百階層攻略後に日本に帰れる(かもしれない)ゲーム転移。 作:はめるん用
列島諸国。
それは俺のような日本からの転移者にとって心のオアシス……に、なるかもしれない地域。早い話が和食文化っぽいお国柄なのである。精米技術は比べ物にならないが、お箸を使って白米とお味噌汁を食べることができる幸せがそこにある。
なによりも、俺が自分で試行錯誤しなくてもお店で金を支払えば普通に食べることができるお手軽さが最高。最も高いと書いて最高。ラノベの主人公たちのように知識を披露してスゲースゲー言われることはないが、チヤホヤされるより楽して美味しくご飯を食べたいので問題なし!
ま、今日のお目当ては白米じゃないんだけどね。
第20階層が聖戦の系譜を元ネタにした広いマップだったこともあり、2回に分けて攻略したがそれでも部下たちの大半は疲労困憊といったところで探索どころか家事にも手が付かない状態だ。食事なんて必要最低限でいいから寝ていたいと言われれば、そっとしておいてやるのも主人の努め。
しかし俺は拠点の屋上から戦闘を眺めているだけだったので疲れていないのだ。つまり食欲も普通にある。だけどホームでは睡眠を求める奴隷たちが言葉通りの意味で所狭しと横になっている。ハンモックは偉大な発明だ。そんな状況では大人しく外食するしかあるまいよ。
「ほぉ、蕎麦の屋台とは。月明かりと提灯のゆらめき、なかなか風情がありますなぁ」
「わざわざ闇市で屋台を引くのはどうかとも思うがな。表通りのほうが安全に商売ができるだろうに」
あとお前、アンリ。いくら腹ペコキャラやってるからって、ちょっと屋台でご飯食べてくるって言っただけで部屋から飛び出してくるのはどうかと思うよ? 直前までグッタリしてたじゃん。食欲を満たすためなら乳酸なんて知ったこっちゃないってコト?
「いらっしゃいませ」
香り立つ醤油の喜び。さすがファイアーエムブレムの同人ゲーム、食事要素に和食のチョイスも抜かり無い。ちなみについうっかり覗き込んだ店長さんのステータスはレベル20の忍者ですって。
上級職が屋台やってんの? しかも蕎麦の屋台で忍者とは。これで後ろのお手伝いさんが少年じゃなくて少女だったら別ゲーに転移したのかと疑うところだったわ。
いや、そんなことはどうでもいい。
俺は蕎麦が食べたいだけなんだ。
「ほぅ、天ぷらもあるのか。しかし初めての屋台であれもこれもと欲張って食べ残すなど言語道断。となれば……店主、たぬき蕎麦をひとつ頼む」
「ご注文、ありがとうございます。蕎麦がお気に召しましたら、ぜひ天ぷらのほうもお試しください。お連れのお嬢さんのほうは?」
「とりあえず、お品書きの上から順番に全部」
「ご注文、ありが──はい?」
「お品書きの、上から、順番に、全部」
「いえ、その」
「すまん店主。この女は本気で言っている。そしていつもそれだけの量を食べている。代金は先に支払うから、注文を受けてくれると助かる」
「は、はぁ……イタズラや食い逃げを企んでいるというワケでないのでしたら、こちらとしては構いませんが。ハンスケ、用意を」
「へ? え、あ、はい!」
確かにイタズラや冗談ではない。だからこそスマン店長さん、今日の営業はこれで終了となるだろう。何故なら食材がほぼ枯渇することになるから。
んで。
「店主。なんというか、本当にすまん」
「いえいえ、美味しく食べていただけるなら私としては構いませんよ。……その、まさか本気で食べ尽くされそうになるとは思っていませんでしたが」
ひたすら蕎麦をすする機械となったアンリと、ひたすら蕎麦を茹でる機械となったハンスケくんを尻目に食後のお茶をいただく。美味しいからね、しょうがないね。こいつ奴隷落ちしたの食費が賄えないせいだったりしない?
