しあわせをのぞむならば   作:華歳ムツキ

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「つまり、人を変態呼ばわりしてた奴が最終的に自ら変態行為をさせられる羽目になったわけか」- クレフ博士


特に理由のない脱衣がブライトを襲う!

ブライトは大層上機嫌でセキュリティ施設の廊下を歩いていた。一方、周りを行き交う職員達は心底迷惑そうにブライトを見つめている。

というのも、ブライトが連れている犬が終始吠え続けているからだ。そりゃもう、耳を塞いで逃げ出す職員もいるほどの騒音である。すぐ近くに雷が落ちた時よりもうるさい。犯人がセキュリティクリアランス4の人事局長でなければ、誰も彼も我先にと警備員を呼び出していたことだろう。

しかし悲しいかな、相手はお騒がせの問題児とはいえ歴とした上級研究員である。行き交う下っ端研究員は、怪我人が出ているわけでもないならと我慢するしかない。

逆にいうと、同じ階級の人間なら何一つ我慢する必要がないわけで。

 

 

「ブライトォ! うるせぇぞ、その頭串刺しにされてぇのか!」

「おっと、やめてくれよコニー。私の体は変えればいいが、このやんちゃなワンちゃんがその拍子に脱走したら困るだろう」

「あ? なんだこの犬?」

 

 

苛立ちを隠さず研究室から出てきたコンドラキに対し、ブライトはこれ見よがしに手にした犬のリードを振ってみせた。当然、怒り心頭といえどコンドラキの注意も犬──けたたましく吠えるジャーマン・シェパードに移る。

 

 

「こいつはSCP-6974-KO-J……変態を見たら吠える犬だ!」

 

 

ブライトがわざとらしく声を張った瞬間、近場にいた数人の職員がぎょっとした様子で振り向いた。無理からぬ反応だ。

何せ、このジャーマン・シェパードは廊下を歩く間ずっと吠えていた。つまり、ここに来るまでの道中で視界に入ったほとんどの職員は何かしら変態的嗜好を持っていたことになる。

そして、先程のブライトの発言は半ば犬の声にかき消されていたが、近くにいて聞こえてしまった職員から波が伝わるようにして広まっていった。勝手に変態認定を受けたくない職員が一人、また一人と逃げ出し、ものの数分もしない内に廊下は勤務時間中とは思えないほど閑散とした状態になる。

 

 

「おやおや、皆ムッツリだねぇ!」

「ふざけんな。仕掛け人の癖してなに他人事みたいな言い方してんだ」

「私達以外いなくなったのに吠え止まないなんて、やはりコニーは変態だったか……」

「お前の方が変態だろうが」

「残念ながら6974-KO-Jは視認した相手の変態度を感知するんだ。私は背後にいるから──おや?」

 

 

延々と吠え続けていたSCP-6974-KO-Jが突然沈黙した。移動して別の人間の元の前に来た結果吠えなくなるのならまだしも、人的条件は何も変わっていないのにだ。

当然ながら怪訝に思った二人の会話が途切れたその瞬間、廊下の曲がり角から見慣れた人影が二つ現れた。

 

 

「……お前ら、そんなところに突っ立って何をしているんだ?」

「……なるほど!」

「は?」

 

 

現れたのはクレフ──と、円居である。途端に合点がいったとばかりに叫んだブライトだったが、出会い頭に突然叫ばれたクレフからしてみれば訳が分からない。

 

 

「この犬、変態を見たら吠える犬なんだとよ」

「へえ、何らかの精神干渉系オブジェクトか?」

「そうそう。で、円居がいたからアルト相手にも吠えなかったんだね。いやぁ、一瞬びっくりしたよ。まさかアルトが変態じゃないわけがないし」

「あ?」

「円居、こっちおいで。クレフ博士に吠えるところを見てみよう」

「えっ」

 

 

唐突に水を向けられた円居が困惑していると、返事をするより早く肩に腕を回された。

 

