百階層攻略後に日本に帰れる(かもしれない)ゲーム転移。   作:はめるん用

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第7階層と第8階層の合間に。

「ソードナイト、4。ランスナイト、4。アクスナイト、3。一体は鋼の斧を装備している。アストラやお前はそれでも受け切れるだろうが──」

 

「リカール、アルバ、ユーウェインあたりが狙われたら終わりね。初撃をなんとか耐えたとしても、後続が突撃してきたらあっという間にHPを削り切られるわ」

 

 幻影兵のナイトたちの力は6。ソードナイトが鉄の剣で攻撃力11、ランスナイトが鉄の槍で攻撃力12、アクスナイトは鉄の斧で攻撃力13。そして鋼の斧を装備している指揮官? は攻撃力18。鋼シリーズから急に武器の威力上がるんだよな……鉄の斧が7に対して鋼の斧の威力12て。

 それでも俺と前衛組は耐えられる。だが後衛組は普通に厳しい。リカールがアーチャーになる前準備として戦士のクラスチェンジ、ボーナスで最大HPが2ポイント加算されて現在24。守備力が4あるので防御に徹すればダメージは14。うん、半分以上を一撃で持っていかれるわ。ちなみに修道士のふたりはHPが20しかないのでもちろん瀕死になります。

 

 しかもそれに数の不利が加わるというオマケつき。ゲームならユニットを3体も並べれば壁として機能するが、この世界では3人並んだところで隙間だらけ。サクッとすり抜けられたら一発目で怯んだところを別の敵に追撃されたらそれで終わりだ。

 せめてもの救いは相手の速さが3しかないことか。とりあえず同じ敵から続けざまに殴られる危険性は少ない。その代わり技が10あるから避けるのは難しいだろうし、ついに敵側の必殺の一撃に怯える日々が始まることになる。

 

 見えないんだよ。俺の目じゃ『数値』は見えても『確率』は。命中、回避、必殺、必殺回避はプレイヤー特権を持つ俺でも見せてはくれないらしい。

 

 ここまでの幻影兵はボス以外クラス無しで技が0だったからなにも心配いらなかったが、ここにきてバランスの良いナイト系が脅威になるとは。ゲームでは移動力が高いことを逆手に取り分断しやすく、HPもそれほど高くないので狩りやすい経験値だったのに。騎兵の数の暴力は、歩兵タイプとは比べ物にならないな? 

 

 うん、こりゃ普通の攻略はムリだ。

 

「当たり前だが、騎兵を相手に野戦は無謀だな。森に誘い込むか、廃墟を利用するか、あるいはこの砦まで引き込むか。機動力のあるデルムッドを頼ることになるが……グラナ、レベルを上げてペガサスナイトにクラスチェンジしてみるつもりは?」

 

「できれば遠慮したいわ。高いところはあまり得意じゃないの。この砦みたいに足場がしっかりしているのならともかく、私木登りすら苦手なのよ」

 

「さすがに苦手意識は隷属の紋章による命令では解決できんだろうな。また闇市の仲介人に頼るか……」

 

「ひとつ、いいかしら?」

 

「なんだ?」

 

「なんの理由があって奴隷に拘るのかは知らないけれど、ペガサスナイトが欲しいなら直接適当な人間を探せばいいんじゃない? それなら育て直す手間もいらないし、闇市ならワケありの人間なんていくらでもいると思うんだけど」

 

 あー、その手もあるか。

 

 奴隷は反抗できないようにクラスとステータスを剥奪される、みたいな設定がそのままこの世界に反映されているけれど、デルムッドと同じように直接スカウトすればいいのか。スカウト? 隷属を強要しておいてスカウトはさすがに違うよな……? 

 ただ、自力で人材を探す手間と、金で購入する手間を比べてどちらが楽かと問われれば──周回データという名のパトロンが後ろについている時点で考える必要ないっていうね。たぶん、報酬さえ支払えばなんでもやりますって危険な仕事人も探せばいるのだろう。でも同じように金で従わせるなら奴隷のほうが面倒がないから。

 

「ドロップアイテムや宝箱から回収した物品などの、フロア攻略の報酬で揉めるのが面倒だ。奴隷ならドロップアイテムも全て回収して必要な物を与えるだけでいい」

 

 ぶっちゃけ攻略途中の現金やアイテムなんて別に必要ないけれど、最上階攻略後のお願いタイムで揉めるようなことになると非常に困る。

 

「ふ〜ん……。わからなくもないけど。じゃあ、新しい奴隷を買い入れて育てるまで第8階層の攻略は中止するワケ?」

 

「いや、挑戦はする。今後のためにも試せるものは何でも試してみなければな。それに、さすがの騎兵も砦の中では騎馬を召喚したまま戦うことはできまい」

 

「階段で待ち伏せでもする? タルでも持ち込んで石を詰めればお手頃で強力な兵器になるかしら」

 

「火炎ビンのストックもたっぷりあるぞ。子どもたちに危険な火遊びを教えるのは大人として恥じるべきなのだろうが、逞しく成長したほうが将来的にもタフな人間になれるだろう」

 

「モノは言い様ね。キレイな景色ばかりを見て育つよりはマシって考え方には賛成だけど」

 

