百階層攻略後に日本に帰れる(かもしれない)ゲーム転移。   作:はめるん用

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第14階層の攻略も必要だが闇市の日々も大事。

 ホームに引きこもりたい。

 

 ホームと神竜の塔を、日本に帰れるその日までただただひたすら往復するだけのイベントとは無縁の日々を過ごしたい。でもね? これゲームじゃなくてゲーム世界転移なんですよ。ご近所付き合いを無視するワケにはいかんのです。闇市なのに。

 せめてもの救いは闇市を生きる人々とのコミュニケーションが想像とは違いイージーモードなところだろう。お互いに探られたくない腹の底があり、トラブルが起きれば流血沙汰になることを理解しているが故に、基本的に住人同士で衝突するようなことがない。

 

 見るからに厳つい斧を担いだブリガンドが、肩がぶつかったときに愛想笑いしながらお互いに頭を下げて謝罪する。過去にも日本人が転移、あるいは転生して闇市の基礎を築いたんじゃないかと最近思い始めた。

 と、まぁそんな具合で地域との交流はそれほど不便していない。怪我などの治療を経験値稼ぎを兼ねてライブの杖を使わせているが、対価なんて必要ないと言っているのに食材やら雑貨やらを持ってくるのがちと面倒なぐらいで。

 

 なので。ときどき頼み事を持ち込まれるのもできるだけ前向きに対応しているのだが……。

 

 

「おはよう司祭さま! 朝早くからお邪魔してごめんね? でもお話を聞いてくれて助かるよ、ねぇプディング!」

 

「そうだね、僕たちもファミリーも地域の皆さんも本当に困っていたからね、とても助かるよ。ねぇショコラ!」

 

「……そうか」

 

 

 寝起きの頭に、筋肉自慢のバーサーカー野郎コンビの襲撃は味付けが濃すぎる……。

 

 

「……それで、話というのは」

 

「実はね、僕たちのファミリーは闇市で美化活動に励んでいるんだよ。花壇にお花を植えてみたり、街路樹のお世話をしてみたり、みんなが気持ち良く過ごせるように自分たちができることをしているのさ」

 

「ゴミ拾いや人手が足りないところへお家の修理を手伝ったりもしているんだよ! もしよければ司祭さまも遠慮なく言ってね? 僕たちの大事なファミリーもお世話になっているからさ」

 

「あー、うん。そうか。闇市にしては華やかと言うか、清潔感があるなとは思っていたが……うん。地域で暮らす者として、ふたりには感謝をしなければならないな」

 

「あはは♪ お礼なんて必要ないよ司祭さま。僕たちが自分でやりたくてやっているだけさ! えっと、それで相談の内容なんだけど……司祭さまは墓地のところにある古びた教会のことは知っているかな?」

 

「僕たちファミリーはね、あそこで安らかに眠っている人々が少しでも救われればいいなと思ってお掃除をしたりお花をお供えしたりしているんだけど……最近、誰もいないはずの教会から物音がするんだよ!」

 

「もしかしたらオバケが住み着いたのかもしれないね! とても怖いよプディング!」

 

「亡くなった人たちが彷徨っているのかもしれないね! とても悲しいよショコラ!」

 

「オバケて……」

 

「司祭さまなら光魔法も使えるだろう? それならオバケだってイチコロじゃないかと思って相談することにしたんだ!」

 

「僕たちの筋肉ではオバケには敵わないよ。きっと攻撃が当たらないからね。だからどうか、司祭さまに様子を見てきて欲しいのさ!」

 

「まぁ……確かに使えるが……」

 

 クラスチェンジすれば、だけど。暗黒司祭はクラス特性で光魔法の武器レベルが一時的に無効になる。これでも最上級職だし、ステータス下がるから光魔法のためだけに賢者やら司祭やらにクラスチェンジするのは嫌だが。

 相談の内容はまともだし、このふたりも見た目はアレだが中身は善人だし、引き受ける方向でいいとして。話の流れから想像するに、この場合のテンプレは化け物の類いじゃなくて……。

 

「ひとつ、確認しなければならないことがある」

 

「なんだい? 司祭さま!」

 

「なんでも言っておくれよ司祭さま!」

 

「もしも物音の正体が難民だった場合はどうするつもりだ? 闇市には様々な事情で逃げてくる者たちがいる、などということは私よりもお前たちのほうが詳しいだろう?」

 

「────ッ!?!? あぁッ!! なんていうことだろうプディング! 僕としたことが、困っている人が逃げ込んだ可能性を考えていなかったよッ!!」

 

「本当だよッ!! なんということだろうねショコラ! 僕たちが呑気にお花を植えている間にも、教会で泣いている人たちがいたかもしれないんだねッ!!」

 

「司祭さまッ!」

「司祭さまッ!」

 

「はい」

 

「身勝手なのはわかっているんだ。でも、僕たちには困っている人を見捨てることなんて、とてもできないよ!」

 

「だからどうか司祭さま、もしも教会の中に避難している人がいたら、どうか手を差し伸べて欲しいんだよ!」

 

「まぁ……別に構わないが……」

 

「ありがとう司祭さま! さぁプディング! もしかしたらお腹を空かせている子どもたちがいるかもしれない、急いでホームに戻って美味しいパンを焼かないとね!」

 

「ありがとう司祭さま! そうだねショコラ! もしかしたら寒くて震えている子どもたちがいるかもしれない、急いでホームに戻ってフワフワの毛布を用意しないとね!」

 

「あぁ、うん……また後でな……」

 

 

 …………。

 

 善人なんだろうな、間違いなく。仮に本当に教会に難民がいた場合、その人たちが初対面であのふたりの善性を見抜けるのかは知らん。

 

 

 んで。

 

 

「あるじ殿、自分とアストラ殿を護衛に選んだのには理由がおありで?」

 

