百階層攻略後に日本に帰れる(かもしれない)ゲーム転移。 作:はめるん用
索敵マップがガチで暗すぎる件について。
3回目のボスフロア、たいまつやトーチの杖などの光源を頼りに敵を探すことになるフロアということで色々と準備をしてから突入したものの。スタート地点の砦の中の魔法陣がある部屋が辛うじて魔力の光でぼんやり明るいだけで、外は手を伸ばせば視界の限界に届くレベルでなんも見えん。
夜が暗いのとはまるで別次元だな。あくまで神竜の塔というダンジョンの中に生成されたフィールドだし、星空も無いから納得はできる。魔力によって生み出された暗闇の中を知恵と勇気と文明を駆使して攻略してみろ、といったところか。
ゲームと同じくたいまつの火でも視界が広がるだけ有情なのだろう。これでトーチの杖に限定されたり、盗賊や斥候だけが視界を確保できるシステムだったら泣くに泣けん。いや、もしかしてそういうクラス特性があったりするのか? ちょいと確認。
「ルカ、視界の確保はどうか?」
「正面に低木の林があるところまでは見えていますわ。皆さまのほうは……ハイ、わかりました。どうやら今回の攻略はわたくしが前に出る必要があるようですね」
盗賊よりは守備力が育ちやすいとはいえ、それでもルカの守備力は現在11。隊長クラスの敵ユニットが鋼の武器を装備して攻撃力が20前後ということを考えると、ちと前を歩かせるには不安があるな。
まだまだ相手の技や速さが低く必殺の心配が少ないし、最大HPが26あるため一撃はほぼ確定で耐えられる。心構えさえしていれば不意打ちを受けても即死の危険は低め。護衛と救出のためにロイヤルナイトのデルムッドと、無事ソードナイトにクラスチェンジしたディナダンを同行させれば問題ない、か?
いや、いくら訓練しているからといって経験の浅いときに暗闇の中を走らせることはないな。やっぱり今日は予定通り相手の動きを確認だけして撤退するとしよう。
じっくりコトコト煮込んだ思考で攻略できるターン制コンバットからリアルタイムストラテジーに変化したことでゲーム知識による行動予測があまり役に立たないことはタップリと思い知らされた。だからこそ、敵ユニットの挙動を確かめることができれば収穫アリとして迷わず撤退できるというもの。
下準備として、砦から光が洩れてしまわないよう最小限の光源で屋上へ。あまりにも暗すぎるためか、光量を抑えるために布を被せたランプでも移動するだけなら困らない程度に明るい。もっとも、コイツを腰からぶら下げて戦闘するのはたぶん無理。なんならたいまつ係として3人ほど戦闘に参加できん可能性が高い。
ま、そのあたりは次の段階で考えよう。まずは持ち込んだ資材で適当に枠を作って、その中で焚き火を燃やす。この時点で幻影兵が反応するのかどうかを確認したいのだが……よし、全然襲ってくる気配はないな。ミニマップも表示されている範囲には赤点も無い。これで、光源そのものを察知して突撃してくるとかいう理不尽は回避できるとわかった。
「まずは一安心、か。アーリィ、お前にこれを渡しておく」
「なんやコレ、お守り?」
「お? そいつは『翼神デルフィの守り』じゃないですか! 一度だけとはいえ、弓や風魔法の攻撃を完全に無効化してくれる貴重品だぜ? 俺っちが世話になってた商会でも数えるほどしか扱ったことがない品物だ」
「ほー、つまりこの焚き火はウチが空の偵察から帰ってくるための目印っちゅーワケやな。けどなぁ司祭さん、ウチも視力には自信あるけどこの暗闇ばっかりはどうしようもないで?」
「だから、これを渡しておこう。幻影兵が光に対してどんな反応と動きをするのか確かめたい」
「なるほど、この火炎ビンを適当にばら撒いてくればええんやな。よっしゃ、まかしとき! あ、でも強化幻影兵のドラゴンナイトに襲われたときはレスキュー頼んだで?」
このフロアのレア枠ドラゴンナイト、ぼんやりとだが覚えている。暗闇の中から一気に接近してきて鋼の大槍で殴りかかってきてリセットする羽目になったから。弓兵は飛行ユニットに強いけど、見えないところから回り込まれて接近されたらただの案山子ですな。
◯□◯□ー
「来たでッ! ドラゴンやッ!!」
漆黒の空を飛ぶアーリィからの警告に、メンバー全員が一斉に反応する。ユーウェインが展開したトーチの杖、その明かりの輪郭に侵入してきた八つの影。
「こういうことか。第15階層を生き残ることができるか、それが探索者としての真価だと聞いたが……確かに、この光景を前にして己を奮い立たせるのは至難の業だ」
