しあわせをのぞむならば   作:華歳ムツキ

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「主人公補正とメアリー・スーの違いは?昨今ありふれたゲームのプレイヤーアバターは、何故不自然なほどに誰からも好かれて何もかも上手く運べる?エンタメの溢れたこの世の中で、メアリー・スーを皮肉ること自体が『皮肉』だと思うけどね」 - とあるタイプグリーン



エピローグからプロローグへ
n回目のK-クラスシナリオ


1日目。

 

柄でもないけど、何が起きたのか記すために日記をつけることにした。そうでもしないと頭がおかしくなりそうだ。

初日なので端的に、何が起きたか記す。数か月ぶりに外へ出たら外が滅んでいた。以上。

 

冗談でも何でもなく、本当に世界が滅んでいる。なんで滅んだのかもわからない。だってずっと家にいたから。

空はずっと真っ暗なままで、時計がなければ時間の経過すら分からない。少し歩いて大きな道路がある通りに出たら、そこには白骨化した死体の山があった。白骨化するまでの経過時間は気温によって異なるらしいが、人類がいなくなってからすでにしばらく経っているのだろう。新鮮な死体の山じゃなかったことだけは不幸中の幸いか。もしそんな惨状が広がっていたら、散策する余裕もなく吐瀉物に塗れていただろう。

とりあえず呆然としたまま辺りを散策したが、本当に何も分からなかった。世界がどうして滅んだのか、これからどうすればいいのかすら。

 

***

 

2日目。

 

昨日は大量の骨を見て気が動転していたから、これが腐臭のする新鮮な死体の山じゃなかったことを幸運だなんて思ったけど、よく考えたら滅んだ世界で生き残ったこと自体が致命的な不運だ。

こんな……こんな頭がおかしくなりそうな事態に陥るなら、訳もわからないまま皆と一緒のタイミングで死んだ方がよかったに決まってる。それとも、彼らは壮絶な苦しみを味わって死んだのだろうか?その辺がわからないから、現状を不運だなんて嘆いてしまうんだろうか?

 

分からない。何も分からないんだ。何でもいいから、することを見つけないと頭がおかしくなる。自殺する勇気すら持てないんだから、何かした方がマシだ。

 

***

 

3日目。

 

しばらく考えた末に、SCP財団のサイトへ行ってみることにした。

SCP財団。世界が正常だった頃は命を狙ってくる恐ろしい連中だとしか思ってなかったけど、こんな異常事態では唯一希望が持てる相手だ。あいつらなら何か知っているかもしれない。勿論、こんな異常事態でもいつも通りこっちの命を狙ってくる可能性はあるから、近づくなら拠点を探った時みたく力を使いながらこっそりやらないと駄目だろうけど。

何かあった時のため、隠れ家から一番近い奴らの拠点を把握しておいてよかった。

 

***

 

5日目。

 

最悪だ。奴らの拠点すら骨の山になっていた。忌々しい奴らだった上にこんな時ですら頼りにならないなんて。最悪だ。

およそ一日かけて移動してきたのに、何の成果も得られなかった。疲れたから今日はこの建物で休む。どうせ誰もいない。

 

***

 

6日目。

 

目を覚ますとモニターに光がついていて心臓が止まるかと思った。そこには何か……何だろう、喋る犬がいた。データで出来たボーダーコリーだ。

こいつらがおかしなものをたくさん抱え込んでいるのは知ってたけど、まさか電子の海で生きるペットまで飼っているとは。

その、なんというか……あんまり頭はよくなさそうだ。幼児と話してる気分になる。身近に子供なんていたことがないから、どうすればいいのかよくわからなくなることがある。でも、喋る相手がいるとほっとする。

 

 

▼△▼△▼

 

 

“きみは『ざいだん』のひと?”

“いや、えーっと……なんて言ったらいいのか。君はどうしてここに?”

“ぼく、ぼくとおなじ名前のところにいかなきゃいけなくて……まえもしたみたいに! でも、まえとちがってて……”

“君と同じ名前?”

“SCP-2000-JP! ごじょうさんがくれたたいせつな名前! ぼくにそっくりな名前の子もいるんだよ!”

“……OK、少し調べものをするから待っててくれるかな?”

