「『さあ!子羊ども!懺悔の時間だ!』」
「上等じゃねえか!『インフェルノに焼かれな!』」
二人の声に、時が凍る。
午後の休憩中のナービィ広場は、静寂に支配される。
その場にいた者達は、震える時間すら与えられず、身動き出来ない。
パニックを起こした脳は、処理を拒否し、逃げ出すという簡単な命令すら忘れている。
いちごとマリアには、周囲の事など、一切、見えていない。
目の前の相手しか見ていない。
一步、踏み込めば、頭蓋を割れる距離。
軽く、引き金を引けば、頭蓋を貫通する距離。
あとは、相手より速く行動するだけ。
傍にいるアイリーンは、何も出来ない。
声を掛ければ、それは開始の合図となる。
後ろへ退がれば、それも開始の合図となる。
何もしなければ、いずれ開始してしまう。
何をやっても、何をしなくても迎える最悪の結末。
回避する方法を探るも、堂々巡りで頭が働いてくれない。
数々の修羅場を潜ってきた明晰な頭脳も、二頭の凶獣の前には無力だ。
何か、何か、何か…
「ハーイ!アイリーン!」
空気を読まない、いつも通りの、陽気なキャロルの声。
その声の周囲だけ、日常を取り戻す。
「キ、キャロルさん!?」
「Oh、マリアもイチゴも、セラフ出して、ワッツハプン?」
「黙れ。殺すぞ」
「…邪魔すんじゃねえぞ」
構えも視線もそのまま、ほんの少しの意識だけキャロルに向ける。
「あ、あの、キャロルさん…」
「Oh!そんなことより、次のロケが決まったわよ!」
「えと、あの、キャロルさん?」
「黙れ。殺すぞ」
「邪魔だ」
「Oh!ワタシ知ってるわ!ジャパンでは、こういうのを『ガイシューイッショク』と言うのよ!」
「…どちらかと言うと、『一触即発』ですよ。てか、なんで鎧袖一触は知ってるですか」
「アイリーン…」
「はい?」
「殺すぞ」
「すいません!すいません!すいません!出しゃばりましたあー!」
「イッショクソクハツね!オーケー!邪魔したわね♪」
そう言って、キャロルは、一步下がる。
「いやいやいや!キャロルさん、止めないんですか!?」
「?ホワイ?ヒーローにとって、アピールはインポータント(重要)よ?自分をアピールしてこそヒーローよ!さあ!レディーファイ!!」
「いやいやいや!煽らないでくださいって!!!」
「ホワーイ?」
彼女の判断基準に頭を悩ませる。
どうにか、この場を収める為に、アイリーンは頭をフル回転させる。
「えーとですね、お二人が、ここでセラフを召喚してる時点で、軍規違反になります。更に、ここでセラフを使用しての決闘なんてなると、ロケどころか、映画の撮影も出来なくなり…」
「ストーーーーーーップ!!!」
アイリーンが言い終わる前に、キャロルは割って入る。
やっと状況を理解してくれたと、アイリーンは胸を撫で下ろす。
「…邪魔だ」
「お前も消してやろうか」
「オーケー。二人が納得いかないのは、分かったわ。だから、平和的に解決するわよ」
「は?」
「どういうことだ?」
「ちょうど、次のロケ地にキャンサーの出没情報があるわ。そのキャンサーの討伐数で、ブラック&ホワイトよ!」
「ほう?」
「いいじゃねえか」
『平和的に解決』というワードは引っかかるが、少しだけ雰囲気が和らぐ。
まだ殺気を発しているものの、思考停止させる程の重圧は無くなった。
流石は部隊長だ、と思う。
多少、とんちんかんな所があるにしろ、統率力を持ち合わせている。
「それじゃあ、他の方々を呼んできますね」
そう言って、アイリーンは駆け出そうとする。
たまたま居合わせただけで、ここまで巻き込まれるとは、思ってもみなかった。
これ以上、あの二人に付き合っていたら、胃に穴があいて、本当に殺されてしまう。
さっさと退散するに限る。
「アイリーン、ストップ!!」
もう逃げることしか考えていないアイリーンを、キャロルが呼び止める。
嫌な予感しかしない。
「な、何でしょう…?」
「アイリーン、アンタも一緒に行くのよ」
「ええー!なななな何でなんですか!」
「アイリーンは、審判よ。ジェイミーがいれば、ジャッジが正確になるわ!」
「え、ち」
「確かに」
「ちょ」
「コイツが不正しないか、しっかり見ててくれよ」
「ふた」
「オレが不正するだと?殺すぞ」
「あ、あの」
「あたしにケチつけてきたんだ。そりゃ、信用するわけねえよなあ?あ?」
「マリ」
「ストップ!ヒートアップするのはグッドだけど、バトルにはまだ早いわよ!」
「キャロ」
「今さら祈っても、許さんからな」
「だか」
「は!弱い犬ほどってな!」
「あ、あの」
「オーケー!レリゴー!!」
「ふん」
「ふん」
そういう事になった。
「話を聞いてくださーーーーーい!」
お盆なにそれオイシイの?でおなじみの夢枕悪です。
なんだかんだと、だいぶ時間が空いてしまい申し訳ありません(;´∀`)
更に、続いてしまって申し訳ありません(;´∀`)
更に、更に、今話でイラスト使ってなくて申し訳ありません(;´∀`)
コンセプトとしては、1話完結のつもりだったのですが…(;´∀`)
次回には完結しますので、もう少しお待ち頂ければ幸いです(;´人`)
そして、碧山さん、コミケお疲れ様でした!
次回のイベントに向けて、英気を養って頂ければ、今作がその一端を担えれば、と思います。
まだまだ続く猛暑に、先日の地震にと、いろいろ起こっておりますが、皆様、どうか無事にこの夏を乗り切れるようお気をつけください。