続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第9話:拷速火車

「……おじいさま」

「ッ……おお、おお、今度はヒメノか。ワシの可愛い可愛い後継者──」

 

 にぃ、と笑みを浮かべた先代キャプテン・アサザ──しかし。

 

 

 

「何とまあ情けない事かッ!!」

 

 

 

 次の瞬間、その表情は般若のそれへと変じていた。

 怒声を浴びせながら、拳を握り締め、アサザは──叫ぶ。

 

「二人でキャプテンだと!? 一人では力不足だから、こんな事になるのだろうッ!! 半人前風情が……貴様にキャプテンの資格は無いッ!!」

「……参ったのですよ。耳が痛すぎて、聞くに堪えないのです」

 

 輝かしい前科と実績がヒメノの中に過っていく。

 

「だけど、だからと言って!! おやしろを、町の人を困らせて良い理由にはならないのですッ!!」

「……もう止まらんよ。溢れ出した霊脈のエネルギーはな」

 

 町を侵食するのは──紫色の結晶。

 サイゴク地方の霊脈から溢れ出したエネルギーの塊。

 

「この力を以てして我らはサイゴク地方の浄化を行うッ!!」

「浄化!?」

「この地方はあまりにも外圧に晒され過ぎた。オトロシアスは御怒りだッ!! ヒャッキ地方? 水の竜? あのような物を招き入れたのは、ひとえにお前達キャプテンが情けないからに他ならない、違うか!!」

 

 昔のヒメノならば──同じ事を考えただろう。

 しかし、今の彼女はとてもではないがアサザの発言に首を縦に振る事は出来なかった。

 今ならば──大人になった今の彼女ならばわかる。

 いつだってキャプテンも、それを取り巻く他の皆も全力だったのだ、と。

 

(むしろ子供だったのはヒメノの方なのですよ……!)

 

「エリィィィィス……!!」

「……アケノヤイバ……正気に戻るのですよ……!」

 

 激しく威嚇をするアケノヤイバに、ヒメノの声は届かない。

 やむを得ず、ヒメノは──モンスターボールに手を掛けた。

 

「──ジュペッタ。アケノヤイバを……ヌシ様を取り返すのですよ」

「ほう、歯向かうと言うのかね? このワシにッ!!」

 

 飛び出したジュペッタは、アケノヤイバと睨み合う。

 即座にヒメノはキーストーンに手を翳した。最初から──全力だ。

 

「メガシンカなのですッ!! ジュペッタッ!!」

「ケタケタケタケタッ!!」

 

【ヒメノの メガリングとジュペッタナイトが反応した!】

 

 夜の闇を吹き飛ばす程の激しい光が巻き起こる。

 

「ほう、メガシンカも会得したか……ッ!!」

「これで互角なのですよ……!」

「果たしてそうかな? 確かめてみるとしようかッ!!」

 

 そしてメガシンカしたジュペッタは──即座に地面に手を突き立てるのだった。

 凄まじい数の影の手がアケノヤイバを襲う──しかし。

 

「エリィイイイイイイスッ」

 

 ──同時にアケノヤイバも同数の影の手を出現させ、ジュペッタと組み合うのだった。

 せめぎ合う両者。影を操る力の性質はどちらも同じ。しかし──長生きしている分、その技量はアケノヤイバに分がある。

 こうして影の手を大量に出している間、ジュペッタはその場を動くことができないのである。

 しかし──

 

「”でんじは”ッ!!」

 

 特性”いたずらごころ”で高速化した”でんじは”。

 影の手を伝い、アケノヤイバの本体にも電気が到達しようとしたその時。

 

「──”ゴーストダイブ”ッ!!」

 

 ──アケノヤイバは地面に潜る。電磁波はアケノヤイバを痺れさせる前に空気中へ放散してしまうのだった。

 

(そんなッ!! ジュペッタは手を出すだけでリソースが精一杯なのに……!!)

 

(力量も、腕前も、全てが前提条件から違うのだよッ!! ヌシポケモンを侮るなッ!!)

