続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
「──貫いたッ──いや──」
崩れる砂の牙城。
しかし、その中から飛び出してくるのは──全身が岩で出来たシンボラーのようなポケモン。
砂で作られたヨイノマガンの、僅か2メートルにも満たない本体だ。
その背中にはウルイが飛び乗っており、あっさりと「まあ見え透いた手だったね」と言ってのけた。
「……ヨイノマガンの本体をバンギラスの落下でブチ抜く──それは褒めてあげるよ。オマケに僕の知らない術でポケモンのタイプを変え、”はどうだん”のダメージを抑えた」
「ッ……あの一瞬で鉄糸を展開してヨイノマガンの本体を回収した──!!」
「その通り」
しゅるる、と音を立ててウルイの身体に鉄の糸が絡みついていく。
ヨイノマガンの本体をウルイは無理矢理鉄糸で引きずり出し、バンギラスの攻撃をすんでのところで避けたのである。
「……鉄糸の技もバトルも全部、僕が君に教えた事だ、キリ」
「ッ……!!」
「でも、此処からじゃあバンギラスは助けに来れないだろうッ!! ”たそがれのざんこう”ッ!!」
空から一気に光が消え失せる。
そして──魔眼に光が収束、解き放たれた。
狙いはキリとプテラだ。
「プテラッ!! 飛行して躱せッ!!」
「無理だよ、無駄無駄。それが出来ないのはキリ、君が一番知っているはずだ。それに僕の方が……ヨイノマガンの能力を知り尽くしている」
光の極太レーザーが辺りを薙ぎ払いながらプテラを延々と追い続ける。
無論ハンドルを思いっきり握り締めて逃げ続けるキリだったが、光からは到底逃げ切れるはずもない。
ジュッ、と焼け焦げるような音を立ててプテラの翼にレーザーが掠めた。
「コォオオアアア!?」
「プテラッ!!」
錐もみしながらプテラが墜落していく。
すぐにキリも鉄糸を展開してプテラの翼に絡みつけると無理矢理姿勢を安定化させるが──それでも不時着させるので精一杯だ。
その間にも、ヨイノマガンとウルイは迫ってきている。
「──ッ──!!」
ズザザザザーッッッ!!
プテラが地面に墜落した。
目を回してしまっており、もう戦えない。
掠っただけにも拘わらず、ポケモンを瀕死にまで追い込む火力──これこそがサイゴク最強のヌシポケモンのオオワザだ。
「ケ レ ス」
「ッ……」
「絶体絶命だね、キリ。だけど……すぐに楽になるさ」
プテラをボールに戻したキリの前に、ウルイとヨイノマガンが現れた。
ウルイの言う通り、万事休す。最早逆転の手立てはない。ヨイノマガンが動けば、いつでもキリは始末される。そんな状態だ。
「悪いが──これからのキャプテンは僕だ。君のような未熟者にはサイゴクもヨイノマガンも預けられないよ」
「……楽な敵など、これまで一度も居なかった」
「?」
キリは──それでも立ち上がる。
「無礼るなッ!! 拙者は──拙者がッ!! ”すながくれ忍軍”頭領ッ!! キリだッ!!」
「ヨイノマガン──」
ウルイが指示を出し、ヨイノマガンの魔眼が輝く。その時だった。
──ヨイノマガンの真下から貫くようにして岩の刃が飛び出す。
「ッ!?」
ウルイは驚愕し、振り向いた。背後から──迫ってくる。恐ろしい勢いで駆けてくるバンギラスが。
「速──移動に合わせて”りゅうのまい”をッ!!」
「父上の知らぬ間に……拙者もまた、成長しているッ!! 此処までの出会いが、戦いがッ!! 拙者を強くしてくれたッ!!」
空に飛び立とうとするヨイノマガン。しかし、今度は頭上から大量の岩が降り注ぎ、無理矢理地面へと叩き落とされる。”いわなだれ”だ。
”りゅうのまい”によって大きく素早さが強化された今のバンギラスの攻撃からは、幾らヨイノマガンと言えど逃れられなかった。
ましてや本体が剥き出しになってしまった以上、弱点の攻撃を剥き身で受けるしかない。
「不味い、能力が信じられない程に上がっているッ!! これでは止められない──」
砂嵐が吹き荒れる中、既に戦況はバンギラスに傾いていた。
ヨイノマガンは”たそがれのざんこう”を辺りに向かって撃ち放つも、特防が跳ね上がっているバンギラスはそれを腕だけで受け止めて迫りくる。
”たそがれのざんこう”はエスパータイプの技──今のバンギラスには効果がいまひとつだ。
そして──バンギラスの攻撃は全てヨイノマガンに対して弱点を突くことができる。
「幾ら岩の身体をしようとも、空を飛ぶ鳥としての宿命からは逃れられないッ!! 拙者もまた、ヨイノマガンの事を知り尽くしているッ!!」
「ヨイノマガンッ!! オマエの耐久力ならば耐えられるはずだ、飛び立て──」
「ケ、ケリュ──ッ!!」
