百階層攻略後に日本に帰れる(かもしれない)ゲーム転移。 作:はめるん用
さぁ、ついにボスフロアを攻略するぜ☆
俺のターンッ! ここは冷静に、初期配置にある砦に登ってじっくり戦場を把握しとこう。左手側に見える滅びた村はマルス様の旅立ちのときに開幕で盗賊に滅ぼされたヤツかな。それ以外の村や民家は存在しない感じ。
ボスの幻影兵(戦士)の姿は山で見えない。ゲームと同じなら回復床のある砦の上……じゃなくて、この場合は砦の中にいることだろう。リアル索敵マップ、しかも屋外となると空を飛べるペガサスナイトが欲しいところだ。
ま、無いものねだりしてもしゃーない。
「リカール。ここまでの幻影兵の動きを見て……伏兵はあると思うか?」
「真っ直ぐ突っ込んできた結果、流れで森に潜むヤツはいるでしょうね。とはいえ、クラス持ちじゃない連中は辺境の蛮族よりも頭の作りが単純ですから奇襲の心配はいらないんじゃないですか? しれっと水の部族でも混ざってれば海からいきなりコンニチワなんてこともあるかもしれませんが」
第5階層は初代ファイアーエムブレム『暗黒竜と光の剣』の第一章と同じような地形だ。手前が海、奥の方が山で区切られたS字型のフィールドである。なんで塔の中に屋外マップが? とか海の果てはどこに続いてるんだ? などと考えてはいけない。ファンタジー世界なんてそんなもんだ。
そして水の部族は敵専用のクラスであり、名前の通り海やら川やらの移動コストが安く設定されている。さすがに海面を歩いてきたりとかはしないと思いたいが、第5階層ではランダム配置のレア枠でステータスも気持ち高めなので警戒は必要だろう。頼れるミニマップでは“敵がいる”ということはわかっても“どんな敵がいるか”まではわからない。
「前の階層までのように突撃はしてこないのか。警戒……しているのか? どうする、試しに前に出て反応を確かめるというなら準備はできているぞ」
「やめとけアストラ。下手に突っついたせいで見えない位置にいる連中まで一斉に突撃してきたら、さすがのお前さんでも耐えきれないかもよ? いくら鋼の盾が頑丈でも、スタミナが尽きたらおしまいだ」
「ふぅむ。ならば私が孤立している幻影兵を探して数を減らしてくるのも吝かではないぞ。して……あるじ殿、如何なされるか?」
「それも有効な手ではある、が」
ファイアーエムブレムの敵の行動パターンはだいたい4種類ほど。
戦闘開始から積極的に自軍に殴りかかってくる『突撃型』
攻撃範囲に侵入してから反応する『索敵型』
城門や玉座から動かないボスキャラなどの『待機型』
おまけで特定の条件で動き始める『特殊型』
この同人ゲームで戦うことになる幻影兵やモンスターもこのパターンで構成されていたのだが……ターン制バトルならともかく、感覚的にはアクションゲームに近いこの世界でも同じルールが適用されているとは思わないほうがいいだろう。
「幻影兵の動きを確認したい。アストラとパーシバルを中心に正面から仕掛ける。それで山の向こう側の敵や、麓に見える砦が反応するのか試してみるとしよう。アンリは水中からの奇襲を警戒、ユーウェインは私の側を離れるな。
それと万が一、ペガサスナイトやドラゴンナイトのような飛行ユニットが見えたら砦まで撤退する。数が多いようであれば攻略は中止、改めて作戦を考えることにする。おそらくはこれまで通り、変わり種としても弓使いや暗器使いが紛れる程度だとは思うが……油断はするなよ」
ステータス的には問題ない。
最大の敵は油断と慢心なのだ。
と、いうワケでまずは真向勝負で殴り合いから始めるとしましょうか!
アストラとパーシバルは鋼の盾で攻撃を受け止めることを優先して反撃は控えめに、相手の動きが止まったところをリカールがしっかり狙って弓でダメージを与える。
これでゲームのように、前衛の後ろから魔法を使って攻撃ができれば楽だったんだがなぁ。巻き添えを避けるために、アルバには左右から回り込んでこようとする幻影兵をサンダーで牽制させておく。
中には後衛のふたりを直接狙ってこようとする敵もいるが、ディナダンが護衛役として一歩引いた位置で戦っているので問題なし。
暗器持ちはグラナが鉄の盾で弾きながら強引に距離をつめて一刀両断。刀じゃなくて斧だけど。弓使いはアンリが速さに物を言わせて距離をつめて一刀両断。刀じゃなくて剣だけど。なんかあのふたり妙に強いな? ステータスとは別の部分で動きが良いような気がする。
肝心の幻影兵全体の動きは……変化無し、か。ミニマップで山の向こうに表示されているボスユニットを中心とした集団はもちろんのこと、山の麓にある砦に潜んでいる連中もこちらに向かってくる気配はない。運が良いのか悪いのか、海の中を突き進んでくる赤い点もいまのところは見当たらない。
この結果は俺としては非常に助かる。ファイアーエムブレムが大好きだからといって、ついこの間まで正真正銘の一般人だった男に指揮官としての能力などあるワケがない。できることといえば危なくなったらスタコラ逃げることぐらいだ。驕れる者はドツボにはまるってCMでも歌ってたからな。