照らされた鋼の大槍の威圧感、耳に届く飛竜の唸り声と金属音。予め撤退する前提だと指揮官である司祭に聞かされていなければ、こうして背後に砦という逃げ場が無ければ、あるいは命を捨てることを受け入れていたかもしれない。
「壮観ね。それとも、さすがに帝国竜騎士団に比べれば大したことがないのかしら?」
「難しい質問だ。数百人からなる隊列を前にするのも当然かなりの恐怖なのだろうが、たった八騎でも命の危険を感じるには充分だな」
「屋上でトーチの杖を握っているユーウェインは生きた心地がしないでしょうね。それでも役割を放り出さずに照らしてくれているあたり、臆病でも卑怯ではない。いいことだわ、少なくとも無意味な蛮勇よりは」
「あとは撤退の合図を待つだけか。名誉など必要ないと断言する司祭様のことだ、今回も逃げることを躊躇いはしないだろうとは思うが……むッ!?」
「────エクスカリバーッ!!」
それは例えるなら闇を切り裂く暗月の剣だろうか。巨大な魔力の刃がドラゴンナイトに直撃し、左右に展開していた二騎も巻き込みバラバラに粉砕した。まさに、必殺の一撃と称えるに相応しい破壊力である。
「エクスカリバー、ね。サンダーストームといい、あの司祭様はどれだけ愉快な品揃えをしているのかしら」
「知っているのか、グラナ」
「賢者の魔導書に記載されていたのを読んだってだけよ。嘘か真か、ドラゴンナイトの飛竜とは違う
「それは凄いな。ドラゴンナイトを一撃で倒したのも納得だ」
「……アンタ、魔法に全然興味ないでしょ?」
「うん? あぁ、私はあまり才能に恵まれていないのでな。槍を中心に、あとは剣を訓練しているぞ」
「そういうコトが聞きたかったワケじゃないんだけど。ま、いいわ。どうやら司祭様はドラゴンナイトは経験値にするつもりのようね。──来るわよ、合わせなさいッ!!」
「応ッ!!」
司祭が放ったエクスカリバーから逃れた五騎が散開し、一騎がアストラとグラナ目掛けて急降下してくる。
本来であれば。鋼の大槍を構えたドラゴンナイトの突撃など、正面から見据えることになれば死を覚悟するレベルの攻撃だ。だがふたりに一切の焦りは無い。グラナが手斧を投げつけるのと同時に、アストラが鋼の槍を握り締めて駆け出した。
兵士から傭兵へとクラスチェンジは済んでいる。
ステータスの速さにボーナスが追加された影響なのか身体も軽い。
「グッ、ギャヒ……ッ!?」
グラナもまた、斧が得意であることを活かしてブリガンドにクラスチェンジをしている。もともと成長が良好だった力にさらにボーナスが加わったこともあり、ドラゴンナイトの幻影兵が容易く地上へと叩き落される。
いや、いくら力が成長したからといってドラゴンナイトを飛竜から落とせるものなのか? とも思わなくはない。弱点である弓の直撃を受けて落竜するならまだしも。なにかコツがあるのだとすれば、手槍を装備したときに備えて教わったほうがいいのかもしれないとアストラは密かに決意した。
「投げ槍はあまり好みではないが、こういうときに備えて訓練しておくべきか。──捉えたッ! そこだッ!!」
「グゲャァッ!?!?」
胸部、鎧の中央。
金属が弾け飛び、踏み込みと同時に突き出した鋼の槍が幻影兵を完全に貫いた。
完全なタイミング、完璧にステータスを使い切った必殺の一撃。当然、身体に満ちる経験値も相応に……とはならず。こちらも中級職へとクラスチェンジしているためか、入り込んでくる経験値の量は実に慎ましい。
「何故、命の危機を承知で無理に上の階層を目指すのか疑問だったが……これは、欲張りたくなる気持ちもわかる」
「私はわかりたくないけど。どうやらほかのドラゴンナイトも始末できたようね。ま、リカールとアルバだけでもそれぞれ一騎を仕留めていることだろうし、出鼻を挫くことさえできれば苦戦する相手じゃなかったようで安心だわ」
「だが司祭様は予定通り撤退するつもりのようだ。隷属の紋章が反応している。……正直、助かる。暗闇での戦闘がここまで精神に負担になるとは思いもしなかった」
「そうね、私も今日は早く帰りたいわ。色々と驚くことがあって疲れたもの。たぶんアルバはまた興奮でそれどころじゃないでしょうけど」
「うん? どういう意味だ?」
「アンタは気にしなくても大丈夫。そのまま槍を極めることに集中してなさい。さ、追加の幻影兵がやってくる前に帰りましょ。火炎ビンの実験で人間より明かりのある場所へ優先して移動することもわかったし、きっと次の挑戦は攻略完了まで突っ走ることになるわよ?」