「誠実な色男と表情だけは穏やかな美女。これなら私の怪しいフード姿も多少はマシに見えるかもしれない」

 

「自覚があるのならフードを脱げばいいと思うのだが……」

 

「なにを仰るかアストラ殿。あるじ殿はこの胡散臭さが良いのではありませんか。闇市の住人たちからも個性として受け入れられておりますし」

 

「それは……良いこと、なのか?」

 

「名声を求めるのであれば顔を売ることも必要だろう。だが私が神竜の塔に求めているのはそれではない」

 

 最強目指したりとか、ハーレムを目指したりとか、そんなことはどうでもいい。俺はただ、日本に帰りたいだけなんだ。ちょっと自分でも意外だなと思うよ、まさかエロに対する興味よりも郷愁が勝つとは思わなかったわ。ロマンチスト、いやこの場合はノスタルジアとかそういう言い方するんだっけ? 

 

 で。

 

 ミニマップで教会を確認してみれば、警戒しているオレンジ色の点が7。んー、これはどう判断するべきか。俺にとっては明確な敵ではない、ということは賊の類いではない……のか? 

 

「アストラ、アンリ。向こうのドアの奥だ。敵意は感じるか?」

 

「いや……むしろ、弱々しいとすら感じる」

 

「どうやらあるじ殿の予想が当たったようですなぁ」

 

 

 コツ、コツと乾燥した空間に足音が響く。隠れている難民にしてみれば恐怖でしかないだろうが、ここでいきなり陽気に歌いだしても別の意味で恐怖だろう。なので素直にドアをガチャッとね。

 

 金髪ロン毛の美女、いや限りなく女に見えるイケメンか。クラスがシスターじゃなくて僧侶だし。

 

 

「……ついに、見つかってしまいましたか。どうかお願いです、私の命は大人しく差し出しますので、どうか子どもたちだけでも見逃してはいただけませんでしょうか?」

 

「わかりやすい命乞いだな。その様子だと、自分たちが教会に住み着いたオバケと言われていることは知らないようだな」

 

「は……オバケ、ですか?」

 

「墓石まわりや花壇が良く手入れされていただろう? 誰も居ないはずの教会から物音がすると相談を受けてな。お互い、見えない脅威に怯えていた……とは、事実が確認できたからこそ言えるセリフだな。なんにせよ──リライブ」

 

「あ……その」

 

 イケメン僧侶も、後ろでガタガタ震えている子どもたちも傷だらけだ。応急処置ぐらいはしてあるのだろうか。まぁ、リライブなら多少悪化した怪我でも治癒してくれることは確認済みだ。

 そのまま黙ってリライブの杖を差し出す。事情はさっぱりわからんが、開口一番に命乞いをしてきたあたりからいくつかのパターンは察することができる。簡単には受け取ることはできないだろう。

 

 それでも、ほんの数秒で意を決したのは素直に尊敬する。それだけ子どもたちが大事なのか、見た目以上に消耗していて危険な状態の子どもがいたのか。

 

「感謝します、見知らぬ人。なにもお返しできるものがないのが心苦しいのですが」

 

「構わない。その杖も持っておけ」

 

「いや、ですが」

 

「ハッキリ言わせてもらうが、いまのお前は施しを断れるような立場ではないだろう?」

 

 見た目の通りに真面目な性格をしている。こういうときは少しぐらい欲の皮が突っ張ってるほうが面倒がなくていい。誠実なのは美徳だが、それで誰かを巻き込んで困るぐらいなら捨ててしまえ、なんて俺は考えちゃうね。学生時代の青臭い自分なら共感もしたのかもしれないが。

 

「ついでだ、これもくれてやる」

 

「これは……光魔法シャインの指輪、ですか。いえ、あの。しかし私は戦いは得意ではありませんし、リライブの杖だけでも申し訳ないというのに、魔法の指輪までいただくワケには……」

 

 んもー、これだからクソ真面目な奴は。

 

 だったらこっちにも考えがあるぞ? アァンッ!? 

 

「ほぉ? 己の尊厳を守るために命を差し出す覚悟はあるというのに、子どもたちを守るために命をかける覚悟はないというのか」

 

「────ッ!!」

 

 ハハッ、ざまぁ。お前みたいなタイプにはこういう煽りが効果抜群だって知ってんだよこっちは。せいぜいそのシャインの指輪で子どもたちを守護るんだなぁッ!

 誰に追われてるのか知らんけど、あの筋肉自慢バーサーカーたちも事情を知れば助けてくれることだろう。精神的に余裕がなさそうなこの僧侶のニイちゃんがG系ラーメン並みにキャラ濃いふたりを対話が可能な相手と判断できるのか、って問題あるが。

 

 

 と、いうことで。

 

 教会の入り口で良い香りのする焼き立てのパンと、丁寧に洗ってありそうな清潔な毛布を抱えた強盗にしか見えない紳士たちに事情を説明してホームへ。

 

 

「あの僧侶、指輪を素直に使うと思うか?」

 

「恐らくは、いや、必ず彼は使うだろう。そういう目をしていた、あれは戦うという覚悟を決めた者の目だ」

 

「あるじ殿も人が悪い。しかし……何故、彼はこんなところへ逃げ込んだのでしょうなぁ? あの服装、女神教団の僧侶でありましたが」

 

「言われてみればそうだな。女神教団では孤児の救済も積極的に行っているはずだし、各地を巡回している神殿騎士に保護を頼めばよかっただろうに」

 

 アー、聞こえない聞こえない。なーんも聞こえないぞ俺はー。お前らそんな露骨にフラグ建築してんじゃねーよ、もしも奴隷の中にその女神教団? とかいう組織の関係者がいたら確実に関わるハメになるだろうが。

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