続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
「語らねばなるまい──でち」
「どうしたんですか急に」
その日の修練を終え、出された串肉にスパイスを掛けて頬張るミア。
そんな中、対面でぺろぺろキャンディを舐めるパプリカがふと言い出した。
しばらくして、キャンディはパプリカの歯で噛み砕かれる事になる。随分と顎の強い赤ちゃんであった。元が赤ちゃんではないからかもしれないが。
「……ヴォルカニドとブリザベオの真実、でち」
「真実……話してくれるんですね」
「そろそろ奴らも祠に辿り着いた頃でちからな。今のうちに、ミアには言っておくでちよ」
「無事に辿り着いてれば、ですけど……」
「ハハハ、ヘーキヘーキでちよ」
どっかの誰かが説明もなく突き飛ばした所為である。
「さて。あの昔話には、あの二匹の力がうっかり悪用されないように幾つか脚色が加えられているのでち。1つは──戦士二人が闘神になった経緯でち」
「経緯?」
「かつてこの王国を襲った水の龍──それと戦っていた戦士二人は、まー勝てるはずもなく死んでしまったのでち」
「……確かに、人の身でそんな恐ろしいものと戦って勝てるとは思えません」
「しかし、そんな中、突如として二匹の虫の闘神が戦士たちの亡骸に近付き──天へ召されるはずだった魂と一つになったのでち」
「! ということは、マーニャの闘神ポケモンは……戦士の魂とひとつになる事で、完全体になる──ということですか」
「その通りでち」
これは、仔細が書かれていなかった部分である。
ハナからヴォルカニドとブリザベオというポケモンは、人間の魂を取り込む事で完全に実体化するポケモンだったのである。
「そして戦いが終わった後……残ったのは戦士の亡骸に加えて、二つの光り輝く玉!!」
「玉」
「王国は、さっさと戦士の亡骸を埋葬しちまう事にしたのでちが……この光り輝く玉だけはどうやっても処分できず、何をやっても戻って来ちまったのでち」
三流ホラー映画のような扱いの”玉”にミアは眉をひそめた。
「何なんですかそれ……呪いの玉なんですか?」
「呪いっていうか──まー、ある意味呪いみてーなモンでち……玉の中には、死んだはずの戦士の魂が入っていたのでちよ」
「ッ!? じゃあ、謎だった戦士の魂の所在は……玉の中に!?」
恐らく、闘神の力だろう──とパプリカは語る。戦士たちは闘神の”中身”として選ばれたのだ。そして器たる身体がマーニャの危機に呼応して復活した時、再び一つになるという寸法である。
「……もしかしてパプリカさんが、かつての伝説を事細かく知ってるのって」
「本人たちから聞いたからに決まってるでち」
「……頭が痛くなってきました……じゃあ、何ですか? 闘神が外から来た人間じゃないと従わないっていうのは……」
「アレはウソでち。本当はでちでも従えようと思えば従えられるんでちが──この赤ちゃんの身体では無理でち!!」
「貴女のヒューマンエラーの所為で、あの二人がえらい目に遭ってるんじゃないですか!!」
ミアはすぐさまベビーカーの中の赤ちゃん賢者を拳でぐりぐりした。
絵面は児童虐待でコンプラ的にアウトなのだが、中身が赤ちゃんではないので、此処は御容赦していただきたい。
「止すでち!! 止すでち!! それをなじられるのが嫌で、あの場では誤魔化したでち!!」
「貴女の所為で回り回って世界の危機なんじゃないですか!!」
「それに、若返る前のでちはヨボヨボのばーちゃんでち!! どっちみち無理でち!!」
「大体、ヴォルカニドとブリザベオが完全に復活すれば、貴女が赤ちゃんだろうが婆ちゃんだろうが関係無いのでは……」
「いや、必要なんでちよ……あの二匹を”縛り付けることができる”人間が」
「……どういうことですか」
「昔話に書かれて無かった事実その2! 戦士の魂とひとつになり、完全顕現したばかりのヴォルカニドとブリザベオは、水の龍そっちのけで暴れ出したのでち!!」
