百階層攻略後に日本に帰れる(かもしれない)ゲーム転移。   作:はめるん用

22 / 57
フラーゼン、を漢字で書けそうな方が読者様のなかにいらっしゃりそうな予感。


もしかしたら第22階層ではトライアングルアタックが使えるようになるかもしれない。

「どうか! 私たちをロプト教団の奴隷にしてください!」

 

「できれば雑用じゃなくて戦闘に参加させてください!」

 

 

「……なんとなくではあるが、最近は夜が蒸し暑いような気がしなくもなかったからな。頭が茹で上がって寝起きに地面の冷たさが欲しくなるときもあるだろう。つまりそういうことだな。私はこれから用事が特に思いつかないが出かけてくる」

 

「まぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁ司祭さん、そんな()()()なこと言わんといて! うら若き乙女たちがこんな朝早くからやってきて地べたに座って頭下げとるんやし、話ぐらい聞いてやってもええやん! 

 ……ゴメン、これたぶん十中八九ウチのせいやわ。闘技場で調子コキ過ぎたせいですホンマに悪気は無かったんやけど後先考えとらんかったっちゅーか、このふたり顔見知りの同業者だったから余計に希望が見えてしもうたんやろなぁ〜」

 

 力を司る闘神ドーマに祈りの代わりに戦いを捧げるための場所、それが英雄王の街にある闘技場……という設定はこの世界にもバッチリ反映されていた。

 

 ゲームでは賞金と申し訳程度の経験値、そして勝利回数に応じてアイテムが手に入るオマケ要素だった。さすがに実績報酬はゲームだからこそのシステムなので手に入らないだろうが、この世界でも試合に勝てば報酬と、ついでに相手の装備品も手に入れることができる。

 公衆の面前で死体から剥ぎ取るのか? と恐れ慄いていたが、どうやら参加者は必ず『みね打ちの腕輪』という手加減のスキルが付与される装備を着用しなければならないのだそうな。うん、周回プレイヤーの俺も知らないアイテム出てきちゃったよ。そんなものがあるならハイエナ行為がどれだけ楽にできたことか……ッ! 

 

 で、それがモーニング土下座にどう繋がるのかというと。

 

「ボスフロアでの苦戦から早めに上級職にクラスチェンジをする方針に決定し、速さも最大のクラス限界の20に届いていたからとお前をファルコンナイトにクラスチェンジさせた影響がなぁ……」

 

「力がヘタレたからって荷物運びとホームの雑用ばっかさせられとったのが、魔法武器ぶんぶん振り回して闘技場でボロ勝ちしとんの見たらウチだって同じこと思うわ。風の槍どころか予備の剣も細身や鉄やのうてサンダーソードやし、そら土下座ぐらいなんぼでもするわなぁ」

 

 

 このゲームの成長率はかなり渋い。最低保証として必ずふたつは能力が上昇すること、クラスチェンジするとレベルが1になるためいくらでもレベルを上げられること、力の雫や竜の盾などの強化アイテムがいくらでも手に入ること、メタルスライムポジションの銀の幻影兵や金の幻影兵といった累積レベルに関係なく大量の経験値をくれる敵がいること、これらの要素から素の成長率はそれはもう渋いのだ。

 当然、対戦相手はそのルールに則った成長とステータスをしていることだろう。だがアーリィは違う。雑用ばかりさせられていたおかげでレベルが低く、星屑のチョーカーによる成長率と最低保証の両方にボーナスが加算された状態でじっくりレベルを上げることができたし、ファルコンナイトにクラスチェンジしたお祝いに天使の衣という最大HPを増やすアイテムもお試しで使っている。

 

 まぁ、普通に戦えば負けないっていうね。それでも風の槍とサンダーソードを欲しがる連中が多くて対戦カードを組むのには困らなかったらしいが。あとはペガサス系の恩恵で飛行レベルよりも品質の良い天馬の腕輪を装備しているのも原因かもしれない。

 騎乗中、速さと幸運と守備力にプラス3のボーナスが付与される角付き天馬。うん、装備できるかどうかはともかく欲しいかもな。自分が使えなくても高値で売れそうではあるし。これ第30階層以降の幻影兵からドロップしたアイテムだから、この世界での希少価値は高いはずだ。なんなら、目ざとい人間なら欲に目が眩むより先に訝しむことだろう。

 

 ちなみに上級職ということで、同じレベルのスナイパーとも対戦カードが組まれたりもしたのだとか。可哀想に、鎧の内側に弓攻撃を無効化してくれるデルフィのお守りを5つも仕込んでいたとは夢にも思わなかったに違いない。

 スマンね、俺にとっては万が一に備える貴重品じゃなくて取り敢えず持たせる消耗品でしかないんだ。だってわざわざ飛行ユニットを弓兵の中に突っ込ませたりなんてしないから、周回するほど余るんだもん。ゲームだとアーマー系か回避高いユニットで釣り出せばいいだけだったし。

 

「ま、よかろう。空の手札は私も欲していたところだ。4人もいればいくらか攻略も楽になることだろう。……それにしても、ペガサスナイトは不遇な扱いを受けるのが普通なのか? 自分から頭を下げて奴隷にしてくれと頼むなど相当、アレだぞ?」

 