「しかし店主。これだけ美味い蕎麦ならわざわざ闇市側にこなくても客の入りは期待できると思うのだが」
「表通りは商工会の取り決めが少々手間だったもので。その点、闇市はおおらかというか適当と申しますか。武器などとは違い、飲食物についてはあまり煩く言われなかったんですよ。それに」
「それに?」
「闇市を中心に活動しているという“ロプト教団”という組織に用事もありましたので」
「なるほど。しかし、忍者に狙われるようなことをした覚えはないのだが、私の教団にいったいなんの用事があるのかな?」
「────ッ!?」
咄嗟に身構えるハンスケくん。ミニマップの表示も緑から黄色に。わかりやすい反応するねぇ?
「店主。まさかとは思うが、ロプト教団のことを探っていながら私の外見についてなにも知らないのか? これだけ露骨に怪しいローブ姿をしているのに」
「もちろん司祭様のことは調べてありますし、だからこそホームの近くで屋台を開いているのですが……ハンスケ、私の話をちゃんと聞いていなかったのですか?」
「いえ、そういうワケでは……。でも、お師匠様が、なんかすっごい普通に接客してるから……」
「……えーと、素直で良い子じゃないか」
「……お恥ずかしい限りです」
そりゃキミ、ターゲットが目の前に現れたからって態度に出るようじゃ隠密行動にならんでしょうに。
「それで、私に用事とは?」
「単刀直入にお聞きします。人の心を支配し惑わすような武器やアイテムに心当たりはありますでしょうか? 心身ともに鍛えられた武人でさえ、血に餓えた人斬りと変貌してしまうような呪われた品に」
「あるぞ」
「……そんなあっさりと即答されるとは思いませんでしたが、話が早いのは助かります。それを見せていただくことは?」
「構わんよ。ただ、心当たりがあるだけで実際に持ち手の心を支配するような力が宿っているかはわからんが」
ここは定番のデビルソードでも取り出して……いや、あれは持ち主に不幸をもたらすとかそんな感じの設定だったよな。この店長さんが求めている物とは微妙に呪いのベクトルが違う気がする。
と、なると。
「これは……ッ!? 失礼ながら司祭様、このような刀をいったい何処で……ッ!?」
「逆に私から聞きたいな。こんな危険物が神竜の塔以外で手に入るのか?」
どうやら『妖刀アシュラ』は店長さんのお気に召す一本だったようだ。原作ゲームでもこの同人ゲームでも、攻撃のたびにHPを5ポイント消費するだけで武器としては実用品レベルの剣だが。フレーバーテキストが仕事するこの世界ではやはり呪われた刀として扱われたか。俺にはなにも感じないけど。
「だが、それはどうやら店主が求めている品ではなさそうだな? 私の目にはお前が人を斬りたくて仕方ないといった雰囲気には見えん」
「そう、ですね。これはこれで危険な刀ではありますが、私が探している手がかりとは無関係でしょう。こんなものを帯刀していれば見逃しようがありません」
「そもそも、店主の言う人斬りとはどういうものなんだ? それがわからないことには──」
「こちらの主人が語っておりますのは、列島諸国に古くから続く奇病『屍狂い病』のことでありましょう」
「うん? 知っているのかアンリ」
「私も列島諸国の産まれでありますれば。その病に罹患した者は、死合に餓えて彷徨うことになると言われております。その性質上、戦う力を持たぬ市井の者たちが狙われることはなく、むしろそうした弱者を狙うような者こそ獲物とされることから、まぁ大多数の市民からは見て見ぬフリをされておりますなぁ」
「それはそれで問題がありそうな気が……。しかし、人斬りが病気扱いされるとは」
「そちらのお嬢さんが仰った通り、屍狂い病の人間は強敵との戦いを求めます。なので必ずどこかで返り討ちにあうことになるのですが、今度は屍狂い病の人間を殺傷した者が同じように……と。その様子が流行り病が伝染するようだと例えられまして」
「迷惑な話だな。しかし納得したよ。由来もわからない怪しい奇病のことは、同じく怪しい団体を設立した人間に聞いてみるのも一興ということか。ほかに私に聞きたいことはあるかな?」
「屍狂い病に冒された者が死の間際に“光を奪われた。あの光さえあれば自分は無敵なのだ。あの光を返せ。あれは自分の物だ”と繰り返していたそうです」
それはなんと言うか、呪いというよりも薬物による中毒や洗脳によるものじゃないのか?
