百階層攻略後に日本に帰れる(かもしれない)ゲーム転移。   作:はめるん用

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残念だったな! 今回は第30階層攻略ではなく前フリだ!

 夢を見た。

 

 たぶん、第90階層を攻略しているところ。

 

 

 これから俺が挑む第30階層から順番に、40、50、60、70、80それぞれのフロアでボスユニットである竜人族を倒して集めたオーブを幻影兵の襲撃を退けながら六ヶ所ある祭壇にセットする、紋章の謎のオープニングにも登場する『封印の盾』をモチーフにしたマップだ。

 特殊職のロード系数人を含む上級職、最上級職で構成されたメンバーが神器を惜しみなく振り回して元気に戦っている。レベルもステータスも充分に育っているのか攻略は順調に進みそう、と思いきや。ふたつほどオーブを台座に置いたあたりから雲行きが怪しくなって……あ、仲間同士で小競り合いが始まった。

 

 なにを喋っているのかは聞こえない。そもそも夢そのものが無音だし。だが激しく言い争いをしながら幻影兵そっちのけで人間同士でガチの殺し合いをしているのは映像だけで伝わってくる。

 

 何故こんなことになったのか、それについては正直どうでもいい。こういう事態を防ぐために奴隷だけでパーティーを構成しているのだから。そんなことより攻略に失敗したときの“処理”がどんなふうになるのかのほうがずっと問題だ。

 ゲームでは台座を幻影兵に破壊されるとオーブが下界に落下してしまったというアナウンスが流れ、どこかのフロアに強力な敵軍と一緒に配置されることになる。もちろんセーブデータをロードすればやり直せるし、この方法でしか入手できないアイテムもあるのでそのまま攻略を続けてもいい。

 

 

 ただ、この流れは確実に……ダメなパターンなんだろうなぁ。どうせアレだろ? 何十年だか何百年だか前にこの世界で起こった出来事を夢で見てる、というか見せられているヤツでしょ? 娯楽文化に馴染みのある日本人なら誰だって察するわこんなん。

 

 

 ひとり、白い刃のファルシオンを持ったマスターロードっぽい青年が殺し合う仲間たちに必死に呼び掛けているが──あ、刺された。黒い刃のファルシオンとライナロックの指輪を装備しているあたり、彼女がこのときの時代の聖女なのだろうか。

 マスターロードの亡骸を愛しそうに慈しむように抱き寄せる聖女。う〜ん、仲間が増えたことによる独占欲とかヤンデレ的な話? そして炎のオーブを手に取ると、殺し合いを続ける仲間たちを無視してひとり撤退してしまいましたとさ。どうせならナーガ様の加護が施された白のファルシオンも持ち帰ればいいのに。

 

 その背後ではもう戦いは完全に決着したらしく、血塗れになった神器とオーブがマップの外へと落下していく。

 

 

 と。

 

 

 ……いやぁ、最悪の目覚めですねこれは。不吉、というか炎のオーブどころか全部のオーブが大陸のあっちゃこっちゃに分散してるの確定じゃんこんなの。うわぁ、面倒クセェどころの話じゃないぞコレは。

 人間の欲望が原因で世界がヤバいのはファイアーエムブレム的にはいつものことなので驚くほどではないけれど、まさか仲間割れが原因だとはなぁ。神器を装備した味方ユニットの同士討ちか、想像するだけでコントローラーをブン投げたくなるシチュエーションだ。

 

 俺にとってはシステム的に優遇されている武器でしかないが、やはりステータスが明確に数値として確認できるこの世界では人の心を狂わせるだけの魅力があるのだろうか? 

 

 ある、のだろうな。俺が勝手に切り札としているマフーだって闇魔法の武器レベルを上昇させる紋章石を装備すればパワーアップするし、それが専用の紋章石『魔王ガーネフ』であればこの世界での使用を躊躇うレベルで覚醒する。

 必殺が出ない、奥義スキルが発動しない、追撃もできない、光属性が含まれる武器には手も足も出ないのはそのままに速さがマイナス20されるので弱点が悪化するものの。マフーそのものの威力が30に強化された上で魔力と技にプラス40というとんでもない補正がかかる。

 

 いまの俺が扱えば攻撃力は110オーバー、技も65まで上昇するので命中率も相当だろう。システム的に魔法防御は50が限界なので、カンスト且つ最大HPが60以上なければ必殺の一撃が出せなくても関係ない。手加減のスキルが本当に仕事をしてくれるのか不安になるレベルだ。

