とキリは付け加える。
それが「忍び」のシステムとしての、キリの在り方だからだ。自分の代わりが居るならきっと便利だろう、と考えてしまったのである。
「怒るッスよ、キリさん」
ベッドの上にのしかかり、ノオトが彼女の仮面を無理矢理ひっぺがす。
「ひうっ、ノオト殿ぉ!? いきなり、仮面を取るのは酷いでござるよ!!」
「オレっちが好きになったキリさんはたった1人しか居ねえッス!! 妙な事言うと、口を塞ぐッスよ!!」
「そ、そう言われても!!」
「じゃあ、キリさんはオレっちがクローンになっても平気なんスね!?」
「……それは……イヤでござる」
「ほらぁ、オレっちも同じッスよ。キリさんって、時たま無神経ッスよね。仮面付けてると、本当に合理的かどうかでしか考えられねーんスから」
「……ご、ごめんでござるよ……」
「オレっちが好きになったのは、すっごく強くて、優秀で、でも恥ずかしがり屋で、世間知らずな──でも、すっごく可愛い、今此処に居るキリさんッスから」
「……っ」
顔を真っ赤にしてしまったキリは手で覆う。
「わ、分かったでござるからぁ……」
「おやー? 耳まで真っ赤ッスねー?」
「み、見るなあ! わ、私今、まともに顔を見れないでござるからぁ!」
「ああ、暴れるなッスよ!! まだ、腕は安静にしてないとダメなんスから!!」
「……うう……意地悪」
「本当、腕が無くなったら忍者やめないといけなかったかもしれねーんスよ!」
「……その時は……せ、拙者から忍者を取ったら、ただの人見知りのお荷物でござる!? 見捨てられる!!」
「あーもう!! 縁起でも無ェ事言ったオレっちが悪かったッスよ! そうならなくて良かったねって話っしょ!」
「……かたじけない……」
「ま、もしも忍者やめなきゃいけなくっても、オレっちは絶対キリさんを見捨てたりしねーッス。最悪うちのおやしろに永久就職すればいーんスよ」
そもそも、誰もキリさんを見捨てたりしないと思うッスけどね──とノオトは付け加えた。
「永久就職……それって、結婚って事でござるか!? 私、まだ全然そんなの考えてないでござるよ、それに家事も出来ないし料理も出来ないし──」
「たらればの話っしょ!? とにかく、今はしっかり休むッス」
「……世界の危機が迫ってる時に、でござるか」
拙者はいつも肝心な時に動けないでござるな、とキリは空を見上げた。
もうじき、空から災禍が降ってくる事は彼女も知っている。
「世界の終わりというのは、案外……何でもない時に来て、それまではずっと、皆普通に暮らしているのかもしれないでござるな」
「バカ言ってんじゃねーッスよ。メグルさん達が今、伝説の二匹を捕まえる為に、フォートマウンテンに行ってるッス。絶対──何とかしてくれるッスよ」
「……メグル殿……」
「あ、そう言えばなんスけど──姉貴がこっちに来るみたいなんスよ」
「んな!? 大丈夫なのでござるか、おやしろは!?」
「万が一に備えて、被害をマーニャで食い止める為らしいッス。戦力は多いに越した事はねーッスからね。だからキリさんは絶対安静」
「むぅ……」
不満げにキリは頬を膨らませる。いざという時に戦えない自分にふがいなさを感じているのだ。
「そんで、肝心の姉貴はどうしてるのやら、電話かけてみよーっと」
「ちょっと、病院の中でござるよ」
「最近の病院はスマホOKの所も多いんスよ、もしもーし姉貴──」
『どうしたのです? 殺される準備は出来たのです?』
「Oh……」
電話に出たのは殺意の籠ったヒメノの声であった。
「あ、姉貴、ご機嫌ッスね……」
『あ”?』
「ヒュイ……」
(今の姉貴は、阿修羅をも凌駕する存在ッス……)
キレている。
あのヒメノがキレている。
否、ヒメノがキレているのは珍しい事ではないのだが──上っ面だけは良い事で有名な彼女が、取り繕う事すらしないのは、怒りが怒髪天を衝いていることを示していた。
その理由は簡単であった。