 

 

▼△▼△▼

 

 

9日目。

 

随分と時間がかかったが、大体のことはわかったような……わからなかったような。

一つだけ言えるのは、人類にとって頼みの綱だったはずの財団ですらもう完全に再起不能に陥っているということだ。ただ、そのお陰で財団のデータベースに無断でアクセスできたのは助かった。でなければ、何も分からないまま右往左往する羽目になっただろう。SCP-2000-JPは健気な良い子だが、このわんこから全ての事情を把握するのはさすがに難易度が高すぎる。

 

財団のデータベース片手にわんこの話を聞いた限り、財団はこれまでにも世界を滅亡させてしまったことがあるらしい。それも、少なくとも2回はやらかしてる。

もうこれだけで卒倒しそうな話だが、ここで終わりじゃないのが財団の怖いところだ。彼らはやらかしはするが、同時にリカバリーもしようと最後の最後まで足掻いた。

それがSCP-2000……この可愛らしいわんことよく似た名前だが、機能としては全く違う。曰く、それは世界を再建するための巨大な機械らしい。機械仕掛けの神。

デウス・エクス・マキナといえば、オチのつけられなかった劇を無理に締めるため登場させられる神様を揶揄する言葉だが、このSCP-2000は資料を見る限り想像より真っ当な手段で世界を再建する。少なくとも現実を書き換えて過程を吹っ飛ばし、よくわからないまま結果だけ齎すような代物じゃない。まるでゲームのセーブ&ロードのように、機械の中に収められた人類の遺伝子情報からたったの数日で人類を作り出し、その新生人類とも言える彼らに手動で世界を作り直させるのだ。

そして、最後には再建した人々にその事実を忘れさせるための薬を散布し、晴れて世界は滅びる前の段階へ戻される。そんなことが少なくとも2回は起きているというのだから、実のところ今の世界は西暦20■■年なんてものでは済まないのだろう。今の人類が覚えていないだけで、おそらくもっと長い時間が経っている。

 

いや、そんなことはどうでもいい。世界が何度も滅びていただとか、そんなことで感傷に浸っている場合じゃない。

問題は、肝心の機械仕掛けの神様がもう動かないということだ。

このわんこは有事の際……要は今みたいな世界滅亡の瞬間にはSCP-2000を起動するように言われていたが、わんこの努力も空しく機械仕掛けの神様はうんともすんとも言わなかった。資料には修理中と書かれていたため、元から機能不全を起こしていたらしい。最速でやっておけよと毒づきたくなったが、悪態を吐いたところで何も変わらない。何も、変わらない……

 

***

 

10日目。

 

迷った末に、駄目元でSCP-2000とやらを見に行くことにした。場所は資料に載っていたし、わんこがいれば中に入れるらしいから行くだけ行ってみる。

どうせ何もかも駄目なら、世界滅亡の時にしか拝めない機械仕掛けの神様を眺めてから死んでもいいだろう。自分一人で彷徨っていた頃はこんな楽観的な気分にはなれなかったものの、今はわんこがいてくれるお陰で大分気が楽だ。財団の拠点を出る時に端末を持ち出し、そこにわんこを移したから移動中も寂しくない。

 

***

 

18日目。

 

先日は気軽に「行ってみる」なんて書いたが、めちゃくちゃ大変だった。二度とやらない。片道切符だ。たとえ自殺することになったとしても、祖国で死にたいとか言わずに諦めてアメリカで死ぬ。

 

そもそも僕は日本生まれの日本育ち日本在住で、SCP-2000があるのはイエローストーン国立公園……つまりはアメリカだ。

世界は滅んでるから、当然ながら飛行機だって使えない。僕はちょっと特殊な力を持っているが、さすがにゲームみたくテレポートやらワープやらはできない。

普通ならここで「何を馬鹿なことを言ってたんだろう」と嗤って話が終わったかもしれないが、なまじ財団がおかしな解決策を所有していたせいで思い付きが延長してしまった。

 

SCP-1475-JP。これは財団が保管している椅子で、座るとおよそ2時間の飛行を経てノースカロライナまで射出される……字面にすると我ながら頭がおかしいのかと思う話だが、残念ながら本当だ。空の旅はそんなに悪いものでもなかった。恐ろしい飛行速度には肝が冷えたが、謎の破壊耐性を獲得するようで飛行中は一切危険を感じることはなかったからだ。

 