よほど戦闘に巻き込まれるのがイヤなのか、レベルアップの最大HP上昇のぶんまでライブで回復しようとするユーウェインの姿を生暖かく見守りつつ……最初の砦を制圧する。
これが人間相手だったら引き籠もられて面倒だったかもしれないが、さすがは序盤マップのモブキャラたちは格が違った。地の利を活かすことよりも勇ましく突撃することを選んだ幻影兵を順番に殴り倒すだけの簡単なお仕事です。
ここからが本番。警戒していた飛行ユニットがいなかったことに感謝をしつつ、2つ目の廃村に身を隠して取り巻きの姿を視界に捉えてステータスを覗き見してみれば──やっぱり鉄の装備してるか。
「うへぇ。あれ、アストラさんやパーシバルが引き付けてくれてもヤバいんじゃねぇの? オレも盾の練習すりゃよかったかな……」
「アンタは素直に攻撃に集中しておきなさいよ。数を減らしてくれればそれだけアタシたちの負担も減るんだから」
「それで……どうするの? HPは回復しているし、武器の消耗も大したことはないから、正面衝突することになっても簡単には死なないと思うけど」
どうしてゲームやラノベの転生者や転移者はここでホイホイ作戦を思いつくんだろうね? 俺にはそんな芸当はムリですわよ。複雑な作戦を考えることができない以上、ここはシンプルな手段で堅実に戦うのが正解か。バカの考え休むに似たりってね。
「弓で釣り上げてこの廃村で撹乱、数を減らしたら砦まで撤退。そこで決着がつけば良し、長引きそうなら入口の砦までさらに下る。ボスが外に出てきたら儲け物だが……どのみち取り巻きさえ片付ければどうにでもなるだろう」
んで。
「うぉぉ……ッ! アレがボスユニットってヤツか! スゲェなパーシバル、オレでもなんかほかの幻影兵とは雰囲気が違うのわかるぞ! オレ、そーゆーの絶対わかんないタイプだと思ってたのに! ほら、ユーウェインも見てみろよ!」
「ひぃぃぃぃ……ボクはいいよぉ! 戦いの経験値なんていらないよぉ! そもそもボクは砦の中に入る必要なかったでしょぉぉぉぉッ!?」
「だったらアンタ、外でひとりで待ってればいいじゃない。倒しそこねた幻影兵に囲まれて襲われても助けが間に合わないかもしれないけど」
「それもヤダァァァァッ! 司祭様ッ! 司祭様の魔法で一気にドカーンと倒したりとかできないんですか!?」
「そうだな……破壊魔法ボルガノンで焼き尽くせば一瞬で消し炭にすることも可能だろう。しかしそれではお前たちの経験にならん。回復床の効果もあって比較的安全に戦えるのだ、ヤツにはギリギリまで経験値を吐き出しながら踊ってもらうことにしよう」
「あっは! さすがご主人様、言ってることが司祭のソレじゃないですねぇ! なら、俺っちは見学に回らせてもらうとしましょうか。アストラやパーシバルが削った獲物を横取りしちまったんでね」
「いや、戦闘ではそれぞれの役割分担というものが重要だ。お前はお前の仕事をしっかり果たしてくれただけなのだから、それを横取りだなどと……」
「だ〜か〜ら〜。そこで真面目に返されるとこっちが困るんだっての。その真面目さがお前さんの良い所なのはわかってるけどさぁ」
「そ、そうか……すまん」
警戒しながら慎重に戦力を削ったおかげもあって、順調にボスユニットを追い詰めることに成功した。もちろんここで油断すれば命を落とすことになるのだが、今度は自分たちが数の有利を得ている。多少の余裕を感じてしまうのも無理はない、ということにしておこう。
ぶっちゃけ第4階層までのほうが厄介だったかもしれん。初手から次々と突撃してくるものだから、自然と波状攻撃を受けるような形になってたからなぁ。まぁ、ゲームと違って離れた位置にいるヤツや遮蔽物でこっちを発見できてないヤツの行動が遅れてくれるだけマシだと思っておこう。
「私は外で増援を警戒している。くれぐれも油断はするな。死ぬときは一瞬だ、どれほど負ける確率が低くてもな」
「では、私はこの状況に油断せずあるじ殿の護衛を承りましょう」
「へー、アンタがそんなこと言うなんて。本音はなによ?」
「あるじ殿ー、このままではお家に帰る前に飢え死にしてしまいます故に、ここは軽食のひとつでもつまませていただけますればー」
「……アルバ、お前も外で見張りに付き合え」
「あはは……了解です」
外に出て、アンリに適当なサンドイッチなどを与えながら脳内でミニマップを確認しておく。敵意のある存在ならば赤で、やや敵対的な中立ならば黄色で表示させるが……敵影、確認できず! 我々はボスフロアである第5階層を攻略したも同然である!
「そういえば司祭様、ボスユニットを相手に経験値を稼ぐと仰っていましたけど」
「その通りだ。稼げるときにしっかりと稼いでおけば、今後の攻略も多少は楽になるだろうからな。それがどうかしたのか?」
「あ、いえ……。その、同じ階層に何度でも挑めるワケじゃないですか。なら、この第5階層も一度攻略してから繰り返し挑戦すれば、何度でもボスユニットと戦えるんじゃないのかな〜って思ったんですが……」
「…………言われてみれば、そうだな」
ボスをチクチクして経験値を稼ぐ、いわゆる『ボスチク』の誘惑には逆らえなかったよ……。なんて悲しい生き物なんだ、エムブレマーという人間は……。