百階層攻略後に日本に帰れる(かもしれない)ゲーム転移。 作:はめるん用
酸いも甘いも噛み分けて常に戦いを求めて……というほど血に狂ってはいないが、やはり剣技に磨きを掛けるなら実戦に勝るものは無い。後楯を持たない自由な身分を存分に利用して大陸各地の荒事に首を突っ込んで生きてきた。
もちろん目的はあくまで剣の技術を磨くこと。修羅と呼ばれるのは一向に構わないが、外道と呼ばれるのは遠慮したい。となると、自然と弱い立場の人々の頼み事を引き受ける機会は多くなり、自然とけしからんことを考える連中と敵対することが多くなる。
昔は「所詮は女子供か」という顔を。
いまは「ただの老人か」という顔を。
自分たちが場の支配者であり一方的な暴力者であり絶対的な搾取者であると信じて疑わない連中が見せる表情は概ねこうなる。それが人間ではなく神話や伝承で語られる竜も同じだという発見はなかなか面白い。それに加えて“想定外の手痛い反撃をされたとき”の変化も似ているとなれば、命の奪い合いの最中でも口元がニヤリと歪むのは止められるモノではなかった。
「お前さんのソレは怒りか? 焦りか? バカな、そんなハズは、何故、どうして、あり得ない……色んな感情がごちゃ混ぜになってるんだろうがね。安心しな、前のフロアにいた火竜の化け物も同じだったよ。なぁ、氷竜の親玉よ。────お前、恐れたな?」
その対象が自分であると勘違いするほどブランダは自惚れていない。だからといって氷竜の王が手元の神器だけに意識を向けていないことぐらいは読める。
それは神器の使い手に対して。決して相容れない天敵に対して。世界で最も神竜の塔について詳しいだろう珍妙奇天烈で胡散臭い司祭がバルムンクと呼ぶ神器と、それと対を成すのであろうシャナンと呼ばれた若き剣士の幻影が同時に現れたことに対して向けられたモノ。
咆哮がフロア全体に響き渡る。
だがそこに威厳など存在しない。
ブランダは知っている。コレは見透かされたことを誤魔化しているだけでしかない。自分を強者であると信じて疑わないモノが追い詰められたときに、それまで弱者と侮っていた相手に抱いてしまった恐怖を否定するための防衛本能とでも言うべき悪足掻きだ。
ならば、次の動きはおそらく────。
「ふむ、氷の部族を召喚したか。バーサーカーの集団全員に銀の斧とは大盤振る舞いをする。それに……皆、半端な攻撃は逆効果になるので気をつけるようにな。連中は全員が【怒り】持ちだ。下手にHPを残すと必殺の一撃が飛んでくるぞ」
「大丈夫です教主様、任せてください! 斧の扱いならアタシも得意になりましたし、逆に全部受け切ってみせますから!」
「頼もしいことだ。だがパーシバル、油断だけはしないようにな? 流石のお前でも連続で30人ぐらいに集中攻撃をされれば下がらざるを得なくなるだろう」
「つまり気合と根性でなんとでもなるってことですね!」
「そうとも言う」
「なら大丈夫です! 気合と根性なら気合と根性を出せばいいだけですし! ────さぁ、かかってこいッ! ロプト教団最強の盾、グレートナイトのパーシバルがアンタたちをまとめて相手してあげるわッ!」
「あ、ズリぃぞパーシバル! オレもなんか……オレも! 教主様、オレもなんか名乗りたいですッ!」
「また次の機会にな。今日は目の前の戦いに集中したまえ」
突然の増援。
驚きは無い。
ピンチになったら仲間を呼ぶ、なにも不思議ではないし理屈に合わないということもない。偉そうにふんぞり返ってペラペラ得意気に聞いてもいないことを喋っていた阿呆が、軽く一発ブン殴った途端に余裕を無くして数頼みで取り囲んでくる光景に新鮮味など感じるワケがない。
指示を仰ぐ必要はなかった。一瞬だけこちらを確認した男の表情は相変わらずローブ姿で見えなかったが、それでも雰囲気だけで氷竜の王を任されたことだけは伝わった。元より頼りにされているのは知っているが、どうやら想定外の事態が起きたことで完全に丸投げする方向へと切り替えたらしい。
「やれやれ、ババァ使いの荒い司祭様だよまったく。こういうのは若い世代にこそ見せ場を譲るもんだと思うんだがねぇ」
『……攻撃、来るぞ』
巨大な前脚と鋭い爪、直撃すれば生半可な守備では受けきれずHPを削り切られ肉体はバラバラに引き裂かれることだろう。
その威力を恐れることなくブランダは最小限の動きで避けた。確認しなくても感覚でわかる。いまの自分の速さはバルムンクの影響で5割増し近く、いや、もしかしたらそれ以上に強化されているハズだ。しかも常に最大値を維持して動けるオマケ付き。ならば竜の爪とて素人のお坊ちゃんが無理やり振り回す銀の大剣と変わらない。
「驚いた。お前さん、喋れるんだね。人の姿をしたモノが飛び出てきただけでも驚いたってのに。過去の英雄と話せるなんて、長生きはしてみるもんだ」
