続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
「ガキッ!! まーた喧嘩してきたのォ!?」
「……だって」
「だってもクソもじゃねーのよッ!! ったく……」
──ワタシは、ハズシは──その昔、喧嘩に明け暮れていた。
でも、身体が大きいばかりで喧嘩の仕方がサッパリだったワタシは──よくボコボコにされていた。
そんな恰好で倒れていたからか、ベニシティのキャプテンであり、オカマバーの店長だった「ママ」に目を付けられるのは時間の問題だった。
尖っていて友達も居らず、親と仲が悪かったワタシを気にかけてくれたのは「ママ」だけだった。
「何処に行っても敵を作ってばっかり……」
「チッ、悪いかよ……どいつもこいつも、俺の事なんて心配してねーんだ」
「此処にいるんだっつーの」
「ママ」は口は悪いし、タバコばっかり吸ってたけど──いつもワタシの事を心配していた。
その言葉にウソ偽りはない。曲がった事は人一倍嫌いな人だったから。
「……悔しかったんだ」
「え?」
「……あいつら、ママの事何にも分かってねー。オカマっつーだけでバカにしやがる。ベニのキャプテンは、こんなに優しくていい人なのに」
「バッカね。分かんねー奴らには言わせときゃいーのよ」
「ママ」は人の目を気にするような人じゃなかった。
いつも堂々としていて、誇り高い人だった。
「……有象無象がどうこう言ったところで、ベニシティキャプテン・ホオズキのブランドにキズが付くと思ってるワケ?」
「ッ……ホオズキさん」
「ママと呼べって言ってんでしょーが。ほら、明日はちゃんと学校行くんでしょうね?」
「……うん」
「レーサーになるんでしょうが! こんなつまらない所で怪我してたら、なれるもんにもなれるわけねーのよ」
口は悪いけど──「ママ」はワタシの心の支えだった。
「何でママは俺によくしてくれるんだよ」
「……さぁね? あんた、尖ってた頃のアタシにそっくりだし」
「ママは今も尖ってんだろ」
「うっさいわね。これでも大人しくなったのよ」
……分からない。
ワタシみたいなはみ出し者に、ママが良くしてくれる理由は最後まで分からなかった。
だけど、彼と接しているうちに分かったのだ。ママは──かがり火。
誰も拒まず、誰もが温まれるかがり火。
ワタシだけではなく色んな人に慕われるのは、ママの人柄なのだ、と思わされていく。
きっとブースターも──そんなママに惹かれたのかもしれない。
「男は度胸、女は愛嬌──」
煙草を吸いながらママはよく不敵に笑っていた。
「──オカマは最強、なのよ」
※※※
ワタシが大きなグランプリレースに優勝してベニに帰ってきたときにはじめて知ったのだ。
ママが亡くなったのを知ったのは──
「何で……何にも言ってくれなかったんだ……?」
「ハズシちゃん……ママから手紙を預かっているわ」
「ッ……」
震える手でワタシは手紙を読んでいた。
『ハズシちゃんへ
これを読んでいるという事は、アタシはもう生きていないのでしょうね。
きっと貴方は、アタシが何も言わなかったのを悲しんだり怒ったりするんでしょうけど……邪魔をしたくなかったの。
だって、ずっと夢だったんでしょう? レーサーの夢……ずっと、テレビで見ていたわ。
アタシは居なくなっちゃうけど……アタシは、貴方を本当の息子のように大事に思っていたのよ。
あんまりしみったれてたら、化けて出てやるからね。
身体に気を付けなさいよ。
ホオズキ』
「ッ……」
最後までこの人はずっと、ワタシの事を思っていてくれた。
自分が病気で苦しい時くらい、会いに来いって言ってくれてもいいのに──ワタシの走りを鈍らせないために、敢えて何も言わなかった。
「俺は自分の事ばっかりで、ママに何にも返せなかった……ッ」
「ううん。ママはね──ハズシちゃんの走りに元気をもらってたの」
「だけど──」
