百階層攻略後に日本に帰れる(かもしれない)ゲーム転移。   作:はめるん用

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神話が日常の一部になってしまった日(リローデッド)

 力の象徴たるオーブが人間界へ落下し、理性を失ったはずの紅き竜帝。英雄の選定という役目も忘れ、挑戦者たちを暴力衝動のまま焼き尽くしてきたその瞳に初めて狂気以外の感情が──恐怖が宿る。

 

 

「どうした? なにを驚いている」

 

 

 存在としての格が違う竜のブレスは人の身で防げるものではなく、星の力を扱える神竜であればなおのこと。狂気に蝕まれても己の絶対性だけは忘れていなかった竜帝にとって、人間の魂がソラネルに召されることなく消し炭となる様は愉悦にすら値しなかった。

 

 

「もしかして、私が星炎のブレスを耐えたことが理解できないとでも言いたいのかね?」

 

 

 今回も、同じ。無謀にも己に挑んできた小さなモノたちは竜のブレスを前にして一方的に蹂躙されるだけの存在。それは戦いなどという代物ではなく、気紛れに行なわれる単なる暇潰し。そのはずだった、そうなるべきだった、そうでなければならなかった。

 

 

「不思議なことを思うものだ。いくら威力に優れていようとも、いくら防御力を無視しようとも、それ以上の生命力を持つ者であれば耐えられるに決まっているだろう? ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 なのに、目の前の人間は。

 

 

「あぁ。もしかして、だが……お前、大勢の人間を屠るうちに自分を究極の存在かなにかだと勘違いをしてしまったのかね? 哀れなことだ。いったい、いつから星炎のブレスが完全無欠の必殺技だと思い込んでいた?」

 

 

 目の前の人間は────ッ!! 

 

 

「よかろう。それほどまでに思い上がるぐらいだ、当然私の魔法如きなど容易く防いでくれるのだろう? 結構なことだ、加減をする必要がないというのは面倒がなくていい。日常生活はともかく、戦闘においては私は細かい力加減が苦手なのでね。────闇よ、囁け」

 

 

 突き出された掌、魔力に呼応して仄暗い輝きを放つ指輪。人間の周囲の空間が歪み、ひび割れ、その先に広がる夜の闇よりも深い黒。その中に散りばめられた無数の魔力の灯火は得体の知れない何者かの瞳のようであり……それらが一斉に、己の存在を認識し嗤っている。

 竜帝の正気は未だに失われたままである。故に、それがどういうものかなど思い出せていない。誰が、なにを目的として、どのような敵対者を屠るために産み出されたモノなのかを記憶の底から引き出すことはできないのだ。

 

 

 それでも理解だけはできる。

 

 アレは己を殺せる業なのだと。

 

 

 

 

「黙示の闇、アポカリプス」

 

 

 

 

 人間がソレの名を口にした瞬間、完成した巨大な魔法陣が竜帝の身体を満たす炎の力を奪い始めた。地面に爪を突き立てて抵抗しようと試みるものの、そんなものは無意味だと嘲笑うかのように紅い光が魔法陣の中央に座す闇に吸い込まれていく。

 竜帝の全身から炎が奪われるまでほんの数秒。全力で抗っても、辛うじて虫の息程度のHPが残されただけ。反撃のチャンスなど皆無。立場が逆転したことは目の前の人間も理解していただろうに、力を持つ者──暴力を行使する者には善悪問わず必ずと言っていいほど存在する“驕り”が無かったからだ。

 

 もはや竜帝の全身からは色味が失せてしまい崩壊が始まっていたが、狂気と憎悪とプライドがただただ朽ちることを許さなかったのだろう。最後の力を振り絞り、バラバラに引き裂いて道連れにしてやろうと飛び掛かる。だが。

 

 

 

 

「ふむ。ブレスを受けたときにもしやと思ったが、ステータスに差があるとこういう芸当もできるのか。あぁ、残念だったな火竜の王よ。真なる力に目醒めた黙示の闇の守りは神竜の鱗にも見劣りしない程度には堅牢なのでね。いまの私に直接的な打撃で手傷を負わせたいのであれば、最低でも力を60まで鍛えてから出直してきたまえ」

 

 

 

 

 振り下ろされた爪を片腕で、まるで小枝でも払い除けるかのような軽い動作で受け止めた男が竜帝の頭部へと手を伸ばす。

 魔法を使うこともなければ、武器を手にするワケでもない。完全に力を失ったことでステータスも著しく低下したのだろう、人差し指で弾くだけで竜帝の上半身はガラス細工のようにバラバラに砕け散った。

