百階層攻略後に日本に帰れる(かもしれない)ゲーム転移。 作:はめるん用
「お願いします、どうか私を皆さんのパーティーに加えてください……。いま所属している探索者クランでの扱いに耐えられないんです……」
ある日のこと。
次のボスフロアとなる第10階層攻略に向けて準備をしているとき。新しい魔法の指輪をウットリとした目で見つめながら愛でているアルバくんを生暖かく見守っていたら珍しいお客さんがやってきた。
仲間からの扱いが辛くて逃げ出した、それで別の探索者に助けを求めるという流れは理解できる。だが、それで奴隷の証明である右眼レッドアイな集団を頼るのは意味がわからない。だって奴隷だよ?
と、いうか。
そもそもの話、ミニマップには敵対者として赤い点で表示されている時点でアウトでしょ。
「アンリ、この女を拘束しろ」
「え?」
「承知。少々手荒になります故、お覚悟を」
「ちょ、あのッ!?」
「それで、お前の目的はなんだ」
「で、ですからッ! 仲間たちからの仕打ちがッ! それで司祭様に助けて欲しくて逃げてきたと説明をッ!」
「そうか。リカール、スマンが仲介人を呼んできてくれ。今日の用事は買い取りだと伝えるのを忘れずにな」
「へ〜い」
「ま、待ってくださいッ! そんな、私がいったいなにを──」
「2回、チャンスを与えた」
「へ?」
「私はお前に2回、対話の機会を与えた。これで3回目だ。次はない。この意味が正しく理解できないほどの間抜けではないだろう?」
「……あ〜ッ!! もうッ! 降参、降参や。化かし合いはウチの負けや。とりあえずこの女の人、上からどかしてくれへん? ちゃんと説明するためにも、まずはお互いちゃんと向き合うとっから始めようや」
「ふむ。それだけ軽口を叩けるということは、まだ自分の立場を理解できていないと解釈してもいいのかな? 残念だが仕方ない、仲介人から良い仕事が割り当てられることを祈るぐらいはしてやろう」
「いや〜話を聞いてくれるだけでも嬉しいなぁッ! よく見たらココの床メッチャ掃除が行き届いててピッカピカにキレイやんッ! これならどれだけ寝っ転がっても問題あらへんわ〜ッ!」
で。
改めて話を聞いてみたところ、どうやらこの女は他所の探索者クランからの回し者のようだ。埋伏の毒、いや獅子身中の虫か? 学が足りてない俺にはどちらが例えとして正しいのかわからないが、とにかく俺の神竜の塔攻略を邪魔するために送り込まれたスパイということらしい。
この同人ゲームは基本的にシステムを楽しむためのものでシナリオ成分はほとんど排除されている。なのでプレイヤーのライバルとなるような探索者が出てくる、なんて展開は無かったが……なるほど、この世界では誰が一番攻略が進んでいるかマウント合戦でもあるのだろう。ただ頂点を目指しているだけの俺にとっては迷惑でしかないな。
ただ、なかなか面白い情報も手に入った。どうやら塔の攻略は第30階層まで、正確には第29階層を攻略したという情報はあるが、第30階層の情報を持ち帰った者はいないようだ。周囲の反応から察するに、最高到達点が第30階層というのは常識として広く知られているのかな?
それなら俺のところにスパイを潜り込ませようと考えたのもわからなくはない、か? 次の攻略でベストスコアの3割に到達するとなれば、名誉を欲しがる連中にとっては目障りな新人扱いされるのも納得……納得……うーん? 闇市で奴隷を侍らせているような人間相手に嫉妬なんてするものか? 攻略に対するモチベーションが違うからなんとも言えんな……。
「今回は楽な仕事だと思ったんよ……。司祭さん、そっちの子どもたちにもちゃんとした装備を持たせとるやろ? 本来なら使い捨てにして当たり前みたいなトコある奴隷をそんだけ大事に扱うようなら、泣き落としで余裕やなって」
「子どもを戦力として利用している時点で人間性を疑えと言いたい」
「うん? そんなん別に珍しいことやないやろ。そら戦争とかに駆り出すっちゅーならウチかてクソやなって思うけど、貧しい地域の若いのが一攫千金狙ってココに来るなんて良くある話やん。戦えんでも雑用として雇っとるクランも多いしな。そもそもの話、モンスターに襲われれば大人も子どもも関係あらへんし」
あ、この世界そんな感じなんだ。ファイアーエムブレム本編だと子ども系のユニットとの支援会話だと「こんな小さな子が戦うなんて……」みたいな流れは定番だったが。そして大抵の場合、お子さまユニットって成長率が高いからバリバリに強くなるんだよな。
ま、いいや。
とにかくこの女は俺にとって敵だってことがわかればそれで充分。
「事情は理解した。では、お前にはふたつの選択肢を与えてやろう。ひとつは私の支配を受け入れて神竜の塔攻略に参加する道、もうひとつは仲介人のもとで第2の人生を歩む道。好きなほうを選んでいいぞ」