「ママの最後の想い、汲み取ってあげて」
もうワタシはママに何もしてあげることも出来ない。
だからワタシが出来るのは──ママにして貰った事を、多くの人に返してあげる事だった。
※※※
「ワタシは……ワタシはァッ!」
ホオズキのバシャーモとハズシのリザードンがぶつかり合う。
「その喋り方……化粧。アタシの真似かしら? ハズシちゃん──ッ!!」
「……ッ」
「半端な気持ちでオネエやってんじゃねえわよッ!!」
援護しようとするメグルとアルカだったが、二人を阻むようにして豪火を滾らせる何かが突っ込んで来るのだった。
「ギュリィイイイイイイイイイイインッ!!」
全身を黒い靄に包み込んだブースターがメグルとアルカの前に立ち塞がる。
恐らくホオズキが連れてきたのだろう。
しかし目が真っ赤に染まっており、既に正気を失ってしまっているようだった。
「ブ、ブースター……!!」
「お願い醒ましてッ!! ボク達、君とは戦いたくないよッ!!」
「ギュリィイイイイイイイイイインッ!!」
全身から黒い液体を滴らせながらブースターはメグルとアルカににじり寄る。
声は聞こえない。
しかし、ハズシとホオズキの一騎打ちを邪魔はさせないとばかりにヌシポケモンはメグル達に向かって溶岩を噴き出すのだった。
やむを得ない。戦うしかない──
「サメハダーッ!!」
「ラプラスッ!!」
咆哮する二匹の水ポケモン。
相手は炎で鋼タイプのブースター。
倒すなら、先ずはタイプでマウントを取っていかなければ話にならない。
水タイプのサメハダーとラプラスならば、相手がブースターでも優位に立つことができる──はずだった。
「ギュリィイイイイイイインッ!!」
【ブースターの にほんばれ!!】
戦場が一気に熱く照り尽くされる。
激しい日照り──ブースターの力により、空が明るく照らされたのだ。
サメハダーとラプラスの体表は急速に乾いてしまい、その力は徐々に失われていく。
「ま、マズい、水技の威力が半減──ッ!!」
「でも押すしかない──ラプラスッ!! アクアブレイクッ!!」
「サメハダーッ!! お前も援護だッ!! アクアブレイクッ!!」
サメハダーとラプラスは両者絡み合うようにして水流を纏い、ブースターに飛び掛かる。
しかし、溶けた鉄を壁のように展開させたブースターはあっさりとそれを受け止めてしまうのだった。
そうしてしのいだブースターの次の手は──オオワザによって周囲の敵全てを吹き飛ばす事。
体内の熱を一気に収束、そして爆発させることで蒸散させる──メルトリアクターだ。
「ギュリィイイイイイイイイイイインッ!!」
高熱を感じ取り、ハズシはちらりとブースターの方を見やった。
そしてゾッとする。
ブースターの”メルトリアクター”は制御しなければ辺り一帯全てを焦土に変える非常に危険なオオワザだからである。
だが、ホオズキのバシャーモは加勢になど向かわせるつもりはないようだった。
一瞬でリザードンに距離を詰めると、そのまま地面に叩き落とす──
「ざぁーんねん。此処であんた達は終わり。ハズシッ!! あんたの弱さが、あの子達を殺すッ!!」
──反論のしようが無かった。
ハズシは──キャプテンの中では決してバトルが強い方ではない。
結局、後からキャプテンに就任したヒメノやノオトに実力も追い抜かれてしまった。
今となっては、ユイでさえもハズシに伯仲する実力の持ち主だ。
バトルに掛けられる時間が、鍛錬に使える時間がハズシは他のキャプテンに比べても少なかった。
だがそれが仇となり、メグルとアルカを危険にさらしてしまうことをハズシは悔やむ──
「バカ言ってんじゃねえよッ!! ハズシさんが教えてくれた事がッ!! ハズシさんが与えてくれたモノがッ!!」
──メグルの叫びが聞こえてきた。
「今も──俺に生きてるッ!!」
「ジョォオオオオオオオオズ!!」
サメハダーの身体が、そしてラプラスの身体が光り輝く。
