続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
灰色になったヴォルカニドの身体が、風に吹かれて消えていく。
暗雲は鳴り響く。
マーニャの太陽を簒奪した狩人が咆哮し、次の獲物を見定めていく。
「メラヴォルガガガガガガ……!!」
目には赤い炎が宿り、その身体にはヴォルカニド神の闘気が確かに灯っていた。
メグルは後ずさる。闘神があっさりと倒され、セグレイブも崖から落下した今、戦えるのはニンフィアだけだ。
「野郎ォ……!! 俺達はテメェに食われるために、生きてんじゃねえぞッ!!」
「ふぃるふぃーっ!!」
メグルは振り返った。アルカに「セグレイブを助けに行け」と促す。
「で、でもっ!! まだボクだって戦える!! サニゴーンなら──」
「バカ!! 奴は普通に物理攻撃も使える、物理耐久が紙っぺらのサニゴーンはすぐにやられちまうぞ!!」
「ッ……」
今ニンフィアが戦えているのはギガオーライズをしているからだ。
並大抵のポケモンでは瞬殺されてしまうことは目に見えている。
むしろ、並大抵のポケモンではないはずの闘神があっさりと破られたのだ。
勿論、他のポケモンもタイプ相性の関係で話にならない。
本来ならばポケモンバトルに於いて「絶対はない」と言い切る側であるはずのメグルが──自戦力を足切りしてしまうほどに、ガルヴァチスは圧倒的だった。
「頼む──時間を稼いでる間に、セグレイブを連れて来てくれ!! セグレイブじゃねえと、話にならねえんだ!!」
「……わ、分かった……!!」
メグルの顔には余裕が欠片も無い。
最高戦力だった伝説のポケモンは屠られており、戦えるのはニンフィアだけだ。
戦力の出し惜しみ云々以前に、このレベルの敵になれば練度とタイプ相性両方で勝っている相手、ないしギガオーライズをしたポケモンで無ければ話にならない、と彼は考える。
ガルヴァチスは──これまで戦ってきたポケモンとは比べ物にならない強さだ。
(メグル、本当に焦ってる……! ボクもだけど……! 今まで戦ってきた敵は、心のどこかで”何とかなるかも”って思えてたけど……ガルヴァチス相手は、全くそう思えない!)
幸い、逃げるアルカには興味を示さず、相も変わらず威嚇するニンフィアにガルヴァチスの興味は向いているようだった。
アルカが立ち去ったのを見届けて、メグルは改めて敵に向き直る。
(……セグレイブが落ちたのは……崖の下も下……! きっと、連れてくるのにはすっげー時間が掛かる……!)
幸いセグレイブは岩タイプだ。持ち直しさせすれば、”ロッククライム”の技を覚えさせることで一気に駆け付けてくることは可能だ。
問題はそれまでに、持ちこたえられるかである。
ガルヴァチスの全身からは溶岩の如き鎧、そして熱が溢れていた。
「耐えるのは得意だぜ……! そうだろ相棒!」
「フィッ!!」
「ニンフィア!! ”しんぴのめぶき”ッ!!」
癒しのオーラの汎用性は非常に高い。
それを最大限に放出させ、ガルヴァチスの戦意を削ぎ取ろうとする。
さっきも、通用していたのだ。今度も、通用するはずだ。
否、むしろ──通用してくれなければ困るのである。
【ニンフィアの しんぴのめぶき!!】
しかし。
癒しのオーラは遮られる。
他でもないガルヴァチスが槍から放った熱波によって。
「ふぃっ!?」
ニンフィアは驚愕する。
自分が放出していたオーラが全て、槍の一振りだけで掻き消されてしまったからだ。
後に残るのは、命を死に至らしめる熱気のみ。
「ッ……ダ、ダメ、なのか……!?」
「ふぃィィィーッ!!」
ニンフィアがやぶれかぶれに”はかいこうせん”を構える。
しかし──ガルヴァチスもまた、闘神の力を使って自らの正面に熱気を集中させる。
【ガルヴァチスの プロミネンスフレア】