災厄が3つに増えてしまっている。
「あまりの強さに、理性がトんじまったのでちな。そこで王国は、優れたポケモン使いを呼び、彼らを儀式で調伏させることにしたのでち」
「その結果は──」
「無理だったでち」
「えええ……」
「そこで、強力な魔術を込めた金属製のカプセルを用いて闘神を捕獲する事にしたのでち」
「……それって」
「今でいう……モンスターボールに近いものでちな。当時、捕まえたポケモンは大人しくなるという常識がこのころの王国にはあったのでち。そして、国中の魔法使いたちが込めた強力な呪力が籠ってるからか、あっさりと二匹は捕まえられたのでち」
結果、捕まえた後、闘神は理性を取り戻し──自らを捕まえたポケモン使いと共に、水の龍に立ち向かったのだと言う。
「ちなみに──同じものを水の龍にも試したのでちが、あっさり破壊されちまったらしいでち☆」
「ままならないものですね……」
「そして闘神は、ポケモン使いと心を通わせ、見事水の龍を倒すことに成功したのでち!!」
めでたーし、めでたし、である。
とはいえこの伝説が示すのは、闘神を従えるには一度捕獲しなければならないこと。
そして、戦士の魂と意思を疎通し、心を通わせなければならないという点である。
さもなくば、闘神は暴れ狂うただの災厄と化すという。結果的に強いポケモントレーナーが必要となるのだ。
「取り合えず分かりました……戦士の魂が”玉”として眠っていること。そして、闘神を従えるには強いトレーナーが必要である事」
「そうでち。清く正しい心を持ち、多くの修羅場を乗り越えてきたポケモン使い──現代で言うポケモントレーナーでちな」
「……その全てが揃い、初めて闘神を戦力として扱える……というわけですか」
「さーて、問題は……此処からでち」
「まだ何か頭の痛い秘密が……?」
「王国が戦士を水の龍討伐に向かわせた理由でちよ。よくよく考えてみるでち、幾ら強い戦士っつっても、人の身であんなのに勝てるわけがねーでち」
「……確かに」
「彼らはハメられたのでちよ。……王国はハナから戦士を使い捨てるつもりだったのでち」
「ッ!!」
それを聞き、ミアは目を伏せた。
これまでの戦士の扱いにも何となく得心が行く。
「人知を超える力を持ち、ポケモンをも退ける戦士たち……その力を恐れた王国は、いずれ彼らが反旗を翻すだろうと思っていたのでちな」
「……だから、危機に便乗して彼らを体よく処分することにした」
「そうでち」
「ひどすぎます……そんなの……」
「あ、いや、同情は要らねーでち」
「……え?」
「戦士二人は──生前、ロクでもない暴れん坊だったのでち……いや、今でもロクでもないと言えばロクでもないかもしれねーでち」
※※※
「へい、そこのおっぱいが大きい彼女!! 我とお茶しない?」
燃え盛るような赤い玉から、確かにそんな声がした気がした。
メグルは赤い玉をむんず、と掴む。そして──壁に思いっきり押し付けた。万力のような力で。
「おう、このクソ玉ァ──お茶なら俺としようぜ──久々にキレちまったよ」
「割れるゥゥゥーッ!! 割れちゃうゥゥゥーッ!! 割れちゃうから!! らめなのォォォーッ!!」
めきめきめき、と玉から割れそうな音が聞こえてくる。アルカが腕を引っ張って止めた。
「メグル、ステイ!! ステイステイ!!」
「兄弟、生前も夫が居る婦人にちょっかいを出してトラブルになっただろう、あれほどやめておけと」
「ロクでもないなコイツ!! おい、オメーら何なんだ!! 言え!! 名乗れ!! さもなくば割る!!」
「ひぃいいいい!! 我はヴォルカニドと言いますゥゥゥ!! 割るのだけは!! 割るのだけは勘弁してぇ!!」
「ブリザベオだ」
【ヴォルカニド<ソウルフォルム> せいかポケモン】
【ブリザベオ<ソウルフォルム> がんとうポケモン】
メグルとアルカは顔を見合わせる。
ヴォルカニドとブリザベオ? この2つの玉が?
このなっさけない声を上げている玉が?