 

「悪いがこいつはこれから実験だ。もう行くぞ」

「おいおい、大した手間じゃないだろう? ちょっと円居の傍から離れてくれたらいいだけさ。それとも変態の自覚があるから、バレるのが怖いのかい?」

「言ってろ。仮にそうだとして露呈するのは気にならないが、それでお前が得意げになるのだけは我慢ならない」

「要するに意地を張ってるだけじゃないか!」

 

 

しつこい追求に辟易した様子でクレフは威嚇するようにショットガンを構えたが、ブライトが怯む様子はない。片手にアノマリーを引き連れている上に、大した理由もなく円居の目の前で発砲するわけがないと高を括っているのだろう。

実際、クレフは普段なら撃っているような状況にも関わらず発砲しなかったが──

 

 

「ジャック」

「……ソフィア?」

 

 

思わぬ第三者からの横槍によって、ブライトとクレフの動きは止まった。咄嗟に揃って振り向けば、そこには間違いなく虫の居所が悪いであろうライトが立っている。

 

 

「ジャック、ちょっと来なさい」

「えーっと……まずは理由を聞いても?」

「あなたがアノマリーを無断で持ち出した挙句、騒音被害と風評被害をまき散らしていると無数の通報があったからよ」

「やだなぁ、騒音は……確かにちょっとあったかもしれないが、風評被害っていうのは私から言わせれば──」

「ジャック」

「……分かった、分かったよ」

 

 


 

 

「──というわけで、今日の私は君とお揃いスタイルってワケ」

「……度の過ぎた悪戯によって、人型オブジェクト用のGPS付きチョーカーを装着させられていると」

 

 

この人、何やってんだろう──とは思っても口には出さず、円居は喉まで出かかった言葉を目の前のパスタと一緒に呑み込んだ。今日の昼ご飯も美味しい。突然押しかけてくるなり、昨日の顛末を話し出したブライトのトンチキ話とセットでもちゃんと美味しい。

 

 

「まあ、慣れてるからいいんだけどね」

「慣れては駄目なのでは……?」

 

 

おそらくGPSを付けられたのは、昨日の今日で再び施設を練り歩いていたらすぐ察知できるようにするためだろう。ブライトもそれを分かっているからこそ、今日はこうして食堂で管を巻いているに違いない。

つまるところ、今この間にもブライトの位置情報を監視している職員がいるわけで──肝心の張本人が案外けろっとしているのも相まって、余計な仕事が増えたであろう職員の苦労が偲ばれた。

 

 

「これでも私は悪戯の度合いは弁えているんだよ。中には加減の利かないオブジェクトを利用して、コモドドラゴンをけしかけた奴もいたし」

「それ本当にただの悪戯ですか? 普通に殺人未遂では?」

 

 

コモドドラゴンといえば世界最大のトカゲであり、鋸のような歯と危険な出血毒を持っている。そんなものを突然けしかけられたら、下手をしたら命を落としてもおかしくない。

 

 

「実際、度の過ぎた行いだってことで懲戒処分になったし──」

「ブライト博士!!!」

 

 

のんびりと話していたブライト博士の言葉を遮る形で、突然網を持った職員が食堂に飛び込んできた。繰り返すが、何故か網を持っている。

 

 

「いますか!?」

「君の目が硝子玉じゃないなら見てわかるはずだけどね。今日は何もしてないはずなのに、何をそんなに騒いでいるんだい?」

「実は先程ブライト博士のGPS反応が増殖しまして、また何かやらかしたのかと……」

「はあ?」

 

 

驚いた。GPS反応というのは増殖することがあるらしい。

 

 

「しかも、もう一つは施設の外に出現したのでてっきり脱走でもしたのかと……一応どちらも同時に捕まえられるよう、そちらにも職員を送ったのですが」

「あのねぇ、どうせ誤作動か何かだから機材を調べて──」

 

