百階層攻略後に日本に帰れる(かもしれない)ゲーム転移。 作:はめるん用
なんだかんだ会話をしてみた結果。
とりあえずこの傭兵団はリカールの実家の事情は知らんようだ。どうやら妹のほうは、よくある話として一攫千金を狙って英雄王の街へと出発したまま音信不通になった兄を追いかけて〜みたいなカバーストーリーを展開したらしい。
「別に力で黙らせてやってもいいが、仮にも商売が本業のアタシがいきなり武器を構えるワケにもいかないんでね」
いや、知らんがなお前のこだわりなんか。そもそもゾロゾロと戦闘力ある人員を引き連れてきた時点で立派な暴力だろ。コイツあかんわ。たぶん“人間が最も身勝手になるのは、自分が正義だと確信しているときだ”ってのを証明しているタイプだわ。
どうも好きになれそうな気がしない。ま、奴隷を何人も従えている怪しい司祭になんの備えもなく会おうってほうが危機感がないとも言えるんだけど。ゲームでもマンガでも、その手のヒロインっているからな。結局後始末はヒーローに任せて安全確保できてから信念を語るヤツ。
つまり、目の前にいるリーダーらしき女性は合理的な判断のもと仲間を連れてカチコミにきたのだ! と、いうことにしよう。賢くないことを自覚しているこの俺が、感情的なアレコレに振り回されて判断を下してもマイナスにしかならないからね。
好きか嫌いかではなく冷静に考えて、リカールは俺に必要か。単純な手数と火力という意味では新しく奴隷を購入すればいいだけの話だ。要求されているのはあくまでリカール個人であり、ほかの奴隷についてはノータッチだからな。手間はかかるが致命的というほどではない。
だが判断力やこの世界についての豊富な知識といったモノを含めた総合的な戦力としてはどうだ? 国家を手玉に取るような大商会の中で揉まれてきた経験はそうそうほかの奴隷で代替できるようなモノじゃない、そんなことぐらい俺でもわかる。コレばかりはどれだけ豊富な引き継ぎアイテムを持っていてもどうにもならない。
ならば。
「あくまでこれは商談であり取り引きである、そう言いたいのか?」
「あぁそうだ。ここに来る前に闇市で相場は調べてある。ここでアンタに全ての奴隷を解放しろって言えれば格好もつくんだが、縁もゆかりも無いヤツまで助けてやれるほど余裕はないんでね。男の成人奴隷ひとり、その3倍出す。悪くない話だろう?」
ふーん、意外と冷静だな。前言撤回、明らかに子どものディナダンたちがいるのにハッキリ助けないと断言するのはヒロイン気取りの人間にはできないんじゃないかな。
もっとも、先入観を取っ払ったからといって取り引きに応じるかは別の話だけどね。
「断る」
「……足元見ようってんなら、悪いが交渉の余地なんてないよ」
「そうか、それは実に好都合だ。私もお前と交渉するつもりはない。この男は神竜の塔攻略において、なかなか使える手札だからな」
「そうかい。なるべく穏便に、簡単に事を運びたかったんだが……残念だよ」
ミニマップの表示が変化する。リカールの妹は友好的中立の緑から味方である青に、傭兵団の女たちは敵対的な中立である黄色から敵である赤に──いやまて、なんか集団の中にひとりだけ緑いるんだけど。
え、誰よ? …………あの、年配女性のソードマスターか。しかもレベル25て。成長限界に近い高ステータスお婆ちゃんとか絶対強いヤツですの! いや、だからなんで緑表示? しかもなんかこっち見て笑ってんだけど?
あ。
消えた。
いや……ギリ見えてる。ジグザクなステップワークで俺の後ろに回り込もうとしているのか。うーむ、感覚だけが加速している不思議体験。これは俺自身のステータスで速さがカンストしてるからか。
といっても、あくまで暗黒司祭の上限だけど。本来の20に限界突破アイテムを使って25。なので速さ38の銀の剣持ちお婆チャンバラに反応するのは普通ムリ。ただギリギリ動きが見えるだけ。だから……ほぉら、背後からニョキっと剣が生えてきたよ!
でも敵意無し!
圧倒的に緑表示!
どういうことなの……?