『残念だが私はシャナンの名前を受け継いできた別人であって本人ではない。何千何万という人々がそうあって欲しいと願い、その記憶が集まって形となった虚像でしかない』
「なるほど? それはつまりオリジナルの……本物のシャナンという人物は過去に実在していた、と」
『その問いに対する答えは……この世界でそれを知るのは、光の神竜ナーガや豊穣の女神ミラを含む限られた存在だけだ』
言葉を濁しても視線が明確では意味がないだろうに、敢えてロプト教団の教主については言及しないつもりのようだ。ならば敢えて真実を追究しようとするのは野暮というもの。
手品のトリックを暴きたくなるのも人のサガではあるが、自分にとって害が無いのであれば神秘は神秘のままにしておくほうが
「ま、いいよ。お前さんが本物だろうと偽物だろうと、そこの癇癪を起こしてる竜の親玉を狩れるなら別にね。神器バルムンク、ちと荒っぽい使い方になるかもしれないが……ま、こちとらこの歳で初めての神器なんだ。大目に見ておくれ」
『構わん。いざとなれば修理代はあの男に請求すればいい。武器の管理も指揮官の仕事だと英雄王の時代から相場は決まっているのだからな』
「そりゃいいや、神器の手入れなんてどんだけ金を使うことになるか想像もできないから……ねぇッ!」
振り下ろされた前脚を余裕を持って回避し、引き戻されるよりも速く足場として駆け上がる。仲間が氷の部族たちを引きつけてくれるなら、自分の役目は氷竜の王を釘付けにすること。竜としてのプライドが人間如きに屈することを許さないのであれば、無遠慮に背中を歩き回れば文字通り逆鱗に触れることだろう。
「そぉらッ!!」
『はッ!!』
狙い目は翼の付け根。
トカゲの化け物を思わせる手下の氷竜たちとは趣を異にする立派な翼でも、その可動域を確保するためにはどうしても守りの薄くなる箇所があると予測しての一撃。
人の手で一式拵えた鎧兜や、神竜の塔でドロップする重装の腕輪から実体化した物がそうであるように。鍛えられたステータスと剣技により放たれたバルムンクの一撃は、ウロコとウロコの繋ぎ目に滑り込むように氷竜の王から片翼を斬り離した。
「ハハッ、さすがは英雄の名を受け継ぐ剣士様だ。息の合わせ方も完璧じゃないか」
『失伝したとはいえ、バルムンクと共にシャナンの名を継いで絶望の未来を跳ね除けてきたのだ。これぐらいはな』
「頼もしいねぇ! それじゃあアンナさんが持ち帰りやすいように下拵えを続けるとしようか。せっかく怒りで我を忘れてくれてんだ、チンタラ戦ってるうちに冷静さを取り戻してブレスを撒き散らされたんじゃたまんないよ」
火竜の王と司祭が対峙したときの光景は忘れない。忘れようがない。神話の戦いとはこういうものかという驚きと、恐怖と、興奮と、期待。神竜の塔を登り続けるのであれば英雄として相応しい力が手に入る、英雄として相応しい力を手に入れなければ進めない。それが真実であると知れただけで塔に挑み続ける価値があると確信するほどに。
同時に、ソードマスターとして冷静な部分はその戦闘を冷静に分析していた。誰がどう見ても闇魔法、しかも神器。そんなものを使いこなす人間がタダの司祭ではないのは────そこはまぁ、アレだ。普段から隠そうともしない怪しい言動で気にならなかったが、神器アポカリプスなる闇魔法を受けて火竜の王が見せた反応は無視できない。
神器とは呼び名の通り“神すら屠る武器”なのだ。
◯□◯□ー
「少々、想定外ではあったが……初手から神器を惜しまなければこんなものか。結構なことだ。ブランダ、バルムンクとシャナンの紋章石は引き続き預けておこう。次は第50階層で活躍を期待……期待……いや、私の記憶通りなら地形的に厳しいかもしれん。まぁとにかく預かっててくれ」
「奴隷でもないあたしにこんな貴重品を渡しちまっていいのかい? 急に気が変わって持ち逃げしたらどうするのさ」
「別に構わんよ。シャナンが認めたなら悪用することもなかろう。たまには闇市に顔を出して旅先の土産話でも聞かせてくれたまえ」
「うーん、思い切りが潔すぎて悪巧みする気にもならないよ。ところで、あんたにはシャナンの声は聞こえてんのかい?」
「声? ……いや、私にはサッパリだが」
『恐らくはシンクロ状態の者にしか私の声は届かないのだろう。やはり神竜の御業のように都合良くはないようだ。或いは、ソラネルであれば別かもしれないが』
「ほー、そんなもんかい。なぁあんた、英雄殿がソラネルの神竜ならもっと完璧な形で英雄を呼び出せるって言ってんだけど、心当たりはあるんだろ?」
「あぁ、もしかして【神竜・リュール】のことか。確かに完璧な形で紋章士を呼び出せるのは神竜の御子でなければ難しいだろう。千年ほど寝過ごして名前以外の記憶が抜け落ちるようなこともあるが、御子としての力と平和を願う心は間違いなく本物だよ」