 

それは一瞬の出来事だった。

呆れた様子で喋っていたブライトの服が──何の前触れもなく弾け飛んだのである。

そりゃもう見事に、全てが一瞬で原型を留めていない布切れに変貌した。下着一枚残っていない。

あまりに勢いよく吹き飛んだことによって細かな端切れが宙を舞う中、ブライトは素っ裸で食堂の椅子に座っている状態だった。あまりに異様な光景に、当然ながら食堂にいた人々の注意は全てブライトへ引き寄せられる。そして、一拍遅れて──

 

 

「きゃぁぁぁぁ!?」

 

 

絹を裂くような悲鳴が上がった。勿論、主に女性陣から。同性ならともかく、異性からしてみれば堪ったものじゃないだろう。研究員や医務官であれば性別問わず裸体を見慣れている者も多いが、昼時の食堂には事務員やエージェントの利用者もたくさんいる。

そうした悲鳴で我に返ったのか、何人かの男性研究員が慌てた様子で白衣を次々とブライトに放り投げた。

 

 

「ブ、ブライト博士! 隠して! 隠して!」

「私が率先して露出したような言い方は止せ! 私だって何が起きているのか全く分からない!」

 

 

ブライトは周りの反応に文句を言いつつ、ひとまず素直に渡された白衣で体を覆った。とはいえ、何故か当人は突然裸になった事実に関して然程恥ずかしがっていないようにも見える。まさか裸になることにも慣れて──いや、これ以上はやめておこう。

 

 

「そこの網を持ってる君、大至急増殖したとかいう私の反応について調べてくれ。あまりにもタイミングが良すぎる。増殖と服のパージが無関係とは考えづらい」

「わ、分かりまし──ブライト博士! 席を立つならちゃんと白衣の前を閉めてください!」

 

 

嵐のように去っていくブライトを見送った後、円居はぼんやりと惰性でパスタを食べた。

GPSを付けられるのに慣れているブライト博士。悪戯にコモドドラゴンをけしかける研究員。突然服が弾け飛ぶブライト博士。食堂に響き渡る無数の悲鳴。

 

 

「……パスタ美味しい」

 

 

わずか数分の間に詰め込まれた情報のせいでパンクしそうだったので、円居はとりあえず考えることをやめた。

 




タイトル: SCP-6974-KO-J
原語版タイトル: SCP-6974-KO-J - 변태를 보면 짖는 개
訳者: WeirdoWhoever
原語版作者: MysteryInc
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-6974-ko-j
原語版ソース: http://scpko.wikidot.com/scp-6974-ko-j
ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: SCP-1604-JP - 戦ったところで運命は変えられぬ
作者: Zenigata
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-1604-jp
ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: SCP-539 - 完璧な注意散漫
原語版タイトル: SCP-539 - The Perfect Distraction
訳者: Porsche466
原語版作者: Kal Malign
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-539
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-539
ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: ブライト博士の人事ファイル
原語版タイトル: Personnel Director Bright's Personnel File
訳者: Dr Devan
原語版作者: AdminBright
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/dr-bright-s-personnel-file
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/dr-bright-s-personnel-file
ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: クレフ博士の人事ファイル
原語版タイトル: Dr Clef's Personnel File
訳者: Dr Devan
原語版作者: DrClef
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/drclef-member-page
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/drclef-member-page
ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: コンドラキ博士の人事ファイル
原語版タイトル: Dr Kondraki's Personnel File
訳者: (user deleted)
原語版作者: Dr Kondraki
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/dr-kondraki-s-personnel-file
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/dr-kondraki-s-personnel-file
ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: ライト博士の人事ファイル
原語版タイトル: Dr. Sophia Light's Personnel File
訳者: Ikr_4185
原語版作者: Sophia Light
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/dr-light-s-personnel-file
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/dr-light-s-personnel-file
ライセンス: CC BY-SA 3.0
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