百階層攻略後に日本に帰れる(かもしれない)ゲーム転移。 作:はめるん用
攻略を進めるよりも先に飛行ユニットを相手にした立ち回りを強化するべきと判断し、ドラゴンナイトの群れと命がけでキャッキャウフフしていたある日のこと。
「どうも司祭さま。長々と前置きをして誤解が生じても困りますので単刀直入に申し上げます。話題に上げるときに不便なのでクランの名称を決めていただけませんか?」
「…………なんだって?」
「いや、結構不便なんですよ。個人で活動しているのであれば仕方ないとしても、それなりの人数でパーティーを組んでいるのに固有の呼び名が無いのは。もちろん私たち闇市管理会の傘下に入れなどとは言いませんが、せめて商店街の皆さんには通知していただけると」
「ご主人様、たぶんアレです。最近ドロップした素材を売ったり店舗からアイテムを購入する頻度が増えたんで、伝票なんかを整理するときに面倒になってるヤツですよ。その場の会話の流れならともかく、ただ司祭とだけメモしたら見返したときワケわかんなくなるって」
「あー、そういう……」
「他所の区域を悪く言うつもりはありませんが、貧民街エリアなどと違って闇市エリアは経済活動その他はそれなりにきちんと循環しています。ただ少しだけ物騒なだけで。なのでお手数ではありますが、司祭さまにもその辺りに気を遣っていただきたいのです」
「と、いうことで急遽クランとしての名前を考えることになった。意見があれば遠慮せず言っていい」
「我々もなんだかんだと15フロアを突破して一人前の探索者の仲間入りを果たしましたからな、それ相応の振る舞いを求められるのも致し方無いというものでしょう」
「ちゅーか、それこそ司祭さんの一存で決めてええんちゃうの?」
「お前そんなことを言って私が【夢いっぱい勇気リンリン団】だの【ノンアルコールふんどし情熱系】だの言い始めたらどうするつもりだ」
「逆にそんなワケわからんフレーズよく出てきたな!?」
「リカール、ふんどしとはなんだ?」
「列島諸国に伝わる男性用の下着だな。伝承にある白夜の剣聖リョウマも着用していたという伝統ある衣装だよ、一応」
「なるほど。つまり伝承の英雄にあやかる形でクランの名付けをすることになるのか。それは確かに考えようでは畏れ多いのかもしれない」
「違うからな? アーリィの反応はそういう前向きなヤツじゃねーからな? お前それ外で言うなよ絶対だからな?」
「ご主人様。参考になるかはわかりませんが、表通りのギルドに登録している探索者クランの名称は豪華な響きのモノが主流でございましたわ。エンシャントドラゴングローリーやら、天雷地炎黄金聖騎士団やら、記録係のギルド職員がペンをへし折りそうな名称が。わたくしの個人的な意見としましては、ダークプリズムクリムゾンナイツと名乗る方々が芸術点が高めだなと感じました」
何色を主張したいんだソレは。
攻略には関係ないし、記号のようなものだから名称にこだわる理由はない。理由はないが、そんなラノベの主人公が「俺なんかやっちゃいました? これぐらい普通に倒せますよね? もしかして倒した獲物が弱すぎるってことですか?」とか言いながら討伐してそうなモンスターみたいな名前はさすがに嫌だ。
というか、闇市管理会から言われたのは呼び名が無いと不便だという話なワケで、ゴチャゴチャした名前では商店街の皆さんが困ることになるワケで。となると、やはり子どもでも簡単に覚えられるようなわかりやすい名前で活動するべきなワケで。
候補としてはナンチャラ傭兵団とか、そういう系統の名前だが。あんまり変な名前にすると、今度は奴隷たちを解放したときに大変な思いをすることになるかもしれない。怪しい組織で働いていたとなれば、再就職に困るかも──いや、逆か? 変な組織でこき使われていた哀れな奴隷として同情してもらえるかもしれない。ならば。
◯□◯□ー
「今後、我々は『ロプト教団』を名乗ることにした」
「はぁ……。その、ロプトという名称にはなにか意味が?」
「神竜の塔の頂上に座して人々の営みを見守る竜の神の名前、という設定だ」
設定って言っちゃったよこの人。
屋台で軽食をつまんでいた闇市管理会の『口』と呼ばれる男だけでなく、周囲のテーブルで会話を聞いていた住人たちも反応に困っている。