 

 

 

 

【アケノヤイバのデュプリケート!!】

 

 

 

 次の瞬間、ジュペッタを取り囲むようにして四匹のアケノヤイバが同時に飛び出した。

 それらは全て口に影のエネルギーを溜め込んでいる──しかし。

 

「ジュペッタ!! ”ゴーストダイブ”なのですよッ!!」

 

 ──身の危険を感じたジュペッタは、展開していた影の手を全て解除し、地面へと潜る。

 四匹のアケノヤイバは全員ぶつかった──かと思えば、そのまま絵具のように混ざり合い、再び元の一匹のアケノヤイバへと戻るのだった。

 

「ほう──アケノヤイバ!! 此方も”ゴーストダイブ”!!」

 

 両者ともに暗い影に潜り込む。

 終わりなきチェイスが始まった──影の中に潜ったゴーストポケモンを追いかけられるのは同じゴーストポケモンだけ。

 

「ッ……勝負は一瞬……!!」

 

 同時に二匹は空中へと飛び出した。

 尾を日本刀のように硬化させ、薙ぎ払うアケノヤイバ。

 それに対し、身体を大きく反らせて間一髪で避けるジュペッタ──

 

「何ィッ!? 太刀筋を見切った──」

「──シャドークロー!!」

 

 ジュペッタの体中のジッパーが裂け、凶悪な鉤爪と化す。

 そして、それがアケノヤイバの身体を次々に貫いた──

 

「いかんッ!! 潜って立て直せ、アケノヤイバ!!」

「逃がさないのですッ!! ”フラッシュ”!!」

 

 再び地面に潜り姿を消そうとするアケノヤイバ。しかし、それを逃がすジュペッタではない。

 アケノヤイバ最大の弱点、それは影に潜る瞬間にあるのだ。

 ジュペッタの身体が強く強く光り輝く。

 潜ろうとした影が消えたことで──堪らずアケノヤイバは外へ飛び出し、転がり出すのだった。

 

「なッ!? アケノヤイバ!! しっかりせんかッ!!」

「ヒメノはもう……昔のヒメノじゃないのです。おじいさまとも違うのですッ!!」

 

 ジュペッタの口が大きく開き、影の手が次々に飛び出し、アケノヤイバを貫いた。

 更に影の手には微弱な電磁波が纏わりついており──アケノヤイバは感電してのたうち回る。 

 体が痺れ、ガクガクと震えながらも辛うじて立とうとするヌシポケモン。

 しかし最早形勢がどちらに傾いているかは誰の目にも明らかだった。

 

「……これほどまでとは。どれだけの鍛錬を積んだ? ヒメノ──」

「ヒメノの力だけじゃないのです。一緒に戦ってきた仲間、そして……おやしろの皆のおかげなのですッ!!」

「……甘い。甘すぎて反吐が出るぞヒメノ……ッ!!」

 

 しわがれた顔を歪めながら──アサザは杖を大きく突いた。

 

「キャプテンとはその地を平定し、統べる者ッ!! 人も自然もッ!! その力で捻じ伏せねばならんッ!!」

「そんな考えでは皆離れていくのですッ!! ヒメノは……しっかりと痛い目を見て思い知ったのですよッ!!」

「……下らん。他者をアテにするようでは……そんな考えだからアケノヤイバはお前達双子を同時にキャプテンに選んだのであろう」

「勝負はもうついたのですッ!! アケノヤイバを解放するのですよッ!!」

「勝負?」

 

 クカカカ、と笑うアサザ。

 

「何がおかしいのです!?」

「そうか。そうかそうかそうか!! 未熟者めが!! アケノヤイバは、お前達にまだアレを見せた事が無かったのだなッ!!」

「……アレ……?」

「アケノヤイバ!! 見せてやれ、オマエの真の力をッ!!」

 

 アサザの声にこたえるようにしてアケノヤイバが起き上がる。

 

「エリィィィ……グルルルルルル」

 

 ジュペッタが再び影の手を伸ばして追い打ちをかけようとするが──

 

 

 

「グルルルルギャシャアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!」

 

【ヌシ咆哮:ポケモンは怯んで動けない!!】

 

【ヌシ咆哮:アケノヤイバは悪い効果を全て打ち消した!!】

 

 

 

 ──轟くような咆哮。

 同時に辺りには青白い炎が燃え盛る。

 そして、アケノヤイバは──

 

 ガンッ!!

 

 ガンガンガンガンッ!!

 

 怒り狂ったかのように頭を地面に打ち付ける。

 何度も何度も地面へ狂ったように頭を打ち付ける。

 その様を前にして──ヒメノは後ずさる。

 いつもは冷静なアケノヤイバの姿は何処にも無い。

 普通の生き物ならば頭蓋が割れてしまいそうな勢いで地面に頭を突きつけている。

 そして。

 どろどろと、アケノヤイバの頭部から黒い墨のようなものが溢れ出し、身体を覆う──

 

 

 

【アケノヤイバから不気味なオーラが溢れ出すッ!!】

 

 

 

