百階層攻略後に日本に帰れる(かもしれない)ゲーム転移。 作:はめるん用
「行倒れの傭兵ではなく、行倒れの勇者とはなかなか斬新だな。力試しを否定はしないが、塔に挑むより先に飢え死にしたのでは意味がないだろうに」
「いや〜、なんとか英雄王の街にたどり着いたまでは良かったんだがな? 金がねェから宿にも泊まれねぇメシも買えねぇでフラフラしてたら意識ブチッ! と切れちまってよぉ〜。マジ感謝するぜ!」
レベル10の勇者でも、空腹には勝てなかったらしい。
ホームの前で倒れているのを発見したときは何事かと思ったが、まだ息があるのに見捨てるワケにもいかず介抱してみれば。路銀を使い果たして武器まで売って這いずるようにこの街までやってきた、と。
そりゃゲームと違って武器がなくても殴ればダメージは通るけど、勇者が武器を売らなきゃならんのはさすがに計画性がなさすぎるだろ。見掛け倒しではなく、ステータスも魔力と魔法防御以外は20を越える真っ当な実力者なんだから、金を稼ぐ方法なんていくらでもあっただろうに。
「マジ助かった! しかしオレ様は金なんか持ってねぇ! だからよ司祭さん、アンタ、オレ様にして欲しいことがあれば遠慮なく言ってくれ! 勇者たる者、受けた恩を踏み倒すマネなんかしたらお天道様に顔向けできねぇからな!」
「ふむ、頼み事か……」
この流れで奴隷になれ、はないな。見境無しにそれやると余計な敵が増えるし、友好的な上級職にわざわざ喧嘩を売るようなことはしたくない。
だからといって簡単に縁が途切れてしまうのは勿体ない。支配下に無い協力者もきっと俺には必要だ。イエスマンだけで周囲を固めた権力者が失敗する話なんて定番中の定番だし、客観的な意見を求めることができる相手は絶対に必要になるはず。
「それならひとつ、相談したいことがある。引き受けるかどうかはともかく、まずは話を聞いてくれるか?」
「おぅ! この勇者ホルバイン様になんでも相談しやがれ!」
「うむ。実はな──」
かくかくしかじか。
「傷だらけの子どもたちを連れた僧侶、か。そりゃ確かにただ事じゃねぇな」
「闇市の住人たちも気にかけてはいる。が、どうしても他人の世話ばかりをしているワケにもいかないのが現実だ。できる範囲でいい、彼らの助けになって欲しい」
「なるほど、なるほどねぇ〜。よっしゃ任せろッ! 勇者たる者、困っているヤツを放ってはおけねぇ! それに、恩返しを自分のためじゃなく誰かのために譲ろうってアンタの心意気にも感心したッ!」
「そうか。では早速だが教会に案内するとしよう」
「おぅ、頼んだぜ司祭さん! ところでよォ、その僧侶の男はなんて名前なんだ」
「クロード神父、と闇市の住人からは呼ばれているよ」
「ほぉ~! あの聖人クロードと同じ名前ときたか! ま、ソラネルに旅立った人間を現世に呼び戻す……なんだっけ? なんたらの杖の存在なんか信じちゃいないが、聖人と同じ名前の神父が人助けをしてるってのは面白ぇな!」
そうだな、普通は死者蘇生なんて信じないよな。ちなみに神器バルキリーの杖は男性専用のランクSの杖で戦闘マップでしか使えないという制限付きだ。要求レベルを満たすには魔道士から賢者→大賢者あるいは僧侶から司祭→大司祭とクラスチェンジする必要がある。
一度使えば壊れてしまい修理コストも高いが、原作と違い復活させたときに全てのステータスにプラス5のバフが付与されるという効果は侮れない。有効活用できるプレイヤーならば。
俺はもちろん使ったことがないので新品のままアイテム欄で眠ってる。できれば出番の無いまま日本に帰りたいところだ。暗黒司祭だから必要になったとしても使えないんだけどね。
ほんで。
「金無し宿無し武器無しとなると、ほかに頼れるアテもなく……と、いうのが建前だ。クロード神父、お前ひとりでは子どもたちの世話はできても自立を促すのには苦労しているんじゃないか?」
「お恥ずかしながら、司祭様の仰る通りです。地域の皆様に甘えてしまうのも、子どもたちのためならばと矮小な自尊心を投げ捨ててどうにか頑張ってはいるのですが……特に、ショコラさんとプディングさんたちのクラン『メルティ☆マッスルラブメイツ』の皆様がいなければ満足に生活などできなかったことでしょう」
深刻な表情でその名前を出されると破壊力パネェな。いや、本当に心から尊敬できる人たちなんだよ。塔を探索して得た資源を住民たちに一生懸命還元してるところとか、本気で尊敬できる人たちなんだよ。ネーミングセンスとキャラクターがハジケてるだけで。
「子どもたちの興味はやはり、神竜の塔へ?」
「あの子たちなりに考えているのでしょう。ただ危険だからと引き止めるのは簡単ですが、それで救われるのは私の自己満足だけ。頭では理解していても、自分自身を納得させるのに難儀しております」
「一方的に理想や正義を押し付けない姿勢は立派だ、と言っておこう。少なくとも奴隷を使って塔を攻略している私など比較することさえ烏滸がましい程度には」
「そうでしょうか? いつだって当事者は手段の是非について考える余裕などありません。事が終わってから部外者が無責任に議論するばかりです。ならば、隷属の紋章による支配だろうとそれで機能するならば司祭様、私などよりも貴方のほうが」
「その考え方は止めたほうがいい。手段と目的を間違える可能性がある。私は神竜の塔を攻略するのに必要だから奴隷を使役しているのであって、隷属の紋章が使えるから神竜の塔に挑んでいるワケではない。仮初めだろうが借り物だろうが、本当に正義という言葉を蔑ろにすれば取り返しのつかないことになるぞ」
「ですが、力無き正義に意味はありません」
「だが、正義なき力は悪でしかない」
The・沈黙。誰かサイレス使った?
