百階層攻略後に日本に帰れる(かもしれない)ゲーム転移。 作:はめるん用
「司祭さん。ちょうどアップルパイが焼き立てだそうですけど、どうしますか?」
「ふむ。これもきっとロプトウス様の御導きに違いない。ここは素直にいただくとしよう」
「ロプトウス様の御導きなら仕方ないですね! すみませーん、アップルパイをふたつお願いしまーす」
暴走竜帝(紅)を討伐した翌日。疲れた身体には甘い物が1番という大義名分を掲げて食べるカフェテリアのお菓子は最高だな。
もちろん面倒な説明はジャーリーに押し付けてきた。なんか俺も知らない事情にも詳しいようだし、人外ロリのストーリー解説は異世界モノの定番だから任せておけばいい感じになるだろう。
「しかしレナスよ。護衛として連れ出しておいてなんだが、お前はジャーリーから話を聞かなくてよかったのか?」
「えぇ、まぁ。話のスケールが大きくて他人事みたいというか、私のキャパ超えちゃってるんで逆にどうでもよくなってる感じですね〜。詳しい事情を知ったところで、いまさらクランを抜ける気にもなりませんし〜? ま、なるようになるなら別にいいかな〜って。昨日みたいに規格外のフロアボスは司祭さんが対処してくれるんでしょ?」
「そのつもりではあるが、割り切り方が潔いな。私も多少の不満は飲み込んでも流されるままのほうが気楽で良いと思っているから理解はできるが」
「どっちかと言えば司祭さんは他の人を流れに巻き込んでる側ですよね〜。しかも嵐のあとの川みたいにごうごうと」
「当初の予定ではもう少し頭の中を空っぽにしてソラネルを目指せるはずだったのだがな。なかなか思い通りにはいかないものだよ。しばらくは塔の探索そのものができないしな」
「新しい転移の魔法陣が現れたって、大騒ぎになってますもんね〜。司祭さんが置いてきた『青炎の腕輪』を拾った表通りのクランも、第30階層を攻略した英雄ってことで持て囃されているみたいですよ〜?」
速さがマイナス5、守備にプラス5、付与された奥義スキル『青炎』はダメージが半減するものの剣系の武器で間接攻撃が可能。ただの鉄の剣でさえとある神器の劣化版のように扱えるのだから破格の性能と言えるだろう。
プレイヤー視点なら本物が別に存在すると気付けるが、この世界の住人にそんなことがわかるはずがない。通常のクラスチェンジでは覚えることができない奥義スキルが使えるというだけでも価値があるし、長年攻略されなかったフロアの突破報酬としての説得力も充分だ。在庫、まだ20個ぐらいあるけどな!
ちなみに本物の神器『ラグネル』と『蒼炎の勇者・アイク』の紋章石の組み合わせはかなりピーキーな調整になっている。
原作の重さ20をリスペクトしたのか追撃は不可能であるものの、ラグネルに付与されている武器殺しのスキル効果で魔法以外には命中と回避が跳ね上がるので安定感がすごくすごいのだ。
仮に敵の攻撃を食らうことになっても守備力がプラス10されるので致命傷は受けにくいし、月光などの奥義スキルや必殺の一撃で大きくHPが削られても物理カウンターのスキルも付与されているのでダメージがそのまま相手に跳ね返るので問題なし。
魔法相手に特別な強みは無いものの、なんというか“アイク由来なら殴り合いに強いのは当たり前だろ”みたいな意気込みを感じる調整だ。もっとも、魔法職から攻撃されたとしても武器威力50力補正40の減衰無し間接攻撃で反撃できるから普通に倒せるけどね。アイクってそんな力押しの脳筋なキャラだったかなぁ……?