『全くノオトは──キリさんに付きっ切りで、いい御身分なのです。こちとらデートをキャンセルして単身マーニャ旅行なのです、スピアーだかビークインだか知らんがブチ殺してやるのですよ』
「さ、流石姉貴……」
このマーニャへの緊急遠征によって、最近付き合ったボーイフレンドとのデートをキャンセルされたからである。おまけに弟は常に恋人と付きっ切り。ヒメノは嫉妬で怒り狂っていた。
『クソッ、いっそのことオバケさんなら最近覚えた邪封波で閉じ込めてやったのに、宇宙から来た敵なんて聞いてねーのですよ』
「何スか、その色んな意味で危なそうな技は」
『憑りついた幽霊さんを引き剥がして、別の物に閉じ込める技なのですよ。おじい様もよく使ってたのですよ』
「うちにそんな物騒な名前の技を使う祖父は居ねえッスよ」
仮にもこのヒメノという少女は、現代に生きる霊能力者である。
最近はすこぶる霊気の調子も良かったため、このような技も身につける事が出来るようになったのだ。
……問題は名前である。
「えーと、取り合えず、その邪封波って名前はどうにかしねえッスか? なんかこう──使ったら死にそうな名前だし……」
『ヒメノが付けた名前に何か文句があるのです!?』
「やっぱり勝手に名前つけてんじゃねーか!! 猶更変えろ!! じいちゃんがそんな技使ってた覚えねーからおかしいと思ったわ!!」
『じゃあスピリットの強制分──』
「ちょっと最新鋭過ぎるッスねーッ!! やっぱ邪封波でいいや!!」
「あのー、ノオト殿ー……話が脇道超えて、どんどん側溝に逸れているでござる」
「あ、そうだった。姉貴! いつ頃ココナッツシティに着く予定ッスか!?」
『明日にでもつく予定なのですよー。でも、うかうかはしていられないのです』
ヒメノの口調が落ち着いた。
真面目な話をするときの彼女だ。
『ベニ宇宙研究センターの出した計測によれば──加速していた隕石が突然消えたらしいのですよ』
「隕石が消えた!? ──そんなはずは」
「……じゃあ万々歳じゃねえッスか!!」
『確かに、普通なら隕石が燃え尽きたと考えるのが普通なのです。問題は、隕石が消失した際に近くにあった他の小惑星天体も巻き込んで消えていることなのです』
全く予断を許さない状態なのですよ、とヒメノは告げた。
『あれが隕石ではなく、ポケモンだったなら……』
※※※
「なんか、雰囲気変わったね」
「ああ。ちょいちょいポケモンの姿も見えてきた。近いぞ」
しばらくして、メグルとアルカが辿り着いたのは──大空洞。
その奥に、岩の門が見える。ついに最深部に辿り着いたのか、と二人は安堵する──しかし。
そこに佇んでいるのは二匹のポケモン。まるで待ち構えていたかのように、それらは姿を現し、岩門への道を塞ぐ。
片や、氷の鰭を生やした大鰐のようなポケモン。片や、鉱石のような鱗を生やした巨大な大蛇のポケモンだ。
「カプロォオオオオオオオオオオオス!!」
【オーダイル<マーニャのすがた・ヌシ> おおあごポケモン タイプ:水/氷】
「バジリィイイイイイイイイイイスク!!」
【ジャローダ<マーニャのすがた・ヌシ> ロイヤルポケモン タイプ:草/岩】
ヌシポケモン故に、一般的なサイズよりも二回り近く大きなそれらを目の当たりにし、メグル達は立ち竦む。
青い瞳を細め、獲物として此方を狙うジャローダに、殴った場所を凍り付かせて威嚇するオーダイル。
両方共、ゴウカザルとは比較にならない程に好戦的だ。何故このような場所の門番をさせられているのかがよく分かる。
此処に来るまでにツタージャやワニノコといったポケモンの姿もあったので、単純に生息地として適していると考える事は出来る。
だが、それ以上に──彼らは凶暴で手が付けられなかったのだろう。
「ジャローダ! こっちでも見る事になるなんて……!」
「そんで向こうはオーダイル!! リージョンフォームっぽいが……!!」
(神話に現れる蛇神に猿神、そして古くから居つくワニ!! 成程確かに、東南アジアにゆかりがある!! 御三家にピッタリなチョイスってわけか!!)
