百階層攻略後に日本に帰れる(かもしれない)ゲーム転移。 作:はめるん用
てーてれててー♪
『自称最高司祭』は『教主』にクラスチェンジした!
もちろんステータスのクラスのとこは暗黒司祭のままだけどな。まぁアレよ、アルバは賢者だからまだしもユーウェインはガチの司祭だから。いい加減ややこしいことになるからということで教主様呼びに変わったってこと。
なにか適当に名前を名乗れば解決する問題ではある。これまでの言動からいまさら偽名を使ったところで特になにも思われはしないはずだし。
理解した上でそれをしないのは、偽名だろうと『俺』という存在がこの世界に強く結びつくのを防ぐため。名付けというのは本来そういうものだ。人でも物でもペットでも、一度名前を与えればもうソレでしか認識できなくなる。
これは別にオカルト的な話ではないだろう。過去と決別するために名前を棄てる、なんてのは日本人なら娯楽文化でさえも馴染み深いレベルで触れているだろうし。
とにかく。今後は教主と呼ばれることに全力で慣れねばならんのだ。そのためにもまずは形から、ロプト教団というひとつの組織の長として相応しい立ち振舞いを常に心掛ける必要がある。
なので。
土下座の角度にも全力でこだわるぜ!
なんか知らん探索者クランが「アンタが噂のロプト教団のリーダーかい?」と話しかけてきたので、余計なイベントが始まる前に酔っ払いの輩に絡まれたサラリーマンの如く土下座して出鼻を挫いてみた。
相手はちょっとワイルドさの香るイケメン、そして取り巻きは美人揃いというラノベでありがちなハーレムパーティー。ただしリーダーであろう男のほうはちゃんとした実力者。
レベルの上昇が途中から露骨に停滞するこの世界で上級職ロイヤルナイトでレベル5なら充分な数値じゃない? 年齢を考えるならデルムッドよりも戦闘経験の密度が高いかもしれんな。
ま、向こうは帝国で騎士として働いていたワケだから単純にレベルだけで比べる意味はないけれど。ゲームと違い、ステータスを活かすためには本体の能力が重要なんだし。
と、いうことで。
面倒を避けたい俺は速さカンストぐらいの意気込みで土下座を実行した。現代日本に生きる男子たるもの、トラブルに巻き込まれたときを想定して武芸百般ならぬ謝罪百般を嗜むのは常識というもの。
案の定、取り巻きの女たちは上機嫌でゲラゲラ笑いながらマウンティングマウンテンを駆け登って気持ちよくなっている。結構なことだ、相手は自尊心が満たされて俺はトラブルを……というか余計な面倒と関わるのを避けられる。みんなシアワセ、これが相互利益というものだ。
と。
これで丸くおさまればよかったんだけど。
「……むぅ。あるじ殿、何故我らに命じてくださらなかったのですか? 男のほうは多少使えるようではありましたが、あの程度の手合なれば数秒で叩きのめすことも可能でありますれば」
「そうですよ教主様! あんな連中に頭を下げる必要なんてありませんでしたよ! 闇市エリアに来たからには向こうだって戦闘になるのも承知しているはずなんですから、言ってくれれば僕がエクスカリバーで……」
うーん、ジャーリーはどんなストーリーで俺のことを説明したのだろうか? なんかいろんな事情に詳しそうなアイツの正体を竜人族だと仮定したとして、アポカリプスを所持していた俺も同類のような何者かとして勘違いしている可能性が高そうだ。そのせいで敵対者への風当たりがビュンビュン荒れておられる。
「出会い頭のセリフからして彼らは表通りのギルドに所属する探索者クランだろう? 私は面倒が嫌いなんだ。メンツなど比べるまでもないほどにな」
「しかし、あるじ殿はもちろんのこと、ロプト教団が侮られるのはあまり愉快なことではありませぬが」
「私としてはそのほうが気楽で良いがね。それに、あのリーダーの男は我々のことをずいぶん高く評価してくれているようだ。取り巻きの女どもと違い、最後まで警戒したままだったよ」
ミニマップくんは取り巻きギャルズを早々に「識別する価値無しッ!!」って感じで灰色に分別したけど、リーダーの男だけは敵対的な中立勢力としてずっと鮮やかなオレンジ色してたもの。
「第30階層を攻略したのが私たちだと知り、なんらかの取引か……今後のために利用したかったのか。鼻が利くだけあって、私が初手で交渉の流れを潰したことも見抜いていたのだろう。いやはや、取り巻きの女たちがこちらの思惑の通りに動いてくれて助かったよ」
「左様で……」
「不服そうだな?」
「先ほどの出来事、あの女どもは嬉々として喧伝することでしょう」
「結構なことだ。悪評が広まれば取引を持ち掛けてくるクランもいなくなる。あまりにも悪化するようであれば、アンナさんへの協力は闇市管理会に助力を願うとしよう。なに、無秩序に危険物をバラ撒かれることにより起きるであろう問題を防ぎたいなら力を貸してくれと誠心誠意頭を下げれば話ぐらいは聞いてくれるだろう」
名誉よりも利益を求めて塔を攻略している闇市の探索者たちが暴走する姿はあんまり想像できないけれど、強力な武器だったり特殊な腕輪を欲しがって他所のエリアから探索者たちが流れてくることになればトラブルも増えるだろうからな。
卑怯、などとは言わせんよ? 俺が強要したワケでもないのに住人たちはロプト教団を名乗っているのだから、教主である俺のやり方には従ってもらわないと困るじゃないの。ま、別に本気で闇市エリアを混乱させようなんて思っていないし、その辺りは向こうも考えてくれるだろう。なにより、中立勢力の大資本であるアンナ商会とは良好な関係を維持したいもんねぇ?
