しあわせをのぞむならば   作:華歳ムツキ

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「ちなみにお土産はメープルクッキーでした。やっぱカナダといえばメープルかなって……え? ビーバーテイル? あれは日持ちしないから無理ですよ……」- 円居


道の先にあるものは

数日前、バーナビー近郊の廃屋で空間異常が見つかった。発生箇所は主寝室のドアであり、廊下側から入ろうとすると薄暗い空とコンクリート製の小道が広がる空間に繋がる。

いつから発生しているのかは定かではないが、好奇心旺盛な学生が肝試しのために廃屋へ忍び込んだことで事態は発覚した。学生達がSNSで拡散した情報はすでに財団によって偽装され、目撃者全員に記憶処理が施されている。その後すぐに財団が土地ごと廃屋を購入して警備員を立てたため、今後民間人が迷い込む心配はないだろう。

しかし、話はここからさらにややこしくなる。こう言っては何だが、空間異常自体はよくある異常性だ。拡大する恐れさえなければ囲って終わりなので、調査の優先度は高くない。そのため、財団も当初はぼちぼちDクラスでも突っ込んでという予定だったのだが──

 

 

「初めてDクラスを突っ込んだところ、何故かすでに内部にDクラスがいたと」

「ええ。しかも、どういうわけかDクラスに近づくこともできなかったそうよ」

 

 

2503のナンバーが割り振られた空間異常に対し、調査チームはDクラスに数日分の食糧と無線機を持たせて内部へと送り込んだ。その段階で分かったことがいくつかある。

まず、その空間ではどれだけ歩いても全く疲労を感じず、外とは時間の流れが異なる可能性が高いということ。また、数十分ほど歩いた段階では通信の調子が悪くなり始めていたこと──そこからさらに進んだ場合どうなるのかはまだわかっていない。その時点でDクラスが道の外にいる別のDクラスを見つけたためだ。

便宜上2503-Aと名付けられた別のDクラスは、道の外に広がる何もない空間で必死にDクラスへと呼び掛けている様子だった。しかし、その声が実際にDクラスの耳に届くことはなく、ぱっと見は走っているように見えるのに距離は一切縮まらなかったという。

 

 

「嘘ではなく?」

「その可能性も考えられたけれど……その後続けて二人のDクラスも投入したところ、揃って同じ経過時間で同じ証言をしたわ。精神影響で存在しないものが見えている可能性もあるけれど、少なくとも彼らは自身の体感通りの証言をしていることになる」

 

 

財団が投入した覚えのないDクラスがすでに内部に存在した。これが事実だった場合、考えられるのは主に時間異常と並行世界だ。

時間異常だとすれば未来の光景が過去に届いていることになる。今後の実験でDクラスが失われることになっており、それが最初のDクラスの目に映ったということだ。

並行世界だとすれば、他の世界に存在する財団も同じようにSCP-2503の調査を行った可能性が高い。並行世界の実在はすでに証明されているため、こちらもあり得ない話ではなかった。

 

 

「つまり、今回僕の仕事は2503-Aが実在しているかどうか、実在した場合は回収できるかどうかを確認するってことですね」

「ええ。外には研究チームが待機しているから、私はDクラスを連れてあなたと一緒に中へ入るわ」

 

 

円居は徐に開かれた主寝室のドアを眺め、不気味な薄暗い小道を見渡した。手筈は簡単だ。三人のDクラスが証言した経過時間まで歩き、それまでに円居の異常性範囲内でも同じ証言が取れるのかを確認する。もしこの時点で何も見えなければ、この異空間の中に何らかの精神影響が働いている可能性が高い。

仮に円居にも2503-Aが見えた場合、異空間に出入り口を固定する抑制効果を利用して2503-Aを連れ帰ることができないか試みる。これは道の内外でも空間に隔たりができているのではないかという仮説に基づいており、もしそうなら円居が体の一部でも道の外に出せばその地点が道の内外における出入り口と見做されて接近が可能になるかもしれない──とはいえ、人間が道に外へ身を曝したら何が起こるかは定かではないので、そのためのDクラスというわけだ。

 

 

「D-9953、あなたが先頭よ」

「な、なあ……もし今回そいつが見えなかったら、俺が前回嘘を吐いたと思われんのか?」

「今回に限ってはそういうことはないわ」

「ならいいけどよ……」

 

 


 

 