相変わらずクソ真面目だなこの僧侶は。場の空気を読んで雰囲気だけで会話を頑張ってる俺を誰か褒めて欲しい。どこかの霊界探偵みたいに極端から極端へと走られても困るし、お前のやり方は間違っていないと一生懸命ヨイショヨイショと肯定しているが……果たして、お家に帰りたいという想いだけで戦っている俺の言葉に説得力なんてあるものかね?
うーん、正直自分でもなに喋ってんのかよくわかってないのに、これ以上会話を続けてもどうにもならんぞ。仕方ない、適当にそれっぽくまとめて退散しよう。
それに、次の用事もできたしな。
「ま……お前や私がどれだけ意見や価値観をぶつけ合ったところで、結局のところ子どもたちの未来は子どもたちのものだ。過度な干渉は洗脳と変わらない。なら、とにかく逞しく育ってくれればそれでいいだろう」
「私はそこまで……簡単には割り切れません」
「ならば常に自問自答し悩み続けろ。答えは求め続けることに意味があり価値がある。さて、私はこれで失礼させてもらう。これから人に会う予定があるのでな」
「もしかしてそれは、貴方が立ち上げた探索者クランのロプト教団に関するものですか? 良い言葉ですね、明日はいい日だ。子どもたちも気に入っていますよ」
「闇市の住人たちはよほど暇人らしい。おかげであっという間に名が知れ渡ったようだ。客人の目的のほうは話してみないことにはわからんよ。ではな」
闇市の環境は、その呼び名とは裏腹にかなり整っている。
それでも中心から外れれば外れるほどに建築物は荒れ果てて生きた人間の気配も少なくなる。ミニマップに表示される点の数もすっかり減っていることから、周囲がほぼ無人であることは確定。
さて。
装備とスキルを整えるまでの時間を稼ぐとするか。
「演劇などの物語で、追跡者の存在に気付いたキャストが姿を見せろと声を張り上げる場面があるだろう?」
原始の紋章でいろいろガード、防陣の紋章で追撃封じ、手加減でなんかやっちゃいましたを予防。
「実に愉快だと思わないか。姿を見せてしまったら、隠れて追跡していた意味が無いというのに」
相手はアサシンや忍者の可能性が高い。となれば、奥義スキルを封じる『見切り・偽』もセットしておこう。自分も奥義スキルを使えなくなるが、ステータスが高いだけの素人に太陽だの流星だの使いこなせるワケがないので実質デメリット無しだ。
「まぁ、物語を円滑に進めるための演出だからと言ってしまえばそれまでなのだがね」
残りの1枠は『祈り』にしておこう。幸運の上限はクラスに関係なく50。延々とクラスチェンジをしていたおかげで最大値まで成長しているので、万が一のときも5割でどうにかなる、かもしれない。
「だから、私は無粋に声を荒らげるような真似はしない」
用意する指輪は3つ。本命のマフー、陽動のシェイバー、そして離れた位置で様子を伺う追跡者を炙り出すための遠距離魔法スライム。
よし、やるか!
まずは明後日の方向にシェイバー。
ミニマップ確認。
赤点、動かず。
ならばそのままスライム発動ッ!
「チィッ!?」
あれは、イケメンッ!!
美形のアサシンか。間違いなく強い奴だわ。
それはそれとして、やっぱり外れたか。そりゃそうだ、ソーサラーやドルイドならともかく暗黒司祭の技じゃスライムの命中率なんて期待するほうがどうかしている。
ステータス確認、ダメージ3入ってHP残り38。気持ち程度には当たったらしい。そして装備は銀の暗器とキラーナイフ。よし、光属性の武器は持ってないな! 普通の必殺系の武器なんてな、ただ恐いだけで対処はできるんだよ!
それで、スキルは暗殺と──凶手の一撃か。暗器で攻撃したときに相手の守備力を無視して最低保証ダメージを4ポイント与える、それだけでも厄介だが……ダメージが通ることで銀の暗器によるステータス低下も付与されるのが厳しいぞ。ゲームと違って速さそのままに好き勝手叩き込まれるだろうし。
レベル17アサシン、力20はともかく技と速さが両方32は勝負にならんわ。やめてよね、本気で勝負したら俺が誰かに勝てるワケないだろう? やはりマフーの力をここで試す必要があるようだ。できれば奴隷たちに一斉に命令を飛ばして呼び付けたいが、巻き込んだときがシャレになんねぇ。
「アナタ、なかなかヤルじゃない? あんな単純な手に引っ掛かるなんて……正直に言っちゃうケド、完全に油断してたわ」
「…………そうか」
オネェのアサシンかよ。また味付けの濃いヤツが出てきたな……。普通の男や女のアサシンよりも強そうなのがまた。