続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第81話:残された者、託された物

 返事は帰ってこなかった。

 真っ黒になった骸は何も言いはしない。

 遅かった。何もかもが遅かったのだ、とアルカは思わされる。

 

「……ふぃー」

 

 ぴくり、と何かが動いた気がした。

 ニンフィアが、かくかくと脚を震わせながら起き上がっていた。

 全身は火傷塗れ、煤塗れだが、辛うじて立ってはいる。

 

(ニンフィア……最後にメグルは、ニンフィアだけでも守り切ったんだ)

 

 すぐに彼女は、黒い骸が何だったのかに気付いた。

 そして、ぺろ、ぺろ、とその頬を舐める。だが、黒い骸は何も言いはしない。

 

「ふぃー……ふぃーあ!!」

 

 ニンフィアの背中にリボンのような羽根が生える。

 彼女の感情に呼応し、彼女の身体に残っていたオーラとオシアス磁気がギガオーライズを再現させたのだ。

 

「ふぃー、ふぃるふぃーッ!!」

 

 目に涙をたっぷりと溜めながら、ニンフィアは残る自分の力を全て振り絞る。

 荒れ地だった周囲には草が芽吹いていき、生命力が骸へと注がれていく。

 するとどうだろうか。今まで真っ黒に焼けただれていた骸は、たちどころに──元通りの肌の色を取り戻していく。

 

「ッ……」

 

 間もなく、そこにはアルカがよく知るメグルの姿が蹲っていた。

 ぱぁっ、とニンフィアは顔を輝かせ、メグルに駆け寄り、頬を舐める。

 

 

 

 だが、返事が無い。

 

 

 雨に濡れた彼の身体は冷たいままだ。いつまでも目を瞑ったまま蹲っている。

 

「ふぃるふぃぃ! ふぃるふぃー! ふぃー!」

「……凄い力だね、ニンフィア。だけど──」

 

 メグルは微動だにしなかった。

 息もしていない。身体も冷たいままだ。

 

「ダメだ。息が無い」

「……ふぃー! ふぃー!! ふぃーっ!!」

「……遺体をキレイにすることは出来ても、死んだ人間の魂は……元には戻らないんだ」

 

 もしかしたら、とアルカは思ったのだ。

 一抹の希望を彼女は抱いたのだ。

 しかし、妖精の加護では人を生き返らせることなど出来はしない。

 何処まで行っても死は不可逆なのだ、と思い知らされる。

 

「ふぃー!! ふぃーっ!! ふぃーっ!!」

 

 鳴きながら、それでもニンフィアはメグルの頬をぺろ、ぺろ、と舐め続ける。

 だが──メグルは起き上がる事は無かった。

 

「もう、良いんだ、ニンフィア」

「ッ……ふぃーっっっ!! ふぃーっっっ!!」

 

 

 

【ニンフィアの しんぴのめぶき!!】

 

 

 

 

 

【しかし うまくきまらなかった!】

 

 

 

 辺りには花が咲き誇る。

 だが、その真ん中でメグルだけは──動きはしなかった。

 ニンフィアの身体からリボンが消え失せ、彼女は力尽きたかのようにぱたりと倒れ込む。

 彼女の身体に残っていた、オーラの残滓が消え失せた。

 

「ふぃぃぃぃ……」

「もう良いよ。いいんだよ、ニンフィア」

 

 ニンフィアを撫でた後、アルカはメグルを仰向けに寝かせてやる。

 苦痛に満ちた顔。きっと、最後の瞬間まで熱に耐えていたのだ、と察する。

 

「ふぃー……!」

 

 ニンフィアは首を横に振った。嫌だ、と拒絶するように。

 だが、対するアルカは彼女自身が驚くほどに冷静だった。メグルが死んだら、自分はもっと取り乱すのだと思っていた。

 危機が迫っているからだろうか。それとも、雨の所為だろうか。 

 彼女にも分からない。

 

「……本当に、頑張ったね」

 

 ただ──目の前の景色全部が色を失ったような気がした。

 アルカはそっと──メグルの唇に口づけすると、彼の右腕に嵌められたバングルを外す。

 冷たい。マネキンでも触っているかのようだった。

 

