百階層攻略後に日本に帰れる(かもしれない)ゲーム転移。   作:はめるん用

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日常会だからなんか出てもセーフ。

 大陸全土の各国がそうであるように、英雄王の街でも女神教団による豊穣の女神ミラへの信仰と布教は積極的に行われている。

 それはワケありの人間が集う闇市も例外ではない。いや、例外ではなかった。ただ血腥い荒事に鼻の利く人材が豊富だったが故に()()()()()が見えてしまったというだけの話だ。

 

 それでも闇市管理会は住人たちに信仰の自由を認めていた。司祭を名乗る俗物たちが信用ならないことと、女神ミラへの信仰を切り離して考えていたからだ。

 とはいえ、たったの1度でも問題が起きれば人は警戒するもの。そして、たった1人が問題を起こしたとしても人は組織単位で相手を判断する。その結果がボロボロに朽ちた教会なのだろう。

 

 と、いった具合に……信仰心だけでは屋根の雨漏りも壁の隙間風も防げないという実に悲しい現実を象徴していた教会だが、いまではすっかり綺麗にリフォームされていた。住人たちが出入りする姿に珍しさを感じることもなくなり、今日も孤児たちと一緒に筋肉自慢たちが丁寧に花壇の世話をしている。

 

 そのように教会が修繕されることになった切っ掛けが、女神教団の裏側を知り逃げ出してきた僧侶という部分が実に皮肉だが。

 

 

「……この飲み薬は南区の老人会に、この火傷の薬は商工会の鍛冶屋の皆さんに、こっちの頭痛薬はガルデニアの口付けの娼婦の方々に、そっちの髭剃り用の軟膏は突撃ときめきハンマージェントルズの団長のメレンゲさんに」

 

 

 ライブの杖を使うほど緊急でもないが自然治癒を待つのはもどかしい。そんな痒いところに手が届くモノを求める声に応えるべく、有り余る空き地を使い栽培した薬草を丁寧に調合する美しい女性────にしか見えない青年。雑に伸ばしたままの長い髪をポニーテールにした姿が余計に色っぽいと評判のクロード神父は配達予定の薬の準備に勤しんでいた。

 闇市エリアで唯一まともに活動している聖職者ということで多忙も多忙な上に女神教団の追手との戦闘も1度や2度ではないというのに、その表情は活力と余裕に満ちている。単純に不届き者を叩き返す過程でレベルが上がりステータスが強化されたことも無関係ではないだろうが、やはり1番の理由は安定した生活の中で子どもたちの笑顔が増えたことにあるだろう。

 

 もちろんクロードにしてみれば心配事は多い。闇市の住人たちとの交流の中で子どもたちに自立の意識が芽生えたのは喜ばしいことだが、神竜の塔に挑むということは結局のところ、自ら危険に飛び込むということ。子どもたちの活動を応援する気持ちに嘘は無いが、保護者としては簡単に割り切れるものではなかった。

 

 

「闇市の皆さんだけでなく、なぜか表の方々までお買い求めになられることがありますし、もう少し薬草園を広げても……いや、ですが、それで神父としての務めが疎かになるのは聖職者として問題ですし……水をあげて放置するだけの簡単な薬草だけでもお手伝いをお願いして、いえ、さすがに現状、すでにかなりのご厚意に甘えているのにそれは……」

 

 

 感情が割り切れなくても現実は容赦なく取捨選択を強いてくる。クロードも今日に至るまで、人がひとりの努力で出来る限界は想像よりはるかに低いと学んできた。

 だからこそ闇市というコミュニティの一員としてお互い助け合おうと積極的に活動しているのだが……どうにも本人の性格がそうさせるのか、簡単な頼み事ほど躊躇ってしまうらしい。そうした生真面目さが闇市の住人たちに気に入られている理由のひとつなのが悩ましいところだ。

 

 さて、どうしたものかと考えることしばし。クロードが出した結論は“明日のことは明日の自分に任せよう”であった。今日の自分は今日のうちにしなければならないことを一生懸命するのが大事なのだから仕方ない、こうやって悩んでいるヒマがあるなら行動したほうが明日の自分に任せる仕事も減るというもの。

 

 

「慌てない慌てない、ひと休みひと休み……でしたか。面白可笑しく都合良く、仮にも教主様ご本人が住まわれている場所で教義をオモチャにするのはどうかと思わなくもないですが。らしいと言えばらしいですけどね。さて────うん? どうぞ」

 

 

「こんちゃ〜っす。荷物、持ってきましたよ〜」

 

 

 ノックのあとに入室してきたのは闇市で最近預かることになった、というよりは若手の幹部候補が余計なことをしたせいで引き受けなければならなくなった探索者の奴隷だった。

 

