百階層攻略後に日本に帰れる(かもしれない)ゲーム転移。 作:はめるん用
「私が提案しておきながらこんなことを言うのもなんだが……子どもたちの食付きというか、食欲? ともかく食べっぷりが凄いな」
「白飯にたぬき用の天かすと蕎麦つゆなどを和えたおむすび、評判はなかなかですよ。お蕎麦をお召し上がりにならない方でも、このおむすびはご購入いただけることもあるぐらいです」
神父(仮)が教会で保護している子どもたちに悪魔のおにぎりは大変好評なようでして。蕎麦屋の店長ことセイカイさんが言うには、英雄王の街にいる列島諸国出身の人たちにも驚かれたとかなんとか。簡単なレシピなんだけど、案外思いつかないもんなんだな。これがいわゆる“コロンブスの卵”って現象か。
なんの偶然か、たまたま同じタイミングでやってきた訪問者の面々からの評価もお高い。お助けバーサーカーコンビのショコラとプディング、行倒れ勇者のホルバイン、未来の顧客への先行投資といって慈善事業にも参加している行商人系ストラテジストのアンナさん、なんか面白そうな気配がしたからとひょっこりやってきた絡繰師お母ちゃんラキアにソードマスターお婆ちゃんブランダと……普段もクロード神父が追加で保護した子どもたちが増えたことで賑やかなものだけど、大人が多いとまた雰囲気が変わるもんだな。
「ただの偶然で上級職ばかりが集まるとは、いったいどんな確率なんだか。まぁいい、店主にはあれからどうなったのかを聞きたいと思っていたからな。私が預けた刀は、少しは役に立ったのか?」
「屍狂い病の調査という意味ではあまり進展に期待は……とのことでした。所有者のHPを威力に変換する様子は呪いのようではありますが、あのアシュラという刀そのものからは悪意や害意は感じられなかったと」
「そうか。強い力は人の心を惑わすもの、という解釈であれば屍狂い病にも通じるものがあるかと思って提供してみたのだが。一応確認するが、妖刀アシュラそのものが新たな火種になったりはしていないだろうな?」
「火種、というほどのことではありませんが……屍狂い病の罹患者を誘き寄せるためのエサとして使えるのでは? というところまで話が進んだのは良いのですが、誰が囮になるか如何にして決めたものかとなった段階で名乗り出る者が何人も現れまして。命を喰らう妖刀ではあるものの、そこに悪意が無いのであれば是非とも一振り試してみたいと」
「……その考え方はもう、半分くらい屍狂い病の仲間入りをしているのでは?」
「私のほうからはなんとも。侍と忍者では武器に対する考え方が違いますので。任務を完遂できれば名刀だろうと爪楊枝だろうと関係ありません」
必殺仕事人かよ。心構えの話なんだろうけど、普段は蕎麦屋を営んでカモフラージュしている忍者がそういうこと言うと説得力が違うな。もっとも、セイカイさんが言うにはそこまで積極的に正体を隠しているワケではないらしいが。自分が不自然に目立つことで、ほかの忍者たちが活動しやすくなるのだと。
なんか、ゴメンね? 屋台でお蕎麦食べてるときに向こうの壁に寄りかかって寝たふりしながら俺を警戒しているのは仲間なのかと質問しちゃったりして。だってミニマップで黄色の点があったからさ〜、確認してから対処すればいいかなって良かれと思って聞いただけなんだよ〜。お仲間さんだったら問答無用で魔法ブッ放すのもアレかなって。
さてさて。
特に理由もなく気まぐれで様子見に来たけれど、これといった用事があるワケでもないし周囲もだいぶ薄暗くなってきた。そろそろ帰る……前に、セイカイさんに天ぷらのリクエストでもしておこうかな。この世界の天ぷらって何故か野菜しかないから、ちくわとか鶏肉とかを屋台で出してくれないか頼んでみよう。
「店主、蕎麦屋のお前にひとつ頼みたいことがあるのだが」
「なんでしょう?」
「実は天ぷらで食べたい食材がいくつかあってな、代金とは別に材料費も出すからどうにか引き受けてほしい」
「ほぅ、それは私としても興味深いですね。天ぷらに使う野菜は列島諸国でも英雄王の街でも定番のものばかりですか、どんな食材をリクエストなさるのか楽しみです」
