百階層攻略後に日本に帰れる(かもしれない)ゲーム転移。   作:はめるん用

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第4階層を出たり入ったり。

 この世界は単純引き算の世界だと言ったな? 

 

 スマン、ありゃ嘘だ。

 

 

 ゲーム世界転生や転移で知識の中にあるシステムとの誤差を体感してプラスになったりマイナスになったりってのは定番の流れだが、やっぱりあったよこのファイアーエムブレムの同人ゲームの世界にも。

 どうやらステータスの数値が示すのはその人物が発揮できる最大の能力値のようだ。つまり自由に手加減できるので途中加入の弱い味方も簡単にハイエナ戦法ができる、なんて素晴らしい誤算なんだ! ……と、簡単な話では終わらない。

 

 それはつまり守備力や魔法防御も油断していると最大値では機能しないということ。一応プレイヤーの特権としてミニマップ的なモノは確認できるので、敵意のある人物が接近すれば簡単に察知できるのだが……スキルやアクセサリーの組み合わせは慎重に考えないと浅い階層でも死ぬ危険性があるな。

 最悪の場面を想定するなら、不死鳥の紋章石というHPがゼロになったユニットのロストを防いでくれるアクセサリーもある。が、コレ戦闘を終わらせるか撤退するかしないとユニットが復活しないんだよな。この世界ではどんな扱いになるのか未知数だから、できれば誰かで実験して効果を確かめたいところだ。もちろん味方以外で。

 

 しかしそうか、ステータスは絶対ってワケじゃないんだな。やっぱり槍の切っ先が小指をかすった瞬間HPがゼロになった相手が「ぐはぁッ!!」とかいって全身からいろんな液体を撒き散らして倒れるとかはならんのだろうか。そんなギャグマンガ日和みたいな光景もあるいは……? なんてこと思ったりもしたのに。

 

 と、なると。

 

 なかなか盾系のアクセサリーも重要度は高くなるか? 使い方次第では数値以上の働きをしてくれるんじゃなかろうか。

 

「革の盾、鉄の盾、鋼の盾、魔法の盾は……まだ必要ないな。最初のボスフロアである第5階層への挑戦に備えて用意してみたが、問題は速さの低下に見合うのかどうか」

 

「確か、幻影兵の装備が壊れた武器ではなく鉄の武器になるんだったな。なら、壁役の私は鋼の盾を借りるとしよう。HPは23、守備力も7まで成長している。なら、アーマーナイトの真似事ぐらいはできるだろう」

 

 レベル1から6まで成長5回、まさか全部守備力を引けるとは思わなかったわ。これに鋼の盾の防御力5を加えて12、ボスフロアの幻影兵がゲームと同じステータスなら力が3に鉄の斧の威力7を加えて10。アストラは位置取りに注意しながら守りに徹すればノーダメージ余裕だな。

 

「ん〜、俺っちは無しで。弓兵が殴られるような立ち回りしてたら、この先生き残れないだろうし。援護と撹乱に集中させてもらうぜ?」

 

「えっと、それじゃあ僕も盾無しでお願いします。その代わり、頑張って最大火力で魔法が使えるようなんとかしてみます!」

 

「私は鉄の盾を借りるわ。アストラほどじゃないけどHPも守備力も成長したし、まぁ……なんとなるんじゃないの? まさか斧殺しのスキルを持ってるような幻影兵なんて出てこないだろうし」

 

 俺はこの世界が難易度ルナティックではないことを心から感謝している。そもそも転移しなければ、なんてネガティブ思考に陥るよりは前向きに生きたい。つーか気持ちが萎えたら百階層なんてやってられんわ! 