「やはり英雄願望が違和感を上回ったか。影響を受けたほかの探索者クランも積極的に攻略を進めてくれれば好都合だが、冷静さと慎重さを兼ね備えた探索者たちは我らロプト教団の存在まで嗅ぎ付けることだろう。わざわざ吹聴した覚えはないが、私がハイペースで攻略を進めていることを把握している者は確実にいるはずだ」
「そもそもこうやって堂々とカフェテリアで喋ってますもんね〜。いいんですか? 闇市の人たち、やっぱり司祭さんが第30階層を攻略したんだな〜って顔でこっち見てますけど」
「管理会に詳細を報告する義務はないが、日頃世話になっている闇市の住人たちへの恩義はある。積極的に口出しするつもりはないが、興味本位だとしても情報が欲しいなら提供するとも。余計な詮索をしないのであれば、という条件を飲めるのが前提だがな」
そういう意味では気楽な様子でこちらに近付いてくる闇市管理会の人員は気楽でいい。適度な距離感と、充分な警戒心。俺としては本気で駆け引きができないから素直に情報を渡しているだけなのだが、なまじ交渉事に長けているせいで裏の意図を探ろうとかしていそうなのが不憫である。だからといってわざわざ指摘したりはないけどね。どうせ信じてくれないだろうし。
◯▢◯▢ー
「火のブレスを吐く火竜、ですか。まるでお伽噺の英雄譚ですね」
「別に鵜呑みにする必要などないよ。再び30階に挑戦したところで魔物の巣窟になっている可能性が高いからね、証拠を提示することができないのだから疑われても気にしないとも。ただし、それで40階も同じように魔物が相手だろうと思い込んで全滅したとしても私は知らんからな」
今日は良い天気ですね、といった世間話のようなテンションでアップルパイを食べながら語られた第30階層の真実。これにはロプト教団と多少の付き合いがある闇市管理会の『口』も疑念を抱かずにはいられなかった。
しかし疑わしいからといって無視するには危険度が高い情報なのも確かである。証明する手段が無いので信じる必要はないと司祭は言うが、高レベルの上級職が揃う探索者クランが全滅を繰り返している理由としては納得できてしまう。
「わかりました。情報の提供に感謝します。管理会がどのような判断をするのか、そして所属する探索者クランがどう行動するか、それらに関して司祭様に責任を求めるようなことはしませんのでご安心ください。もっとも、先に表通りのギルドが攻略を進めるでしょうから、皆のんびり後追いする形になると思いますが」
「案外、先に進むよりも存在しないレアドロップを求めて第30階層に挑み続けるクランが多く出てくるかもしれんよ。理由があれば攻略済みのフロアを繰り返し探索することも厭わないようだからな。私としては是非とも積極的に攻略を進めて情報を持ち帰ってほしいところなのだが」
「あぁ、司祭様。おそらくその心配は必要ないかと思われます」
「うん? なんだ、昨日の今日でもう攻略を進めている探索者クランがあるのかね?」
「いいえ。攻略を進めるのは既存のクランではありません。表通りのギルドに所属する探索者クランが停滞することを選んだとしても……各国の協力のもと、英雄王の街に新設される学校に所属する学生探索者たちが未知なる道を切り拓いてくれることでしょう」
「……あまり、喜ばしい出来事には思えんのだが」
「計画そのものは以前からありましたよ。そちらは『目』と『耳』に所属する者たちが担当していますので、私は詳しくは存じませんが。交渉屋に出番が回ってくるのは学び舎が完成して神竜の塔の攻略が本格的にスタートする直前になるでしょう」
「ふむ。学生、学生か。恐れを知らない若者であれば、それはさぞかし積極的に攻略を進めてくれそうではあるな」
「大人ならではのしがらみや駆け引きなんて関係ないでしょうからね。各国が後ろ盾になるようなものですので。王国の魔法学園が主導するとのことですから、もしかしたら数日後には仮設の学び舎に第一陣が到着するかもしれませんよ?」
「むぅ……」
