百階層攻略後に日本に帰れる(かもしれない)ゲーム転移。 作:はめるん用
もう少し巧いこと複数の話に散らせるようになりたいところ。
「……さきほどから貴方はいったいなにを仰っているのか。私にはなんのことやらサッパリわかりませんな」
「そうか、なにも知らないか。冷静に考えてみれば代替品がいくらでもある使い捨ての道具を丁寧に扱う必要などないのだから、お前のような雑魚が神器の特性など知らされているワケがなかったな」
「ふぅむ。なにやら自己完結なされたようですが……まぁ、良いでしょう。貴方がなにを根拠にそのような妄言を発しているのかは存じませんが、ここでソラネルへ旅立つことになる事実に変わりはありませんからな。ホッホッホ!」
(どうやら侮辱されたことへ対する怒り以上に、司祭様へ対する恐怖のほうが勝ってしまっているようですね。余裕のある態度とは裏腹に、警戒心のレベルが限界まで強化されているのが手に取るようにわかります)
セイカイの本業は戦闘任務であり、情報収集を専門とする忍者たちに比べれば他者の心理を読み取る能力で劣っている。だが戦忍として数多の修羅場を潜り抜けた経験は伊達ではなく、女神教団の男がロプト教団の司祭を危険な相手として認識を改めたことが理解できた。
それはさきほどの発言が全くのデタラメではないと証明しているようなもの。女神教団は聖女セリカの魂を受け継ぐものが誕生したときに備えて、ファルシオンとライナロックはいつでも譲渡できるよう丁寧に保管していると喧伝していたが、そのために大勢の生贄を捧げているなどと大衆に知られればどうなるか。
皆で協力して女神教団の悪事を暴こう!
そんなことには絶対にならない。
神器は伝説ではなく実在する。そして神器は人間の命と引き換えに力を取り戻す。さて、このふたつの事実を知った欲深い権力者たちはいったいなにを考えるだろうか?
各地の伝承に残されていない神器を求めて争う、その程度であればまだどうにでもなるだろう。だが最悪の場合、
(女神教団の黒い噂については以前から調べていましたが、まさかこんな形で手掛かりを掴むことになるとは。列島諸国は自然信仰が根強く女神教団の活動はそこまで活発ではありませんが、複数の地域から良かれという思いで神殿騎士へ託された身寄りのない子どもたちも……)
そこまで考えセイカイは思考を中断した。御屋形様への報告をどうするかなど、あとで茶でも飲みながら頭を落ち着かせてゆっくり考えればいい。
いまは教会の中に押し入ってくる不届き者たちを叩きのめすのが先決。子どもたちを守護るのはもちろん、心が余計に摩耗してしまわないよう“見える範囲では”加減をしてやる必要もある。
入り口は3箇所。状況としては守りに不利ではあるが──。
「わからんな。第15階層も攻略できるか怪しい戦力で、どうしてそこまで自分の勝利を確信できるのか。きっと、臆病者でレベルをしっかり上げなければ次のフロアに進めない私には理解できん感覚なのだろう。まぁ、そういうことなのでね……戦いに自信のない私は出し惜しみなどせんよ? ──斬り裂け、エクスカリバー」
『『ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?!?』』
「…………は?」
圧倒的な暴力の前では、そんなものは無意味らしい。
「すごいや司祭さま! これは僕たちも負けていられないよプディング!」
「さすがだね司祭さま! これは僕たちも本気で戦うしかないねショコラ!」
「奥義ッ! マッスル☆セイントビームッ!!」
「奥義ッ! マッスル☆セイントビームッ!!」
『『いやそれただの体当たりほぎゃぁぁぁぁッ!?』』
「イマイチ小難しい話は理解できていねぇが……テメェらが子どもたちにとって敵だってことさぇわかりゃ問題ねぇッ! 世のため人のため、悪の野望を打ち砕く勇者ホルバイン様の太陽の一撃が怖くねぇなら遠慮なくかかってきやがれッ!!」
「う〜ん、女神教団とはそれなりに取り引きがあったんだけど……末端の僧侶やシスターなんかは真面目に慈善活動に取り組んでいるだろうし……一応、姉妹たちにはそれとなく注意を促しておくとして。お行儀の悪いお客様は重唱の魔法で歓迎してあげるわッ!」
『『ぐぁぁぁぁッ!?!?』』
「クソッ!? コイツら上級職かよッ! おい! こうなったらガキどもを直接狙えッ! 人質さえ取っちまえばどうにでも──ヒギャアッ!?」