 

「せっかく用意してくれたあるじ殿には申し訳ないのですが、私は盾は遠慮させていただきたいですなぁ。これでもクラスを剥奪される前は剣士として生きておりました故、体捌きに支障が出るのはどうにも」

 

「オレは……オレは、うーん。パラディン目指すなら盾の扱いも練習したほうがいい、よな?」

 

「別にムリしなくてもいいんじゃない? アンタ村にいたときから身軽だったし、避けるほうで頑張れば。もちろんアタシは鋼の盾を借りるわ! いつかはドラゴンマスターの銀の大槍だって真正面から受け止めてやるんだから!」

 

「あ、ボクはなにがあっても絶対に前に出ないんでいらないですハイ。リブローも使えるよう全身全霊全力の死ぬ気で努力しますんで。リザイアの指輪も大丈夫です戦うつもりはないので間に合ってますハイ」

 

 ふむふむ。

 

「リカールとアルバの援護を受けながらアストラが正面からの攻撃を受け止めつつ前進、アンリとディナダンは遊撃として敵の数を減らす。グラナとパーシバルはすり抜けてきた幻影兵の迎撃、ユーウェインは回復に集中してもらうとしよう」

 

「で、あるじ殿は如何なされるので?」

 

「レスキューとワープを準備しておこう。私ではレベル差が大きすぎて経験値が全く入らないからな」

 

 本作はレベル差で経験値に補正がかかるシステムである。そして俺にインストールされているのはスキルを集めるために片っ端からクラスチェンジしてレベル上げたキャラクターなので、自分自身が強くなる楽しみなんてものは無いのである。

 わちゃわちゃと忠実な手駒たちがレベルアップする様子を高みの見物する時間こそが俺の渇きを癒やしてくれる……なんか悪役貴族の遊びみたいだな? 実際いまのクラスは暗黒司祭だし、奴隷の命を目的のための道具として利用しているのだから言い訳の余地なんて欠片も無いけど。

 

 ほんで。

 

「レベルも充分、全員ブロンズプルフでクラスチェンジも済ませた。このまま第5階層に挑戦しても攻略できる条件は揃っている。危険だと判断すれば撤退すればいいし、いざとなればメガレスキューもあるんだが……もう一度、第4階層で盾の使い心地を試したければ」

 

「ぜひやりましょうそうしましょうッ! 大丈夫ですもしも皆さんの盾が汚れたり壊れたりしたらボクが責任を持って徹夜してでもピカピカにしてみせますから確実に安心安全に攻略できるよう万全の準備を整えましょうッ!!」

 

「わかった、いいだろう。ところでディナダン、パーシバル。ユーウェインは以前からこうだったのか?」

 

「こんなんですが、悪いヤツではないですよ?」

 

「やる気がないとか、悪気みたいなのはたぶんないです」

 

 

 ◯□◯□ー

 

 

「鉄の盾、案の定新品なのね。これなら安心して受け流しもできるわ」

 

「ギッ!?」

 

 幻影兵が振り下ろしたボロボロの剣を、グラナはまるで羽虫を追い払うかのような軽々とした動作でいなしてみせた。守備力の数値はアストラに及ばなかったものの、性別による成長率の差で速さと幸運が伸びているため回避能力が強化されているのだ。

 

 もちろん鉄の盾そのものが頑丈であることから受け止めることでダメージをゼロに抑えることもできた。それでもグラナがあえて受け流したのは、相手の体勢を崩すことで確実に最大値の攻撃力を叩き込むためであった。

 新しく渡された鉄の斧の威力は7、戦士のクラスチェンジボーナスが加算された自前の力を足せば11。第4階層の幻影兵のHPは多い個体で16ほどあるため一撃で仕留めることはできないが、一手目で大きくHPを減らしてしまえば余裕を持って追撃を狙える。

 

 あるいは、状況次第ではわざと見逃して別の敵にターゲットを切り替えてもいい。このフロアは広い通路に複数の小部屋がつながっている構造であり、その中のひとつに『回復床』というギミックがあるので逃走経路は簡単にコントロールできる。

 

