続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
「オトロシアス……ッスか。これまた厄介なヤツが出てきたッスね」
──ノオトは一度引き下がり、安全な場所から他のキャプテン達と連絡を取っていた。
話題に出たのは当然、ホオズキが口に出していた「オトロシアス」なる存在。
サイゴクの霊脈の深奥に座す何者か、である。
それが今回の異変の原因だ、と断じるのは良いが──聊かその規模が大きすぎる事にキャプテン達は手を焼いていた。
おやしろの制圧は勿論の事、ヌシポケモンの反乱が非常に痛手だ。彼らもまた、霊脈の使いでしかないことを如実に示していた。
「サイゴクの全ての霊魂を喰らう存在……それはもはや、ポケモンなのかしら……?」
「どっちにしても、奴はおやしろに張った根からヌシポケモンの力を吸収してるってわけッスね」
「そして、親玉はサイゴク山脈に……か」
「──おやしろが重要な場所であることは敵にとっても同じよ。ワタシは、ブースターちゃんと一緒に、再びおやしろが結晶化しないか見張るわ」
現在、ヌシポケモンとダークキャプテンが消えた”ようがんのおやしろ”からは紫色の結晶が消え失せていた。
恐らく同様に、他のおやしろでもダークキャプテンを倒し、ヌシポケモンを奪還すれば結晶は消滅するだろう、とハズシは語る。
「それに、あの先代たちは自分たちが使っていたポケモンを使ってたわよね」
「気になってボックスを調べてみたけど、先代のポケモン達は確認している所では皆無事よ。つまりアレはニセモノ」
「ああ間違いない。拙者のバンギラスやプテラも、元々は父上が使っていたポケモンだが……確かに拙者のボールの中に入っている」
「つまり、遠慮なくブチのめして良いって事ッスね!」
「遠慮なくブチのめされてたでしょ……」
「うぐ……アレは仕方なかったんスよ!! メグルさんとの試合の後だったんだから!!」
今ならもう大丈夫だ、とノオトは自らのオージュエルとメガリングに目を向けた。
隣のルカリオの顔を見やる。
「と決まれば、やることは一つ!! おやしろを奪還するッスよ!!」
「待つのですよー、肝心のメグル様とアルカ様はどちらに行かれたのです?」
「いっ!? そういや、ハズシさん!! 二人は──」
「あの子達は──サイゴク山脈に向かったわよ」
「んなッ!?」
メグル曰く。
各おやしろの奪還はキャプテンに任せ、元凶たるオトロシアスの調査に自分が向かう、とのことだった。
「……お二人がサイゴク山脈に……!? 大丈夫なのですソレ!?」
「聊か心配でござるな……」
「何がよ。二人共、別に初めて行く所じゃないし、今は手分けしてそれぞれやるべき事をやるしかないでしょう」
「それに、メグル君はもうあたし達の誰よりも強いし──アルカさんだって、ずっとメグル君と一緒に戦ってきた歴戦の猛者なんだから!」
「あ、いや……」
「そうでござるな……」
ホログラム通話でキリとヒメノは心配そうに言葉を濁す。
ノオトも二人の態度に疑問符を浮かべたが──無理もなかった。
アルカが妊娠していることを知っているのは──この二人だけなのだ。
ノオトも勿論、そのことを知らない。
「ワタシはメグルちゃん達に手伝って貰ったから良いけど──先代とヌシポケモンを同時に相手取るの、相当しんどいわよ」
「……拙者に今の父上を倒せるかどうか」
「随分と弱気じゃない? キリちゃん」
「ッ……しかし。とてもではないが、歯が立たない……ッ」
「ウルイさんは、先代キャプテンの中でもとんでもなく強かったものね。それこそ、リュウグウの旦那に次ぐわ」
「……キリさん」
ノオトの言葉に──俯きがちだったキリは顔を上げた。
「オレっち、キリさんの事信じてるッスから」
「しかし、ノオト殿……」
「昔のオレっちと今のオレっちは違う……キリさんだって!! ……ウルイさんに見せてやるッスよ。今の自分がどれだけ強くなってるかを」
「そうね。やられっぱなしはシャクなんだからッ! 自分の不甲斐なさに腹が立つッ!」