こつ、こつ。靴音がコンクリートの上を転がる。ずっとこの音を聞いているせいか、円居はそろそろ頭がおかしくなりそうだった。外とは時間の流れが異なるとは伝えられていたが、実際に体験してみると想像以上にストレスのかかる状況だ。

今回は一人ではないからまだいいが、一人だったらと思うとぞっとする。それは隣を歩いているケイヤーも同じなのか、任務中にも関わらず度々関係のない話題を挟むほどだった。

 

 

「……ねえ、円居は財団内で出回っているっていう秘密の刊行物*1を知ってる?」

「知らないです」

「本当に?」

「なんで疑ってくるんですか……」

「ふふ、あなたも男の子だから知っていて隠してるのかもと思って」

「男性向け雑誌みたいなものなんですか?」

「そうらしいわ。上手いこと女性職員には見つからないようにしている辺り、どうせ大っぴらになればコンプラに引っ掛かるような代物なんでしょう」

「そんなポルノ誌みたいなものが出回っているなんて……男子校じゃないんだから……」

「あら、あなたも高校に通っていた頃は読んでたの?」

「僕は共学でした」

「ちょっと残念そうに聞こえたのは気のせい?」

「気のせいです」

 

 

あれこれと他愛のないことを話しつつ、歩き続けてどれぐらい経っただろうか。話題が食堂でたまに見かける原材料不明のミックスジュースに移ったところで、二人はぴたりと会話を止めて道の外に現れたものに目を向けた。

 

 

「……いるわね」

「……いますね」

 

 

道の外には確かに2503-Aがいた。視認性の良いオレンジのつなぎに、目を凝らせば胸元に刻まれた財団のロゴが確認できる。間違いなく財団のDクラスだ。

円居とケイヤーは曖昧な表情で目配せをし合った後、一転して黙々と調査の第二段階へと移った。いっそのこと精神影響であれば話は早かったのだが、実在している以上は仕方ない。

 

 

「D-9953、今からあなたにはあのDクラスに接近してもらうわ」

「それは、その……大丈夫なのか? あいつみたいにならないか?」

「その可能性は十分あるけれど……一応帰還の見込みもあるわ。そもそもやらなければ今ここであなたを終了し、別のDクラスを送り込んでもらうだけよ。幸い、ここではお腹も減らないみたいだし、私達が次のDクラスの到着を待つのに支障はなさそうね」

「……クソ」

 

 

素直に背中を向けたDクラスの胴に補助用ベルトを装着し、そこにロープを繋いだ。異空間では物理的な命綱など意味を為さないことがほとんどだが、ないよりはマシだろう。

 

 

「よし。それじゃあ、まずは片足だけ道を跨いでみて」

「……跨いだ」

「違和感は?」

「特にない」

『ドアを潜った直後に通信が途切れないように、この異空間の内部は全体的にマーブル模様のようになっているのかもしれない』

 

 

会話を聞いている外の研究員の所感に頷きつつ、今度は円居が片腕を道の外へ出した。その瞬間、三人の耳には「おーい!」という聞き慣れない声が飛び込んでくる。そちらを見遣れば、死に物狂いといった様子で駆け寄ってくる2503-Aの姿があった。

 

 

「手間が省けたわね。あなた、そこで止まりなさい」

「わ、わか、わかったから……撃たないでくれ。本当に、怖くて……まだ、死にたくない……」

 

 

2503-Aが道の上まで来たのを確認し、D-9953を道の上に戻してから円居も腕を引っ込めた。2503-Aは酷く憔悴しているようだが、顔色が悪かったり痩せ細っているような様子は見受けられない。もし道の内外で別の空間だったとしても、時間の流れという面においては同じ基準のようだ。

 

 

「D-935……どうしてここにいるのかしら?」

「ど、どうしてって……お前らが俺に入れって言ったんだろ!?」

「信じがたいかもしれないけど、君が知っている財団と僕らは似て非なるものだと思うよ」

「は?」

「君の番号を外の研究員に伝えて照合してもらったけど、僕らが把握しているD-935は女性なんだよね」

「……は?」

 

 

ケイヤーが二人を監視している間に、円居は手早く外の研究員に2503-Aの番号を伝えていた。Dクラスの服にはそれぞれ番号が振られているため、確認も簡単だ。

 

 