再び飛び立とうとするヨイノマガン。しかし、その身体には──鉄の糸が絡みついてしまっていた。
ウルイは驚愕する。鉄糸を放っているのは──他でもないキリだ。
「……これが、拙者たちの軌跡ッ!!」
「し、しまった──鉄糸が絡みついて飛び立てない──ッ!!」
「”ストーンエッジ”ッ!!」
【バンギラスの ストーンエッジ!!】
ヨイノマガンの身体を──岩の刃が突き貫いた。
そして。
それが致命傷となったのか、ヨイノマガンの身体からは黒い靄が消え去り、そのまま地面に落ち、沈黙する。
「ッ……そうか。伸びしろか。僕としたことが──考慮していなかった」
同時にウルイも、膝を突く。黒い靄が全身から噴き出し──力が抜けたように地面に手を突くのだった。
「……全く以て……無念だよ」
思わずキリは──父親に駆け寄った。
勝負は決した。バンギラスはいつでもウルイを始末出来る状態だ。
その上で彼女は仮面を外して、ウルイに問いかける。
「父上っ!!」
キリの目はすっかり泣き腫らしていた。
それでもかまわずキリは叫ぶ。聞かねば気が済まなかった。
ずっと良い師であり目指すべき目標だった彼に。そして、唯一の父であった彼に。
何故このような凶行を犯したかを──
「父上──どうして、こんな事を……!!」
「……ああ。全く、未熟者め。そんな顔をして──ずっと、戦っていたのかい?」
「ッ」
ウルイもまた──仮面を外す。
その顔は憑き物が取れたかのように、穏やかだった。
「……ヨイノマガンとプテラには……悪い事をしたね。バンギラス──君にもだ」
「ギィ……」
かつての相棒であるバンギラス、そしてプテラに──ウルイは申し訳なさそうな視線を送った。
這う這うではあるが、プテラもウルイに近付いていく。
「……やれやれ、忍者として合格でも、これではトレーナー失格だよ。いや、忍者としても失格だったのかな、僕は」
「父上、正気に……」
「いいや、半分は本音さ。ずぅっと心配だった……泣き虫のキリに、キャプテンが務まるか、さ」
「……そんな!? 酷いでござるよ!! 誰の所為でこんな事になったと──」
「そうさ。全部の僕の所為だ。でも、だから……キリ。誇りなさい。もう君は……立派なキャプテンだ」
まるで砂のように──ウルイの身体が崩れていく。
「時間がない」
「父上……聞きたいことがある」
「分かっているよ。……オトロシアス──僕らが呼ぶサイゴクの根本。あいつをどうにかしない限り、サイゴクで死んだ命は解放されない」
「父上。オトロシアスとはいったい何者でござるか」
「呪いさ。サイゴクという地を根本から蝕む──呪いだよアレは」
そう言い──ウルイは、キリの手を握った。
「父上……?」
「キリ。僕が遺したものを……君に任せる」
「!」
「早くに会いに来たら……今度こそ怒るぞ、僕は。僕の分まで長生きしなさい」
「ケレスッ」
ふわり、ふわふわ。
ヨイノマガンが──ウルイの元にやってくる。
「ああ、ヨイノマガン……」
「ケリュ……」
「キリを頼んだよ。プテラ、バンギラスも……僕が居なくても寂しがっちゃダメだよ。そして──」
最後にウルイは、愛娘に微笑んだ。
「……キリ。立派になったね。大きくなった姿を見られて……良かっ──た──」
ウルイは──砂のように、消え失せた。
後にはもう、彼が居た痕跡は一切残らなかった。
受け継いだものを胸に──キリは涙を拭く。
「父上……拙者は……キャプテンとしての責務を果たすでござるよ。父上の分まで」
※※※
数刻程した後。
クワゾメに戻ったキリは紫色の結晶は消えていることを確認した。
とはいえ、いつまた異常が起きるか分からないので、キリは町の警護に回る。
そして、折を見てノオトに連絡をするのだった。
「キリさん!? 大丈夫だったッスか!?」
「こちらは大丈夫だ。……父上と戦闘になり、ヨイノマガンとも交戦したが、無事に勝利した」
「ば、爆速で終わらせるじゃねえッスか。流石キリさん」
「ノオト殿。現在の状況は」
「キリさんなら大丈夫と信じて、オレっち達もおやしろの奪還に向かってたッスよ。姉貴とユイさんもそろそろ現地に着くはずッス。ただ、町ン中は例の紫色の結晶に覆われてて、救難活動を最優先してるっぽいッスけど」
「左様でござるか……うん? ノオト殿は?」
「それが……オレっちはすいしょうのおやしろに向かってたんスけど……」
ノオトは何処か歯切れが悪そうに言った。
「空振りだったんスよ……!! 何処を探してもシャワーズもリュウグウさんも居ねえんス……!!」
「──ッ!!」
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