店長さんが言うにはそちら方面でも長いこと調査されているらしいが、これといった成果や進展はないそうだ。しかも最近になって犠牲者が出るペースが上がっているらしく、統治者たちが次は自分のところにくるのではないかと怯えているのだとか。
そこは嘘でもいいから一般市民に犠牲が広がらないようにとでも言っておけよ。というか忍者なら身内の恥を簡単に他人に喋ったらダメでしょ。え? 命令はそれとして、個人的には民衆の平和のために動いているから問題ない? それに自分の主人はそのような臆病者ではないから関係ない、と。あれ、なんか下手すると派閥争いに巻き込まれそうな予感が……。
さすが忍者、油断ならん。でも協力的な関係を結べたのは良しとしておこう。どうせアレだろ? その屍狂い病とかいうヤツに関わってる人間が英雄王の街にやってくるんだろ? 罹患者本人だったり血縁者だったりとかが。
でもって。
「妖刀アシュラ……本当に、お預かりしても?」
「もしかしたら新たな手がかりになるかもしれない。あるいは、それを求めて屍狂い病とやらの罹患者が誘い出されるかもしれない。ただ、くれぐれもソレに心惑わされて新たな人斬りにならんようにだけ気をつけろ」
「感謝します、司祭様。貴方のことは御屋形様にも良き縁であるとご報告させていただきます」
よくわからん謎の勢力と同盟を結ぶ方向で話が進み、アンリがお店のお蕎麦を食い尽くしたところで帰路に就く。俺はただ晩ごはんを屋台で食べようと思って出かけただけなのに、なんで重要そうなイベントに巻き込まれたんだろうね? 日本に帰るまでに理解が追いつかないまま会話を流す能力がものすごく鍛えられそう。
「しかし、ただの人斬りではなく強敵を求める病とはな。確かに内容は頭のイカれた病気らしい説明ではあったが」
「己の限界を試したくなるのでしょう。屍狂い病に冒された者は“必殺の一撃が見える”ようになります故に、より強き者に挑みたくなって仕方ないのでしょうなぁ」
「必殺の一撃が、見える。それは攻撃を避けやすくなるスキルのようなものが付与されるということか?」
「いいえ、あるじ殿。見えるのですよ、相対する者が放つであろう必殺の一撃がどのように繰り出されるのか。動くより先に結果が見えておりますので、もちろん当たることはなく……なればこそ、より強い相手を求めてしまうのです。ふぅむ、こればかりは言葉だけで説明するのは難儀でありますなぁ」
「攻撃が予め見えるようになるのか。当事者はともかく狙われた者にしてみれば厄介どころではないな」
「いえ? 攻撃そのものは見えませぬよ? 渾身の、致命傷となる必殺の一撃だけです。そうでなければ“次”が起きませぬよ。まぁ、いくら必殺の一撃を確実に防げるからといって、レベル1のクラスを持たぬ一般人では同じレベル1の傭兵や剣士には手も足も出ないということでして」
「つまり正攻法で殴れば黙らせることはできる、と」
「もっとも……正気を取り戻したからといって、再び戦場に立てるかは別の話でありますれば。なにせ、屍狂い病を発症している間は見えていた死に至る兆しが見えなくなります故に」
ほーん。なんか詳しく聞いているとそこまで怯える必要はなさそうな雰囲気だな? なんなら俺のマフーのほうがよっぽどクソチートだろ。必殺の一撃どころか攻撃そのものを防ぐんだから。
もしも狙われることになっても案外どうにかなるかな。可能なら屍狂い病のまま隷属の紋章を刻めないか試してみたいところだ。だって必殺無効とか常に『光のオーブ』を持ち歩いているようなものだし、塔の攻略で活躍してくれること間違いなしだもん。