「よ〜しよしよし。あーしの暗器スキルもまだまだイケてるじゃねェか。……ホントは目ン玉ァ狙ったつもりなんだが、刺さったのがドテッ腹でも動けなくなりゃ一緒みてェなモンだよな、うん」
「いまは、戦うべきとき……ッ! 私だって光魔法の武器レベルは鍛えているんです、子どもたちを護るためならば……ッ!」
「心がけは立派だけど、そんな震えた手で狙っても魔法は当たらんだろうよ。なぁに、こういうのは荒事に慣れてる人間が担当すればいいだけの話さね。あんたは子どもたちの相手を。バカどもの相手はあたしが引き受けて……やるよォッ!!」
『『ギャァァッ!? このババァとんでもなく強ェェェェッ!?』』
「なんなんだよ……コイツら女神教団に逆らうのが恐ろしくねぇのかよ……ッ!? クソッ、こんな連中相手にしてられるかよ……ここは大人しく逃げて──ぐぎゃッ!?」
「残念ですが、逃げられませんよ。無関係の人々に八つ当たりをされても困りますから」
「馬鹿な……こんな、はずでは……」
最初に姿を見せたときの余裕など完全に砕けてしまったのだろう。死者こそ出なかったものの、女神教団の男が連れてきた兵隊たちはひとり残らず叩き伏せられてしまった。
それもただの敗北ではない、子どもたちを護るというハンデがありながら死者が出ていないのだ。つまり手加減をするだけの余力を残しながら全滅させられたということである。
あまりにもお粗末。自分が指揮官なら、最初の司祭の魔法で数人まとめて斬り刻まれた時点で即時撤退を選んだことだろう……というのがセイカイの彼らに対する評価であった。
おそらくは弱者を繰り返し嬲るうちに自分たちを強者だと勘違いしてしまったタイプの下衆ども。それも、強者を相手にして“逃げる”という判断すらできないほど手遅れの。
「さて」
「ひ、ひぃ……ッ!?」
「ひとつ、疑問なのだがね。何故
「そ、それは……秘密を知る者を……口封じのために……」
「それは暗部の仕事であり貴様のような立場の人間が動く必要などないと思うがね? つまり、暗部の人間にさえ迂闊に教えることができない……いや、少し違うな。倒れ伏してる破落戸どもの頭では理解できないが、観察力などに優れた者は気付いてしまうような“価値”が子どもたちにあるのだろう。例えば、そうだな……神器繋がりで
「んな──ッ!?」
「司祭様、その英雄の紋章とはいったいどのようなモノなのかお伺いしても? 各地の伝承に登場する英雄たちの力が封じられているという紋章石とは違うものなのでしょうか?」
「それほど大きくは違わんよ。英雄の紋章石を所持する者が神器の力を引き出せるように、英雄の紋章を宿した者はレベルやステータスに関係なく神器を扱うことができるようになる。生まれつき紋章を宿す者もいれば、レベルが上がることで発現する者もいる。とある時代の神話では『聖痕』などと呼ばれることもあったがね。なにも知らない者が見ても少し変わったアザがある、程度にしか見えないようだが」
セイカイの問い掛けに世間話のような軽い態度でとんでもない説明が返ってきた。その内容が真実なのか虚実なのかについては、女神教団の男の表情がわかりやすく答えてくれている。
司祭が一歩、前に出た。
「儀式とやらは昨日今日始めたばかり、という雰囲気ではなさそうだからな。大勢の子どもたちを儀式の供物としているうちに、なんらかの反応があり研究と試行錯誤が繰り返されたのだろう。そして英雄の紋章を宿す者を神器に捧げれば効率よくライナロックを復活させることができるかもしれない、という結論に至ったワケだ」
「あるいは、伝承に存在しない新たな神器が発見されるのを防ぐ意味合いもあるのかもしれないな? 女神教団にしてみれば、ライナロックという切り札に匹敵する危険物が有象無象の手に渡るのは好ましくないだろう。案外、その辺りも含めて各国と共謀しているのではないかね?」
「大衆にとってはお伽噺でも、真実を知る者にとってはそうではない。ならば、潜在的な脅威を取り除きたいと考えることは不思議でもなんでもなかろう。神竜の塔の攻略が第29階層で滞っているのも、第30階層から先の情報が失伝しているのも……ふむ、そう考えると表通りのギルドにも女神教団や各国の権力者と懇意にしている者がいるのかもしれないな」
「なんだお前は……なんなんだお前はァッ!? キサマ、いったいなにをどこまで知っているというのだァッ!?」