 基本的にファイアーエムブレムの世界観って弱者に厳しいからな。俺の都合で戦力としてこき使うのだから、せめてもの見返りとして平和に暮らすための必須スキル『暴力』はしっかりと与えてやりたい。

 ま、実際のところこの世界がどんな事情で動いているのかなんて正直クッソどうでもいいんだけど。俺は異世界をエンジョイするために塔を登っているんじゃない、日本に帰りたいだけなんだ。ディナダンたちも100パーセント同情心で世話してるだけだし。

 

「私のように俗世に関心が無さ過ぎるのも問題だろうが……まぁ、人生経験が豊富な大人が周囲にいることだし、視野が狭くなるようなことはあるまい」

 

「…………経験豊富、ねぇ」

 

 

 ◯□◯□ー

 

 

「駆け引きなんて面倒だから単刀直入に聞くわ。デルムッドさん、貴方の知り合いで……帝国天馬騎士団か飛竜騎士団からアストラのために追いかけてきそうな人材はいないのかしら?」

 

「おぉう! 宣言通り真っ向から踏み込んできたな! わざわざ周囲に人目が無いところを確認してから聞いてくるような気遣いをするあたり、ワシが帝国の軍人だと確信しているのか」

 

「そりゃあ、初対面でアレだったもの。恨むならアストラが正直過ぎる人間なのを恨むことね。全力で聞こえないフリに徹してくれている司祭様に感謝したほうがいいわよ」

 

 それもそうだと豪快な笑い声がホームに響く。

 

 雇い主である司祭が飛行タイプの兵種を欲していることを知ったグラナは、一番可能性がありそうな──紹介するときにアストラのやらかしで帝国の騎士だと身バレしているデルムッドに聞いてみることにした。

 

「それについてはなにひとつ言い返せんな! で、肝心の人材のほうだが答えは『否』だ。ワシはあくまでアストラ様個人に忠誠を捧げているが故に奴隷になるのも躊躇わなかったが、帝国騎士の地位をわざわざ捨てるような物好きなど普通はおらんだろうさ」

 

「そう。残念だわ。次の第8階層は敵のナイトが厄介だから、空を飛べる戦力が欲しいと悩んでいたのだけど。まずは砦の上から手斧や手槍を投げることになりそうね」

 

「ワシが若い頃の団長は石礫はもちろん焼いた砂やら煮えた湯なんぞをふりかけるよう指示を出していたぞ。兵士の仕事は生き残ることだ、正々堂々などというセリフを吐くのは騎士だけで良いと。……うぅむ、いま思えば団長殿はワシら部下には好かれていたがほかの騎士団長からは嫌われていたのかもしれん」

 

「部下に尊敬されているなら優秀だったってことでしょ」

 

「おかげでワシは戦争を生き延びているのだから、少なくとも当時の兵隊どもにとってはそうだろう。ともかく、ワシを頼られても戦力の補充などまったくアテなどない。そういうお主は──いや、無いからこそワシに聞いてきたのか」

 

「私がペガサスナイトにならないかとも言われたけど、高いところが苦手だと話したら諦めてくれたわね。そこで引き下がるのなら、いったいなんのための隷属の紋章なのかしら」

 

「さてな。人間不信に陥ったモノだったり他人の尊厳を踏み躙ることで自尊心を満たすモノだったりが奴隷を玩具にするという話は聞いたことがあるが、司祭殿からはそうした雰囲気は感じられん」

 

「報酬の分配を考える必要がないから、とは言っていたわ。もっとも、どこまで本当の話なのか……」

 

「上の階層になるほど豪華で珍しいアイテムが手に入る、とは言うが。帝国にも初代皇帝が神竜の塔から英雄の力が宿ると言われている紋章石ふたつと、それに対応する神器を持ち帰ったという伝説がある」

 

「黒き聖騎士カミュと神槍グラディウス、赤き竜騎士ミシェイルと聖盾アイオテの伝説のことね。似たような伝説や伝承はあちこちの国にあるけれど、このふたりの騎士の物語は子どもたちでも知っているほど有名かもね」

 

「確か、探索者ギルドが把握している情報によると人類が到達した最高階層は30だったか? 挑んだ記録はあれども、生還したという記録は無いらしいな。それより手前の階層では神器と呼べるほどのアイテムが見つかっていないという話であるし、槍も盾も帝国に本当に保管されているのかは眉唾ものだ」

 

「あら、仮にも帝国のロイヤルナイトだった貴方がそんなことを言って大丈夫なワケ?」

 

「おうともよ! 自慢ではないが、ワシは帝国のために槍を振るったことなど一度も無いぞ! 第一にアストラ様のため、次いで部下どものために戦ったことがワシにとっての誉れよッ! だ〜はっはっは!」

 

 相変わらず笑い方が気持ち良いほど豪快だが、本当に自慢気に話すようなことではない。それだけアストラのことを大切に思っていると前向きに解釈することもできなくはないが、それと引き換えに残された部下たちはさぞかし苦労していることだろう。

 

(そう、第30階層より手前で神竜の塔で神器と認められるほどのアイテムが見つかったという話は聞いたことがない。いくら隷属の紋章があるから持ち逃げの心配がないとはいえ、銀の槍でさえも出し惜しみせず与える司祭様が独占したいと言うほどの財宝……司祭様は、誰も知らないハズの30フロアより先になにがあるのかを知っている? ……まさか、ね)

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