百階層攻略後に日本に帰れる(かもしれない)ゲーム転移。   作:はめるん用

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前後にしようと思ったものの、長くなったので分割。


神話が日常の一部になってしまった日(セカンドシーズン)

(念の為と思って装備した『復讐の王・ディミトリ』の紋章石がこんな効果になるとは。それでも威力35のブレスに押し負けたのは広範囲に魔法を散らしたからか? 一点集中すれば神竜の鱗も貫けそうだが、ステータス的にも自前の技量的にも無理だろうな)

 

 粉々になった指輪を指先で弄びながら、男は冷静に紋章石とスキルの効果について考えていた。

 原始の紋章によるバッドステータス無効化のおかげか恐怖で思考が塗りつぶされるようなことはなく、取り乱すことなく己が実行できる、あるいは実行が難しい戦法を選別することができている。

 

 

(特効と合わせて一撃を狙えるかと思ったが、アポカリプスまで消滅されたらさすがに困る。これ、ハマーンの杖でも修復はムリじゃないか? となると……ニイメの紋章で覚醒させての真っ向勝負を仕掛けるのが結局は一番堅実で安全か)

 

 ニイメの紋章石により覚醒したアポカリプスの威力は40。自分の魔力と合わせて攻撃力は83。神竜の鱗を無効化した暴走竜帝の魔法防御は33なので与えられるダメージは50ちょうど。ボス属性を含む特殊カテゴリーへの特効でダメージは2倍となり100ポイント。

 そして同人ゲームならではのお遊び要素として、原作の“重すぎて使い難い”という部分を取り入れたことによるアポカリプスの強み──覚醒状態では必ず後攻となるが、相手の攻撃力がこちらの攻撃力に加算されるというカウンター仕様によりダメージは合計で135となる。

 

 ディミトリの紋章石を同時に装備すればアポカリプスの威力は80となり、カウンター効果に頼らなくとも特効による2倍ダメージで仕留めることが可能だろう。だが今後も想定外の強敵と戦うことになるのはほぼ確実である以上、神器のロストはかなりの痛手となるのは考えるまでもない。

 なにより、ステータスとして確認できる攻撃力はあくまで“最大値”でしかなく、ゲームのように必ずその数値が適用されるとは限らない。暴走竜帝のHPを確実に削り切れる保証はなく、それでアポカリプスの指輪だけは確定でロストすることが決まっている……かもしれない。強敵を前にしての出し惜しみが愚かな選択であるのはそうなのだが、さすがにリスクとリターンがあまりにも釣り合っていない。

 

(レア度の低い指輪を使い捨てる前提で削るのが先かな。魔防53を貫くのは厳しいが、スキルを組み合わせればどうにかなる数値だ。いや、いっそのこと長距離魔法に『魔の風』も組み合わせて安全に削るか? 別に俺つえーしたいワケじゃないし、結果として勝てれば過程や方法なんてどうでもいいだろ)

 

 威力の低い長距離魔法でも破損さえ気にしなければダメージは通る。そしてダメージさえ通ってしまえば、魔の風の効果で最も高い武器レベルに応じた固定ダメージが加算される。紋章石により強化され闇魔法の武器レベルが『☆』であり、加算される数値は闇・理の区別なく10。2回、どうにかして有効打を当てれば勝機は見えるだろう。

 

 

『ゴォォォォッ!!』

 

「おっと」

 

 竜帝の前足が振り下ろされる。

 

 こんなものが直撃したら、ステータスに関係なく押し潰されそうだ。そんなことを考えながら男は余裕を持ってスキル『転移』を発動した。紙一重で避けてから無防備なところに反撃、などという無茶はしない。戦闘は手段でしかなく、鮮やかで華やかな立ち回りなど求めていないのだから。

 おそらく速さに秀でた味方は異変に気が付くだろう。転移のスキルを習得できるのは最上級職でも特殊な条件が要求されるクラスばかり。塔の攻略が第30階層で停滞していたことから存在そのものを知らない可能性は高く、皆の中で自分の評価がまたおかしなことになるのは確実だろう。

 

 もちろん、男はそんなことを気にしない。大事なのは信頼関係を築くことではない、敵対心を折ること。コイツとは戦ってはいけないと()()()()()()ことができればそれでいい。

 

 

「サンダーストーム」

 

 必要だと頭で理解していても、新品の装備を一発で使い捨てるのはもったいないな。などと考えながら安全な距離から竜帝に雷撃を落とす。期待通りの効果は発揮されているのだが……相変わらず手元で雷光が激しく音を立てる様子には恐怖を感じるあたり、原始の紋章も万能ではないらしい。