 何処かの誰かのせいで勘違いしそうになるが、緩い挨拶と共に現れたビショップの女性が見せる態度は本来の奴隷の姿とは大きくかけ離れている。事実、探索者たちの大多数は雰囲気が非常によろしくないため他者との接触が少ない単純作業の労働力として使われてた。

 この女性を含め前向きに働いている者たちは、もともと探索者ギルドでもフリーの立場で自由にチームを出入りして活動していた者たちである。環境の変化や他者の価値観に合わせることを得意としていただけあって、ロプト教団の愉快な教主の人間性と闇市なりの秩序を知ってから馴染むまで半日も必要としていない。

 

 

「ありがとうございます。薬の調合に使う道具や香油などは、ある程度の知識がある方でなければ運ぶのも手間なものですから。お手数、おかけします」

 

「い〜え〜、こちらこそ。食うトコ寝るトコ住むトコ全部バッチリ用意してもらって、しかも少しとはいえお給料も頂けるってんですからコッチこそありがたいってモンですよ〜」

 

「そうですか。それでは、この件についてはお互い様ということで。ほかになにかあれば遠慮なく聞いてください」

 

「なにか、ねぇ〜。んー、神父様」

 

 

 隷属の紋章を宿した右目が赤く、鈍く光る。

 

 その意味をクロードは知っている。

 

 

「聞かないほうが良いですよ」

 

「まだなにも言ってませんけど」

 

「教主様から皆さんに課せられた誓約については伺っております。自由に想像しているだけであれば楔はただそこに在るだけですが、真実を知れば隷属の紋章は必ず貴女を蝕むことでしょう。それこそ、日常生活すらままならなくなるほどに」

 

「それがもう答えみたいなモノですがね〜。あー、イヤだイヤだ。陰謀に巻き込まれるのなんて冗談じゃないっての。私の嗅覚も鈍ったもんだわさ」

 

「探索者ギルドの人々とて清廉潔白な人物ばかりではないのでしょう。人が集まればそういうことになると、列島諸国の方から玉石混淆という言葉を教えていただきました」

 

「宝石も石くれもゴチャ混ぜになってる状態、ってヤツですね。どうでしょうね〜? 受付なんかのサポートをしてくれるスタッフは信用してましたけど、ワイングラスより重い物を持ったことが無いよーな人たちについては……どうでしょうね〜?」

 

 

 戯けてみせるビショップの女性に、クロードは苦笑いで応えるしかなかった。彼女が言っているのは普段の様子のこともあるだろうが、今回の探索者たちを取り返すべく闇市管理会と行った話し合いの顛末も含めての評価だと想像できたからだ。

 

 探索者ギルドは己の正義を大体的に喧伝して、奴隷にされた探索者たちを取り戻すべく闇市に食って掛かった。闇市の住人たちはロプト教団の信徒であり、ならばロプト教団の行いは断じて許されるモノではないと声高らかに攻め立てて────あわよくば、このまま闇市エリアを支配してしまおうと目論んでいた。今回の出来事はそれだけの欲をかくには充分な下地であったのだ。

 そんな勢い任せに喚き立てる探索者ギルドに対して、闇市管理会の対応は実に静かで落ち着いたモノであった。もちろん臆したのではない。闇市管理会はただ待っていただけだ。探索者ギルド側の失言を。自分たちの優位を勘違いした彼らが「必要ならば、こちらは武力による解決すらも辞さない」と吠える瞬間を。求めていた言質さえ得られれば、あとは「では、そのように」と返答を残して立ち去るだけでいい。

 

 弱気な態度を見せられて、意気揚々と闇市攻略の準備に取り掛かる探索者ギルドの上層部。

 

 そんな彼らに反対した最初の人物は────探索者ギルドの中心的パトロンでもある貴族たち。

 

 後ろ暗い手段に通じているからこそ、貴族たちは探索者ギルドの失言を、失態を、闇市側に暴力を行使する切っ掛けを与えてしまった危険性を誰よりも理解していたのだ。

 一般市民からは好き勝手に生きているよう思われている貴族たちだが、少なくとも各国から英雄王の街に派遣されている者たちは全員がそうではない。神竜の塔から得られる財宝の価値を知識ではなく事実として知るが故に、自分たちが迂闊な真似をすれば取り返しのつかない大戦争に発展することを正しく理解している。

 

 外向けの晩餐会では財力と権力を見せ付けながら、お互いに情報交換のため集う食事会では身体を労り胃腸に優しいミルクのパン粥とりんごジュースで穏やかに語り合う彼らだ。闇市側にとって探索者たちはそれほど価値のある駒ではなく、放置していても無事に返却されると想定していたことだろう。