「うん? 私はなにも知らないよ。ただ、
「う……あ……あぁ……」
「ところで。女神教団で保管しているライナロックの指輪が本物であるならば、その魔法がどういうモノなのかも伝わっているのかね? やはり紅と蒼、ふたつの炎を操る聖女セリカの姿が文献などに記されているのかな? 例えば──こんなふうに、だ」
司祭の両手にそれぞれ赤と青の魔力の光が宿る。それが炎魔法のボルガノンと氷魔法のフィンブルの光であることは魔法職ではないセイカイにもすぐに判別できたが、どうやら女神教団の男にとってはそうではないらしい。
何故だ、と、そんなバカな、と。いかにも信じられないモノを見せられているといった様子で喚く姿はもはや憐れですらある。自分たちの切り札であるはずの神器を他人が所有していて、しかも使いこなしているのだから狂信者であれば別の意味で気が狂いそうになるのも……あまり共感したくはないが、わからなくはない。
「……む。理解の限界を迎えて気を失ってしまったか。見様見真似で脅迫紛いのことをしてみたが、やはり私にはこうした頭を使う作業は向いていないらしい」
「脅迫紛いではなく、誰から見ても完璧な脅迫でしたよ。それで……司祭様、この女神教団の者たちはどうなさるおつもりですか?」
正直に言ってしまえば、いまの司祭には迂闊に声をかけたくなかったのだが……後ろに控えた面々、主にアンナから“全部任せた”という強い視線が飛んできたので黙っているワケにもいかない。貧乏くじを引かされることになっても静かに耐え忍ぶのが忍者の務めなのだ。
「人々のために貢献するのが女神教団の在り方らしいからな。余生は下水道で使い切ってもらうとしよう。病気を予防し健康を保つためにも衛生管理はとても大事だよ」
「飲食店を商う者としては全面的に同意します。それにしても司祭様。ボルガノンとフィンブルを同時に発動してライナロックに見せかけるなんて方法、よく思いつきましたね。──
「残念だが仮にセリカの紋章石の力を借りたとしても、いまの私では条件を満たせなくて使えんよ。ワープと併用して奇襲を仕掛ける、などという戦法も不器用な私では真似できるとは思えんしな」
「そうですか……」
まるで神器を用いて戦う聖女セリカの姿を見たことがあるような言い方ですね、という言葉はギリギリのところで飲み込んだ。この短時間であまりにも重大な情報が次々と出てきたため、これ以上余計なことを知ればセイカイでさえも3日は頭痛で働きたくなくなる気がしたからだ。
と、いうより。
いま、まさに。御屋形様への報告をどうするかという問題で頭痛が酷い。
どれもこれも持ち帰るだけでも騒ぎになる、どころか現場で司祭の雰囲気を──当然の事実という態度で堂々と語る姿を見ていなければとても信じられないような情報ばかり。女神教団が保護した子どもたちを怪しい儀式の生贄にしていることぐらいだろうか? それはそれで阿鼻叫喚となるかもしれないが。
だが知り得た情報は整理して報告するのがセイカイの仕事である。彼はプライベートの観光で英雄王の街に来たのではないのだ。たとえ屍狂い病の治療方法を探すための協力者として警戒しつつも交流を続けるように、と命じられた司祭の正体がなんかもう彼が神話ご本人なのでは? という疑問で埋め尽くされたとしても逃げるワケにはいかない。
(はぁ……神器は実在する、という情報を持ち帰るだけでも雷神刀と風神弓を巡って列島諸国で争いが起きるかもしれませんね……。世迷言だと嗤われたほうが面倒が少なくて助かるのですが、女神教団とロプト教団が本格的に戦うことになれば様々な勢力の密偵が注目するのは確実。そこで司祭様が未知なる神器を使うようなことになれば)
事は、己の胃痛だけで終わらない。
今後ロプト教団が女神教団の人間と戦うことになったときは、司祭の味方となって連中のことは世を乱す元凶であるとして全員まとめて冥府魔道に送り込んでやる。
忍者としての数々の修羅場を潜り抜けてきた経験から、誰を敵と定め誰を味方とするのが最も『利』となるのかを見極める能力が養われているセイカイの決断は早かった。
ミニマップくん
「(# ゚Д゚)飛べゴルァッ!!」
マフーちゃん
「(´・ω・`)出番……ごはん……」
司祭さま
「いくつかのシステムは確定したけど、肝心の炎のオーブのことは聞けなかったなー」