それはまさしく黒い太陽の如し。
かつて目の当たりにしたホウオウの”てんちゅうさつ・そらなき”を思わせる強大なる熱源。
”はかいこうせん”を解き放ったニンフィアだったが──すぐさま、自分の技がガルヴァチスの放った小型太陽には遠く及ばない事を察した。
パワーを幾ら放出しても、火の玉を押し込むことが出来ないのだ。
次第にニンフィアはその力を消耗していき、押し込まれていく。
「負けるかよ、ニンフィア!! 俺もありったけだッ!! ありったけを──ぶつけるッ!!」
「ふぃーッ!!」
ニンフィアが吼え、その目に稲光が迸る。
そして──メグルの目にも稲光が迸った。
「負けねえ……負けて堪るもんか!! 今までだって、乗り越えてきたんだッ!! 今此処で俺が倒れたら、アルカにも、ミアにも、ノオト達にも、何よりパルデアで待たせてるポケモン達に顔向けが出来ねえ!!」
ニンフィアのリボンが天使の羽根のように大きく広がっていく。
息が苦しくなるような感覚。ずっと水の中に潜っているかのような感覚。
長らく苦楽を共にしていた二人は──ギガオーライズを越えた、更なるギガオーライズに覚醒する。
フェーズ2。
オージュエルが更に黒く輝き、メグルのもう見えない目から迸る稲光は一層激しくなるのだった。
体の神経系全部が張り詰め、そして力の全てがオージュエルに吸い取られていく。
だが、それが全て相棒に還元されていくならば、メグルは全く惜しくは無かった。
今此処にいる仲間の為に。そして、連れて来れなかった手持ち達にもう一度会う為に、メグルは命を燃やし続ける。
「ニンフィアッ!! このくらいの危機、今まで俺達乗り越えてきたよなッ!!」
「ふぃ、ふぃいいいいいいいいッ!!」
そうだ、と二人は頷く。
思えば最初から──無茶苦茶な強さの敵ばかりと戦って来たではないか。
「お前が相棒で本当に良かったぜ!! 今、心の底から思ってるよ、お姫様!! お前と一緒だから、どんな奴とでも戦えてきたんだ!!」
強敵相手は今更ではないか、と。
それがより、彼らの闘争心を更に奮い立たせていく。
「出会ったばっかの弱っちかった頃の俺達が……此処まで来れたッ!! こいつで、こいつで最後なんだッ!! 絶対に、倒すんだッ!!」
”はかいこうせん”が徐々に、徐々に──”プロミネンスフレア”を押し込んでいく。
思えば、初めて会った頃も、こうして正面からオオワザを撃った相手に突っ込んでいったものだ、と思い返す。
「──よう狩りバチ、聞け!! これが──俺達の、生き様だッ!!」
破壊の光が、より強く、激しく黒い太陽を押し込んでいく。
対抗できる、とメグルは確信した。フェーズ2は長持ちはしない。
だが──発動できれば相手がたとえ伝説のポケモンであっても、対等に渡り合う事が出来る。
これまでもそうだった。きっと今回も──やれる。
「……狩るか、狩られるかッ!! いざ尋常に決めようぜッ!!」
メグルの頬には血管が浮かび上がり、ギリギリまで、そして極限まで彼は己の全てをニンフィアに注ぎ込む。
一方のニンフィアも、既に体力も気力も限界を超えていた。
そもそもギガオーライズに成功したのが此処最近なのだ。その状態から限界を突破するフェーズ2に至るのが、どれほど過酷な事だったかは想像に難くない。
しかし、此処で負けるのは凶暴リボンのプライドが決して許さなかった。
自らに癒しのオーラをニンフィアは注ぎ込む。
体力も気力も、ギガオーライズで得たオーラによって自己回復する。
当然それは「元気の前借」と言えるものであったが、今此処でガルヴァチスを倒せなければ元も子もないのだ。
(そりゃ怖ェよ、今だって!! だけどな──俺はッ!! こんな所で尻尾巻いて逃げる程、落ちぶれちゃあいねーぜ!! ましてや相棒が隣に居るんだからな!!)