「ええ。弟の不始末はヒメノがこの手で付けるのですよー」
「微妙にチクリとする言い方……!!」
「それに本来今日はデートの日だったのですッ!! この騒動で全部台無しなのですッ!! ヒメノはたとえお祖父様であっても許せないのですよッ!!」
「そんな理由で……」
「そんな理由とは何なのですッ!! キリ様もノオトとのデートを邪魔されたらどう思うのです!?」
「ッ……!!」
衝撃を受けたような顔を仮面の下で浮かべるキリ。そして──
「生かしてはおけないでござるな」
「キリさん!? 頼むからキリさんだけはそっち側に行ってほしくなかったッスよ!?」
どちらにせよ──ダークキャプテン達は倒さなければならない。
彼らの意気込みを聞き、キリも決意したように頷いた。
「そうでござるな……五社同盟責任者・総司令官殿が信じてくれるなら、やるしかないでござろう」
「あの? キリさん? 何でわざわざプレッシャーかける言い方したんスか?」
「一つだけ言えるのは──先代たちは、オトロシアスに魂を囚われ、自由を奪われている」
「……なら、猶更やるしかねえって事っしょ!!」
キャプテン達は目指す。
おやしろの奪還を。
そして──
「先代たちに見せつけてやるんスよ!! オレっち達がサイゴクを守るところを!!」
「ああ。その為にも一刻も早く、各自はそれぞれの町に──」
ザ、ザザザ。
キリのホログラム映像が乱れる。
「ッ……ど、どうしたんスか? キリさん?」
「……先程からプテラに乗ってクワゾメに向かっているのだが──この辺り、砂嵐が濃く──通信も悪くなっているでござるな」
「ちょっとそれ、大丈夫なの、キリちゃん?」
「問題ない。砂は拙者の領域──いや、待て。これはまさか──」
ブツリ。
「キリさん!? ちょっと、応答してくれッスよキリさん!!」
そこで通信は途切れた。
ノオトは必死に通信機越しにキリの名を叫ぶ。
だが、返事は帰って来ないのだった。
※※※
「……この砂嵐、更に電子機器を破壊する磁気嵐……!! こんな事が出来るのはお前だけだ」
使い物にならなくなった通信機を懐に仕舞い、キリは厄介そうに砂嵐の中央に座す主を睨み付ける。
味方としてはこれ以上なく頼もしい存在であることは彼女はよく知っている。故に──敵に回せば、これ以上ないほどに最悪の相手になる事も彼女は知っている。
宵の明星を司るサイゴク最大にして最強のヌシポケモンがキリの前に立ち塞がっていた。
「ヨイノマガン……ッ!! それに──」
砂城の主の頭に立つは──かつてクワゾメの忍者たちを統べていたキャプテンであり、キリの父親でもあるウルイである。
全身を砂煙色の忍び装束に身を包んでおり、その姿は朧げにしか見えないが、超人染みたキリの視力は砂嵐の奥にいる父を確かに捉えた。
「……父上ッ!!」
「お前のような未熟者は……おやしろには行かせないよ」
仮面をつけたウルイの表情はうかがい知れない。
だが、その声は彼女が知るどれよりも冷淡で感情というものを感じさせない。
しかし反比例するかのようにヨイノマガンは荒れ狂い咆哮する。
「ヨイノマガンの様子がおかしい!! 父上ッ!! 一体何をッ!!」
「ヌシ様は霊脈の祝福を受けたのだ──」
「祝福だと!? 違うッ!! こんなものは祝福ではない──」
巨大な魔眼は赤く不気味に輝き、砂嵐には紫色の靄が混じっており、咆哮は酷いノイズが掛かっている。
キリは分かる──ヨイノマガンは酷く苦しんでいる。
「ケェエエエエエエエリュウウウアアアアアアアアアアアアアアアーッッッ!!」
「……見ろ、キリ。ヨイノマガンの悦びに満ちた叫びをッ!!」
砂嵐が一気に幾つも巻き起こり、キリはサドルのハンドルを握って一気に急降下する。
幾らプテラと言えど、ヨイノマガンの大竜巻に飲み込まれれば一溜まりもない。
「そして見たまえよッ!! これが、ヨイノマガンのあるべき姿というものだッ!!」
「……それ以上、父上の口と声で喋るなッ!!」
「そして……プテラ。久しぶりだね。やっぱり
「コォオオオオオオオオオオ!!」
「ッ! 挑発を真に受けるなプテラ!!