 

 

「さて、フロアボスを討伐したことで奥へ進む道が現れたワケだが……なにか言いたそうだな」

 

「おぬし、それをどこで手に入れた?」

 

「それを聞いてどうする。お前もコレが欲しくなったのかね? 気持ちはわからなくもないがな。せっかくソーサラーにクラスチェンジしたのだから、強力な魔法を使ってみたくもなるだろう」

 

「とぼけるなッ! 失われし神器のひとつ、黙示の闇アポカリプス……外界どころか塔の内部にさえ存在しないはずの神器を、何故おぬしが所持しておるのじゃッ!!」

 

「ふむ。存在しないはずの神器、か」

 

 鬼気迫る様子で問い詰めるジャーリーと、それでも普段と変わらぬ調子で会話を続ける司祭。ふたりのやり取りを誰もが緊迫した様子で見守っていた。のだが……。

 

 

 

 

「ほれ」

 

「へ? ────にゅぉぉぉぉぉぉぉぉんッ!? あぶなドゥヘ」

 

 

 

 

 なんの前触れもなく、司祭が神器の指輪をポイッとジャーリーへ向けて投げ渡した。見事な反応で飛びつくように指輪をキャッチしたジャーリーだが、着地のことまでは気が回らなかったらしくそのまま地面にべチャリと落下する。

 

「うむ。ナイスキャッチだ」

 

「ナイスキャッチだ、じゃないわぁぁぁぁッ!! おまッ! おぬしッ! コレがどういうものか、ほんとーに理解しておるのかッ!?」

 

「とってもすっごくつおーいまほう」

 

「神器ィィィィッ!! コレはじっ! んっ! きぃッ!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()えーゆーの遺産をポイポイと投げ捨てるなあほォォォォッ!!」

 

「いや、私はそんなことは知らんが?」

 

「ウソつけぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!」

 

 

 かなり重要な単語が飛び出たことには大半の者が気付いている。が、あまりにも場の空気が真面目な質問するのに適していないモノに変化してしまっているため沈黙するしかない。この状況で司祭を問い質したところで、まず間違いなくジャーリーが手足をバタつかせて憤慨する流れに持っていかれることだろう。

 

「疑り深いお前のために、それは特別に預けておこう。万が一アポカリプスに意識を支配されても隷属の紋章で黙らせることができる、かもしれんからな。駄目ならそのときはそれまでだ」

 

「それまでってどーゆー意味じゃッ!? いや、やっぱり言わんでいい。さっきの戦いぶりを見てればイヤでもそーぞーできるぞい……」

 

「物分りが良くて結構。ついでだジャーリー、命令だ。今回の出来事について、この場にいる者たちからの質問には可能な範囲で嘘偽りなく答えるように。もちろん私は面倒が嫌いなのでね、そんな暇があるなら昼寝に使わせてもらう」

 

「ぐぬぬ……ッ! くそぅ、われの力を以てしても、れーぞくの紋章のきょーせーりょくには勝てぬわ……ッ! だがしかぁ〜しッ! いずれはおぬしにもイロイロとはくじょーしてもらうぞいッ!!」

 

「構わんよ。ファイアーエムブレムを完成させるためには、どのみち個人の力だけでは不可能に近い。いくら奴隷とはいえ、必要最低限の情報すら与えずに部下を酷使する趣味はないとも」

 

「やはりファイアーエムブレムのことも知っておったか……まぁいい、詳しい話はあとじゃ。いまは奥へ進むのが先決じゃな!」

 

「十中八九、あまり嬉しくないことになっているだろうがね。あぁ、お前たち。この先に興味が無いのであれば、先にホームに戻って身体を休めておくといい」

 

 

 

 

「……俺っちはもちろんふたりを追いかけるぜ? 怒涛の勢いで次から次へと情報の濁流が起きててちぃ〜っとばかし混乱しているっちゃそうなんだが、いまこの瞬間が伝説の一幕だってことぐらいはわかってるからな」

 

「それ以前に、我々はあるじ殿の奴隷ですからなぁ。生殺与奪を握られている身分であり、ロプト教団がソラネルを目指して神竜の塔を駆け上がるというのであれば……否応無しに巻き込まれることを思えば、ここで退いたところで無意味でしょうなぁ」

 

 

 ◯▢◯▢ー

 

 