「おやおや、わたしに背後を取られても全く動じないとはねぇ。どうやら胆力のほうは悪くないようだ」
「いいや? あまりにも突然の出来事で反応できなかった、ただそれだけのことだ」
俺、ウソ、言ってない。とりあえず敵じゃないならいきなり斬られることはないだろうって開き直ってるだけです。
「そうかい、そうかい。なら、動きをしっかり見られていた気配を感じたんだが、それはあたしの気のせいだった……と、いうことかねぇ? 参ったねぇ、ついにあたしも耄碌しちまったようだ」
なにそれ怖。
こんなヤベー人間がいても第30階層から先が攻略されてないってマジ? ステータスだけなら後半でも一軍で活躍できるのに。やはりゲームのようにレベルを上げてステータスで殴るだけでは攻略はムリなのだろうか。
こういう現実を突き付けられるとソロ攻略を諦めたのは英断だったと自画自賛したくなる。周回プレイで集めた超がつくほど強力な装備やアイテムはたくさんあるが、完全無敵になれるようなモノはないからな。ラノベの主人公なら超絶やり込み知識で乗り切れるのかもしれないけれど。
「さて、そんなことを私に聞かれても困るな。なにせ生殺与奪を握られた側なのだ、下手なことを口走って首を切り飛ばされたのではかなわんよ」
とか言いつつスキル変更。
原始の紋章でステータス異常、特効、必殺を無効化。
剣殺しで命中・回避をプラス50。
防陣の紋章でお互い追撃ができないように。
物理カウンターで武器攻撃のダメージを反射。
手加減で相手に致命傷を与えてしまうことを防ぐ。
欲を言えば暗黒司祭の特権を活かして闇魔法『マフー』を装備したいところなんだが。低い威力、劣悪な命中、必殺の一撃ほかHPを吸収する太陽や連続攻撃できる流星などの奥義スキルも発動しなくなるが、光属性以外の攻撃を全て無効化してくれる優れものだ。
その代償として光属性からはエグい特効受けるんだけど。今度はこちらが攻撃できなくなるし、相手側は絶対命中に絶対必殺が保証されるからほぼ確実に終わる。原始の紋章では必殺は防げても攻撃封じだけはサポート対象外だ。そしてきっと、終盤になればゲームと同じように光の剣や聖魔法オーラなんかを装備した最上級職が普通に出てくることだろう。
「司祭さん。あんた、生殺与奪の使い方を間違っていないかい? それはね、誰から見ても……それこそ当事者もお互いに、完全に格付けが終わっているような状況で使う言葉なんだよ。ところがあんたは──違うよなぁ?」
だから怖いって。
ウソみたいだろ、これでまだ友好的な中立勢力なんだぜ。これは困った、なんども神竜の塔を攻略してクリア特典を集めた俺だが、大量の物資の中にオムツ交換を自動でしてくれる装備やスキルなんて存在しないぞ? いまにも尊厳が下半身から垂れ流しになりそうなんだが。
傭兵団の連中も動くに動けなくなっちゃってるし、状況を作り出してしまったリカールの妹はオロオロしてるし。ありきたりなウソで誤魔化したのはいいが、まさかここまで入れ込まれるとは予想していなかったのかな。本人的にはお兄さんが見つかったなら仕方ないね〜、ぐらいのノリで離脱できると思っていたのかも。大商会の娘なら奴隷に対するイメージも一般人とは違うだろうし。
もちろん我が奴隷たちに動揺はない。声に出さずとも隷属の紋章の効果で“問題ないから下がっていろ”という命令が伝わっているからだ。偶然ではあるが、サンダーストームの威力を見せていたから説得力もあるはずだ。
あとは。
「そこまで言うなら、試してみるか?」
銀の剣を装備!
と、同時にガキンッ! と金属の衝突音が響く。相手が武器を持ったら同意とみなすってか? ええぃ、なんちゅう好戦的なババァだ。それでも敵対してないってことは軽い運動感覚なのか。そんなノリで命を削られたらたまらんわ。
それにしても、剣の扱いを知らない俺でも身体が勝手に動くんだな。いや、これはステータスとスキルに動かされたというほうが正しいか。ということは、新品の奴隷でもドーピングアイテム使いまくれば即戦力になれるか? いや、本人の経験と判断力が養われていなければ危ないな。
しかし……こうして余計なことを考えられるレベルで現実味がない。VRゴーグルでアクションゲームを体感している気分だ。実力に差がありすぎて頭がピンチを理解できてないんだろう。アレだ、あまりにも酷い怪我をすると逆に痛みを感じなくなる的なヤツ。
「ふぅん? なかなかやるじゃないのさ。なら、次は少し──強めでいこうかねぇ!」
え、ちょ、ウソだろ!? その碧色のオーラは……ッ!!
「覚悟はいいかい? ──派手に踊りなァッ!! 流星剣・七段ッ!!」
うぉぉぉぉッ!?!?!?
ひぃッ!?
フッ!
み゙……ッ!?
YОッ!
いぃッ!?
む……ッ!
なっ、銀の剣が折れたんだが!?