「感謝する。──それと、追加で忍者としてのお前に護衛の依頼ができたよ。たったいま」
「……内容のほどは?」
「護衛対象は闇市の外れにある教会、そこに暮らす神父と子どもたち。悪いが詳細を説明している暇はない。報酬はそちらの言い値で支払おう」
「わかりました。私でよければ引き受けましょう」
話が早くて助かる。ほかの面々にしても臨戦態勢に切り替わるまで一瞬だったな。子どもたちが空気の変化を敏感に察知して身体を寄せ合っているのは……アレか。最初にクロード神父が連れてきた子たちが率先して動いたからか。ここにたどり着くまでの経験が活かされているのかな? どんな環境にあったのかについては、正直あまり深く考えたくはないな。
「ふ〜ん? 薄汚い殺気が僅かに漏れ出しているか。しかしあんたに指摘されるまで気づかないまま接近を許すたぁ、あたしも冗談抜きで耄碌したかねぇ。──包囲されたか、偶発的なモノじゃないね」
「練度の高い強盗集団ならそれはそれで厄介だがね。ショコラ、プディング、悪いが子どもたちを護るため、命という名の盾となってくれ。もう逃がすのは無理だ。いまから隷属の紋章に命令してロプト教団のメンバーを呼び寄せても間に合わん」
「お安い御用だよ司祭さま! 僕たちの筋肉はこういうときのためにあるんだからね!」
「任せておくれよ司祭さま! 僕たちのボディは誰かを守護るために鍛えたのだからね!」
う〜ん、頼もしいことで。バーサーカーということもあって防御系は最大HPだけで受ける形になるけれど、ゲームとはステータスの働きが違うからな。案外、筋肉を収縮させたり振動させたりして特殊な防御を展開してくれるかもしれない。なんかこう、ソニックシールド的な? それもうバーサーカーじゃねぇな……。
と。
子どもたちを守るため、ひとり中級職のクロード神父を含めてぐるりと円陣を組んでいるところに完全な敵対者であることを示す赤い点が歩く速さで近付いてきて──いやメッチャ赤いな!? どんだけ敵意を剥き出しにしてんの? そんなに危険な相手なの? それともミニマップくんは包囲してきている連中にお仲間でもやられてしまったのだろうか。
「おや、愛弟子に会いに来ただけでこれほどまで剣呑な歓迎を受けることになるとは思いませんでしたね。ホッホッホ」
見た目は穏やかな年配男性の司祭。クラスも司祭。最大HPは40か、結構あるな。ほかのステータスはだいたい15らへん、魔力だけが24と飛び抜けているけど、ミニマップの表示が激しく赤いわりにそんなに強くないな?
多少の攻撃は俺の魔防なら余裕で耐えられるが……切り札のマフーは使えんな。リザイア、シャイン、ディバインと光魔法標準セット持ちだ。遠距離魔法のパージが無いだけマシかな。武器レベル不足で装備できなかったのか、それとも遠距離魔法そのものが希少なのか。異世界モノの定番で考えるならレア物扱いのパターンがありそうだ。
「愛弟子、ね。クロード神父、お前の知り合いか」
「……孤児であった私に杖と指輪の使い方を教えてくれた恩人です。お師匠様のおかげで私は女神教団の僧侶として、決して裕福とは言えませんがそれでも穏やかな日々を過ごすことができました。本当に感謝していましたよ────女神教団が、各地から集めた子どもたちを利用して非人道的な儀式を行っていると知るまではッ!!」
で、出たぁ〜ッ! ファンタジー世界のお約束、子どもを生贄にするタイプの組織ぃ〜ッ!
「ふぅ……信徒クロード、また貴方はそのようなことを。あれは聖女セリカの使命を受け継ぐ者が現れたときに備えて行われている、世界に平和と安寧を取り戻すために必要な儀式なのですよ? それを非人道的だなどと、未来のために礎となった彼ら彼女らに対して失礼ですよ」
「あの光景が……ッ! あの儀式がッ! 隷属の紋章で意思を奪い、強制的に命を差し出させるような行いが平和に繋がるとッ! そんなことをお師匠様は本気で仰っているのですかッ!!」
な、なんだってーッ!?