 いやぁ、暴走した竜帝は強敵でした。アポカリプスのエフェクトをじっくり観察できなかったのが心残りではあるが、それはジャーリーが使ったときのお楽しみにしておこう。覚醒した状態で使えるかどうかはわからないが、もしかしたら武器レベルが☆ならシステム以外の部分で優遇されてるところとかあるかもしれん。

 そして案の定、全員が引き返すことなく先に進むことを選んだようだ。当然だな、巻き込まれるのが確定しているのに秘密を知らないままで戦わされるとか納得なんてできるワケがない。奴隷以外の協力者たちにしても、潜在的な脅威があるのを知ったまま放置はできないだろう。ほかでもない、俺自身が警戒対象となることも含めて。

 

 ま、お互いに利用したりされたりの関係も悪くないものだ。利害の一致でこそ成り立つ信用もある。日本と違い命の危険がそのへんにゴロゴロと転がってる世界だからな、一方的に力を見せ付けてからの“敵を増やさないために仲良くしよう”という提案もそれなりに効果的だろう。

 

 

 ほんで。

 

 

「やはり炎のオーブは持ち去られていたか。火竜の王が理性を失っていた時点でそうだろうとは思っていたがな」

 

「むむむ……ッ! いちおー確認するが、心当たりはあるのか?」

 

「女神教団。まことしやかに囁かれている噂が真実であるならば、炎のオーブだけでなくファルシオンの片割れとライナロックの指輪も一緒にそこにある」

 

 さすがに“夢で見た”とまでは言わない。必要ないタイミングで上位者ムーブの手札を切るのは無意味でしかないからな。せっかくの異世界なんだし、もっと周囲からチヤホヤされたいって抑圧されていた願望が出てくるかな〜、なんて思っていたが……どうにも面倒そうだって感想しか出てこない。

 

 一応ハーレム系の作品そのものは好きなんだが、自分が四六時中誰かに纏わりつかれる日々なんて想像するだけで気が滅入る。

 

「むぅ……女神きょーだんか……」

 

「クロード神父のように、いや、女神教団から離反した者の名を出すのもなんだが。彼のように真面目に活動している者とはできるだけ衝突を避けたいとは思っているよ。私にとっては邪魔な存在だが、女神教団の助けがなければ失われていた命があるのも事実だ」

 

 ファイアーエムブレムの世界で勧善懲悪なんて概念はまず成り立たないからなぁ。仮に連中の裏の顔を大義名分として神器ブンブン戦法で女神教団を壊滅させてオーブを回収できたとしても、連中の庇護下にいる人々の生活はメチャクチャになってしまうだろうし。

 別にこの世界の住人たちが苦しんだところで、と割り切ることができれば楽だったんだけど。やっぱりね、日常を失う苦しみを知る俺がそれをやっちゃうのはダメでしょ。いや、奴隷はいいんだよ? だって俺が日本に帰るための必要経費みたいなもんだから。帰り道が確定したらちゃんと解放するんだから別枠でいいだろ。

 

「まぁ、女神教団についてはそのうちな。これからのことを考えるにしても、今日のところは休息を優先するべきだろう。もしかしたら第30階層を攻略したことで神竜の塔に変化が起きるかもしれん。急いで帰れば知らぬ存ぜぬで押し通せる」

 

 そしてカモフラージュのために、エントランス……いや、ロビーか? とにかく戦闘マップの入り口となる転移の魔法陣の近くにそれっぽいアイテムを放置しておけば完璧だ。

 そうすれば欲深い探索者たちが勝手に撹乱してくれることだろう。俺たちが前人未踏の第30階層を攻略したんだぞ、ってな。

 

 

 なぁに、ゲーム通りなら第31フロアからしばらくは幻影兵のステータスが少しだけ下がるはずだし、これまで燻ぶっていた表通りの探索者でもサクサク攻略を進めることができるに違いない。

 頑張れ人類、目指せ第40階層。そして誰も帰ってこないようなら次のフロアボスも暴走竜帝で確定かな? そもそもオーブが全部散らばってんだから確定してるに決まってるんだよなぁ……。なけるぜ。




 ファイアーエムブレムって、ゲーム本編のボス戦もだいたいこんな感じですよね。短期決戦か一撃必殺狙いが普通みたいな。

 もっとも、戦略シミュレーション系のゲームで決戦が持久力勝負になることのほうが珍しい気もします。あまり詳しくありませんが、三国志や信長の野望ぐらいですかね?
 FFタクティクスなんかは作者は違う意味でしょっちゅう持久戦になりますが。JP(゚д゚)ウマー
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