とはいえ。
全レンジに攻撃出来るヨイノマガン相手に、騎乗した状態のプテラではあまりにも分が悪すぎる。
肝心のキリ本人がヨイノマガンの攻撃を受けてしまう可能性が高いからだ。
故に、急降下した後、地面スレスレを低空飛行したプテラは、竜巻を避けながらヨイノマガンの周囲を大きく急上昇していく──
「何をしても無駄だッ!! ヨイノマガンからは逃げられんッ!!」
「もっとだッ!! もっと高く上昇しろプテラッ!!」
大竜巻が幾つもプテラを狙って上空へ向かっていく。
だがそこでキリは腰に付けていたボールのスイッチを押し、あろうことか竜巻の渦中へ投げ込む──
「──行けッ!! バンギラァスッ!!」
キリが遥か上空から投げたボールからは──既に拳を大きく握り締めたバンギラスが飛び出す。
そして、ヨイノマガンの脳天目掛けて、大きく腕を振り下ろし──突っ込んでいく。
竜巻なんて何のその。重さと落下の勢いのままに突っ切るだけだ。
「──ッやっぱりそうしてきたか!! バンギラスならヨイノマガンの風を受けないからね!! だがッ!! それでもッ!! あまりに程遠いッ!!」
衝突の際に予想されるダメージも、バンギラスの頑丈さならば問題なく軽減可能だ。
しかし、それだけではヨイノマガンに勝てはしない。
魔眼は不気味に光り輝き、落ちてきたバンギラスを吹き飛ばすべく閃光を放つ──
「迎え撃つ──ヨイノマガン、バンギラスを堕とせッ!! ”はどうだん”ッ!!」
「──分かっている。拙者の戦術は父上から教わったもの。故に──父上が知らぬ領域で拙者は戦うッ!!」
故に──更に重さ、そして威力を跳ね上げさせるため、キリは更なる一手を打つ。
「オーライズ、”シンボラー”ッ!!」
オーカードを腕輪に翳すキリ。
バンギラスの身体が光に包まれ、巨大な羽根が、そして──腹には大きな魔眼が浮かび上がっていた。
宵の明星の加護を今、バンギラスは受けたのだ。
「明星の光よ!! 宵にこそ強く輝け!! ”ストーンエッジ”!!」
バンギラスの拳に岩の刃が次々に纏われていく。
そして、すっ飛んできた”はどうだん”を拳で跳ね返し、その勢いのまま回転──ヨイノマガンの脳天をブチ抜いたのだった。
※※※
──五社同盟によるおやしろ奪還作戦が開始した同時刻。
メグルとアルカは、二人してサイゴク山脈を登っていた。
勿論、徒歩ではない。こういった山道を素早く登る事が出来るのはアヤシシのおかげだ。
脚に鬼火を纏わせ爆発させ、その勢いでドンドン加速し、岩肌を登っていく。
その大きな背中に、メグルとアルカはしがみついているのだった。
「アルカ、しっかり掴まってろよ」
「大丈夫! 絶対離さないっ」
「……それにしても、オトロシアスか……サイゴクの霊脈そのものみてーなヤツが出て来ちまうとはな」
「おやしろは重要な封印をつかさどる場所。──オトロシアスを元々封じ込めてたんでしょうね」
「正直ボクから言わせればポケモンかどうかも怪しいよ。起こす異変の規模が今までのどのポケモンよりも大きすぎる。地方丸ごとに根付いているなんて」
「でもよー、俺達、赤い月にオーラギアスにマイミュにガルヴァチスにヤバいやつは幾らでも戦って来たしな」
「そうだけど……」
アルカは溜息を吐く。
一番心配なのは──メグルだ。
何故なら彼は一度、本当に死んでいる。
その後、色々な巡り会わせで生き返りはしたが──今こうしてアルカは伴侶が隣にいるのを心の底から奇跡だと思うのだった。
「あ、見えてきたぜ!! 山頂ッ!! アヤシシ、踏ん張れ!!」
「ブルトゥゥゥーム!!」
(ねえ神様──いるなら、どうか)
アルカは自らのお腹を撫でる。
新たに授かった命が宿るその場所に手を当て──願う。
(どうか……メグルを、もう二度と……連れていかないで──)
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