 それは泥。

 実体無きアケノヤイバの血肉となり、仮初の肉体を与える。

 それは刃の付いた木製の車輪。

 青い炎を纏ったそれは、アケノヤイバの周囲に浮かび上がり、凄まじい勢いで廻りだす。

 重厚な体つきとなったアケノヤイバは口からも炎を噴き出し、上向いていた刃の如き角は捻じれ曲がって地面を指す。

 その異様は──まさに火車。

 重罪人の屍を引きずり裂くサイゴク地方に伝わる正体不明の化生のそれであった。

 

「フォ、フォルムチェンジ……ッ!? あの車輪は……ッ!?」

 

 血肉の通う姿となったアケノヤイバは、咆哮する。

 久方ぶりに「生命」として生まれ落ちたヌシは──この地が誰のものかを示す。

 その肌には──本来のアケノヤイバには有り得ない血のようなラインが迸っている。

 

「……肉体を得た……!? アケノヤイバが……!!」

「ヒメノよ。これが──アケノヤイバの真の姿、”拷速火車”ッ!! 大罪を犯した悪人の死肉を喰らう、かつてのアケノヤイバの姿よッ!!」

「か、かつての……!?」

「そうだッ!!」

 

 そんな話は聞いた事がない、とヒメノはたじろぐ。

 しかし──同時に”オバケの声”が聴こえるヒメノは納得してしまった。

 アケノヤイバが好む戦術は、影の中に隠れてからの騙し討ちだ。普段の彼は正面戦闘を決してしない。

 だが、それ故に──この姿を自ら晒すこともなかったのだ、と納得する。

 

 

 

「ギャリリリリリリリリリリイィィィスッッッ!!」

 

【アケノヤイバ(ごうそくかしゃ) ごくもんポケモン タイプ:悪/格闘】

 

 

 

 再び動き出したアケノヤイバに影の爪で襲い掛かるジュペッタ。

 だが、それを受けても尚──アケノヤイバはもう動じない。

 生身の身体を手に入れたことで本来ならば有効打足り得る霊攻撃が通用しなくなったのだ。

 

「ジュ、ジュペッタ!! 下がるのですッ!!」

「お終いだ──アケノヤイバッ!! 第二のオオワザッ!!」

「ギャリリリリリイイイイイイイイイスッ!!」

 

 両の眼から赤い稲光を放つアケノヤイバ。

 同時に宙に浮かぶ車輪がジュペッタ目掛けて飛んで行く。

 影の中に潜ろうとしたジュペッタだったが、地面を覆う青白い炎がその身体を焼き、潜行することが出来ない。

 

「──”拷速刑(ごうそくけい)獄門封鎖(ごくもんふうさ)”ッ!!」

 

 

 

【アケノヤイバの ごうそくけい・ごくもんふうさ!!】

 

 

 

 燃え盛る二つの車輪がジュペッタ目掛けて飛び、挟み込んだ。

 そして、それは凄まじい勢いで回転を始めるのだった──ッ!!

 

「ジュ、ジュペッタ!! 逃げるのですよッ──!!」

「無駄だ、逃れられやせんよ!!」

 

 それは罪人を拘束し焼き尽くす罪業の車輪。

 そして──その首を跳ねんとばかりに、アケノヤイバの尾が巨大な剣と化す。

 

「終わりだ」

 

 アケノヤイバは尾を思いっきり地面に突き立てる。

 そして──青白い炎が地面を大きく爆破するのだった。

 視界が白くなったかと思えば爆風が、爆圧がヒメノを襲う──

 

「きゃあっ!?」

 

 ──彼女の軽い身体は吹き飛ばされ、転がってしまうのだった。

 

 

 

「……ギャリリリリリリイィイイイス!!」

 

 

 

 煙が晴れる。

 そこには、ボロボロになってメガシンカも解除されたジュペッタ。

 そして、その首根っこを噛み、ゴミのように投げ捨てるアケノヤイバの姿があった──




【DETA】
アケノヤイバ(ごうそくかしゃ) みょうじょうポケモン タイプ:悪/格闘 
種族値:H85 A160 B110 C70 D85 S70
アケノヤイバのリミッター解除状態。サイゴクのメガアブソルを思わせる姿に加え、翼ではなく二つの燃え盛る車輪を浮かべる。普段は霊体化させている身体を完全に実体化させており、多彩な手数を捨てる代わりにパワー特化の形態となる。
しかし、霊体化している時と違い、”生命としての制約”を受けてしまうのでアケノヤイバは進んでこの姿になりたがらない。
「”大罪を犯した悪人の葬儀には火車が現れる”」

作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)

  • ラブコメ、純愛
  • 戦闘シーン
  • シリアス、曇らせ
  • ギャグ、コメディ
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