「……オージュエル、返してもらうよ、メグル」

 

 真っ黒に純化したオージュエル。

 それは、彼女の右腕に嵌めこまれる。

 かつて──助けて貰ったお礼に彼に「押し付けた」のが始まりだった。

 それ以降、幾度となくこのジュエルはメグルの危機を救ってきた。

 

 あるべき場所に戻ったのだ。

 

「……大丈夫。すぐそっちになんて行ってやらない」

 

 彼が持っていたモンスターボールにも手を取ろうとした。

 その時──ボタンに手を触れてないのに、クワガノンとサメハダーが勝手に飛び出してきた。

 

「……君達」

「ぴぃ……?」

「ッシャァァァーッ!!」

 

 サメハダーが──全く動かない主人を前に呆然としている。

 クワガノンが大顎でいつものようにメグルの鼻を挟む。

 メグルはもう、何も言わなかった。

 

「……ごめん。メグルは……もう……」

「ぴぃぃぃ……」

「シャー……」

「……ねえ、皆。ボクに、付いて来てくれないかな」

 

 静かにアルカは言った。

 ポケモン達は、彼女を睨み付ける。

 

「ジョォオオオオオズ!!」

「シャラアーッッッ!!」

「……ふぃ」

 

 これでも主人への忠誠がとても強い3匹だ。まだ現実を受け入れられていないし、そもそも主人が死んだことをちゃんと理解出来ているかどうかもアルカには分からない。

 だが──それでも。まだ何も終わってはいないのだ。

 

「分かるよ。君達の主人は、メグルだけだ。そんな事、ボクが一番分かってるんだよ」

「……ふぃー……」

「でもさ。このまま終われない。終われるわけない。ボクらが諦めたら、メグルの頑張りはどうなる? メグルが此処まで歩んできた道はどうなる?」

「……ぴぃ……」

「全部、無駄になっちゃう。無駄になんて出来ない。君達も、メグルが大好きなら分かるでしょ」

「……シャー」

「……此処から、君達の指揮はボクが執る」

 

 アルカはモンスターボールを手に取り、ポケモン達をボールに戻していく。

 そして──最後にニンフィアに”かいふくのくすり”を打ち込み、ボールを翳した。

 

「……ついてきて。ニンフィア」

「ふぃー!」

 

 ニンフィアは、大人しくボールの中へと入っていった。

 

 

 

 ──アルカの手持ち、これで6匹。

 

 

 

「……メグル」

 

 

 

 雨に濡れた遺体を屋内に背負い、寝かせる。

 軽い。思ったよりも軽い。何か大切なものが抜け落ちてしまったかのように、メグルの身体は軽かった。

 今はこれしかやれることが無い。

 そして、右腕のオーバングルに触れ言った。

 

 

 

 

「──ボク達は、ずっとずっと一緒だ」

 

 

 

 そうして周りに誰も居ない部屋の中で──アルカは力無く崩れ落ちた。

 

 

  

 すすり泣く声は、雨に消されていた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──メグルさんが、死んだ……?」

「……うん」

 

 

 

 麓に降り避難民と一緒に居たミアに、アルカは真っ先に最悪の事態を伝える。

 未だに身体の調子が戻らないのか、彼女は起き上がろうとしたが──全身が酷く痛むのか、顔を顰めた。

 喉はまだ焼けただれており、上手く喋れないようだった。

 

「がはっ、ごほっ……何で」

「……今は、寝かせてる。身体は綺麗だけど……ニンフィアのオオワザで元に戻っただけ。最初は、真っ黒焦げで誰なのかも分からなかった」

「……ッ」

「ボク、ガルヴァチスを倒しに行くよ。メグルのオージュエルがあれば、ギガオーライズできるから」

「無茶ですッ!! 闘神も……倒されてしまったんでしょう!? そんな相手に……どうやって勝つんですか!?」

「知らないよ、そんなの」

「……」

 

 そう言われ、ミアは目を伏せる。

 

「ねえ、アルカさん。私も行きます」

「……ミア」

「メグルさんと会うまで、私は死んでたんです!! 生きながら……死んでた」

 