話題が切り替わることで立場も変化したのか、今度は司祭が何事か思案を始め黙ってしまい男のほうが運ばれてきたジャガイモのフライを美味しそうにパクパクと食べていた。
彼とて感情を持つ人間であり倫理を知る大人である。国家の悪巧みに利用されることになる学生たちを憐れむぐらいはするが、基本的に行動を決定するための判断基準は“闇市エリアの秩序の維持”を最優先事項としていた。
迂闊にこちら側に踏み込まないように警告はするし、ついうっかり迷い込んでしまったのであれば紳士的に表通りまで案内してもいい。だが男の役目はそこまでであるし、仮に中身の無い薄っぺらい正義感から闇市エリアの在り方に口出しをして秩序を乱そうとするなら排除する方向で動くだろう。
極論、各国が学生を利用した代理戦争を目論んでいたとしても構わない。国家同士の武力衝突による悪影響を思えば、たかが学生の100人や200人が犠牲になったところで……だ。
「……あるいは。国家の名誉を掲げて学生探索者が神竜の塔に挑むのであれば、場合によっては背後にいる者たちも動くか。人も、物も、情報も。英雄王の街が良くも悪くも賑わうのであれば、それはそれで好都合かもしれん」
「おや、なにか探し物でしょうか? よろしければお手伝いいたしますよ。あくまで可能な範囲で、ですが」
「いまは直接的な協力よりも相談役が欲しいところだな。各国のパワーバランスには疎いものでね。雑な判断で迂闊に動いた結果、藪をつついて蛇を出す……などという事態になっても困る。外側の連中は私が管理会に所属していないと言ったところで聞き入れはしないだろう?」
「まず間違いなく聞き入れないでしょう。すでに闇市の住人たちは面白半分実利半分ぐらいでロプト教団の信徒を自称していますから。女神教団からの勧誘が鬱陶しいので言い訳にちょうどよいものでして」
「私の知らない教義もずいぶん増えているらしいな」
「リスト化したら愉快なことになりそうですね。相談についてはいつでも歓迎しますよ。正直、管理会としても各国の動きを危険視していますし、万が一に備えて独自の判断で動ける戦力は喉から手が出るほど欲していますから」
各国が積極的に介入してくるとなればトラブルが起きるのは確実である。闇市管理会にしてみれば、周囲へ与える影響のことをしっかり考えてくれる強力な戦力など大金を積んででも引き入れたい最高の手札でしかない。
なんなら、なるべく無用な衝突が起きないように日々さまざまな手段で根回しなどに苦心している貴族街の連中とて秘密裏に頭を下げに来るかもしれないレベルである。
恐らく本当に密談のセッティングを頼まれた場合、管理会はロプト教団の司祭にとりあえず話だけでも……と頼むかもしれない。勘違いしている者が多いが、貴族は貴族で平民の生活を守るために身を削る思いでちゃんと働いているのだ。
少なくとも英雄王の街に骨を埋めるつもりで家を建て、本国からの命令が届くたびにわざわざ変装して闇市の酒場で愚痴を垂れ流している者たちに関しては同情の余地がある。今回の一件、きっと何人かはストレスで胃腸を痛めることになるだろう。
(とりあえず司祭様の反応からして、我々に不利益を与えてまで学生たちに肩入れすることはなさそうですね。もっとも、奴隷ばかりで構成されているロプト教団に助けを求めるとは思えませんが。……あぁ、いえ。正義感の強いバカが喧嘩を売る可能性が残っていましたか。学生たちの青臭い言動に簡単に影響されてしまう間抜けな大人がどれだけ現れるか、あまり考えたくありませんね)
投石機並みに重い剣をブンブン振り回すアイクさん。そりゃ衝撃波だって出るわ……。
命の危険があるダンジョンに何故か当たり前のように乗り込む学生たち。異世界モノでは日常だな、ヨシ!
大丈夫、大丈夫! ととモノ。だって冒険者の学生たちが灰になったり石になったり壁にめり込んだり水に沈んだりしてるから! ディープゾーンとアンチスペルゾーンの組み合わせは絶許案件。
次回はリクエストが寄せられている盗賊のメモになります。