 もちろんこれはマフーに限らず、神器はだいたいこんな感じだからな……そりゃ使い手に選ばれた人間は狂いもするか。もしものときはマムクート相手に竜特効のデュランダルとか貸し出すことになるかとか考えていたけれど、やっぱりドラゴンキラーで我慢してもらおう。ブランダのバァさんに暴走されたら簡単に全滅するわ。

 

 

 もちろん不安要素が増えたからといって攻略を諦めるという選択肢は無い。その気になればこの世界でもウハウハな生活をできるのかもしれないが、そんなことより俺は文明的で平和な日本でその他大勢としてダラダラ生きたいんだ。

 思うに成り上がったり最強を目指したりハーレム構築を狙ったりするような転生者や転移者って連中は、たぶん日本でもそれなりに活躍できるだけの活力というか……精神力? やる気とかそういうのを持ってるんだと思う。俺なんか性欲はあるしエロいことも好きだけど帰りたいって気持ちのほうが圧倒的に強くてどうでもよくなってるもん。娼婦のチャンネーの皆さんを見ても「いいね!」とはなるがそれだけだ。

 

 

 と。

 

 いうことで。

 

 

「これから表向き人類の最高到達点となっている第30階層に挑むことになるのだが……その前にひとつ、確認しておきたいことがある。何故、アンナさんが同行しているのだ?」

 

「あーしが連れてきた。商売人として、テメェが取り扱っている商品の出処を知らないってのは筋が通らねェだろ? だからっつって考え無しにポンポン戦場に首ィ突っ飲むのはバカのやることだけどよ、天下のアンナ商会が知らぬ存ぜぬで銭儲けってなァ好ましくねェよなァ?」

 

 ひとりだけ作画がギャグマンガみたいになって涙を流す赤い髪の行商人。それでも本気で断ればラキアは諦めたんじゃないだろうか? つまりは本人も俺から仕入れた物品をそのまま販売することについて納得できなかったのだろう。これがプロフェッショナルとしてのプライドか。メッチャ泣いてるけど。

 ちなみにラキア本人は好奇心が半分と、自分の息子と娘が死ぬかもしれない危険な戦いに連れて行かれるのを黙って見てる母親がいるものかという理由でついてきた。ちょっと感動的だなとか最初は思ったけど引き止めるのではなく自分も混ぜろって発想になるのはどうなのさ。可愛い子には旅をさせよの精神と受け取っていいのかな。

 

 ま、そんなこと言い始めたら他所のクランに所属しているはずのバァさんが意気揚々と参加しているのも充分問題なんだろうけど。屍狂い病の手掛かりを求めて相談してきたセイカイさんが一番まともな動機な気がする。戦闘任務を本職とする忍者としての腕試しも兼ねているとは言っていたけどね。

 

「本人がそれでいいなら私からは不満はないが。回復の杖を使える人員はどれだけいても困らないからな。さて、ブランダ。お前にはこれを渡しておこう」

 

「おや、ドラゴンキラーとはこれまた奮発するじゃないか。ってことは、あたしのお相手はドラゴンマスターかい? それとも最上級職のドラゴンロードでも徒党を組んで襲撃してくる──」

 

 ピタリ、と軽口が止まる。

 

 顔付きと雰囲気が変わったな。

 

「あんた、こりゃいったいなんだい?」

 

「何故そんなことを確認する。ドラゴンキラーを渡すのだから、当然それを必要とする敵を斬ってもらうのが目的に決まっているだろう?」

 

「こいつはその辺りの店売りの剣とは別物だよ。見てくれは似ているが、竜騎士の繰る飛竜を斬るための代物じゃあないね。もっと規格外の化け物を斬るために鍛えられた刃だ」

 

「かもしれんな。だが、それは間違いなくドラゴンキラーという名称の剣だよ。私が保証しよう」

 

 ブランダだけでなく、メンバー全員の表情が強張る。いまのところこの世界ではマムクートという存在は珍しい、どころか単語すら聞いたことがないからな。

 ドラゴンキラーはドラゴンナイト系が騎乗する飛竜に有効な武器という認識でしかなかったのだろう。俺の感覚から言わせてもらえば飛竜だってドラゴンには違いないと思うんだけど。

 

 

(オォォォォイッ!? あれッ!! マジもマジ、大マジの本物のドラゴンキラーだぞいッ!? あんなもので斬られたらいくらげんえーとはいえ本体に宿るたましーだって死ぬほど痛いぞアレはァッ!?)