それ、奴隷を使って神竜の塔を攻略してる俺とやってることあんまり変わらんよな……。あー、でもクロード神父の言い方というか、テンションから察するにダイレクトに生贄にしてるタイプの儀式っぽいな。そうでなければ俺に対してもっと厳しい視線を向けてるはずだし。
しかし聖女のために子どもの命を生贄にする儀式ねぇ。ミラ様はもちろんのこと、なんならドーマ様だってそんなん喜ばんだろ。暗黒竜でも復活させるつもりか? 女神教団の上層部にクラスではなく仕事で暗黒司祭やってるヤツでもいるんか? ゲームシステム的には隷属の紋章で生贄にするって部分と合致するけど。
ほかの可能性としては……ライナロック、か? 神器を修理するためにはハマーンの杖が必要だが、一周目ではそう簡単には集まらない。なので杖を手に入れるまではもうひとつの方法、奴隷属性のユニットで“捧げる”というコマンドを使うことになる。もちろんユニットはロストするし、レベルが低いと効果も低いので数を用意する必要がある。
ええ、俺もバッチリやりましたとも。だってゲームだし。それに捧げた奴隷の人数が暗黒司祭のクラスの開放と闇魔法マフーの獲得条件だったし。当然ながら闇のオーブを入手することも条件に含まれている。闇のオーブに人の命を捧げて神器を獲得するとか完全にやってることが魔王ガーネフに近い……いや、暗黒竜の生贄にシスターは用意してたけど、マフーは自力で開発したんだっけ? だとしたらこの世界から見れば俺はガーネフを超える超悪党ってことになるな。うん、それはそれで良し。
ともかく。女神教団の噂話っつーか伝承を参考にするなら、もしかして子どもたちを生贄にしてライナロックの指輪を復活させようとしているのかな? 聖戦の3属性の指輪も俺が持ち込んでるヤツとは別にこの世界に存在しているぐらいだし、ライナロックだって存在しててもおかしくはない。
だとしても、ステータスなんて雀の涙ほどしかない子どもを捧げるなら確実に大勢の犠牲が必要になるだろうに。まず最初にレベルもステータスもそれなりに高いお前ら大人が率先して礎になればいいと思うんですがね? でなきゃハマーンの杖を探せよ。いや、そっちは無理か。そういえば30フロアよりあとの強敵枠の幻影兵がドロップするアイテムだったわ。
うーん。そのあたりの要素とか、そもそもライナロックの指輪が第30階層でファイアーエムブレムの中核となる『炎のオーブ』を入手してないと獲得できんのだが……なんか過去に神器を持ち帰ったとかなんとかいう伝承があるって話だし、ライナロックの指輪も誰かが持ち帰って女神教団を設立したのかな?
むしろそうであって欲しい。これで炎のオーブごと持ち出されてたら望まなくても宗教戦争不可避だよ。よりにもよってロプトウス様を信仰しているという設定の俺が、実態はともかく表向きミラ様を信仰していることになっている女神教団と争うとか ……え? これ同人ゲームの世界だよね? なんか俺の知らない新しい伝説とか始まってる?
……あんまりこういう頭を使うやり方は得意じゃない、どころかメッチャ苦手なんだけど。会話で情報引き出せるか試してみるか? 俺は知ってるんだぞムーブとかで。
とりあえず、場の空気を変えるために笑うか。
「フッ……ククク……ハハッ、ハハハハ……ッ!!」
「司祭、様?」
「うん? あぁ、すまんなクロード神父。あまりにも滑稽なものだから、つい笑い声を抑えることができなかったよ。それで、どうやら大勢の生贄を捧げているようだが──神器ライナロックの復活は叶いそうなのかね?」
『『────ッ!?』』
「……いったい、なんの話ですかな?」
「指輪をどこかで発見したのか、あるいは女神教団設立のころから現代まで丁寧に相続されてきたのかは知らんが……どうせ復活させたところで扱える者などそうおらんだろうに。そもそも、無知なる民衆を支配するための偶像崇拝なら適当な細工職人にレプリカでも作らせておけばよいのだ。
まったく、仮にもミラのことを信仰の対象としておきながら子どもを生贄にして神器の封印を解こうなどとはどこまでも恥知らずなことをする。かつて人間には試練を与え成長を促すべきだと主張し、ミラと意見を違えたドーマでさえも呆れる愚行だよ。まぁ……人類の繁栄を願う豊穣の女神に唾吐く真似をしておきながら成果を出せずにいる姿は愚かを通り越して哀れですらあるがね」
本作のアンナさんは魔術ユニットです。
ちなみに作者は風花雪月でホーリーナイトにしてました。