「おいおいおい、何にも知らずに此処に来たんじゃあるまいな? 俺達はかつてこの地で名を馳せた戦士だぜ」
「はぁ!? 戦士!? ……ハッ、お前が?」
「今鼻で笑った!! 鼻で笑った!! 酷い!!」
「そっか! ヴォルカニドとブリザベオってのは、あの闘神たちの名前じゃなくて、水の龍に立ち向かった戦士たちの名前だったんだ!!」
「然り。話が速いのは助かる」
「だが今の俺達は只の玉だ!! 兄弟共々、魂だけがこの玉に封じられている!」
「玉が二つ、つまりタマタマというわけだ」
「足りねーよ、タマタマは玉が6つだ」
【タマタマ たまごポケモン タイプ:草/エスパー】
しかし、これでアルカは得心した。
長らく不明だった、戦士の魂は──この宝玉の中に眠っていたのである。
「いやー、しかし助かったぜ。此処から出して貰えるとは」
「……闘神の気配がする。マーニャに危機が迫っている」
「そうだな──だが、その前にやる事があるだろ兄弟」
「なんだ言ってみろ兄弟」
「女漁り」
メグルは──アルカに目配せした。
彼女はラプラスを繰り出す。そして、もんずとヴォルカニドを掴んだメグルは、ラプラスの口の中に入れてやった。
気兼ねなく噛めるオモチャにご機嫌なラプラスは、思いっきり玉を”かみくだく”。
「らめぇぇぇぇえ!! らめなのぉぉぉぉ!! 割れちゃうううううううーッ!! ラプラスはらめなのぉぉぉ!!」
「本当にテメェら伝説の戦士かコラ、伝説のチンピラに名前変えて出直して来やがれ」
「マジでロクでもないヤツだよ」
「仕方がない。兄弟と我は、王国どころかマーニャで暴れ回り、その蛮勇は各地で恐れられた」
「自他共に認める蛮族じゃねーか!!」
「それが今となっちゃこの通り☆」
確かに情けない姿である。
ラプラスに対し、無抵抗にガジガジされ続けているのだから。
「賢者の血筋の人間に1週間に1度だけ、棺の中から出して貰えるんだが……最近はパプリカの婆ちゃん見ねえしよ」
「今年で120歳といっていたが……若返りの薬に失敗してとうとうおっ死んだか」
「120ゥ!? あの赤ちゃん、元はそんな婆ちゃんだったのか!?」
今判明する衝撃の事実である。
「えーと、多分そのパプリカっておばあちゃん、ボク達が知ってる赤ちゃんと同一人物なら……若返りは成功してるよ。若返り過ぎて此処に来れなくなったけど」
「赤ちゃんになっちまったんだよ。若返りの薬が失敗したみたいで」
「ギャハハハハハハ!! 聞いたか兄弟!! パプリカの婆ちゃん、赤ちゃんになっちまったってよ!!」
「ギャハハハハハハ、笑えるな兄弟。こんなに面白い事はそうそう無いぞ兄弟」
メグルとアルカは顔を見合わせる。
やはり自分達は、あのパプリカという赤ちゃんの尻拭いをさせられたのだ、と。
大体事態は飲みこめてきた。この祠、そしてこの蛮勇共の管理をしていたのは、あのパプリカの一族なのだろう。
そしてパプリカが調合をミスって若返りに失敗した所為で、自分たちが代わりに祠から玉たちを連れてくる役割を背負わされたのだ、と。
「それにしても可哀想だよ。いくら玉の姿だからと言っても、1週間に1度しか出して貰えないだなんて」
「おおう、姉ちゃん、そう思うだろ!? 棺の中は暗くて寂しいんだぜェェェー」
「1週間に1度になったのは、玉の姿で婦女子のスカートに突っ込んだからだ兄弟、連隊責任で我も罰を受けたんだ兄弟」
「お前もノリノリだったじゃねーか兄弟」
「フッ、それほどでもないぞ兄弟」
「やっぱりロクでもねえんじゃねーか!!」
「それで週1なら割と有情じゃんか!!」
自業自得であった。やっぱり棺の中に閉じ込めておくのが大正解だったらしい。あんなに厳重に鎖で巻いてあるのも納得である。
「えーと、それで──何だっけ? 君ら俺達に会いに此処に来たんだっけ?」
「……マーニャに危機が迫ってる。闘神の力を借りたいんだけど……」
「おい聞いたか兄弟」
「ああ聞いたぞ兄弟」
「久々に世界の危機だってよ、滾ってくるってもんだよなあ、兄弟!!」
「まあ落ち着け兄弟、冷静さを失ってはいけない、兄弟。だが相手が強者であればあるほど、興奮するぞ兄弟」