後少しで──ガルヴァチスに、光線が届く。
その為ならば、己の全てを賭す事をニンフィアは厭わなかった。
大好きな主人と心を通わせた今ならば分かる。
「勝ちたい」のだ。守りたいものを守る為に。
「メ・ガ・ラ・ラ・ラ」
──突如。
火球が激しく、大きくなった。
遊びは終わりだ、と言わんばかりにガルヴァチスが一気に出力を上げたのである。
”はかいこうせん”は一気に押し込まれ、メグル達の前に黒い太陽が迫った──
「諦めるか──それでも、俺達は──ッ!!」
「フィッキュルルルルィィィィィ!!」
※※※
「居た!! 見つけた!! セグレイブ!!」
──凡そ100メートル近く下の先。
ヒャッキの民特有の跳躍力で岩場を飛び降りていき、漸くアルカは崖下に埋まったセグレイブを見つけた。
この程度の崖は、石商人としての仕事で何度も何度も乗り越えてきたのだ。へっちゃらだった。
頭から岩場に嵌ってしまっており、抜け出せないようだったのでラプラスを繰り出し、大顎で岩を噛み砕いてもらった。
すると、涙をぽろぽろ流しながらセグレイブは起き上がるのだった。
「良かった、迎えに来たよ、セグレイブ……! もうひと踏ん張りだ、頑張ろうッ!」
「コォアアアアン!」
頑丈で良かった、とアルカは胸を撫で下ろす。見た所、落下による傷は見えない。
”かいふくのくすり”の注射を打ち込み、戦闘でのダメージも回復できた。セグレイブは、まだ戦える。
ズドガァアアアアアアアアアアンッ
ラプラスも、セグレイブも──思わず遥か上の崖を見上げた。
此処からではよく見えない。だが、何かが爆ぜたような音は聞こえた。
「何、何の音……? 大丈夫だよね……?」
びくりと震え、アルカはポケモン達に目配せする。
ごろごろと雷雲が鳴り、雨が降り始めた。
空を飛べるポケモンは居ない。この崖を再び上がっていかなければならない。
ラプラスをボールの中に戻し、アルカはセグレイブの背に乗った。
スマホロトムの技覚えアプリを使い、セグレイブの技に「ロッククライム」を追加する。
これで岩肌もすぐに登れるようになる。
だが、激しい戦いの余波で崖は崩れて形を変えてしまっており、更に水を吸ったことで地面はぬかるんでいた。
「急いで!! セグレイブ!! メグルが……待ってるんだ!! 待ってるんだよ!!」
「コォオオオオン!!」
地面に爪を引っかけ、セグレイブは崖を登っていく。
それでもアルカを抱えながらだ。全速力を出す事は出来ない。
泥が顔につき、雨でぬれる中、ふたりは──フォートマウンテンの頂上を再び目指す。
「二人なら、どんな相手とでも戦える……!!」
余計な事は考えない。
とにかく、セグレイブを頂上に届けるのだ。
それだけを考え、アルカは上を目指し続ける。
途中、セグレイブがバランスを崩しかければ、セグレイブをボールに戻して自分だけがフックで崖に掴まる。
そして安全なところまで上がれば、またセグレイブをボールから出して登っていく。
雨の所為で、余計に滑りやすくなっている。
(こんな時に……!!)
苛立ち、そして焦燥はポケモンにも伝わり、コンディションを崩す。そんな事は分かっている。
だが──今は一分一秒が惜しかった。
そうしてやっとの思いで、アルカとセグレイブは先程の戦場に辿り着いた。
ガルヴァチスの姿は、もうどこにも無かった。
「あいつ……何処に行ったの!? ……そうだ!! メグルとニンフィアは!?」
アルカは辺りを見回す。
灰化したヴォルカニドの亡骸はボロボロに崩れてしまっている。
頭部を貫かれたブリザベオは、沈黙を貫いている。
雨が打ち据える中、ピンクのリボンが煤塗れ、火傷塗れのボロボロで倒れているのを見つけ、思わず駆け寄った。
「ニンフィ──」
そして、足を止めた。
最初、アルカはそれが何なのか理解が出来なかった。
ニンフィアの傍で──黒い何かが蹲っていた。
「……なにこれ」
しかし嫌でも分かってしまったのだ。人肉が焦げる嫌なにおいで、それが何なのかが。
「……噓でしょ」
だが、何なのか理解出来なかったのは──それが、真っ黒になってしまっていた事だった。
ニンフィアを庇ったのかもしれない。丸まった姿勢のまま、それは黒く、焼け焦げていた。
「ねえ。何か言ってよ。冗談だって言ってよ」
服は炭になっており、顔の皮膚は黒く焼けただれ、最早誰だったのか分からない。
思わず熱さも忘れ、焼け焦げた手首に触れた。
赤く熱されたオーバングルには、彼しかもっていない黒く純化したオージュエルが嵌めこまれていた。
バングルにはしっかりと名前が刻まれていた。
「MEGURU」とローマ字で。
「……ボクが、渡したオージュエルだ」
──何だコレ──宝石?
──ええ。ボクの故郷のお守りのようなものです。伝統的な加工品で、ネックレス、腕輪、指輪など、装飾品に付けるんですよっ。
これを付けている人間など、ひとりしかいない。
「守ってよ……オージュエルは……ヒャッキの、お守りなんだよ……!!」
誰が見ても、助かる訳が無いと分かった。それが息絶えてしまっていることは分かった。
「ねえ、起きてよ。死んでも死なないのが、君なんでしょ……?」
返事は無い。
ただ、雨の音だけが降り続いている。
頬に伝う無数の雫を拭う事もせず、彼女は呼びかける。
「お願いだから……返事してよ……メグル」
ガルヴァチス討滅作戦から2時間経過。
ガルヴァチスは戦場を離脱し、スリング島内を移動。
被害は甚大。
戦闘不能ポケモン多数。
闘神二匹、機能停止。
──ポケモントレーナー・メグル、死亡。
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