続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
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同時刻、シャクドウシティ・なるかみのおやしろ。
自身の管轄地域にいち早く帰ったユイは、変わり果てた街、そして何よりおやしろ近辺の惨状に言葉を失っていた。
イデアの起こした大規模破壊から数年、復興しつつあった町は再び災禍に呑まれた。
おやしろ近辺は紫色の結晶に覆われている。
辺りには人の気配も、ポケモンの気配もしない。
樹のように生えている紫色の結晶に近付き──ユイは声を上げた。
「!? ……う、うげ……」
水晶の中身を、よく目を凝らす。
薄っすらではあるが、見なければよかった、と彼女は後悔した。
野生のヒメグマが目を開いたまま水晶の中に閉じ込められていた。
その目は白く濁っている。
「……じゃあ、これ全部……」
となれば、と彼女は辺りを見回す。この周辺にある結晶は──逃げ遅れた野生ポケモンの成れの果て。
紫色の結晶は命を蝕み、飲み込む。
徐々に結晶は広がりを見せており、町が完全に包み込まれるのも時間の問題だ。
「冗談じゃない……早く止めないと……!!」
──ふつふつと怒りが湧いてくる。
おやしろのある方へと駆けだしたその時。
「──ッ!?」
強い殺気を感じ取り、ユイは飛び退いた。
次の瞬間──彼女が居た場所は──大きく爆ぜる。
まるで雷でも落ちたかのようだった。
「……ああ、避けたか。だが、次はこうはいかねえぞ」
「ッ……情けも容赦もないんだから」
誰よりも聞きなれた見知った男の声。
しかし、それは自分の知らない程に冷え切った声。
「……父さん」
「おやしろに近付くならテメェでも容赦はしねえ。此処は神聖な場所、だからな、ユイ」
かつてのキャプテンにして亡き父・ショウブ。
それを前にしてユイの顔は強張る。
不慮の事故で死んだはずの彼を前にして、彼女は複雑な心境を吐露する。
「何で。何でこんなことをするの!? キャプテンの役目は人と自然の調和! だけど、父さんたちがやってることは──人も自然も傷つけてる!!」
「……これは剪定だ。間伐と同じだ。環境の変化に耐えられない命は間引かれ、強いものだけが生き残る。ただ、それだけの話だ」
「お話にならない……今まで普通に暮らしてた人達は!! ポケモンは!! いきなり巻き込まれて堪ったモノじゃないんだからッ!!」
「ビッシャァァァァアンッッッ!!」
落雷の如き咆哮。
ショウブに付き従うようにして飛び出して来たのは──眼を真っ赤に染めた黒色のヌシ。
体毛を逆立てたサンダースが強い敵意を剥き出しにしてユイを睨み付けていた。
「……サンダース。目を覚ましてッ!! そいつは──父さんじゃないッ!!」
「ビッシャアアアアアアアン!!」
しかしサンダースは取り付く島もない。
吼えれば、辺りに雷が落ち、ユイは思わず避ける。
戦ってこの場は収めるしかない──
「……どっちが真のキャプテンか決めようじゃねえか、ユイ」
ユイはボールを握り締める。相手は父。父の姿をした──サイゴクの脅威。
胸が握り潰されそうになりながら──それでも、と決意を固める。
「──パッチルドンッ!! 出番なんだからッ!!」
周囲の空気が凍り付いた。
ショウブは意外そうに目を見開く。
「……パッチラゴンに続き、パッチルドン。伝説に匹敵するというガラルの新種ポケモンか」
「……うん。今のあたしの全力で、貴方を倒す」
「いや、それでも足りんさ。ヌシポケモンの前ではッ!!」
サンダースが吼える。
頭部の体毛が二本の角の如く大きく逆立ち、レールガンのように電気が間に溜められる。
「──圧縮”10まんボルト”弾ッ!!」
「──パッチルドン、”ゆきげしき”!!」
一瞬で辺りはゆきげしきと化す。
そして、パッチルドンの身体は氷に覆われていき、滑るようにしてサンダースの放った電気弾を躱すのだった。
サンダースの放つ電気弾の威力はすさまじい。タイプによる軽減すら意味を成さない程に。
ならば──”ゆきかき”で上がった速度を生かしてそもそも当たらなければ良い。
(圧縮した”10まんボルト”の威力は通常よりも何倍も跳ね上がるッ!! だけど、その分チャージに時間が掛かって、サンダースの本来の素早さが生かせないッ!!)
(だろうと思ってんだろうな。だがこれは牽制ッ!!)
