百階層攻略後に日本に帰れる(かもしれない)ゲーム転移。   作:はめるん用

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橋の端から端まで走る第25階層。

「ドラゴンマスターを先頭に飛んでくる竜騎士部隊、ね。お空が晴れてるぶん見通しは良好だけど、なかなか肝が冷える光景だねぇ? 本当に……さすがの俺っちでも()()()()()()ちぃ〜っとだけ焦ったもんな。──さぁて、そんじゃ“今回も”遠慮なく狙い撃つとしますか!」

 

 迫りくる竜騎士の群れを前にして、不敵に微笑みながらリカールが魔法の弓を構えた。

 

 通常の弓とは違い魔力の矢の実体化まで時間を必要とするため接近されたときの対処は何倍も厳しくなるものの、風速や距離などの影響を受けにくく長距離狙撃が可能であり機動力のある敵が相手でも先手を取ることができる。

 さらにはアーチャーがレベル10で習得できるスキル『命中強化』による集中力の強化、そこに新たに渡された装備『狙撃の腕輪』による飛距離の増加と『必殺の腕輪』により鋭利な刃物のように研ぎ澄まされた第六感が加われば。

 

 

「地面にキスでも……してなッ!」

 

「ギョァ──ッ!?」

 

 

 必殺の一撃。

 

 先頭で鋼の斧を勇ましく掲げて突撃の合図を出そうとしていたドラゴンマスターは、飛竜の頭ごと胴体を射抜かれて地面に叩きつけられた。

 

「んっん〜♪ 俺っちってばナイスだねぇ! ま、スナイパーとしてこれぐらいの仕事はして見せないとな。ほんじゃルカ、団体さんのお相手は任せるぜ?」

 

「はい、お兄様。フフフッ、数を揃えてこその絡繰師……充分な品質のオートマータを託されているのですから、しっかりと活躍している姿をご主人様に見ていただかなくてはいけませんね?」

 

 馬の代わりに騎乗しているイノシシを模したカラクリ人形を操る『亥神の腕輪』とは別に渡された、もうひとつのオートマータが封印された『寅神の腕輪』を掲げたルカの周囲に11体の虎が一斉に実体化する。

 事前に矢を飲み込ませることで装填しておかなければならないのが手間ではあるし、オートマータの出来が良くても絡繰師のステータスが低ければその性能を充分に引き出せない。だがそれらの前提条件さえクリアしてしまえば単独で複数の敵を相手にすることも可能で、戦況を大きく動かすこともできるのだ。

 

(そういえば、オートマータを実体化したときのご主人様のリアクションは面白かったな。どういうワケか絡繰師の技の半分じゃなく、十分の一で計算してたんだよな〜。ポロッと危ない知識を口にするわりに、こうゆう常識的なトコが抜けてんのがまた。素直に驚いて喜んでるところは人間味があって嫌いじゃないけど)

 

 我らがロプト教団の自称最高司祭はルカの技がクラスチェンジボーナスを含め23まで成長していることから2体のオートマータを操れる、という前提で攻略を考えていたらしい。それが想定よりもはるかに多い11体まで同時に実体化できると見せられたときの「なん……だと……ッ!?」という雰囲気は実に愉快であった。

 

「それを知って出てくる言葉が“より安定してレベル上げができる”なところが実にご主人様してんよなぁ。表通りの探索者からはビビり野郎と笑われたかもしれないけど、実際は誰よりも先に第30階層に挑む前提っていうね。いや〜、マジでなぁにが待ってんだろうな〜?」

 

 一度失敗して奴隷に落ちているのにも関わらず反省していないのか、それとも反省はしているものの好奇心を抑えるつもりがないのか。自分たちはいま未知のエリアに踏み込むために準備をしている、そのことにワクワクしながらルカの放つ矢嵐を抜けてくるドラゴンナイトを抜け目なく射抜くリカールであった。

 

 

 ◯□◯□ー

 

 