「あー、はいはい。たまには良いかと惰眠をむさぼってると記憶が怪しくなるってのはわかるよ。レベルを上げても加齢のボケは防げないのは残念だねぇ」
「ねぇ、スカーレルさん。前々から“だろうな”ってしか思ってなかったですけど、やっぱり教主様って」
「ダメよ、パーシバル。良いオンナっていうのは、軽々しくヒミツを口にしちゃイケナイの。そんなことしたら向こうで死んだ魚みたいな目で輸送の腕輪に竜の残骸を片付けてるアンナさんが今度こそ寝込んじゃうわよ。ついでに頭を抱えてブツブツ言ってるジャーリーも」
「隠せてない、って意味ではジャーリーさんのほうがひでぇ気がしますけど。教主様は楽しんでますって感メッチャ出てますけど、ジャーリーさんは真面目に人間のつもりだったワケですし」
「そもそも真面目に人間のフリ、なんて言葉がもうおかしいんだけど。ロプト教団の奴隷にならなきゃ一生無縁のセリフだったわね。ところで、無茶振りをされてないセイカイさんはなんで巻き添えくらってるワケ?」
「お披露目の儀として雷神刀と剣聖リョウマ、風神弓と弓聖タクミ、それらを用いた演武を執り行った記録が残されておりますが……紋章石に宿る英霊が現れた、などという話は聞いたことがありませぬ故に。長く、永く命という名の盾となり護り続けてきたからこそ思うところはあるやもしれませんなぁ」
竜の脅威とはステータスを含めた種族としての強さと未知の恐怖である。巨体の質量から繰り出される破壊力と強靭なウロコによる防御力により立ち向かう人間たちを物理的にも精神的にも粉々に打ち砕いてきたのだろう。
だがロプト教団のメンバーにとってはそうではない。竜を相手にして「どうやって戦えばいいのか」と悩む者はいない。彼ら彼女らにとって竜とは「どうやって倒すか」を考える存在まで引き摺り降ろされた。1度倒している、という事実が幻想種としての強みを取り払ったのだ。
ならばこうして雑談に興じるのも仕方のないことだろう。こうなったらお守りでもなんでも素材を使い切って一儲けしてやる! と半ばヤケクソ気味に笑うアンナを微笑ましく見守りつつ、皆の興味は隠されていたであろう祭壇に続く道に向けられていた。
「さて、リアクションの準備も済ませておかねばな。ここにもオーブが無いとはッ?! と素直に驚くのも良いが、まさかここのオーブも……ッ! と噛み締めるように呟くのも悪くない」
「教主サマの中ではオーブが持ち去られてるのは確定なのね」
「もちろんだとも。ソラネルに続く道の手前まで攻略を済ませたら、オーブ探しに奔走するハメになると諦めているよ」
「それなんだけど……アタシ、女神教団がオーブを持ち去って第30階層から先を隠していたって話? アレ、違うんじゃないかって思ってるのよね〜」
「ふむ、聞こう」
「秘匿するより宣伝するわよ、ゼッタイ。塔の攻略のことについて触れなくても、女神教団の力を誇示するために。そのオーブってヤツ、特別な効果とかあるんでしょ?」
「ふむ……。宗教ビジネスを展開する上で、わかりやすい形でご利益を示したほうが利益には繋がるな」
「それに、塔の続きが解放されたって大騒ぎになってから今日までの間。動きがちょっと鈍いっていうか……細々としたイヤがらせはあっても、な〜んか違うのよね〜。らしくない慎重さというか、妙に奥手なやり口っていうか」
「ふぅむ……? 仮に、だ。偶然、神竜の塔とは無関係な形で入手していたとすれば……辻褄は合うかね? オーブの流出が先、女神教団が拾うのが後だとすれば」
「価値を知らないまま、偶然手に入れた不思議なアイテム扱いってコト? それならわからなくは無いけど、それだと女神教団以外でも当てはまるんじゃない? 特に皇国なんて商人が支配してる国だし、イロイロやってそうじゃない」
「考えたくないな。面倒だ。全部女神教団が黒幕でいてくれたほうが楽で助かるのだがね。大陸全土をオーブ探しの旅など御免被る」
「そこはホラ、向こうから寄ってくるように仕向ければ万事解決ってヤツよ。面白おかしく情報操作に協力してくれる信徒が沢山いるんだからなんとかなるわよ、きっと」
「やってみる価値はある、か。いいだろう、愉快で刺激的な伝説の捏造を楽しむとしよう。ところでスカーレル、さっきのリアクションについてだが」
「あえて言葉にしないで、静かに拳を握り締めるっていうのはどうかしら?」
「────ッ! その手があったか……拳だけに……ッ!」
「いまさらだけど、スカーレルさんもだいぶロプト教団のカラーに染まってるよな。ホントいまさらだけど。暗殺者なのに」
「村に帰れても退屈で物足りなく感じちゃいそうで怖くなってきたわ。ユーウェインあたりは涙を流して喜びそうだけどね」
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