二人はボールを構える。
試練と言うならば、無理やりにでも押し通るまでだ。
メグルはクワガノンに目を向けた。此処までで何度か戦闘があり、加えてずっと辺りを照らし続けていたので疲労が見える。
となると、クワガノンを戦闘で消耗させるのは得策ではない。サメハダーの出番だ。
「アルカ!! オーダイルは俺がやる!! ジャローダの方を!!」
「勿論ッ!! まっかせといて!! 不躾は承知──でも、罷り通るッ!!」
飛び出したのはサメハダー、そしてサニゴーン。
しかし──敵が現れたと見做すや否や、ヌシ達は恐ろしい速度で迫りくる。
ジャローダはサニゴーンを長い躰で締め上げ、オーダイルは冷気を纏った拳をサメハダーにぶつけてみせる。
周囲の空気が乾くのをメグルは感じ取った。オーダイルが放ったのは──水タイプの天敵とも言える技だ。
【オーダイルの フリーズドライ!!】
一瞬でサメハダーは凍り付き、ごぽごぽと音を立てて地下湖に沈んでしまうのだった。
そしてジャローダもサニゴーンを締め上げるなり、体中の宝石にエネルギーを溜め、口から極光を解き放つ。
【ジャローダの メテオビーム!!】
ズドンッ!!
身動きの取れぬサニゴーンに、至近距離からビームが叩き込まれ、辺りに爆風が吹き荒れた。
そして、地を這うジャローダは倒れたサニゴーンに再び巻き付き、口を大きく開けた。
再び”メテオビーム”を撃つ準備をしているのだ。
「ッ……なんて、強さだ──だけどッ!!」
「……罷り通るって言ったはずだよッ!! ──そうだよね、サニゴーンッ!!」
アルカの握ったオーカードが輝く。
サニゴーンには爆炎が巻き起こり、間もなく液体金属が流れ始める。
オーライズ──それも、ブースターの力だ。
「悪いけど、此処で足踏みしてられないんだッ!! オオワザ”メルトリアクター”ッ!!」
今まで拘束していた敵がいきなり高熱を帯び始めた事に、流石のジャローダも危機感を覚え、その場を離れようとした。
しかし、全てが遅かった。熱の塊となったサニゴーンはまるでロケットのようにジャローダに突貫──そして爆ぜる。
洞窟中が赤い炎によって明るく彩られた。吹き飛ばされたジャローダは丸焦げになり、地面に転がる。勝負アリだ。
「ジャローダの扱い方は心得てるんだ。ゴメンね」
「キュォオオン」
※※※
そして一方──地底湖の底。
サメハダーを追撃するべく潜ったオーダイルは拳を握り締め、凍結したサメハダーを砕こうとする。
大きく水中で拳を振りかぶろうとしたオーダイルだったが──
「ジョ、ジョ、ジョォオオオオオオオオオオオズ!!」
──突如、ジェットの勢いで跳びかかってきたサメハダーの攻撃を避ける事が出来なかった。サメハダーの氷が溶けたのだ。
間もなく、喉元を噛まれたまま、オーダイルは水面から強制的に引きずり上げられる事になる。
オーダイルもヌシだが、サメハダーもまたヌシ。体格差は互角であり、パワーもまた同じだ。
「流石ヌシ……信じてたぜ!! 速攻で決めるぞ──オーライズッ!!」
「ジョォォォォズ!!」
サメハダーの身体に稲光が迸る。
二度目となるサンダースの力を借りたオーライズだ。
そしてオーダイルの喉を噛んだまま──意地と底力のままに放電してみせる。
本来”かみなりのキバ”を覚えないサメハダーだが、自身の身体を流れる黒雷のオーラを用いた即興技──
