お題イラスト   作:夢枕悪

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初回のお題イラストの提供は、ゆり呼(@mizunoARTyuriko)様です。
楽しかったー!





とある母の想い

暗い。

一片の光もない程、暗い。

女は、扉から手を離す。

冷たい。

女は、そう思う。

その冷たい感触に、外との隔絶を思い知らされる。

たった一枚の扉を挟んだだけであるのに、億より、兆より、那由他よりも遠い。

己で選んだ道である。

零れそうになるものを、ぐっと堪え、振り返る。

文字通り、一寸先は闇であるはずが、女は、まるで見えているかのように進む。

 

ぶちゅり

 

かきん

 

ぶちゅくちゅ

 

かきんこきん

 

歩を進めると、そこかしこで、不気味な咀嚼音が聞こえる。

 

(まだ喰らっているのか…)

 

音のする方へ、目を向ける。

呆れているものの、その目には、慈愛を含んでいるように見える。

山葡萄に筍なんぞ、こちらには無い物ばかりである。

自分が産んだ者達ではないが、自分の為に色々と働いてくれている者達だ。

情も移るというものである。

飢えを感じれば、肉を持って来てくれる。

渇きを覚えれば、水を汲んで来てくれる。

そのせいで、此処に縛られてしまったが、それでも、彼女らには感謝している。

腐敗が進み、蛆に侵され、頭にも、胸にも、四肢にも、女陰にも、雷を宿してしまった醜い己に、臆することなく接してくれたのだ。

ああ、解っていたのだ。

彼が、この身を見ることも。

ああ、知っていたのだ。

彼が、逃げ出すことも。

怒りよりも、悲しかった。

どこかで、彼を信じたかったのだろうか。

どこかで、彼を信じる自分を信じたかったのだろうか。

とりとめの無いことを考えつつ、歩く。

彼は、薄情なのだろうか。

違う。

彼ほど、愛情の深い者を、自分は知らない。

ただ彼は、ほんの少し抜けているだけなのだ。

彼の性格は、よく分かっている。

気持ちが逸って、覗いてしまったのだろう。

自分も、良くなかった。

見慣れていたので忘れていたが、彼女らの容姿は恐ろしいのだ。

その彼女らに、彼を留めて欲しいと、頼んでしまったのだ。

逃げてしまっても、しょうがないだろう。

それに、自分の姿も…。

女は、自嘲する。

此処に来て、どれ程の時が過ぎただろう。

気付いた時には、この姿だった。

この暗い中、見えてしまう己が、憎い。

今も、顔を触れば、数匹の蛆がつく。

うねうねと動く白いそれは、今の自分の姿を、否が応でも思い知らせる。

せめて…

女は思う。

せめて、子供達にもう一度、会いたかった。

下の子供達は、女の顔を知らない。

もう、だいぶ大きくなっていることだろう。

成長した彼らを、一目見たかった。

出来ることなら、この手で抱き締めたかった。

しかし、それも、もう叶わない。

務めを、果たさなければならない。

此処から出られ無かったとは言え、此処の長達との契約だ。

誰もやりたがらない、しかし、誰かがやらなければならない務め。

日に、千の命を、殺さなければならない。

これまで、順繰りに課されていたが、これからは、女が一人で務めることになる。

命を廻す、大切な役目。

命を奪う、辛い役目。

愛した彼が、生み出した命。

己が身を傷つけるより、痛く、辛く、悲しい。

彼よりも、誰よりも愛情深い女には、重過ぎる務め。

これから奪う命を想い、白く濁った目に涙が溜まる。

一滴、零れそうになる。

その時、女は気付く。

いつの間にか、少し明るくなっている。

有り得ることではない。

女は、その光を辿る。

扉の方からだ。

走る。

腐った肉が、落ちる。

走る。

つまづき、剥き出しの骨が、岩に当たる。

立ち上がり、走る。

朽ちた衣服が、引っ掛かり、さらにみすぼらしくなる。

構わず、走る。

走る。走る。

走る。

やっとの思いで、扉が見えてくる。

衣服は破れ、ほとんど裸となっている。

蛆に喰われた乳房も、爛れた女陰も、覆っていたものは無い。

せめてはと思い、整えていた髪は乱れ、息は絶え、汗なのか膿なのか分からないものが、纏わりついている。

しかし、女には関係ない。

ただ、その光を見なければ、という想いしかない。

泥に塗れ、ほとんど骨だけになった脚を、進めていく。

 

…あった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

扉の上方に、小さな光が。

それは、太陽の様に暖かく、月の様に優しく、小さいのに大きく力強い。

その光を見た瞬間、女は理解する。

 

あの子達だ。

 

成長した自分達を、母に見せようと祈ったのであろう。

暖かく、優しく、強く育った自分達を。

女は、務めを果たしに、己の場所に戻る。

その間、一度も振り返らなかった。

女は、知らない。

いつの間にか、生前の姿に戻っている事に。

 






昔、GREEで仲間内でやっていた企画を、再始動させました。

企画について、ポストした後、二、三日のうちに、お題を頂ければいいな〜と思っていたら、ゆり呼(@mizunoARTyuriko)さんが、真っ先に手を挙げてくださいました。
ゆり呼さんは、『渡邉裕美』の名義で、画家、詩人として活動されています。
個展を開かれたり、グループ展に参加されたり、絵本な挿絵などもされていますので、見つけられた際は、是非ご覧ください。

イラストに関しては、挿絵として自由に使ってもいいと、使用許可を頂いておりますので、こちらで活動されている筆者の皆様、どうぞお使いください。
その際には、ゆり呼さんにリンクを伝えて頂けると幸いです。

それではまた、次のお題の時に、お会いしましよう♪
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