百階層攻略後に日本に帰れる(かもしれない)ゲーム転移。   作:はめるん用

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第32階層を攻略中に学生探索者が到着したようです。

 第31階層はウォーリア中心の斧使いマップ、しかしステータスは手前の階層よりも穏やかな数値なので苦戦する要素は無し。

 

 第32階層はそれにパラディンとナイト系が混ざるだけ。剣でも槍でも斧でもなく弓装備のユニットがいるので飛行ユニットは警戒が必要だが、スナイパーよりはまだ優しいかな。

 単純に騎乗してる状態での射撃が難しいのかもしれない。武器レベルだけでなくステータスの技の数値も関係していたりするのだろうか? 先に進めば中級職でもレベル20で腕輪とスキルで底上げしてくるからな、あまりこの状況には慣れたくないところだ。

 

 

 部下たちの様子は……表向き大きな変化が起きているような気はしないので問題ないな! フォニムの態度が少し不自然になったぐらいか? ミニマップ判定は自軍の青だし、仮にジャーリーともども変な勘違いしていたとしても隷属の紋章あるから関係ないけど。

 

 あとは。

 

「そんでご主人様、実際のところ神器の在庫はまだあったりするんですかね? デルムッドのジイさんと、それからディナダンとパーシバルなんかは武器レベルS目指してトレーニングめっちゃ頑張ってますよ?」

 

「もちろん“ある”とも。ただ、覚醒した神器は人間の精神を蝕むことがあるのでね。渡すとしても封印された状態で持たせることになるだろう。それでも第40階層に待ち構えている……で、あろう氷竜には有効だがね」

 

「参謀役としては、そんなビックリドッキリなお出迎えと切り札があるなら早めに教えて欲しいんですけど。っても、火竜との戦いを経験したからこそ言えるセリフでもあるんで、後出しで文句言うほうが筋違いなんでしょう」

 

「神器とて万能ではないよ。そして最強でもなければ無敵でもない。じゃんけんのように得手不得手があって然り、神器があるからと慢心するようでは困る。覚醒したアポカリプスを使える私が何故、奴隷を必要としていると思う?」

 

「天の時よりも地の利、地の利よりも人の和……ってヤツですか? 列島諸国の兵法家が最初に学ぶ心得だそうで。はぁ〜、お伽噺ほど現実は甘くない、ってコトですか。夢があるのに夢のない話っすね」

 

 真面目な話、後半は戦う相手をちゃんと選ばないと覚醒神器でも数の暴力で普通に押し負けるんだよね。ステータスや装備の相性はもちろん、飛行系が『すり抜け』のスキルで直接後衛を狙ってきたり、アーマー系に『HPストック』が追加されたりとか。

 なによりマムクートの強化が恐ろしいことになってそうなのがまた。次の相手が『暴走竜帝・蒼』だとしたら、HPは200以上で『星氷のブレス』の威力は40ぐらいか? 俺でも2回ガッツリ最大値引いて喰らったら終わるな。それでもソラネルに続く最後の道で戦うときよりはマシだけど。考えたくないな〜、ラストスパートのマムクートたちが超強化されてるのとか。

 

 

「夢を見るのは奴隷から解放されるまでお預けだよ。それで、表の探索者クランの様子はどうなっていた?」

 

「伝説破りの英雄様を中心に調子に乗っているクランが7割、先日やってきたっていう色男のクランリーダーみたいに警戒してるのが3割、オマケで学生探索者で構成されたパーティーが申し訳程度、ってトコです」

 

「3割か。……いくらなんでも少なくないか?」

 

「人間ってのは、都合の良いモノばっかり見たがる生き物なんですよ。これまで30階を突破できなかったヤツはモンスター相手に油断した、運が悪かった、見掛け倒しで強くなかった……と、言いたい放題ってね」

 

「むぅ……」

 

 流れ的には悪くない。塔の攻略が活発になるのは望むところだ。最強を目指します系主人公のように原作知識やチートで強化されたメンバーを引き連れて高難易度ダンジョンをガンガン攻略して偉い人に呼び出される、みたいな展開はお断りなので声の大きい目立ちたがり屋が増えるのはとても好都合。

 だがそれで脱落者が増えてしまうようでは困る。何処かのタイミングで俺たちが先行することになるのは仕方ないとしても、できるだけ情報が得られる状態でフロア攻略に挑めるように仕向けたいからな。名誉を欲しがることを否定なんてするつもりはないが、もう少し命を大事にして欲しいところだ。そのためにアンナ商会にも犠牲になってもらって有効活用できそうなアイテムを市場に流しているっていうのに。

 

「攻略階層の記録は、やはりクランにとっての名誉になるか。何番目に突破した、というのも含めて」

 

「なりますね。有名なクランを呼び付けて依頼を押し付けるのが貴族にとってのステータスみたいな部分もありますし。我が領民をモンスターの脅威から守るため、こんな凄い探索者クランを英雄王の街から大金を積んで呼んでやったぞ! みたいな」

 

 やっぱりあったか〜、その流れ! 

 

「学生探索者もその辺りの影響は確実に受けるでしょうね。第一陣は平民出身者ばかりが送られてきたようですが、まぁ〜お貴族様を相手に優位に立てる絶好のチャンスなワケでしょう? なまじ半端に強いぶん、命の危険ってヤツを自覚したときには……です」

 

「若さ故の過ち──は、もっと安全な形で経験してほしいものだ」

 

「なら、どうします?」

 

「無論、放置する。学生たちの生命と尊厳に対して責任を取るのは彼らを指導する立場にある教師であり、今回の流れを唆した国家だよ」

 

 

 ま、本当に助けが必要な場面に出会したら普通に助けるけどね。

 

 

 それが若い世代の特権だから仕方ない。初めからプロと同じ心構えで、プロと同じ視点で、プロと同じ仕事ができるなら誰も新人教育で苦労なんてしないだろう。

 あまり関わりたくないってのも本音ではあるんだが……仮にも大人だからな、俺。自分の都合を最優先にするにしても、余裕のあるときぐらいはフォローしてやらねば……まぁ、ホラ。ナーガ様もお嘆きになられるかも?