本当に闘神に任せていいのか、不安になってくるメグル達であった。
「俺達何の説明もなく此処に突き落とされてさ……とりあえず何をすれば良いんだ?」
「我らは今や闘神の魂」
「現世に降臨した闘神の躰は、本能のままに暴れ回っている。そこで俺達が中に入って、闘神を制御するってワケよ」
「だってよ、メグル。ボク不安になってきた。マーニャを脅かすものが3つに増えるんじゃないかって」
「ああ、それは強ち間違っていねえなァ?」
ヴォルカニドが言ったのを聞き、アルカはラプラスに”ディープバイト”を指示する。
「違う違う違う!! そうじゃなくってェ!! 俺達と一心同体になった闘神は、心を通わせる別の人間が居なきゃ制御できねーんだよ!! 痛い!! マジで痛い!!」
「お前達は此処まで来たという事は、相応に力のある人間と見て良いと言う事だな」
「制御……成程な。そこでポケモントレーナーの出番ってわけだ」
「ああ。世界を救いたいなら──痛い!! 闘神になった俺達を痛い!! マジ痛いからやめて!! 捕まえなきゃいけないってわけだ、いたたたたァ!!」
尚、ラプラスは未だにおもちゃをガジガジしていた。
ヴォルカニドの発言が悪ふざけでなかったことを知ったアルカは、取り合えずラプラスにオモチャで遊ぶのを止めようとする。
しかし、流石そこは凶暴なマーニャのラプラス、一度噛んだものは離しはしないのである。
「ラプラス離してあげて!! それオヤツじゃないから!! ペッ!! ペッしなさい!!」
「……大丈夫かコレ?」
「怖いか? 人間──我らと共に戦うのが」
ブリザベオの問にメグルは首を横に振った。
「──怖いから不安なんじゃねーよ、見りゃ分かるだろ!!」
※※※
「──いやー、よくぞ帰ってきたでちね、キャッキャッキャ」
「だから何で説明も無しに放り出したんだテメェは!!」
なんとか、洞窟から這い出てきたアルカとメグルを前に、パプリカは愉快そうに笑うのだった。
「テメェ、俺達に自分の失態の後始末を押し付けたな!!」
「おい、本当にパプリカの婆ちゃん、赤ちゃんになってんじゃねえか」
「若返りには成功したんだな、パプリカ」
「おーう、クソったれ共。久しぶりでちな」
気安くヴォルカニドとブリザベオに挨拶するパプリカ。どうやら、本当に見知った仲だったらしい。
「良かったです……心配したんですよ」
そしてミアも、目に涙を滲ませながらメグルとアルカの手を取るのだった。
どうやら往復するだけで1日半近く掛かってしまったらしい。既に身体はへとへと、腹も減っている。
しかし──それでも立ち止まっている場合ではない。
「ミア。後は、闘神たちと戦って捕獲しねえといけないらしいんだ」
「知ってます。大体パプリカさんから聞きました」
「うむ。魂である宝玉が外に出たのは、闘神たちも感知してるはずでち」
「だからそういうのは最初に言えってんだよ!!」
「しょーがねーでち、赤ちゃんなんだから」
つまり、何もしなくとも闘神の躰は魂に引かれて此処にやってくるということである。
ただそうなれば、一体化して理性を失った二匹の闘神が、今度はマーニャの災厄となるのであるが。
「故に、闘神調伏の儀式は──かつて闘神が戦ったとされる場所、古戦場にて執り行うでち!!」
「……古戦場、か」
「漸く、本番だね……!!」
「ところでそこのかわい子ちゃん、我々とお茶しない?」
「え、えーと、あの……」
「兄弟。1人だけはズルいぞ。我もお茶をする」
「……」
「……」
なお、ふわふわ浮かぶ玉共は、今度はミアにナンパをしていた。
青筋が何本も浮かんだメグルはアルカに目配せする。流石のアルカも「度し難い」と無言で首を横に振る。再びお仕置き装置ことラプラスが飛び出した──
【ラプラスの ディープファング!!】
【ヴォルカニドと ブリザベオはたおれた!!】
──本当に大丈夫なのだろうか。先が思いやられる一行であった。
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