 

 それなのに、だ。ただでさえ中立と平等を条件に設立させれた英雄学園において各国のお坊ちゃんお嬢ちゃんが余計な火種を生まないようにと気を使っていたところに探索者ギルドが慣れない駆け引きで我慢できず闇市とロプト教団に喧嘩を売るような真似をした、となれば資金提供という手札をチラつかせてでも探索者ギルドを止めようとしても不思議ではない。

 しかし探索者ギルドも簡単にハイそうですかと引き下がることはできない。確実に勝てる前提の交渉だからとそれはもう派手に大見得を切るようなことをしておいてやっぱりダメでした、などと情けない姿を見せれば街全体の治安維持にさえ影響が出るからだ。事実としてギルド上層部の者たちは無能の集まりなどではなく、各国の介入を許容しつつ自由と独立を保ってきた実績がある。

 

 

 では何故、今回に限って読み違いをやらかしたのか? 

 

 答えは単純、神竜の塔に続きがあると知り舞い上がっていたから。人間ならば誰しも、流れが来ていると思い込んで失敗することはある。ただ迷惑の規模が立場によって増減するというだけで。

 

 

「神父様も、どうせ頼りにならないなら割り切って前向きに次のことを考えたほうが良いと思いません〜?」

 

「どうでしょうね。私の場合は子どもたちという護りたい存在がありましたので必死でしたが」

 

「いいじゃないですか、そーゆーので。やっぱり命は大事ですし。っと、スミマセンね〜余計な雑談に付き合わせちゃって。迷惑ついでにロプト教団の教主さんに口利きなんてお願いしても?」

 

「あの方なら基本的に誰でも歓迎してくれると思いますよ。その代わり、大陸全土の裏側に広がる悪意と殴り合うことになりますが……よろしいですか?」

 

「お、おぉ……規模がとんでもねぇ……。そっか〜、女神教団と敵対してるんだからそうなるのか……。でも偽の依頼出してきた探索者ギルドには戻りたくないし……悩ましいな〜」

 

「本当に後がないようなことになれば、そのときは私も協力しますよ」

 

「あざぁ〜っす。じゃ、私は次の仕事行ってきますね〜」

 

 

 

 

「……結果だけを見ればロプト教団だけ何事も無い、ですが教主様のことですから特になにも考えていないんでしょうね。管理会はその辺りのことも理解しているかもしれませんが、ギルドの方々は上も下も大変ですね」

 

 

 探索者の今後について、実は管理会の上層部からクロードに一応打診が来ていたりもした。別に手放しても困らない人材、どころか女神教団の人狩りに関わってしまったと教主から事情を聞かされた管理会としては1日でも早く速く疾く手放したい厄札でしかない。

 それをクロードは快く笑顔でお断りした。人が増えればそれだけ余計な手間もトラブルも増える上に、そもそも探索者たちは女神教団バンザイするように命じられている。しかも教主が刻んだ隷属の紋章は普通ではないらしく、扱い慣れているハズの奴隷商人たちすら青ざめる代物だった。管理会側で制御しきれないとなれば、もしかしなくても子どもたちに危害が出る可能性があるのに引き受けるワケがない。

 

 いろいろ支援してやっていたのに袖にされた! という結果など前提としていたのだろう。管理会の『口』はそれはそう、と軽い態度で返答を持ち帰っている。

 

 相談されればロプト教団に押し付ける。

 

 あとは距離を保ちつつ神父として接する。

 

 優先順位さえ間違えなければ当面はそれで問題ないだろう。闇市で逞しく育っているのは子どもたちだけではなく、彼ら彼女らを保護する者として様々な現実と向き合うことになったクロードの心身も同じであった。慈悲の心を持ちながら暴力の行使を厭わない聖職者、クロードもすっかりキャラクターが濃い口の側である。

 

 

 そんな自分のことをタダの僧侶だと信じて疑わない美女顔タフガイ神父クロードは調合薬の準備を済ませ、大人たちから武器の扱いを学ぶ子どもたちの様子を見に行くことにした。

 ロプト教団の少数精鋭と協力者による第40階層の攻略中にトラブルが起きたときの備え、あるいは攻略に成功したあとに起こるかもしれないトラブルへの備え。闇市に広がる緊張感と好奇心と期待に合わせて待機組が配置されており、この教会でも護衛のついでに子どもたちの訓練を引き受けてくれたのだ。

 

 

「んー? んー、おかしいなー? なんで丁寧に狙うと逆に当たらないんだろー?」

 

「別に塔の攻略では困っていないのだろう? 聞けば、動きながらの射撃は外したことがないらしいじゃないか。基礎はあくまで基礎、大事なのは目的に合わせた動きができることだ」