 

「そもそも学生が闇市エリアなんかに来るのか? って話でもありますけどね。まさか神竜の塔の探索中に別々のエリアが繋がるなんてことはないでしょうし、接触する機会が無ければ心配するだけムダってことも」

 

「リカール、こんな話を知っているか? 好奇心のままに行動した結果、奴隷として神竜の塔の攻略のため参謀役としてこき使われている若者の話だ」

 

 いつの時代、どんな世界でも怖いもの見たさってあるじゃん? まして学生でしょ? 逆に聞きたいよね、後先考えずに闇市を探検しようぜって流れにならない理由があるならさ。

 なにやらとっても心当たりのあるリカールくんは苦笑いしているがわりと真面目な話、闇市で学生がトラブルを起こした場合の責任問題はとんでもなくややこしいことになりそうだ。国家のメンツ、学園のメンツ、調子に乗る学園探索者。う〜ん、やっぱり揉め事あっても見捨てたほうが賢いかな……。

 

 

 ◯▢◯▢ー

 

 

 英雄王の街に点在する、かつて第30階層に挑んだ者たちがホームとしていた建物のひとつ。そこに新たな探索者としてやってきた学生たちは、明日から神竜の塔の攻略が始まるということもあって夜になっても興奮からなかなか眠れずにいる様子であった。

 訓練とは違う、命の危険がある実戦。だがステータスに差がある相手ならば負けることのほうが難しいことを彼らは知っている。学園での模擬戦はもちろん、指定された区域で実施されたモンスター討伐任務の経験から、少なくとも序盤のエリアでは苦戦することはないと事前に得られた情報から確信しているのだ。

 

 

 

 

 そんな学生たちの拠点となった建物から少し離れた裏道にて。

 

 

 

 

「店主、かけ蕎麦をひとつ頼む。葱を多めでな」

 

「かしこまりました。ハンスケ、器の用意を」

 

「へ〜い。……って、あ、貴女様は!? なんでこんなところに姫さヘゴォッ!?」

 

「申し訳ありませんお客様。どうもウチの若いのは頑張り屋なもので、日頃の修行の疲れが一気に押し寄せてしまったようです」

 

「そ、そうか……? その、ずいぶんと……手厳しい、な?」

 

「さて、なんのことでしょう」

 

 余計なことを口走りそうになったハンスケの意識をゲンコツで黙らせて、普段と変わらぬ穏やかな微笑みのまま蕎麦の用意を始めるセイカイ。

 予め学生探索者の中に身分を隠した身内がいることを伝えていたにも関わらずの失態である、拳にステータス限界の力が込められていたとして誰がセイカイを責められるだろうか? 

 

「結局、普通に話すことになるのだから大目に見てやってもよかったのではないのか?」

 

「それでは修行になりません。練習では失敗したが本番では問題ない、などという甘えた考え方は忍の世界にはございませんので」

 

「む、そう言われては反論できんな……」

 

「それは神竜の塔の探索とて同様にございます。くれぐれも油断なさらぬように」

 

「わかった、わかっている。小言は故郷の屋敷で聞き飽きている。セイカイはもう少し私のことを信じるべきではないか? いくら父上のことで苦労したからといって、私まで同類扱いすることはないだろう」

 

「もちろん無茶などなさらないと信じていますよ。ですから姫様のお食事に“は”一服盛ったことなどございませんでしょう?」

 

「……父上にはあるのだな」

 

「はい、何度か。主君を守護るためならば、如何なる外法も躊躇わないのが忍の役目でございます」

 

「それはなんというか、意味合いが違わないか?」

 

「さて、なんのことでしょう。さぁどうぞ、かけ蕎麦の葱多めでございます」

 

「う、うむ……」

 

 自分の父親を薬で黙らせたことのある忍者が用意した食事である。目の前で調理する姿を見ていたとはいえ口にするのは勇気が試されることであろう。

 

 

「冗談はさておき。姫様、神竜の塔の攻略に関しては私のほうからは特に申し上げることはございません。ですが、闇市に踏み入るのだけはお止めください」

 

「む? 何故だ? 父上の手紙にあったロプト教団なる探索者クランの長……いったいどのような人物なのか興味があったのだが」

 

「ダメです」

 

「だから、何故」

 

「闇市エリアが独自のルールで秩序が保たれていること、そしてロプト教団の教主が独自の価値観で物事を判断する人物だからです。特に教主の危険性は桁違いですので興味本位での接触は絶対に認められません」

 

「だが屍狂い病の治療に協力してくれているのだろう?」

 

「敵でなければ信用できる、などという単純な話ではございません。こればかりは言葉だけで説明するのが難しいのですが……ともかく、御学友が闇市を覗こうとするようであれば引き止めるか、せめて姫様だけは無関係を貫いてください」

 

「……そうか。セイカイがそこまで言うのであれば仕方ない、闇市エリアのことは忘れて神竜の塔へ集中するとしよう。事前に幻影兵とやらの情報を得られたのは良いが、そのせいで皆浮ついているようだからな。誰かが気を引き締めねば大事故に繋がるやもしれん」

 

「それがよろしいかと」




闇市には行くなよ?

絶対に行くなよ?

学生だけじゃ危ないから立ち入り禁止だからな!?

特にロプト教団には近付くなよッ!!
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