問題はその先だ。椅子の着弾地点であるノースカロライナ州から、イエローストーン国立公園があるワイオミング州まではおよそ1900マイルもある。車をぶっ通しで走らせても1日以上かかる遠さだ。

ペーパードライバーではあるが一応運転の仕方は知っていたので、その辺から車を拝借して何とかなったが……徒歩だったら改めてそこで諦めていただろう。ノースカロライナに突っ立って人生を諦めるとか間抜けにもほどがあるので、さすがにそこで終わりじゃなかったのは運がよかったかもしれない。

 

ともあれ定期的に休憩を取ったり、点在している民家やサービスエリアで物資を補充したり……窃盗の罪を何件重ねたか分からないが、どうせ世界は滅んでいるのだから今後罪が立証されることもない。ようやく遠目にイエローストーン国立公園から噴き出す蒸気が見えてきたから、明日にはわんこの案内で件の『神様』に謁見できそうだ。

 

***

 

20日目。

 

イエローストーン国立公園。日本でも有名な観光地だが訪れるのは初めてだ。

間欠泉が点在しているせいで年中強烈な蒸気に覆われており、赤褐色の土と青い水面のコントラストが目に鮮やかだ。頭上に広がる終末の黒い空がなければもっと楽しめただろう。

本来は園内にグリズリーが出没することもあるらしいが、熊どころか鳥一羽すら見かけない。あまり気にしていなかったが、そういえば移動中も全く見かけていない。世界の滅びは人間だけでなく動物も等しく殺してしまったらしい。

まあ、今回は自然を見たくて来たわけじゃない。お目当ての『神様』はというと──

 

 

▼△▼△▼

 

 

“広い……”

“まえはね、SCP-2000を起こしたあと、しばらくみんなでここにいたんだよ”

“地下の人間工場にして巨大シェルターか……財団曰く彼らが保有する科学から逸脱していない代物らしいけど、一般人からしたら最早SFだな”

 

 

▼△▼△▼

 

 

21日目。

 

一通り見て回ってみたが、ここは本当にすごい。訳のわからない機械類と、一生お目にかかれないような数の芸術品、それに快適な居住空間……何でもある。ここでなら何年だって生き延びられるのだろう。概ね資料で読んだ通りだ。

ただ、一つだけおかしな点がある……壊れて動かないこと以外に、だ。

資料によれば財団はこの切り札を懇切丁寧に保護しており、スクラントン現実錨やシャンク/アナスタサコス恒常時間溝でがちがちに覆っている。要はSCP-2000に対して現実改変や過去改変を行うことはできない。

そのはずなのだが、自分で試した感じここでも普通に力が使える。肝心のSCP-2000が機能不全に陥っているせいで、それを防御する各種装置も動かなくなっているのだろうか?

だから何だという話ではある。現実改変なんて大層な名前をつけられてはいるが、実のところこの力はそこまで万能なものでもない。瞬間移動はできないし、理解できないものは変えられない。尤も、それでも一般社会からすると脅威になり得る力だからこそ、財団は躍起になって現実改変者を駆逐しようとするのだろうが……意識的に能力を使えるようになった現実改変者を『お子様神』だとか形容する辺り、財団がどれだけ現実改変者を嫌っているかが窺える。

 

 

▼△▼△▼

 

 

“SCP-2000-JP、もう一度SCP-2000を起こしてみてくれないか? 一緒にやるから、3つ数えたら”

“いっしょ?”

“気にしないで。ちょっと試してみるだけさ。準備はいい?”

“えっと……うん!”

“よし。それじゃあ……3、2、1──”

 

 

▼△▼△▼

 

 

それはちょっとした思い付き。現実味のないまま終末の世界を迎えてしまった『お子様神』が、黙りこくった『機械仕掛けの神』に存在しないはずの歯車を突っ込んだ。

 




タイトル: SCP-2000-JP - 伝書使
作者: fes-ryuukatetu, furabbit, WagnasCousin
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-2000-jp
ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: SCP-1475-JP - 標的はノースカロライナ
作者: semiShigUre
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-1475-jp
ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: SCP-2000 - 機械仕掛けの神
原語版タイトル: SCP-2000 - Deus Ex Machina
訳者: Porsche466
原語版作者: HammerMaiden
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-2000
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-2000
ライセンス: CC BY-SA 3.0
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