もともと信仰心とは無縁な振る舞いの司祭がよりにもよって教団を名乗ることにしたのもそうだが、信仰の対象となるであろう神の名について堂々と設定だと言い切ったことについてもだ。
「それ、女神教団の関係者が聞いたら確実に怒りますよ?」
「同じことを奴隷たちにも言われた。豊穣の女神ミラと聖女セリカに関する伝承についてもな。神竜の塔の果にある神々の楽園ソラネルより地上へ舞い降りて、氾濫するモンスターから人間たちを守護する役目と共に神剣ファルシオンと浄化の焔ライナロックを授けた、と。
さすがは信仰心ゼロの司祭、女神教団に喧嘩を売ることになっても躊躇わないとは。その清々しさに住人たちは呆れを通り越して感心しているが、ただひとり『口』だけは司祭の言葉に含まれた違和感を見逃さなかった。
男は女神教団や各国が喧伝する都合の良い伝承など信じていない。それらの大元となるような出来事は本当にあったのかもしれないが、少なくとも現代に残されている話は権力者が都合よく作り変えた物でしかないと思っている。
そういう意味では司祭が聖女の伝説を作り話だとして扱う態度にも不満など抱かない。だが、いまの言い方はただの否定ではない。それはなんらかの真実を知る者が嘘を並べる者を見下すような雰囲気とでも言えばいいのだろうか。
(巧く繋げた? 聖女セリカの伝承はひとつの物語ではないと? 仮にそうだとしても、なぜこの司祭がそんなことを知っている? 言葉遊びか、それとも妄言の類い……いや、だが、しかし)
英雄王の街で様々な交渉を担当してきたことから『口』として闇市管理会での確かな地位を築いた経験が告げる。彼の言葉に嘘偽りは無いと。
「なぁ司祭さまよぉ〜? 教団ってぇなら、ここはひとつオレたち闇市の荒くれにもありがたい話を聞かせてくれよ〜」
「そりゃいいや! 女神教団どものお説教なんざどうでもいいが、奴隷を引き連れてる司祭さまのお言葉がどんなもんかは興味あるな!」
「そうと決まれば演説するための舞台が必要ね! ちょっとそのへんに転がってる木箱を重ねて作りましょ!」
「あはは〜! いいぞ〜司祭さまの晴れ舞台だねぇ〜! ホラホラみんな〜、新しいクランの誕生だよ〜」
「ふむ。よかろう、ロプト教団誕生の記念に自称最高司祭の私が説法してやる。ありがたく思う必要はないが適当に話を広めるがいい。いままで呼び名が無くて商人たちが困っていたそうだからな」
男が迷っている間にも娯楽に飢えた闇市の住人たちがワイワイと騒ぎ出し、それに応えるように司祭が木箱で組まれた粗末な演説台の上に飛び乗って両手を広げた。
言葉遣いは固くても気安くて常に適当な雰囲気である本人の気質が現れているのか威厳のようなモノは一切感じないが、一度疑念を抱いた『口』には得体の知れない恐ろしいナニかにしか見えない。
「大衆よ、我らロプト教団の祈りの言葉を聞くが良い。困難に直面したとき、無駄に寝過ごしてなんとなくやる気がでないとき、妻や恋人にほかの女に鼻を伸ばしているところを見られて家から蹴り出されたとき、私の言葉を思い出せ。────明日は、きっと良い日になる!」
一瞬の沈黙。
そして砕けたような笑い声。
気の抜けた、というよりも。そもそも演説している本人が全力で悪ふざけをしているため、それを聞いていた住人たちも遠慮なくゲラゲラと笑っていた。お世辞にも説法などと扱うことができない、真面目に巡礼をしている女神教団の聖職者たちがキレたとしても「それはそう」と同意するしかないような酷い内容。
しかし、それでも彼の言葉には力強さがあった。きっと本人もそう思いながら日々を生きているからなのだろう。単純で飾り気の無いひと言だが、だからこそ様々な事情を抱えている闇市の住人たちでもすんなりと受け入れることができるのだ。場の雰囲気もあるのだろうが、早速子どもたちは楽しそうに「あしたはいい日だ〜!」と元気よく繰り返しながら走っていった。
ただひとり『口』だけがその光景を険しい表情で見つめていた。本人が無自覚であるが故に放たれるカリスマ性。あの司祭にそのつもりは無くてもロプト教団には自然と人材が集まることになるだろう。何故なら、純粋な善人よりも未知なる危険を秘めた人間のほうが好奇心を強く刺激するから。
「これは……管理会はますます頭を抱える事態になりそうですねぇ。本人に秩序を乱す意図が無いだけに尚更です。あぁ、でも。これはこれで刺激的なコトがたくさん起こりそうな予感もしますし……う〜ん、なんとも悩ましいですねぇ」