 

(敵対者から向けられた悪意からは守ってくれるけれど、それ以外は自分でなんとかしろってことね。ま、いいけど。聖人のおにいさんたちが主役の漫画でも言ってたもんな、恐怖とは警告であり危険への備えだって。俺に必要なのは勇気ではなく慎重さだから問題ねーべ)

 

 少なくとも巨体を活かして突進してくる竜帝を冷静に観察しながら次の手を考える余裕はあるのだから、戦闘以外は自力で頑張れと言われたところで「ごもっとも」という感想しか出てこない。むしろ自惚れを防いでくれると思えば半端な仕様にも感謝の気持ちが湧いてくるぐらいだ。

 体重を乗せた叩き付けを狙っているのか、竜帝が上体を起こしたタイミングに合わせて再び転移。今度は反対側に回り込むようにして背後を取る──のではなく。空中の適当なポイントに目星をつける。次に放つ魔法は多少離れた程度では自分自身も巻き込まれる可能性があるため、素直に上に逃げることにしたのだ。味方に関しては指示を出している余裕がないので臨機応変な対応を期待するのみ。万が一のときはあとでゴメンと謝るしかない。

 

 

「メガクエイク・Σ」

 

 

『ギッ……ッ!? ガァァァァッ!?!?』

 

 

 ダメージそのものは神竜の鱗に防がれるため微々たるもの。しかし崩壊し隆起する地面に巻き込まれれば動きは封じられる。

 

 屋内での戦いではあるがここはファンタジーな不思議空間、どれだけ内部で大破壊が起ころうとも外部に大きな影響は出ないだろう……と、ディミトリの紋章石の力を使い魔力を限界以上に指輪へと注いで解き放った。

 あとは幸運のステータスに身を委ね、転移で地面に移動する。格好つけて着地しても足首を挫く未来しか見えないし、こんな状況で移動力に影響が出るような怪我をすれば普通に死ぬ。星炎のブレスが3回直撃すればHPがゼロになるということを忘れるほど、男は引き継ぎデータの力に溺れてはいないのだ。

 

(削りは充分。必殺の一撃に頼らなくても、最大値に近いダメージが出れば倒せる。問題は、俺に見えないだけでHPストックが存在した場合だが……そのときは、今度はスライムで全身を包んで時間稼ぎでもしてみるか。なんにせよ、ヤツが体勢を立て直す前に)

 

 エムブレマーに限らず、戦略性のあるゲームの経験者特有の思考“確率は必要なときほど当てにならない”を持つ男は必殺の一撃に期待しない。適度に竜帝のHPが削れたのを確認してから神器・アポカリプスの指輪を装備した。

 あとは魔力を込めて発動するだけ……なのだが、必ず後攻になるという特性は伊達ではなかった。発動までほんの数瞬というタイミングで竜帝の頭が男へと向けられ星炎のブレスの予備動作が完了してしまう。

 

 

 それを見て、男は考える。

 

 

 転移で逃げることは可能。

 

 しかし、それをしてしまった場合カウンター効果で攻撃力は加算されるのだろうか? 

 

 

(相手の必殺も追撃もスキルで無効化してるし、一発ぐらいなら余裕で耐えられるよな……。それに、ダメージを受ける感覚ってヤツも理解しておかないと今後の戦いで不利な状況になるかもしれないし……どうせ恐怖心は制御できてるんだ、ここで経験しておけばちょっとやそっとの攻撃じゃあ動揺しなくなるだろ)

 

 システムを信用する前提の無謀。だが実際問題、システムが利用できないのであれば日本に帰れる可能性はかなり低くなってしまう。できるできないを考えるのではない、今後のために必要だからやるのだ。

 アポカリプスの発動準備はそのままに、男は慌てず騒がず心の中で光の神竜ナーガと闇の神竜ロプトウスに祈りを捧げて覚悟を決める。スキルの効果で恐怖心を克服できても嫌なものは嫌なのだ、神頼みぐらい許されることだろう。

 

 

 味方がなにかを大声で叫んだ、気がした。

 

 それに構わず星炎のブレスに包まれる。

 

 

 実験の結果としては────。

 

 

 ◯▢◯▢ー

 

 

「おーおー、なんかもう魔法っつーか自然災害だな。サンダーストームの威力が前とは比べ物にならねぇぐらいハデハデだねぇ」

 

「えぇいッ! のんびり分析している場合かッ!? 竜のブレスよりもさきに雷に巻き込まれて吹き飛ぶぞッ!! アルバッ! 貴様も正気に戻り──クソッッ! 運んで逃げたほうが早いッ!!」