 

(死ぬほど痛いどころかデッド・オア・ダイになるのは確実ですよ……ッ!? いえ、ここは前向きに考えましょう。塔の中であれば同胞たちはリザレクションできますし、もしかしたらソラネルを往復することで正気をゲットバックする可能性もあるかもしれません。たぶん)

 

 

「さて、それではさっそくボスフロアに乗り込むとしよう。あぁ、恐らくだが帰り道は転送後に消失するだろうから撤退は不可能だぞ。諦めて攻略完了まで死に物狂いで戦うように」

 

『『は?』』

 

「どんな思惑があって攻略が進んでいないとしても、情報を求めて第30階層に足を踏み入れた探索者は過去に何人もいたはずだ。しかしフロアに関する情報は口伝も含めなにひとつ存在しない。何故か? それは持ち帰る方法がないからだ……と、予測できる」

 

「確かに、情報を持ち帰るだけなら我々のような忍者を雇うかスカーレルさんのようなアサシンを雇えば済む話です。その程度のことすら数百年という長い年月の間に誰も思い付かなかったとは考えられません」

 

「そうね〜、いくらアタシでも転送の魔法陣そのものが消えちゃったんじゃどうガンバっても逃げられないわ。あら、もしかして今回の攻略で得られた情報で一儲けできちゃったりするのかしら?」

 

「どうかな。人間という生き物は自分の信じたいことだけを事実として認識したがる悪癖があるだろう? 隷属の紋章に命じて口止めをするまでもなく、これから起こる出来事は誰も信じない可能性のほうが高そうだが……まぁ、好きにするがいい。どれ、私の予想通りの光景が待っているのか試してみるとしよう」

 

 

 転送! 

 

 到着! 

 

 

 うん、これは良い祭壇だ。いかにも祭壇って感じの祭壇だ。ファイアーエムブレムにはこういう遺跡感のあるマップが似合うって実感する。

 

 お出迎えしてくれたのは、案の定ゲームよりも大勢のマムクート。エキゾチックで儀式的な、風花雪月に登場した神祖の服のような格好で奥にある巨大な竜の石像に祈りを捧げている。

 ステータスのほうは……やはりクラスは火竜、火のブレスは攻撃力15で防御無視。HPは50で守備力20に魔防15。だが技と速さがどちらも8しかなく、幸運は貫禄の1。数値だけなら狩りやすい経験値でしかない。

 

 だが、果たしてシステムによる制限が存在しないこの世界でのブレス攻撃がどうなることか。炎が広い範囲に届くようなら回避するのは難しいだろうし、一度飲み込まれたらそのまま連続でダメージを受けHPをあっという間に削られて焼き尽くされる危険性もある。

 どうしてもムリそうならその辺りは気合で避けるか気合で耐えるかしてもらって、リブローの杖を惜しみなく連打してゴリ押しで突破するしかないかな。ターゲットさえ分散させればブランダはもちろん、賢者のアルバと新人ソーサラーのジャーリーなら遠距離からでも高威力の魔法で攻撃できる。

 

 よし、前菜をいただくプランはそんな感じでいいだろう。メインディッシュとなる、手前のマムクートを倒したあとに復活するであろう火竜の石像もステータス確認は──お、できるじゃん! 

 

 どれどれ? ふむ、ふむふむ……。ゲームでは威力20の炎のブレスだったのが威力35の『星炎のブレス』に変わってて、スキル枠に神器以外の武器に対して守備力と魔防がプラス20される『神竜の鱗』が追加されてて、最大HPが160あって、名前が『火竜の王』から『暴走竜帝・紅』に変わっているぐらいだな。ヨシ! なにひとつ良くないが? 

 やはりオーブは持ち出されていたか。あんな夢を見たおかげで冷静さは保てているが、ほかの階層でもそれぞれの属性の暴走竜帝と戦わないといけないと思うと気が滅入るな。どうなんだろう? 奴隷なら隷属の紋章の効果で命令が優先されるから、神器を持たせても暴走しないかもしれないけど……そもそも次のマムクート戦までに武器レベルをSにできるかも怪しいところだ。Aから急に伸び率が悪くなるし。

 

 

 なんにせよ。

 

 今回は俺がアレを倒さなければ──倒せなければ全員仲良く死ぬことになる。

 

 

 星系のブレスは光属性との複合なので残念ながらマフーは使えない。となれば、早くもコイツの出番だな。

 神将器改め神器『黙示の闇・アポカリプス』の威力、確かめさせてもらうとしよう。

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