 

「でもわたしもヴォル兄さんみたいに背筋を伸ばしてピシッ! とマトを射抜いてみたいもん」

 

「う、うーむ……俺のコレは貴族としての教養みたいなモノで、実戦的かと言われると微妙なんだが……」

 

「でもカッコいいです。なんていうのかなー、音? 弓が飛ぶ音とかマトに当たったときの音が違うっていうか」

 

「飛ばすのは弓ではなく矢のほうだがな。しかし、そうか。努力を認めてくれたことは素直に感謝しておこう」

 

 

 子どもたちの中でも1番の弓上手な女の子が、元貴族のスナイパーであるヴォルドに弓の扱いを学んでいる。指示とは関係なく本人の性格がそうなのだろう、実に面倒見が良いらしく時間を作っては弓の技術や簡単な礼儀作法などを教えてくれていた。

 

 この少女だけでなく、剣と斧の扱いに長けた男の子がふたりいる。よほど才能に恵まれたのか、それとも本当に英雄の紋章を……いつか教主が語っていた“聖痕”があるのか。

 なにか納得している様子でキルソード、キラーアクス、キラーボウという駆け出しに渡すにしては物騒な武器を当たり前のようにプレゼントしたことからも無関係ではないのだろう。

 

 

「動きながら正確な射撃ができるのは間違いなく稀有な才能だ。それがお前の長所なのだから、それをそのまま伸ばすほうがいい。もちろん、基礎を固めるという意味で正しい姿勢を学ぼうとする心構えは立派なことだぞ?」

 

「そーですよね、やっぱり地道な練習って大事だと思うんですよね。ホルバインさんだって勇者なのに素振りをめっちゃブンブンやってますし。男の子たちはレベルを上げればいいじゃん、ってカンジであんまり気にしてないみたいですけど」

 

「それは、あー、そうだな。そうなるのも仕方ない、か。楽に強くなれるなら誰だってソレを選ぶのは仕方ないことだ。成長を実感できるのだ、夢中になるのも当然だろう」

 

 

 手本として放った矢を引き抜いて、ヴォルドが的を設置しなおす……前に。女の子と、外れた矢と、的と、視線を何度か動かしてからニヤリと笑い。

 

 

 

 

「そらッ!」

 

 

 

 

 的を上に向けて放り投げた。

 

 

 

 

「────ッ!!」

 

 

 

 

 その反応はまるで猫のように素早く靭やかで、壁を蹴り高く跳び上がりくるりと宙返りしながらの見事な射撃で────。

 

 

「……は?」

 

 

 的を射抜いた女の子の背後に。

 

 見た。

 

 見えた。

 

 腕前を褒めるヴォルドと照れる女の子は気づいていない様子だが、離れた位置から女の子の動きのほうに注目していたクロードは一瞬だけだが確かに見ていた。キラーボウとも銀の弓とも違う立派な弓を構えた、優しくも力強く好戦的な微笑みの────()()()()()()()()()()()()()()が同時に矢を放つ姿を。

 

 英雄の紋章。

 

 聖痕。  

 

 まさか、と思い。

 

 

「……あとで聞けばいいでしょう、えぇ」

 

 

 神竜の塔をチラッと見て、クロードは考えるのを止めた。どうせ自分が悩まなくても答えを知っているだろう人物に心当たりしか無いのだから、本人に直接聞いたほうが早い。

 明日のことは明日の自分がどうにかしてくれるように、だいたい知らない神秘はロプト教団の教主に聞けば解決するのだ。ロプト教団の教義にもある。考えるな、感じろ……と。

 

 故に、今日のクロードは知らない。明日以降の自分が英雄の紋章石を教主から押し付けられることを。杖を極めればハマーンの杖で神器を修復できるかもしれないと、自身の名前の由来でもある【聖者・クロード】の紋章石と死者蘇生を可能とする禁忌の神器【聖杖バルキリー】を持たされることを。




 ネタ探しという名目で聖戦の系譜をのんびりプレイ(序章クリアまで380ターンぐらいのペース)で遊んでいますが、風花雪月やエンゲージとは違う味わい深さがあって良いモノです。

 特に妻のエスリンを亡き者にされ娘のアルテナを人質にとられゲイボルグを手放したキュアンがトラキア軍に鳥葬の如く蝕まれ朽ち果てる姿には感動すら覚えますね。
 主人公であり親友であるシグルドがそれを知り後悔するのは全てが手遅れになってから、という部分も含めて「ファイアーエムブレムを、聖戦の系譜プレイしてるな〜」と正月に実家でお雑煮を食べているような素朴で温かい気持ちになれます。
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