「別にペガサスナイトに限ったことやあらへんよ? 司祭さんはなんぼでもクリアした階層でレベル上げたらええやんの精神やからピンとこぉへんだけで、力の伸びが悪い物理アタッカーの扱いなんてどのクラスでも似たりよったりやろ」

 

 うーん、わからん。だって力が足りなければ手数で補えばいいし、安定して攻撃を当てられるなら仲間との連携でどうにでもなるだろうし。そりゃ、縛りプレイとかRTAみたいに限られた戦力で攻略しなきゃいけないとかなら攻撃力はかなり重要になるだろうけどさ。

 

 ま、いいや。

 

 他所のクランの事情なんぞ俺には関係ない。ふたりのペガサスナイトに隷属の紋章石を使ってサクッと奴隷化して戦力確保。やったぜ。

 しかし手放しで喜んでもいられない。人が増えるということは、居住スペースも必要になるということ。隷属の紋章を刻むのはあくまで神竜の塔を攻略して日本に帰るためであって、尊厳を踏み躙って優越感に浸るためでは断じて無い。

 

「増築が必要だな。しばらく探索は無しにして、ホームの拡張を頼むとしよう」

 

「ほな、新しい我が家のお披露目まで、しばらくの間は自由行動ってコトかいな?」

 

「それも考えたが、丁度いいタイミングだ。増築工事の間に3人組の里帰りを済ませてしまおうじゃないか」

 

 

 ◯□◯□ー

 

 

「うぉぉ……あたし、いま、ちゃんと冒険してる……ッ! コレだよコレぇ! こういうのを求めて田舎を飛び出してきたんだってば……ッ! ぬふ、ぬふふふ……♪」

 

 旅人のために用意されている簡素な野営地にて。

 

 よほどテンションが上がっているのか、奴隷の証である真紅の右眼さえもキラキラさせながら新たにロプト教団に加わったペガサスナイトのシルメリアは干し肉と芋と豆のスープをくるくるとかき混ぜていた。

 英雄王の街から出る依頼は以前に所属していたクランでも何度か引き受けたことがある。そして毎回のように延々と雑用だけを押し付けられていた苦い思い出も、メンバー全員で平等に役割分担をして活動する喜びでガッツリ現在進行形で上書きされているらしい。

 

「シルメリア様、トマトスープの味付けを確認していただけますでしょうか?」

 

「オッケー! どれどれ……うん、いいねぇ! マルフィーちゃんなかなかいいセンスしてるよ! それじゃあピクルスの用意もパパッと終わらせちゃおうか!」

 

「はい!」

 

「うぉぉ……なんて素直な返事ぃ……ッ! カワイイ……めっちゃ尊い……なんであたし奴隷になってからのほうが充実してんの意味わかんない……でも思い切って良かったマジで……ッ!」

 

 

 似たような境遇のペガサスナイトが闇市に消えていった。

 

 その翌日には貴重な魔法武器を担いで意気揚々と神竜の塔から出てくるところを目撃した。

 

 彼女がかつて所属していたクランの人間たちは、その様子を役立たずが奴隷に落ちてこき使われていると笑っていた。

 

 

 だがシルメリアはアーリィの表情からそうではないと即座に理解した。というか、魔法武器を任されている時点で戦力として期待されているのは一目瞭然だろうに。お前らの目ぇ節穴過ぎんか? そんなんだから無謀にも第15階層に挑んでボロボロになるんだよバーカと声に出さず笑っていたときは心が洗われるかのようだったとかなんとか。

 

 しかしイヤな連中が不幸になる姿を眺めていても自分を取り巻く環境は変わらない。だからといって闇市で活動している探索者クラン、それもメンバー全員を奴隷で固めている人間なんて信用できるワケがない。

 それでもあのペガサスナイトは毎日キラキラした表情で神竜の塔へ出入りしている。シルメリアの迷いは日毎にどんどん大きくなり──アーリィが上級職のファルコンナイトにクラスチェンジして闘技場に現れたことで決意を抱いた。

 

 

 そうだ、あたしも奴隷になろう。

 

 でも怖いから誰か巻き込んどこ。

 

 

 似た者同士の顔見知り、しかしほとんど会話したことのないペガサスナイトを勢いだけで口説き落とし闇市に乗り込むなどという暴挙を迷わず実行したことについての是非は置いておくとして。

 不足している力を補うためだと貴重品であるステータス上昇アイテム『力の雫』を与えられ、やはり貴重品であるステータス上昇効果の付与された天馬の腕輪を渡され、残念ながら魔力が低いことから魔法武器までは任されなかったものの。ここまで至れり尽くせりとなれば雑用係で終わるワケがないと期待値は爆上がりである。

 

(あの3人、確かどっかのチームに騙されて犯罪奴隷にされたんだっけ? それがパラディンとグレートナイトと司祭になって凱旋だっていうんだから、世の中わかんないねぇ〜。全員アレだけど。奴隷だから右眼が揃って赤いけど。それはあたしも一緒か! あっはっは!)

 

 何処からともなくバーサクが直撃したりはしていない。彼女はいたって正気である。ただ、この里帰りという名の遠征が終われば、ある程度実力に見合った階層でレベル上げを実行し、レベルがクラスチェンジ可能となる10になればゴールドプルフを使わせてもらえるということで頭が少し残念なことになっているだけなのである。




作者はレベル20まで上げてからクラスチェンジする派です。

覚醒のハードではそのこだわりも断念しましたが。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。