「もっとも、今後のことを考えるなら表通りの探索者クランといつまでも無関係を貫くのも健全ではなかろうし──」
意味深にセリフを切り、とある若い男をじぃ〜っと見つめる。
ミニマップにひとりだけ残っている、野次馬に紛れ込んでいたオレンジ色。状況からして連中の仲間か、別の探索者クランからの回し者か。どちらでも構わないが、とりあえず俺の視線に釣られた周囲から一斉に注目されてメチャクチャ居心地が悪そうにしている。
「探索者クランとしての取引や同盟はともかく、世間話ぐらいは付き合わなければなるまい? 面倒は嫌いだが、意味もなく積極的に敵対したいワケではないからな。まぁ、理想的なのはさきほども言ったように向こうが自主的に対話の価値無しと判断してくれることなのだが。そのための土下座だったのだからね」
大抵のラノベでは主人公の当て馬扱いされるハーレム野郎だが、人材を集めて集団を作って組織として運用できる人間が普通に考えて無能なワケがない。権力にせよ財力にせよ暴力にせよ、あるいはそれが性欲やら肉欲やらを頼みの綱としていたとしてもだ。
迂闊な真似はしないし、できない。敵対だけでなく協力も含めて。政治・外交の能力が正しくモブの俺では交渉のテーブルに座らされた時点で負けであることを忘れてはならない。たまにチート能力やそれに準ずる力があるから大丈夫という流れを見るが、一度交渉を受けておきながら違う手段で解決するのは悪手だろう。
俺はもうすでに“引き継ぎデータ”という名の暴力を行使することを選んでいる。ほかの選択肢は極力排除しなければ、必ずどこかでキャパシティが限界になる。プライド棄てるだけで安定ルート選べるなら安いもんだ。旅の恥は掻き捨て、って言葉もあるし。
とはいえ。他勢力との円滑な関係を維持するためには、俺が引き下がるのを見てこれ幸いと調子に乗って踏み込んでくるようなヤツを
◯▢◯▢ー
「……チッ。穴の具合は上等なのに、頭の具合はカスばっかりだな。ったくよォ〜、だからオレひとりで接触したかったってのに」
「完全に利用されてしまいましたね。もっとも、本人たちがそれに気づくことはないでしょうが」
「おう、戻ったか。気づくどころか、あの司祭の期待通りにいまごろホームでも余計なことくっちゃべってやがるだろうな。……それで、テメェも引き上げてきたってことは」
「申し訳ありません。普通に見破られてしまいました」
「そうか。あの司祭か?」
「はい」
「ハッ! アレが奴隷を並べただけのペテン師に見えてる連中は全員探索者なんか辞めちまったほうが身のためだな。あ〜、クソッ……ますますもったいねぇ! いきなり土下座なんて選ぶか普通? 周りにあんだけ人がいたんだぞ?」
「あの流れるような動き……迷いなんて一切ありませんでしたよ。普通の交渉が可能な相手だと思わないほうが良いかと」
「まともな手段じゃなければイケそうか?」
「世間話になら付き合ってくれるそうです」
「……そいつは、怖ぇな」
「冗談が通じる相手なのは確かです。少しぐらいなら言葉選びをミスしても軽く流してくれることでしょう。ですが、下手になんらかの約束を引き出そうとすれば」
「隷属の紋章が真っ赤に光ってグサッ! ……ってか?」
「一応言っておきますが、ボクでは時間稼ぎにもなりませんからね」
「わ〜ってるよ。だがな、これからも神竜の塔を“遊び場”にするためにはロプト教団との繋がりは絶対に必要だ」
「なら、素直に頭を下げるのが1番早いと思います」
「次はゼッテー女どもは置いていく。楽して手駒を増やした
「いまさら賢い女性のスカウトは不可能ですよ。少しでもまともな思考回路をしている時点で望み薄かと」
「知ってるよクソッタレ!」
教主さま
「なんでチート級の暴力が使えるのにイチイチ相手に合わせて交渉する必要があるんですか?」
でも土下座はする。
闇市の住人
「は????」