地面はスケートリンクのように凍り付いており、パッチルドンは腹で凍った地面を滑走。そのままサンダースに近付く。しかし──
「連続攻撃だッ!! サンダース、速射”かみなり”!!」
「ビッシャラララララッ!!」
吼えるサンダース。
今度は雷雲が即座に上空に形成され、次々にパッチルドンを狙い撃つ。
凄まじい速度で次々に落とされる”かみなり”。
「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる──そして」
それを紙一重で躱していくパッチルドンだったが、遂に頭上に被弾して転んでしまうのだった。
「本命はこっちだッ!! ”ミサイルばり”……連結”サイコショック”!!」
そうして横転したパッチルドン目掛け、サンダースは念動力で硬化させた自身の体毛をショットガンの如く射出していく。
辺りの地面は鉄針が突き刺さったかのように針の筵と化していき、パッチルドンの身体にも硬質化した体毛が刺さり──更にそれが念動力で爆発。
その勢いでパッチルドンは転んでしまうのだった。
「……無駄な事だ。オマエでは俺には、勝てない──と!!」
「……うるさい」
──が。
「──うるさいッ!! 父さんが死んだときに……絶対に、父さんの分までキャプテンの役目を果たすって決めたんだからッ!!」
その転んだ勢いを利用し、パッチルドンは滑走。尾びれで氷の地面を叩いて大きく跳ね上がる。
「あたしはもう、父さんの知ってるあたしじゃないッ!! パッチルドン、”でんげきくちばし”ッ!!」
そのまま空中で開店したパッチルドンは物凄い勢いでサンダース目掛けて突貫する。
当然、空中で迎撃するべく圧縮した”10まんボルト”をぶつけるサンダースだったが──
(勢いが弱まらない──効いてないのかッ!?)
”ゆきかき”によって速度を増し、勢いついた”でんげきくちばし”を押し返すには至らない。
真正面からパッチルドンの攻撃を受け、辺りは電圧で大きく爆ぜた。
「ッ……ユイ、オマエ……!!」
「……あたしはッ!! なるかみのおやしろキャプテン・ユイッ!! 人と自然の調和を目指す者として……貴方を倒すッ!!」
ユイの目から黒い稲妻が迸る。
パッチルドンの目からも──黒い稲光が迸っていた。
(昔からユイが怒ると、周りのポケモンもそれに感化されていた……ッ)
それが、ユイの持つ特異性。
彼女の怒りはポケモンに伝播し、その能力を大きく引き上げる。
そして、幾多もの困難を乗り越え、精神的に成長した彼女は──オージュエルが無くとも、ポケモンとの精神的なシンクロを可能としていた。
──ある地方ではこの現象を”きずなリンク”と呼ぶ。
ショウブも、文献でその現象について理解こそしていたが──
(だとしても、此処までの出力が出せるものなのか……!?)
サンダースを捻じ伏せたパッチルドンの全身は、氷の鎧で覆われていた。
頭部は甲冑のように覆われており、そして──両腕からは刃のように電気が迸っている。
「これは、怒りじゃない。あたしは……義務として、責務としてッ!! 貴方を倒し、サンダースを助けるッ!!」
サンダースの頭部の体毛が大きく伸びた。
それが大きく逆立ち、レールガンの射出装置の如く激しい稲光が溜め込まれていく。
黒雷が辺りには迸り、地面にはプラズマで生じた炎が巻き上がっていく。
冷気と熱気がぶつかり合い、せめぎ合う──
「ユイ……そうか。もう、怒って泣いてばかりだったあの時のお前じゃないんだな──だがッ!! それでも俺は……!!」
【サンダースの ホノイカヅチ!!】
黒い炎、そして黒い雷が最大出力で放出される。
それを前にして、ユイは──叫ぶ。
「パッチルドン、受け止めてッ!!」
放たれた黒雷を嘴で吸い上げ、全身に溜めこむパッチルドン。
無論、自身の身体にもとてつもない負荷が掛かり、体中の電気回路がショートしかねない行いだった。
その激しい痛みはユイにも共有されるが──目を血走らせ、ぷつりと音を立てて血涙を流しながらも──彼女は叫ぶ。
「いっけぇパッチルドン!! そのまま地面に、”でんげきくちばし”!!」
黒い稲妻を受け止めたまま、パッチルドンは嘴を大きく振りかぶり、地面に叩きつける。
まさに決死の反撃。受け止めた”ホノイカヅチ”の電流を逆手に取り──それをエネルギーに変換したのだ。
(バカな!! オオワザを吸収した!?)
地面は大きく割れ、罅が入り──衝撃で巻き起こった振動がサンダースを飲み込む。
(ッ……しまった、不味い──!! 電気タイプのサンダースに地震動は──ッ!!)