 自分がクローンである事に、そして今まで自分が選んだと思っていたものが全て「そう設定された」ものに気付いた時、ミアは深く深く絶望した。

 そんな最中に出会ったメグルとの共闘で──彼女は試作品でも模造品でもなく、ただ一人のミアとして生きる決意をすることが出来た。

 因縁に決着をつけ、これからという時に居なくなってしまった恩人に、そして「旅の仲間」に──少しでも報いたい。

 

「このまま何もしないで、アルカさんまで死なせるのは、私嫌です!!」

「……分かってる。ミアも置いていかない」

「……ッ」

 

 ミアは顔をごしごし、と拳で拭うと──「はいっ」と気丈に言い放つ。

 

(君が言ったとおりだった、メグル)

 

 悲しみにくれ、彼の事で胸がいっぱいで、何も考えられない。

 だが、それでも彼女を突き動かしたのは、他でもないメグルの言葉だった。

 

 ──死んだ人に置いてかれたまま、俺達は生きていく。一日は24時間で……辛くても、同じ時間が皆過ぎてくんだよな。

 

「大馬鹿野郎だよ、メグル。先に行っちゃうなんて。こんなに早く、行っちゃうなんて」

 

 悲しいし、今だって泣いてしまいたい。

 歩けるわけがない。立ち上がれるわけがない。

 自分でもそう思っていたのに。

 

 それでも、アルカは今、生きている。

 

 ──……俺は──残された者として、託された物を……全力で燃やして走るよ。今、俺の手で守れる者を全力で守る為に。

 

「じゃあ、ボクも同じだ」

 

 託された物を、全力で燃やして走る。

 ただ、それだけだ。

 

「──ガルヴァチスは何処に行った?」

「SNSによれば……スリング島の空港! そこで大暴れしてるみたいです」

「すぐに行こう。……メグルの仇を取るんだ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「おいおいおいおい、何なんスかこいつァ!?」

「……これが、例の災禍なのです!?」

「どっからどう見てもそうにしか見えねえッスねえ!!」

 

 

 

 空港は──かつてないほどの悲鳴に囲まれていた。

 凶暴化した野生ポケモン達を倒していたノオトとヒメノだったが、戦線に乱入してきたのは巨大なハチの怪物。

 それが、この騒動の元凶である存在である事は一瞬で理解出来た。

 ガルヴァチス。燃え盛る溶岩の槍を携えた巨大なハチは、誰も居ない旅客機を一刀両断して爆発炎上させると、次なる獲物を集る野生ポケモン達に定める。

 暴走した野生ポケモン達もまた、ガルヴァチスに次々と向かって行くが──

 

「メ・ガ・ラ・ラ・ラ!!」

 

 ──ガルヴァチスが槍を振り上げれば次々に稲光が落ちていき、ポケモン達を打ち据えていく。

 そうして雷に撃たれたポケモンは真っ白に白化していき、そのエネルギーは全てガルヴァチスの槍に吸い取られていくのだった。

 ──ターゲッティング。

 予めガルヴァチスは島中の野生ポケモンにターゲットマーカーの如く自身のオーラを散布させていた。

 彼らは、ガルヴァチスが近付くと一目散にガルヴァチスに駆けていくようになる。

 

 

 

 口を大きく開けたホエルオーに飛び込むヨワシの如く。

 

 

 

 何もしなくとも、ガルヴァチスはエネルギーを大量に補給できるという寸法だ。

 後に残るのはエネルギーを吸い尽くされ、灰化したポケモン達だけだ。

 彼らは風が吹くなり、ぼろぼろと崩れ落ちていく。

 

「ノオトッ……!!」

「姉貴はジュペッタをメガシンカさせてくれ!! ……こっちはギガオーライズで何とかするッ!!」

「分かったのですよ!!」

 

 キャプテン達はポケモンの本気を解き放つ。

 出し惜しみして勝てる相手には到底見えない。

 辺りを凍り付かせながら、毒を帯びた拳を振るうルカリオ。

 そして、全身のジッパーを開いて大量の影の爪を伸ばすジュペッタ。

 だが──いずれも無意味に終わった。

 

「メ・ガ・ラ・ラ・ラ!!」

 