 第25階層は自軍の拠点がある島と幻影兵の拠点がある島がふたつの大きな橋で繋がれている。片方はペガサスやドラゴンを含めたナイト系を中心とした幻影兵が配置されており、もう片方は中継地となる島に建設された砦に長距離兵器であるクインクレインがずらりと並んでいた。

 その特性から正確に狙いを定めることが難しい大型兵器も、橋の上という限定された場所へ攻撃するのであれば話は変わってくる。城下街の大通りほどにタップリと幅に余裕があろうとも動ける範囲が限定されている以上、正面から次々と飛来してくる槍ほどの大きさの大矢をくぐり抜けるのは簡単ではない。

 

 但し、何事にも例外というものは存在するが。

 

「ドラゴンナイトたちが墜ちていく……リカールたちは上手くやっているようだな。さて、ならば私も負けていられん。敵の長距離兵器を黙らせなければ、向こうの橋を渡る味方も狙われてしまうからな」

 

 漆黒の鎧馬に跨りながら、勇者にクラスチェンジしたアストラが敵陣を鋭い視線で睨みつける。

 

 1度目の攻略では慎重に様子見をするべきだと、重装の腕輪で守りを固めてじっくりと戦線を押し上げた。

 2度目の攻略では敵の兵種や配置の傾向は理解できたと、騎馬の腕輪を使って早々に懐に潜り込んだ。

 

 そして今回。ナイト系のように兵種ボーナスが得られない中でも地道に騎乗レベルを鍛えていたことで、力と守備力にボーナスが付与される黒騎馬の腕輪が装備できるようになった。

 使い手のタフさを支えてくれる代わりに機動力でほかの騎馬の腕輪に劣るものの、そこは移動をサポートしてくれる効果を持つ『行軍の腕輪』を組み合わせることで解決しているためなにも問題はない。

 

「あとは、この槍に恥じないだけの戦果を上げることができるかだが……いや、違うな。仮にも勇気ある者という肩書を得ておきながら、そんな軟弱な気概でどうする。せっかく名槍を手にしたのだから、この昂ぶりを楽しむぐらいで丁度いい」

 

 左腕には鎧を脱ぐ代わりにと渡された銀の盾。そして右手には、かつて帝都の居城にある宝物庫で「これほど見事な槍は大陸にふたつと無いだろう」と説明を受けながら眺めていた鈍い青色の槍に良く似た形の、しかしそれとは真逆に凪いだ湖面に広がる空色のように鮮やかに輝く『勇者の槍』が握られている。

 

 勇者というクラスの槍レベルはBが限界であり、本来ならば要求武器レベルがAである勇者の槍を完全に使いこなすことはできない。だがアストラは稀に存在する“天性の素質”の持ち主であったらしく、限界を超えて槍の武器レベルが上昇したのだ。

 アストラ自身は自分のことを天才だなどと思ったことはなく、むしろ与えられた地位に見合わない凡人であると信じて疑っていなかった。なので自分が槍の天性素質の持ち主だと知り勇者の槍を手にしても実感など欠片ほどにも湧いてこないのだが、強い武器を振るうという戦士としての喜びは別である。

 

 

 ヒュッ……と槍で空を切り、次々と襲い掛かる大矢の中へ躊躇うこと無く突撃する。

 

 

 世間の評価ではこのエリアを攻略した探索者クランは上澄みとされている、しかしロプト教団にとってはまだまだ序盤という認識。故に、クインクレインを操る幻影兵が()()()()()()()なのだと思えば恐れる理由などアストラには無い。

 狙いが荒いのはもちろん、武器の威力と射手の力を足した攻撃力は18しかない。守りの薄い魔道士やシスターが狙われれば無事では済まないかもしれないが、本人のステータスと腕輪の効果に銀の盾の防御力、それらを全て合計したアストラの守備力は25。力も20を超えているため、正面から盾で受け止めても余裕で耐えられる。

 