「え、それって、どういう……?」

「まあまあ、詳しい話は外でするから。一旦ここを出ようか」

「それは……いや、分かった。お前らについていく……」

 

 

2503-Aはわずかに躊躇う様子を見せたが、程なくして力なく首を振った。おそらく三人が来るまで延々と何もない空間を彷徨っていたはずだ。もし出た先が自分のいた世界ではないとしても、これ以上ここにいるのは耐えられないと思ったのだろう。

 

 

「歩きながらいくつか確認をしたいんだけど、君が……いや、D-935が連れてこられたのもどこかの廃屋だった?」

「ああ……カナダのどっかにある廃屋だって聞いた。寝室のドアを開けたらここに繋がってて、食料と無線を持たされて歩いていくように言われたんだ」

 

 

ちらりと2503-Aの姿を確認したが、食料らしき荷物は見当たらなかった。おそらく暗闇の中を彷徨う内、正気を保つために食事という行為で気を紛らわせていたのだろう。たとえそれが必要のない行為だと分かっていようと、食べるという行為は如何にも生き物らしい仕草だと言えるからだ。

 

 

「それで?」

「しばらくすると無線が途切れて……戻ることもできなくて、一か八か道を外れたんだ」

「道を外れないようには言われてなかった?」

「言われてたさ。でも、その指示を出した連中が音信不通になったんだ。もう応答すらしない奴らの指示を馬鹿正直に守って何になる?」

「うーん……なるほど」

 

 

財団職員の視点から言えば、こういう異空間で目に見える道から外れるのはあまり良い選択とは言い難い。普通の空間なら道の外が本当の意味で“何もない”なんてことはあり得ないだろうが、異空間であれば十分にあり得るからだ。

2503-Aの場合はたまたま道の外にも歩ける場所があり、帰れなくなっただけで済んだが、最悪そのまま奈落の外へ落ちて消滅していた可能性すらある。いや、そのまま消滅して意識を失うならまだマシで、もっと酷ければ思考は残ったまま落下状態を永遠に味わう羽目になるかもしれない。そうなれば発狂して自殺することすら儘ならないのだ。そう考えると、異常存在にあまり詳しくないDクラスだからこそできた選択かもしれない。

 

 

「……俺は今後どうなるんだ?」

「あー……まあ、悪いようにはされないんじゃないかな。貴重な生き証人なんだから、調査を進める参考になるだろうし」

「そ、そうか……よかった」

 

 


 

 

翌週、サイト-17に戻った円居はブライトのオフィスを訪れていた。エージェントになった今でもブライトが主任研究員であることは変わらないため、状態確認も兼ねて定期的に顔を出す必要があるのだ。

ただの定期確認なので特に何かあるわけではないのだが、その日はブライトが待ち構えていた様子で入室した円居を手招いた。その瞬間、円居の脳裏にとある不安が過ったのだが──

 

 

「逸樹、これを見てみろ」

「何ですか?」

 

 

ブライトが指し示しているのはデスクトップのモニターだ。そこには開かれた状態のフォルダがあり、何かしらの映像ファイルが収められていた。フォルダ名は2503だ。

 

 

「あのただただ真っ暗なだけの小道の映像……?」

「いや、そうじゃない。これは財団の施設内で撮られたものさ」

「この前回収した2503-Aの聴取記録?」

「そういうわけでもない。予想がつかないだろ? とりあえず再生しよう」

 

 

映像ファイルが開かれると、そこには財団の取調室が映されていた。ドア側には研究員が、奥側には痩身の男性が座っている。男性の態度にはありありと怒気が漂っており、明らかに財団によって拘束されていることが気に入らない様子だ。

 

 

『お前ら一体何なんだよ!? こんなことが許されると思っているのか!? 絶対に訴えてやるからな!』

『……はあ。最初に申し上げた通り、我々はあなたからお話を伺いたいだけなのです。そして、法が我々の妨げとなることはありません。素直にお話しいただくのがお互いのためになるかと』

『馬鹿げてる! お前らマフィアか何かか!?』

『そんな風に見えますか?』

『…………』

 

 

見えないだろうな。咄嗟に口を噤んでしまった男性の気持ちが薄らと理解でき、円居はしみじみと頷いてしまった。

これが明らかに反社会的組織に捕まったと分かる状況なら、まだ現実的な恐怖を持てただろう。だが、実際には警察の取調室にも似た無機質な小部屋で、向かいの席には如何にもインテリな白衣姿の男。かといって警察というわけではない。あまりにも非現実的で理解が追い付かないのも無理はなかった。