そうか……いくらステータスや武器レベルが高くても、スキルの恩恵をマシマシにしても、素人が扱うとこうなるのか……。やはり本物のソードマスターは格が違った。
こうなっては仕方ない。マフーの指輪を装備して、物理カウンターを絶対命中と入れ替えよう。戦闘時お互いの命中率が999になるという効果があり、極端な性能の武器でも安心して殴ることができる。今回みたいに相手の反撃を封じる手段がないと大変なことになったりするけど。まぁ、なんにせよ……だ。
これ以上続くのであれば。ここから先はもう『戦闘』ではない。
「自分で言うのもなんだが、私は戦術や戦略といったモノに疎くてな。神竜の塔を攻略するためにも、貴重な参謀役を失うわけにはいかんのだ。お前も殺すには惜しい人材だが……」
なんて、退いてくれることを期待してハッタリかましてみたりして。相手は本物、平和な日本しか知らない俺のウソなんてお見通しかな。その証拠になんらかの異変か危険を察知したらしく身構えはしたものの、やっぱりミニマップでは相変わらず敵対判定にならんし。
俺が銀の剣を折られたからだろう、傭兵団の連中はハッタリだなんだと好き勝手に煽っているが……あれは見抜いているのとかそーゆーのとは別物だな。マフーのことを知らなければ、これだけ強いソードマスターが司祭程度を相手に負けるはずがないと誰だって思うし、俺だって思うもの。
「うん、こんなものかねぇ」
おや?
「司祭さん、ゴタゴタと騒がせちまって悪かったねぇ。ほら、全員呆けてないで武器をしまいな。下らない茶番はもう終わりだよ」
「おいブランダッ! なに勝手なことを言っている! しかも、仲間を守るために武器を取ったことを茶番だとッ!?」
「そうだよ? コレが茶番じゃなければなんなのさ。いいかい隊長さん、隷属の紋章の強制力ってのはあんたが想像しているよりずっと強力なんだ。それこそ、そこの司祭さんがお嬢ちゃんの兄貴に『妹を殺して自害しろ』なんて命令されたらそれで終わりなのさ」
「なら! その男が命令するより先に叩きのめせばいいだけだ!」
「できるのかい? 老いぼれたとはいえ、あたしゃこれでもレベル20超えのソードマスターだよ? 見てただろう、あたしの流星剣が真っ向から全部受け止められたのを。せめてもの意地として武器は斬ってやったがね、あんたたちにあたし以上の剣撃を放てるかい?」
バァさんアンタ本気じゃなかったでしょーが。
うん、なんとなく輪郭が見えてきたな。俺自身は普段命令なんてしないからすっかり忘れていたが、隷属の紋章はそういう効果を付与するスキルだったわ。
それを知っている……いや、違うな。どれだけ危険かを正しく認識しているあのバァさんは、最初から交渉なんて成立しないと理解していたワケだ。
「……なんかあったら、すぐにアタシたちのところに逃げてきな。必ず助けてやるから」
「え? あ、はい」
「引き上げるよッ! ……クソ野郎が」
よくわからんが、決着したのか? してないんだろうな〜、思いっきりクソ野郎って睨んで帰ってったし。
「それで、期待の隊長の教育は成功したのか? それなら私も悪役を引き受けた甲斐があるというものだが」
「奴隷制度を嫌うのは別に個人の自由だがね、想像力が足りてないのは集団の頭としてはよろしくないんだよ。あの様子じゃ司祭さん、あんたがほかの奴隷たちを巻き込まないよう命令で下がらせたことも気付いてないだろうさ」
「そんなことまで? なんと言うか、よく見ているな」
「女ばかりの集団、誰も彼もが男なんかに負けやしないと意気込んでいるもんだからさ。自然とあたしみたいなババァがそういう役回りを引き受けることになるもんでねぇ。
いや、本当にゴメンよ? 言葉だけで説得できなかったあたしの落ち度だ。我ながら長生きしてるクセに戦い以外に足りないものが多くて恥ずかしいやら、情けないったらありゃしないよ」
泰山鳴動して鼠一匹、いや俺は思いっきりひとつの組織に敵視されることになったけどな? 奴隷だらけで攻略している以上、遅いか早いかの違いでしかなかっただろうが。うん、そう考えるとメチャ強ソドマスに繋ぎを作れたのは幸運なんじゃなかろうか。
「なら、今回の一件の迷惑料として……第30階層に挑むときに協力してもらうとしようか。剣の武器レベルが高い戦力がどうしても必要になるものでな」
「へぇ……? そりゃなんとも興味深い話だねぇ」
でしょうね、だってそのボスフロアの情報は誰も知らないはずなんだものね。ちなみに助っ人が必要な理由はゲームだと竜に変身するクラス『マムクート』が出現していたからです。バァさんには元気いっぱいドラゴンキラーを振り回してもらいましょ。
「あんたからのお声がけ、楽しみにしてるよ。さて、あたしもお暇するとしようか。お嬢ちゃん、なにやら色々とワケありのようだが頑張りなよ」
「はい、ブランダさんもお元気で。お世話になりました」
よし、今度こそ一件落着だな!
すっげぇ疲れたゾ……。これからこうしたトラブルが続々と舞い込んでくると思うとそれだけで頭痛いわ。