 だからといってバカ正直に当たる理由はない。乗馬そのものは得意ではないが、腕輪によって召喚された魔法生物であれば所有者の思い描く通りに動かすのも──体力だけでなく精神力にも負担がかかるが可能なのだから。

 

 

 橋を渡り切る、直前に立ち塞がるのはアーマーナイトの部隊。動きが限定される戦場で頑丈な壁を構築し、その後ろから弓兵が狙撃してくるという丁寧な戦法は、序盤の階層ではあまり見る機会は無かったものだ。

 迂闊に魔法ユニットを前に出すワケにもいかないので、アーマーキラーや希少な魔法武器を持つ前衛職が遠くからリブローによる回復を受けつつ壁を崩す。おそらくはそれが正攻法であり、自分たちも初回での挑戦ではそれに近い戦い方で攻略している。

 

 アーマーナイトの全身鎧の防御力は中級職でありながら、上級職の攻撃力でも簡単に貫くことはできない。戦いにおいて相手の選択肢を狭める存在というのはそれだけで厄介なのだが、繰り返し同じフロアで何度も戦っていれば攻略法も見つかるというもの。

 

 確かに全身鎧の頑強さは侮れない。

 

 だがアーマーナイトはジェネラルと違い、1箇所だけ明確な弱点がある。

 

 

「──その首、貰い受けるッ!」

 

「ペギャ……ッ!?」

 

 

 必殺の一撃。

 

 視界確保のために開いた顔の部分を、騎乗での突撃の速度そのままに勇者の槍で貫く。そのまま力任せに押し切れば、哀れ頭部を失ったアーマーナイトはドロリと溶ける泥のように地面に倒れてしまう。

 勇者の銘が刻まれた武器を持つ者は誰でも鮮やかな連撃が可能になる。貫いたままの兜を穂先から外すついでといった様子で、アストラは勇者の槍を振るい自分を狙って放たれた大矢を3本ほどまとめて切り払った。

 

(槍と盾を構えて単騎で敵陣を斬り裂く。眠くなるほど繰り返し聞かされた帝国の始まりを思い出すな。最早、私にはなんの関係もない話だが)

 

 それを多くの人間に望まれ期待された。

 

 それが義務であると努力を続けていた。

 

 奴隷となったいまでは全てが無意味……とまでは言わないが、果たすべきだった役割を失ったのは事実。そもそも公的には死者として扱われているであろう自分が帝国の未来を案じるのは身の程知らずというものだろう。

 だからといって責任のない気楽な立場に甘んじるのは無責任なのでは? と根が真面目なアストラはどうしても考えてしまうことがある。幼い頃からなにかと世話を焼いてくれたデルムッド曰く「世界を支配するほどの権力と財力があっても、対等に轡を並べる戦友を得ることは不可能なので結果オーライでございます!」と笑っているのだが。

 

 わからない、ことはない。少なくとも弟妹や義母たちの差し金で砂鉄を混ぜられた食事に警戒しながら生活するよりは、男たちだけで焼き菓子に挑戦して材料をひっくり返し小麦粉に塗れて真っ白になっているほうが何倍も充実を感じている。

 

 なればこそ。

 

「ロプト教団の、戦友たちを守護する盾役として『太陽』の技はどうしても欲しいのでな。少しでも早くレベルを上げるためにも、お前たち幻影兵に特別恨みなどはないのだが──悉く、我が成長のための糧となるがいいッ!!」

 

 気品を失わない、しかし好戦的な笑みを浮かべ幻影兵たちを向き直るアストラ。それを正面から受け止めた幻影兵たちが「次階層の魔法陣を守る大将でもなければ強化タイプでもない、ただの砦を守備するだけの雑兵がなんで勇者の槍をブンブン振り回してるようなヤツと戦わなきゃいけないんだよ……そんだけ強いならさっさと上の階層に行ってくれよ……」とでも言いたそうなゲンナリとした表情に見えるのは目の錯覚とは言い切れないのかもしれない。

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