「幻影でありながら生きることに執着する、とは……面白いと言うべきか、哀れと言うべきか悩むところね」

 

 一目散に逃げ出した幻影兵の背中を見送る。

 

 入れ替わるように突撃してくる2体の幻影兵が、まるで仲間を庇うために前に出てきているようにも見えるのが面白くもあった。実際のところ彼らがなにを考えているのか、そもそも人間のような思考能力があるのかすらわかりはしないのだが。

 

「シャアッ!!」

 

 壊れた槍を構えて真っ直ぐ突っ込んでくる幻影兵。数が揃えば脅威だが、単体では子どもの遊びと大差ない。

 

「はい」

 

「ギッ!?」

 

「よし────砕けろッ!!」

 

 タイミングは完璧。槍の軌道を盾で逸らした動きの勢いに逆らわず、身体を一回転させるように渾身の力で胴体に斧を叩き込む! 

 

 必殺の一撃を受けた幻影兵の上半身が弾けるように光の粒となって吸収されグラナの経験値に、そして幸運の恩恵によりカランカランと数枚の鉄のコインが地面に落ちる。魔力が含まれた鉄のコインは武器や盾のほかにも様々な品に加工され、主に上流階級の人間のために使われることだろう。

 大事な収入源ではあるものの、まさか2匹目が目の前に迫っているのに悠長にかき集めている場合ではない。鉄屑などのゴミをボロ布で無理やり拳に巻き付けたソレは果たして武器と呼べるのかは不明だが、ともかく壊れた拳で殴りかかってくる幻影兵に対してグラナは慌てず冷静に盾を構えた。

 

 ガキンッ! と金属同士の衝突する音が響く。相性が悪いことが理解できないのか、それとも理解していても一番近い人間を攻撃せずにはいられないのか。どちらにせよ、大きく仰け反っている敵がただの的であることには変わらない。

 

 

 

 

「うん……まぁまぁね。余裕があり過ぎて盾の扱いの練習になってるかどうかは微妙だけど」

 

「ええッ!? あれだけ上手に攻撃を弾いているのに不満があるんですかッ!?」

 

「あら、パーシバル。そうね、自分で言うのもなんだけど悪くない動きができたとは思ってるわ。ただ相手の武器がどうしても、ね」

 

「でも当たればちゃんと痛いですよ?」

 

「動きが鈍る壊れた武器では相手の速さも下がっているもの。鉄の武器を相手にするならタイミングを間違えないように気を付ける必要があるわ」

 

「なるほど……勉強になります」

 

「鋼の盾を扱う貴女の場合、どちらかと言えば気合いと根性のほうが必要かもね」

 

「あ、それなら自信はありますよ! お父さんの手伝いでイノシシやクマの狩りについて行ったことが何度もありますので!」

 

「そうなの、偉いのね。そういえば……」

 

「はい?」

 

「パーシバルはグレートナイトを目指しているのよね? 狩りをする習慣があるなら、スナイパーやウルフナイトのほうが向いてるんじゃない?」

 

「それはそうなんですけど……アタシ、自警団に入って村のみんなをモンスターから守りたいなって思ってて。アタシの村はあまり裕福じゃないので、神殿騎士団の巡回がきてくれなかったんですよ。そりゃあ聖女様の護衛で忙しいでしょうし、仕方ないのはわかってるんですけどね」

 

「…………」

 

「だから、アタシがグレートナイトになればいつでもみんなを守れるじゃないですか。まぁ、武器とか鎧とかを買い揃えるお金はちょっと厳しいですけど、ステータスが高ければ丸太でもなんでも担いで戦えますから!」

 

「そう……。なら、司祭様に雇われているいまのうちにしっかりと稼いでおかないとね。私も応援するわ」

 

「はいッ! ありがとうございますッ!」

 

 

「…………。少なくとも、精神性なら貴方はもう立派な騎士よ。あんなクソ虫どもと比べるのも勿体ないぐらいにね」

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