 

 

「で、彼は誰なんですか?」

「2503-Aから妙な懐中時計を回収してね。曰く、最初から持っていたわけではなく、彷徨っている内に拾ったらしい」

「妙な懐中時計?」

「文字盤はなく、代わりに電子ディスプレイに9216と記されていた」

「何の数字ですか?」

「さて、その辺はまだ分からないな。今後調べれば判明するかもしれないが、もしかすると彼……ヘンリーに聞いた方が早いかもしれない」

「関係者なんですか?」

「あの懐中時計からは2503-A以外にもう一人分の指紋が残っていた。それが彼のものだ。とはいえ、我々もそこからいきなり懐中時計がヘンリーのものだと断定したわけじゃない。あの空間から生還したと仮定するには、彼は普通過ぎたからね」

 

 

ヘンリー・██████、バンクーバー在住の建築デザイナーだ。妻子にも同僚にも恵まれた普通の男で、何かしらの要注意団体の構成員でないことは確認済み。現実改変者だったりもしない。

となれば、SCP-2503に一度迷い込んで中で懐中時計を落としてしまい、当人だけどうにか生還したとは考えづらい。2503-Aの例を考えれば道の先はこの世界ではなく別の世界である可能性が高いというのもあるが、何より中にいる人間は膨大な経過時間に耐えなければならないという問題がある。

他の異常性を抑制できたり、あるいは現実改変が使えたり、元から不老不死ならば話は違うだろう。何かしらの回避手段があるのなら、さっさと引き返して出ていくなり、道中の過程をなかったことにするなり、暇潰ししながら本当に数千年過ごすこともできる。

だが、ヘンリーは違うのだ。軽く調べた限りでは概ね普通の人間といっていい。なら、時計自体は別の世界のヘンリーが中で落とし、こちらの世界のヘンリーは無関係だと考えるのが自然だろう。別々の世界の人間同士とはいえ、同一人物なのだから指紋が同じでも不思議ではない。

 

 

「だから、軽い確認のつもりだったのさ。一般人を装ったエージェントが道端でヘンリーに声をかけ、懐中時計を見せて『拾ったものなのですが、これはあなたのものですか?』と言ったんだ。普通ならただ単に、通りすがりの人が落とし物の持ち主を探そうとしているだけだと思う場面だ。そうしたらヘンリーはどういう反応を見せたと思う?」

「……一般人を迷わず捕まえて引き摺ってくるほどってなると、まさか逃げ出した?」

「正解! これはもう是非にでも話を聞くしかないと思って連れて来たんだが……何故か強情なまでに話そうとしなくてね。何度か『何も知らない』とは言ったが、明らかに嘘を吐くのは素人なようだ」

「あー、要注意団体の人間ってそういうの妙に手馴れてくるらしいですね……」

「どんな組織の人間にせよ、異常存在に関わるとなると誰かしらに嘘を吐く場面は避けられないからな」

 

 

財団のエージェントであれば、守るべき正しい世界の人々に真実を誤魔化す嘘を吐くことがある。GOCのエージェントも然り。

必ずしも異常存在と人類を遠ざける意志を持たない組織の人間──例えば蛇の手やワンダーテインメント博士であっても、今度は自分達を追ってくる財団やGOCの人間を躱すために嘘を吐かなければならない。

そうして何度も何度も嘘を吐いている内に、自然と誰かを騙すことに手馴れてきてしまうのだ。嫌な慣れである。

 

 

「自白剤とかは?」

「一応検討されてるけど……何となく、これは自白剤でも肝心な話は出てこない気がするな」

「一般人なのに?」

「一般人だからさ。普通ならどれだけ強情な間抜けでも、ここまで来れば知っていることを言ってしまった方が楽だ。口を割れば殺されるとかでもない限りはね」

「脅されている可能性……?」

「あるいは知っていることを言えないよう対策されているか、はたまた自分でももう思い出せないのか……他人の記憶や言動を細工するのは何も財団の専売特許じゃないからね。GOCはそういう回りくどい手はあまり取らないが、奇跡論的手法を用いる連中なら方法はないわけでもない」

 

 