「そうだよ。ハズシさんの優しさに、ボクは助けて貰った……!! 今度はボク達がお返しする番だッ!!」
「ハズシさんッ!! あんたは──立派なキャプテンだッ!!」
メグルはキーストーンに触れる。
そしてアルカは腕輪のオージュエルにカードを翳す。
「ギュリィイイイイイイイイイイイイインッ!!」
だが、ブースターはそれを待ちはしない。
熱波を一気に解き放ち、辺り一面全てを消し飛ばす──はずだった。
「──ラプラスッ!! オオワザ──”コラプスインザシェル”ッ!!」
【ブースターの メルトリアクター!!】
【ラプラスの コラプスインザシェル!!】
熱を解き放とうとしたブースターを巨大な水の玉が押し潰した。
メルトリアクター最大の弱点。それは、発動直前に体温が急激に下げられてしまうと、技が不発に終わってしまう点だ。
高熱のブースターの身体を包み込むは──水の牢獄。
それでも”メルトリアクター”の勢いで水泡は全て消し飛ばされてしまうが──相殺だ。
ラプラスの全身にはオーラの鎧が纏われており、真っ黒に染まっているのだった。
「ギガオーライズ……!! アルカちゃん、完成させていたのね!!」
ヌシのオオワザに対抗できるのは、適切な解除条件を踏む事。
この状況でブースターを冷却できるのはラプラスのオオワザだけだ。
そして、オオワザが解除されたブースターに、サメハダーが襲い掛かる。
「──”アクアブレイク”ッ!!」
その頭部からは鋭利な牙のようなものが生えており、全身が凶器と化したサメハダーはブースターに真っ向から突っ込んでいくのだった。
すかさず鉄の壁を出現させて阻むブースターだったが、ノコギリの如き牙によって壁は真っ二つに斬り裂かれてしまう。
今のサメハダーはメガシンカを果たしていたのである。
メガシンカポケモンはヌシポケモンにすら匹敵する力を解放する。
だが、それだけの力を使いこなせるのは、この4年間でメグルがサメハダーを特訓させた成果と言えた。
巨大な大顎でブースターを掬い上げると──強靭な牙でサメハダーは噛み砕き──ラプラスの方へ放り投げる。
「──”ハイドロポンプ”ッ!!」
そうしてすっ飛んできたブースターに、ラプラスはトドメを刺すのだった。
圧縮された水砲による迎撃。
ブースターは力無く吹き飛ばされ、そして地面に落ちるのだった。
それでも尚起き上がろうとするが──黒い靄が体から噴き出したかと思えば、そのまま力無く倒れ伏せてしまうのだった。
「ッ……バカな、ブースターちゃんがやられたっての──ッ!?」
「ママ。1対1よ。これで終わりにしましょう」
「!!」
ハズシの言葉に、ホオズキは歯噛みする。
「あなたがアタシに勝つって言うの? 実力差、分かってないんじゃあないの? 半端者のあんたにッ!! オカマ一筋のこのアタシがッ!! 倒せるって言うの!!」
「……確かにママ。ワタシは半端者かもしれないわ。でもね──キャプテンとしてワタシが為すべき事は分かってる」
ゴーグルをつけ──ハズシはニセモノに指を突きつけた。
「──ワタシの背を追い、若者たちが飛び立ち巣立つッ!! それを見届けるのがワタシの責務ッ!! ママのような強いキャプテンじゃあないけど……一つでも多くのものを残していきたいッ!! 昔のママのようにッ!!」
ハズシはメガストーンに指を触れた。
リザードンの身体から黒い光が漏れ出し、爆ぜた。
「──キャプテン・ハズシとして貴方を倒すッ!! 今此処でッ!!」
──ホオズキは目を見開いた。
先日、スタジアムで戦った時とは違う。
全身が漆黒に染まった火竜が羽ばたいていた。
その爪は強靭に尖っており、鋼のように硬化している。
二つあるメガリザードン──その龍の力を解放させた姿。
その名は──メガリザードンX。
「ッ……しゃらくさい!! バシャーモちゃんッ!! ”ストーンエッジ”で撃ち落としてやりなさいッ!!」