「名づけるなら──”
深く深く、オーダイルの喉に牙が食い込み、激しい光が洞窟を照らす。
落雷の落ちるような音が数度聞こえただろうか。間もなく、地面に捻じ伏せられたオーダイル、そしてその前で高らかに咆哮するサメハダーの姿があった。
「悪いな、急いでるんだ。先に行かせて貰うぜ」
「ジョォォォーズ!!」
※※※
──岩門をセグレイブにこじ開けて貰い、メグル達は奥へと入る。
「げほっ、げほっ、なんかカビくせーな……」
「確かに祠だ。祠っていうか、祭壇?」
「儀式の場所って事か」
中は想像以上に広い。
石段が目の前には積み重なっており、その頂上まで登っていくと──巨大な岩棺が安置されていた。
そして、棺は──
「古来より、こういう儀式の目的って”復活の祈祷”だったりするんだよね。現代だと本当に生き返るのを期待するってよりは、魂の安寧を願ったりするんだけど……大昔だと割と真面目に生き返りを期待してたっぽいんだよ」
「はぁ。それで?」
「だから……濫りに棺を開けるのは勿論ダメなんだけど……祭事用の棺がこうも、露骨に鎖を施されてるのは珍しいって言うかさ……」
「何が言いてえんだよ」
「この鎖も新しいってことは、最近付け替えられたって事じゃん? ……まるで復活を願うどころか、その逆なんじゃないかってボクは思っちゃうわけだよ」
「だークソ!! 今更何なんだよ!! じゃあ何のために俺達ゃ此処に来たんだ!? 大体何の説明もなく、こんな所に放り出した、あの赤ん坊が全部悪ィんじゃねえか!!」
「それもそっかぁ!! セグレイブ、鎖を引き千切っちゃって!!」
「待ってアルカさーん!? それはそれで思い切りが──」
ブチブチブチィ!!
まるで縄でも千切るかのように、セグレイブが鎖を無理矢理引っ張ってバラバラにしてしまった。
「わぁーお、すげぇ力……」
「そうだよメグル……ボクに足りなかったのは思いっきりさ!! 世界の危機だってのに、危なそうとか言ってらんないよね!!」
「それはそれとしてもうちょいやり方は無かったのかオマエ……ん?」
がたがたと何かが震えている。
メグルは辺りを見回した。最初は地震かと思ったのだ。
しかし、よく見ると揺れているのは──岩棺の蓋だ。
棺の蓋が勝手に動き、そして一人でに開き始めたのである。
「ぎゃぁぁぁ!? 何で蓋が勝手に動いてんの!? やっぱヤバいものが眠ってたのーッ!?」
「祟りか!? 大丈夫だ、相手がゴーストなら!! 俺達ゃ手持ちに悪タイプが居るだろ!」
「このバトル脳ーッ!!」
セグレイブが二人を庇うように腕を広げて警戒する中、棺の蓋がガタンと音を立てて完全に開く。
そして中から飛び出したのは──
「ヒューッ!! 兄弟!! 外だぜ外!! 久方ぶりに出られたぜ兄弟!!」
「喚くな兄弟。そんな有様ではまたパプリカの機嫌を損ねてしまうぞ兄弟」
──玉だ。
燃えるように赤い宝珠と、凍てつくような青い宝珠が棺の中からふよふよと浮かび上がったのである。
おまけに、宝珠からは──声が聞こえてくるのであった。
「……メグル。こいつら、喋ってんだけど」
「……ああ。喋ってるな……もう驚かねえぞ俺ァ」
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