 

 司祭の忠告を素直に聞き入れ火竜の王から離れて様子を伺っていた探索者たちだったが、司祭の放つサンダーストームの異常な破壊力を見て誰がなにを言うこともなく全速力で逃げ出していた。

 たった一度の使用で指輪が崩壊するほどの魔力が込められているのだ、巻き込まれれば致命傷となるのは確実。なにかできることがあるのではないか、少しは援護をしたほうがよいのではないか……などという考えは綺麗さっぱり消えている。

 

「ねぇ、忍者さん? さっきの司祭サマの動きは見えたかしら? ちなみにアタシにはサッパリだったわ。まるでワープの杖を使ったみたいに消えたとしか思えなかったんだけど」

 

「十中八九、私たちの知らないスキルの効果でしょう。司祭様が仰るには、かつて聖女セリカはそうしたスキルを使っての強襲を得意としていたそうですから。それよりも、もう少し離れたほうがいいかもしれませんね」

 

「いまサラッと聞き捨てならないコト言わなかった? まぁいいわ、そんな場合じゃなさそうだし────ッ!? ちょ、ホントにとんでもないことになってきたわねッ!?」

 

 

「地面が……火竜の王の周囲だけに地震を? ブラダマンテ、以前話していた貴族どもが使用したという宝玉とは」

 

「いいえデルムッド様、恐らくは別物かと。あそこまで露骨なモノであれば、明確に魔法だと報告されたことでしょう」

 

 

 サンダーストームに続き放たれた、大地そのものを武器とする魔法。どちらも火竜の王に対して決定打となっていないことは明白であったが、圧倒的な火力による一方的な攻勢は見ている者たちに“もしかして”と思わせるには充分であった。

 

 同時に、何人かの探索者たちは司祭が神竜の塔の攻略以外にそれほど興味を示していないことに安堵しつつも一抹の不安を感じている。仮に、彼が人並みの野心を抱くようなことになればどうなるか。

 朝食を済ませたあとの二度寝こそがこの世で最も幸福な時間だと誇らしげに語るような人間がそれを求めるだろうかという疑問は別にして、司祭が支配者としての地位や権力に固執するようになれば、この力が人々に向けられることになるかもしれない。

 

「えぇ……? もしかして、あーゆーレベルのアイテムを今後はアンナ商会の名前で流通させないといけないの? 普通に大変なことになりそう、っていうかほかの探索者クランがアレを倒せるとは思えないんだけれど」

 

「そこはちゃんと考えてくれてんじゃねェの? つーか、アレが何度も気軽にポンポン復活するトコなんざ想像もしたくねェ。あーしも喧嘩は嫌いじゃないが、天災が意思を持ったみたいな化け物なんかと事を構えたくねェし。……って、おいッ!?」

 

 

 火竜の王が動く。

 

 狂気の光に満ちた眼に、己を虚仮にした人間へ対する憎悪が注がれているのは遠目でも理解できた。必ず殺してやるという意思が全身から放たれており、さきほどの強烈なブレスを吐き出すための準備が整っている。

 それでも司祭ならば、一瞬で背後に回り込める謎のスキルの力を使えば簡単に回避できるだろう。そう思い見守っていれば、何故か司祭は微動だにせずその場で指輪に魔力を込め始めたのだ。先ほどのように相殺を狙うにしても、まだ魔法を発動できる状態でない。

 

 

 次の瞬間。

 

 司祭が呆気なく炎に飲み込まれる。

 

 

 まさか、と。

 

 いやそんなはずは、と。

 

 

 探索者たちに動揺が広がる中、空間ごと焼き尽くさんとばかりに燃え盛る炎が徐々に鎮まり始め。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぅ……これが“HPが減少する”という感覚か。単純な熱とも痛みとも違う、なかなか面白い感触だ。やはり何事も経験してみるものだね。お前もそう思うだろう? なぁ──火竜の王よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには、落ち着いた様子でローブに纏わりつく残り火を手で払う、ロプト教団を統べる教主の姿があった。




 一応説明しておきますが、風花雪月に登場するディミトリくんは別に武器をポンポン壊すようなマイナス特性は持っていません。普通に戦うだけなら。

 だから未プレイの方は是非とも気軽に風花雪月に挑戦、しよう! 作者もやったんだからさ?
(なお本当にシリーズで一番育成が自由であり“システム面は”カジュアルにプレイできるのでオススメできる作品なのは事実)
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