この世には自身の限界を超えた権利を得る方法がいくらでもある。それらは悪魔や神との取引だったり、奇跡と呼ばれるものだったりと様々だ。フィクションであれば領分を超えた行いには大きな対価が必要なものだが、平等ではないこの世界では一方的に益を得る方法すらある。あるいは、払うべき対価を他人に押し付けることもできる──そんなものが濫りに出回れば社会の混乱は避けられない。だからこそ、財団やGOCは行き過ぎた欲を持つ者を監視し、時にはそれらを闇に葬るのだ。

 

 

「どうしても情報を引き出せないとなったら、ヘンリーはどうなるんですか?」

「いっそのこと知っていることを全部吐き出せるなら、記憶処理の後に解放してもよかったんだけどね。なまじどういう経路で異常存在を知ったのか分からない以上、中途半端に解放したら再度やらかしたり、あるいは2503のことを他人にバラしてしまう可能性もある」

「記憶処理したとしても……そういう道具や手段を売りつけた側が、再びヘンリーに接触を図るかもしれないから?」

「そういうこと。だからまあ、ギリギリまでどうにか聞き出せるか頑張ってみた後は……どうにもならなかったらDクラスにでもなるんじゃない? Dクラスの中にはそういう風に異常物品を利用して落とされた奴もいるから」

 

 

それでたまに犯罪者にしては妙に教養があったり、あるいは戦い慣れていたり、度胸があったりするDクラスを見かけることがあるのか。おそらくは高い技能を得るに足るだけの努力を積み重ねてきた人々だろうに、一時の欲に流されただけで落ちるところまで落とされてしまうのが恐ろしい。

 

 

「ま、他の団体が関わっているかもってだけでも警備体制とか変わってくるし、ヘンリーの存在が知れたこと自体は無駄じゃなかった。君も長く歩いて2503-Aを回収した甲斐があっただろ?」

「ああ、まあ、確かに」

 

 

外から観測していた研究員の話では数時間も経たない回収作業だったが、実際に作業した面々からすればもっと長い作業だったのだ。その労力が無駄にならなかったのは喜ばしいことである。

ブライトはその言葉を最後に、すでに関心を失った様子で2503の映像記録を閉じた。かと思えば「ところで」と円居の方へ向き直る。

 

 

「折角カナダに行ったんだし、何かお土産とかはないの?」

「え?」

「ん?」

「帰ってきたその日にディオゲネスさんにお渡ししましたが……受け取ってないんですか?」

 

 

沈黙が落ちた。

 

 

「あ、あいつ……! 前の騒ぎのこと、まだ根に持ってるのか!?」

「何をしたんですか?」

「いやなに、人事局長に物申したい輩が増えすぎて面倒だったから、ディオゲネスの今の性別が分かった奴の話だけ聞くと言ってみたんだ。効果覿面だったぞ。お陰で今はのんびり過ごせてる」

「……報復がお土産の隠蔽だけで済んでよかったですね」

「多分、どれだけ残機を減らしても私が気にしないのを見て、何が一番ダメージを与えられるのか模索しているんだろう」

「自分の個人秘書に対して出る台詞じゃないですよ……」

 

*1
回収済み文書941-B




※補足:ディオゲネスはSCP-113(ジェンダースイッチャー、端的に言えば性転換アイテム)に度々接触しており、傍目には今どちらなのか分からない。ディオゲネスの人事ファイル作成当時(2009年1月)には113に激痛や吐き気などの副作用の設定がなかった(副作用の改稿が行われたのは2009年10月)


タイトル: SCP-2503 - 推定距離:9216年
原語版タイトル: SCP-2503 - Estimated Distance: 9,216 Years
訳者: gnmaee
原語版作者: Evrien
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-2503
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-2503
ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: ブライト博士の人事ファイル
原語版タイトル: Personnel Director Bright's Personnel File
訳者: Dr Devan
原語版作者: AdminBright
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/dr-bright-s-personnel-file
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/dr-bright-s-personnel-file
ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: エージェント・ディオゲネスの人事ファイル
原語版タイトル: Agent Diogenes' Personnel File
訳者: (user deleted)
原語版作者: diogenes
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/agent-diogenes-personnel-file
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/agent-diogenes-personnel-file
ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: 回収済み文書 941-B
原語版タイトル: CONFISCATED DOCUMENT 941-B
訳者: Kiryu
原語版作者: Waxx
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scptabloid
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scptabloid
ライセンス: CC BY-SA 3.0
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