 広範囲に展開されるパルスシールドがジュペッタの爪を弾き返し、飛び掛かってきたルカリオもガルヴァチスは溶岩の槍で撃ち返す。

 

「え、あ、マジかよ……ッ!?」

 

 ノオトはあまりの力量差をこの数秒で嫌でも痛感させられる。

 ギガオーライズの反応速度についていくどころか、優に追い越している。

 

「メ・ガ・ラ・ラ・ラ・ガ・ルーダッ!!」

 

 

 

【ガルヴァチスの プロミネンスフレア】

 

 

 

 溶岩の槍を交差させ、ガルヴァチスは巨大な黒い太陽を作り出した。

 空港の滑走路が炎に包まれる。とてもつもない熱量に、一斉に汗が噴き出す。

 死んだ、とノオトもヒメノも直感した。

 あの技を止められる手段が自分たちには無い──

 

「させるか──ッ!!」

 

 ──その時だった。

 

 

 

 空から声が聞こえてきて、ノオトは思わず見上げた。

 

 

 

 クワガノンのライドギアに、アルカがぶら下がっている。

 

 

 彼女はボールを投げ──そしてオージュエルにカードを翳す。

 

 

 

 

「セグレイブッ!! ギガオーライズッ!!」

 

 

 

 まばゆい光。

 そして、全身の岩の鎧を纏った重騎士がガルヴァチスの直上に降り落ちる。

 渾身の”パワフルエッジ”だ。

 流石のガルヴァチスも技を中断し、溶岩の槍でセグレイブを受け止める。

 しかし、セグレイブ側も槍を岩の盾で防ぎ、両者は相対するのだった。

 

「メガララララララ……!!」

「コォオアアアアアアン!!」

 

 滑走路に降り立ったアルカの右目からは、黒い稲光が迸っていた。

 

 

 

「……よくもメグルをやったな。お前だけは……お前だけは、絶対に許さない」

「コォオオオオオオオオン!!」

 

 

 

 咆哮する重騎龍。向かうは、星を狩る悪魔。

 その一騎打ちを目の当たりにするノオトは思わず息を呑んだ。

 ギガオーライズしている。だが、アルカの気迫が尋常な物ではない。

 

「お二人共、大丈夫ですか!?」

 

 そんな中、羽ばたく羽根。

 黒い火竜がノオトとヒメノの後ろに降り立った。

 ミアとゼノだ。

 

「色違いのリザードン──いや、タイプ:ゼノか!! オレっち達は何とか──」

「……あいつが、ガルヴァチス……隕石から生まれた怪物なのです!?」

「はいッ……正直、とんでもない強さですが……やるしかありません!!」

 

 そんな事は分かっている。

 正直、自分達の力が通用するとは思えない程の強敵だ。

 だが双子のキャプテンは、それでも諦めはしない。

 

「へっ、燃えてきたッスね!! 4人も居りゃあ、レイドバトルにはピッタリっしょ!!」

「……待つのです。メグル様は?」

「そう言えば。クワガノンッて確か──メグルさんの手持ちッスよね」

「……」

 

 流石にヒメノは鋭かった。

 痛いところを突かれ、ミアは押し黙る。

 どうせ隠せなどしない。しかし、口にするのがあまりにも辛く、彼女は首を横に振った。

 

「……冗談っしょ」

「冗談を言うような性格に見えますか?」

「……あの、メグル様が……そう簡単にやられるはずが」

「……」

「いや、野暮だったのですよ。何であれ、ヒメノ達は──戦うしかないのですよ」

「姉貴──でも」

「つべこべ言わない!! 此処で奴を食い止めなければ、世界中が蹂躙されるのも時間の問題なのですよ!!」

「……それも、そうッスね」

 

 ルカリオも、ジュペッタも何かを察したのか──互いに頷き合う。

 そして、再び狩蜂の王に向かって行くのだった。

 

 

 

「──ゼノ。私達も行きますよ」

「ばぎゅあ!!」

 

 

 

 ミアの傍でゼノも吼える。

 悲しみを押し隠し、彼らは最後の戦いに挑む──

作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)

  • ラブコメ、純愛
  • 戦闘シーン
  • シリアス、曇らせ
  • ギャグ、コメディ
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