「ちょ、待ってぇな! ここは話の流れ的にウチのこと許してくれる場面ちゃうの!? 正直に話したことやし、今回だけは見逃してやろう的な感じで解散する流れでええやん!?」
「恥の多い人生を歩んできたが、そんな私でも学んだことがいくつかある。例えば……人間という生き物は、甘い対応で許しを与えると反省することなく増長することなどだ。お前自身はどうか知らないが、少なくとも背後にいるであろう連中はそうだろう?」
このままこの世界で生きるのであれば、こうしたイベントも上手く利用することで人間関係を広げることにつながるのかもしれない。でも俺にそんな器用な真似なんて絶対ムリです。だから、こうして手っ取り早い方法を選ぶ必要があるんですね。
「……これから、お世話になりますぅぅ」
「よろしい。アンリ、もうキルソードから手を離してもいいぞ」
「おや、そうですか。いやなに、前回の攻略で念願の剣士へとクラスチェンジが叶いました故に……つい」
◯□◯□ー
とある司祭の奴隷として、新たにアーリィという名前を与えられた女は自分の運命について色々と諦めることにした。
そもそもの話、もともと所属していた探索クランでの待遇とてお世辞にも恵まれているとは言えなかった。レベルアップで力がほとんど成長しなかったことから戦力ではなく物資の輸送ばかり命じられ、ホームでも雑用ばかり押し付けられていたのだ。
それでも魔力はそれなりに成長していたので、魔法武器を使わせてくれれば役に立てると提案してみたこともある。結果はもちろん「物運びの雑用係にそんな貴重な武器なんて必要ない」という嘲笑を返されるだけであった。
挙句の果てには奴隷を引き連れて調子にのっている探索者がいるから様子を探ってこいとホームから追い出され、しかも簡単に嘘を見破られて隷属の紋章を刻まれる始末。今後の自分自身の扱いに、そして生き方について希望を捨てるのも納得の流れである。
もっとも。
「ハッハァッ!! 次の相手はどいつやァッ! 遠慮せんとかかって来んかぁいッ!!」
「ゴ……アァ……ッ!!」
「ほーん、アーマーナイトかい。非力なペガサスナイトのウチでは勝ち目はほぼほぼゼロやな……。この、風の槍さえ無ければオマエの勝ちやったのになァッ!!」
「ガッ……ッ! ゴォッ!!」
「よっと! 大ハズレ、残念でしたまたどうぞ〜! ま、次なんてあらへんけどな〜。そぉいッ!!」
アーマーナイトが突き出した鉄の槍を横回転で鮮やかに回避したアーリィ。そのまま司祭から渡された槍の魔法武器を頭の上に掲げると、魔力が実体化した翡翠色の穂先から風の刃が飛び出した。
本来であればアーリィ自身が言っていたように、力の成長が芳しくない者では勝負が成立しないほど頑丈な相手である。だがアーマーナイトは速さと魔法防御が低いという致命的な弱点を持っており、修道士などの攻撃魔法が使えるクラスにとってはただの的でしかない。
現在アーリィが装備している風の槍は攻撃力こそ鉄の槍と変わらないが、本人の魔力がペガサスナイトとしてはそれなりに高いこと、装備の効果で速さがプラス2されていること、渡された天馬の腕輪が薄い青色をした幸運にプラス2のボーナスを持つ貴重品であったことが加わり──。
「ウチの動きについてこれるかッ!? 風よ、轟き刃となれッ!」
「ゴギャ……」
「よぉし、次ィッ!」
以前とは真逆の扱い、塔攻略の戦力として頼りにされているという充実感も合わさり、アーリィは攻撃力を最大まで発揮してアーマーナイトたちを次々と討ち倒していた。
「おっと、もう終いかい。なら次は──」
「キシャァッ!!」
「うぉっちょ!? せや、このへんから傭兵も混ざるんやったわ。いまのウチに攻撃を受け止めさせるなんて、なかなかエエ動きすんな? けど……それでも、ウチのほうが速いわッ!!」
くるり、と器用にペガサスを宙返りさせて急上昇。からの急降下で勢いのまま幻影兵と交差し、そのまま風の刃で切り捨てる。必殺の一撃を綺麗に叩き込めたことに感激しているのか、アーリィは手綱を掴んだままの左手で小さく何度もガッツポーズを繰り返していた。
(ウチ、決めたわ。このまま司祭さんトコで戦おう。武器も、天馬の腕輪もエエもんくれたし、昨日の食事も美味しかったし。ま、ホームが狭くて寝床の確保がちぃっとばかし大変やったけど……ハンモックで寝れるなら全然マシやな。お湯を浴びるための個室まであったんは驚いたっけな〜)
隷属の紋章が付与されている以上、どのみち雇い主である司祭のパーティから離れることなどできないのだが……いわゆる“気分の問題”というものなのだろう。
ともかく。活躍の機会を与えられたアーリィは心の底から楽しそうに空を駆けていた。そのテンションの上がりように、下から見ていたほかのメンバーからもしかして戦闘狂なのでは? と疑われながら。