対抗するようにバシャーモも黒い靄を全身に纏わせ、リザードンに岩の刃を射出していく。
だがそれを爪の一振りだけでリザードンは全て打ち砕いてみせるのだった。
メガリザードンXは近接戦闘を大幅強化した形態。遠距離攻撃と天候操作を得意とするYとは対照的に──とても頑強な身体を持つ。
「──”げきりん”ッ!!」
リザードンの目が真っ赤に染まり、バシャーモ目掛けて跳びかかった。
一方のバシャーモも爆炎を身に纏い、襲い掛かる。
「男は度胸──女は愛嬌ッ!! オカマは──」
「最強……そうよ。分かってるわ、ママ。しっかり受け継いでるから」
「ッ……!!」
ぶつかり合う二つの火の玉。
辺りは炎が吹き荒れ、両者は真っ向からぶつかり合う──
「──お前に、このアタシがッ!! 負ける訳が──」
「……ママ。今までありがとう」
「ッ!?」
「それだけ言いたかったの。言いたかったのに……さっさと死んじゃうから……!!」
バシャーモの身体が吹き飛び、地面に叩きつけられる。
黒い靄に包まれていたバシャーモは──跡形もなく消え失せていく。
本来そこにあるはずのない命は、あるべき形にへと戻っていくのだった。
ホオズキは膝を突く。
勝負は決したのである。
ハズシは──ホオズキに、恩師に駆け寄った。
「ママ、教えて頂戴。何故、ヌシポケモンを……!」
「ッ……アタシの、負けだわ」
ゆらりと立ち上がったホオズキの身体からは黒い靄が噴き出していた。
彼の身体も、もう長くは持たないようだった。
「ママ……」
「……ったく……迷惑掛けたくなかったのだけど、これもサダメね……」
「ママ。どうしてワタシたちがママと戦わなきゃいけないの──!?」
「……サイゴクで死んだ命は全て、霊脈に囚われる」
「霊脈──ッ!?」
「これは霊脈の意思。アタシも、他のキャプテンも……霊脈に操られている」
故に。もう既に肉体が滅びた彼らに自由意志というモノは存在しなかった。
「漸く目が醒めたわ。ハズシちゃん……貴方はアタシの自慢の子……立派にやってて、安心した」
「ッ……ママ」
「よく聞いて、ハズシちゃん。おやしろは元々、霊脈の力を封じる結界の役割を果たす場所……ッ!! ヌシポケモンは結界の重し……要となる」
「そういえば、ルギアもそうやって封印したんだっけ──」
「そのはずだったわね」
ハズシの言葉に、ホオズキも同意するように頷いた。
「そして今……おやしろではヌシポケモンの力を吸い上げて霊脈に力を送り込んでいるのよ──ッ!!」
「ッ……ヌシポケモンの力を霊脈に──!?」
「そんな事をして、何をするつもりなんだよ!?」
「……霊脈から恐ろしいものが出ようとしている。全てのヌシポケモンを解放して、力の供給源を断ち──その上で、あいつを捕獲するしかない」
「……あいつって」
「サイゴクの霊脈の主……魂を捕えるもの──サイゴクで最も恐ろしいモノ」
ホオズキは──消えかける中、ハズシにはっきりとその名を伝えた。
「──
「オトロ、シアス……!!」
「でも、きっとあんた達なら勝てない相手じゃない。見た事ない面だったけど、ブースターちゃんを抑え込むなんてよくやったじゃない」
ホオズキの目は、メグルとアルカに向いていた。
新しい新時代の息吹は確かに吹き込まれているのだ、と彼は確信する。
「あんた達、名前は?」
「メグル──です」
「アルカ……!」
「そう。安心した。これでやっと逝けるわ」
「ママ……」
「……迷惑かけたわね。……でも、あんまりしみったれた顔してたらまた出て来てやるわよ」
「……二度とゴメンだよ、ママ」
最後にそう言って微笑んだハズシの顔は、昔からホオズキに見せてきた少しうんざりしたような顔だった。
それに苦笑しホオズキは消えていく。
「……サイゴクを……そしてすべての死者の魂を──オトロシアスから解放して」
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