足を取られるサンダース。
そして追い打ちをかけるようにして、地面からは稲妻が次々に迸り、サンダースを飲み込んだ。
「父さんが死んでから、あたしは……辛いことも沢山あった。だけど……新しく出会った人も、ポケモンも沢山いるッ!!」
「ッ……まずい、立て直せサンダース……!!」
「父さんの跡を継がなきゃって最初は思ってた。だけど……違った!!」
ユイの脳裏に浮かんだのは──メグルの顔だった。
「あいつに出会って、気付いたの!! あたしは、あたしのやり方でッ!! あたしの道を切り開くッ!!」
ぐっ、と拳を握り締める。
肌が大きく罅割れ、雷で打たれたような痣が広がっていく中、それでもユイは地面を踏み鳴らし──パッチルドンとの同調を高めていく。
「オオワザ、”タケミカヅチ”!!」
パッチルドンの冷気は自らをも凍らせる。
一瞬で凍り付く戦場。
サンダースの足もまた、氷に囚われる。
パッチルドンは滑走し、回転して勢いをつけ──自らが弾頭となりサンダースへと突っ込んだ。
「”ホノイカヅチ”──ッ!!」
間に合わない。
間に合うはずもない。
その突貫はまさに紫電の如く。
【パッチルドンの タケミカヅチ!!】
既に、パッチルドンはサンダースを突き飛ばし──おやしろの大樹に叩きつけていた。
「ッ……ビィッ!?」
サンダースの目から赤い稲光が消え失せる。
同時に──パッチルドンの身体からも氷の鎧が消え失せた。
勝敗は決した。
しかし、既にパッチルドンも憔悴しきっており、そのまま疲れ切ったように横転してしまうのだった。
「……お前が考えて……作ったのか? この技は……」
「そうだよ」
「……へっ、随分と強くなったじゃねえか」
ぽつり、とショウブが零す。
ユイは──首を横に振った。
「違うよ。あたしは強くなんかない」
「……」
「父さんが死んだのだって仕方ないことだったんだって自分に言い聞かせて、言い聞かせて──だから、あたしは……キャプテンを継ごうと思った」
「そうか……俺の、所為か」
「キャプテンになるのってトクベツで、すごいことだってあたしは思ってた。小さい頃のあたしには、父さんは憧れで凄い人で、絶対越えられない壁だって思ってた」
彼女は目を伏せる。思い出されるのは在りし日の過去。
メグルと出会うまで、ずっとキャプテンになれず、燻っていたあの頃だ。
「だから……あたしはずっとサンダースに認められなかったんだと思う。あたしは誰かの為にキャプテンになるんじゃなくて、自分の傷を隠す為にキャプテンになろうとしてた」
そして──ショウブに向かい合った。
「でも、今は違う。キャプテンは人と自然を守る在り方の1つ。あたしは
「……ッ」
「父さん。あたしは──大丈夫。父さんの分まで……ううん。おばあちゃんになっても、キャプテンとしてサイゴクを守れるように頑張るよ」
気の遠くなるような話だけどね、とユイは微笑んだ。
ショウブも微笑みを浮かべたかと思えば──頷く。
「おこりんぼユイちゃんが……立派に成長したじゃねえかよ。ワガママな俺達のお姫様が……ウソみてーに……大人になって」
「ちょ、ちょっと父さん!!」
「……あんがとよ。おかげで目ェ覚めたわ」
「……父さん、正気に……」
「だとすれば……死人の俺は……もう必要ねえな。大人しく、眠っていられそうだ」
──ショウブの身体が消えていく。
それを──起き上がったサンダースも、パッチルドンも見上げていく。
「サンダース……すまねぇ。悪い事をしたな」
「ビッシャ……」
「ユイを……よろしく頼むぜ」
辺りからは紫色の結晶が消え失せ──日差しが差していた。
※※※
──同時刻、イッコンタウン。
「……」
ヒメノは言葉を失っていた。
町を蹂躙し、我が物顔で跳梁跋扈するのは──他でもないゴーストポケモン達。
それも、野生のポケモンだけではなく、トレーナーのポケモンまでもが同士討ちを始め、主人に牙を剥いている。
(”あやしいひかり”……混乱しているのです!?)
周囲を彷徨う光の玉を見て、ヒメノはからくりを看破し、ボールを構える。しかし──
「──エリィイイイイイイイイイスッ!!」
甲高い鳴き声が響き渡り、ヒメノの前にそれは降り立った。
両の目から異質な赤い稲光を迸らせたヌシポケモン。
本来おやしろの守護者のはずの彼は──守るべきおやしろに、そして町に牙を剥ける。
「何処に行こうと言うのかね? ヒメノよ」
そして、その傍に立つのは──腰の曲がった和装の老人。
「……おじいさま……ッ!!」
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