しあわせをのぞむならば   作:華歳ムツキ

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「神ですらクリスマスにはパーティーのため休むのに、俺は今日も仕事か……」- ██
「僕としては仕事の方が嬉しいんですけどね。特別な場合を除き任務じゃないと外に出られないので、クリスマス気分を味わえませんし」- 円居
「そういやそうだったな……報告が終わったらケーキでも食うか?」- ██
「ええ、是非」- 円居



聖夜にも働く人々

12月25日。世間はメリークリスマスと書かれた看板やら横断幕やらをあちこちに掲げているが、諸々宗教上の配慮が必要な立場としては冬至パーティーが行われる日だ。

毎年のことなので最早準備も手慣れたもの。招待状の送付漏れはなし、食事と酒も人数分ある。あとは開始時間に間に合うよう、東京某所の貸しスペースまで向かうだけだ。

 

 

「えっ、何あれ? 鳥がスーツ着てる!?」

「近くでコスプレイベントでもあるんじゃない?」

「クリスマスに仮装?」

 

 

道を歩いていたら突然周囲の人間達がざわめき始め、彼らの会話内容から何が起きているのかは一瞬で理解できた。今この瞬間、普段自身の姿を隠しているはずのヴェールが跡形もなく消えている。

 

 

「あー、社長……これはかなり不味い事態だと思うんですが」

「そうだね……前年の配達員とは比べ物にならないほど不味いね」

 

 

12月25日はこういうハプニングが起きる因果でもあるのだろうか。しかも、今回はあの時より遥かに酷い。前回は純真な配達員を一人誤魔化せばよかったが、今回はそれなりに大勢に見られている。

さて、どうしたものか。さすがの知神も困惑しているらしく、しばし無言で顔を見合わせてしまった。

 

 

「あ、ああ! もしかして参加者の方ですか?」

「うん?」

「道に迷われたんですね。私は会場へ案内するスタッフです。よろしければついてきてもらえますか?」

 

 

思わず足を止めた僕らの元へ、黒いスーツ姿の二人組が近づいてきた。スタッフを自称しているが名札や腕章をつけているでもなく、どことなく胡散臭い。だが、周りの人々はそこまで深く気にならないのか「やっぱり何かのイベントか」と、次第に興味を失った様子で歩き出していた。

ならば、ここは一旦目の前の二人組に話を合わせておくのが無難か。

 

 

「失礼ながら……あなた方はトリスメギストス・トランスレーション&トランスポーテーションの神々という認識で相違ないでしょうか?」

「おや、人間が僕らの会社について知っているということは……なるほど、君は以前コンビニで話しかけてきた人間の仲間か。確か、財団というのだったかな」

 

 

道理で僕らの姿を見ても落ち着いていられるらしいと納得した。あれから財団については少し調べてみたが、お互い下手に刺激し合わなければ穏便な距離感を維持できる相手のはずだ。尤も、財団は僕らのような存在が人の目に触れることを極端に嫌がるようだから、今回の『事故』はあまり快く思わないかもしれない。

 

 

 

「差し支えなければ、今日ここで何をしていたのか教えていただけますか?」

「何って……今日は12月25日だろう? なら、やることは一つさ。これから皆で集まってパーティーをするんだよ」

「皆で……」

 

 

二人組の片方、先程から僕と喋っている年嵩の男は少しばかり微妙な顔を垣間見せた。彼らのような存在からしてみれば、やはり神々が一堂に会するのは看過し難いようだ。

とはいえ、こんな街中で荒事になるのも避けたいのだろう。彼は一つ頷くだけに留め、片割れの若い男の方へ目を向けた。若いというか、子供に近いんじゃないだろうか。この国の人間は僕の基準よりも遥かに若く見えるのは分かっているけど、周りの人々と比べてもかなり若く見える。

 

 

「報告は?」

「済みました。すぐに立ち去るようにとのことです」

「分かった……では、我々はこれで」

「おや、もういいのかい?」

 

 

てっきりもっといろんなことを訊かれるかと思っていたが、二人は早々に僕らの元を離れた。曲がり角で会釈し、振り返ることなく遠ざかっていく。

 

 

「……社長、どうやら幻術の効力が元に戻ったようです。もしやとは思いましたが、無力化されていたのはあの二人が原因だったのでは?」

「だろうね。前回は引き留めようとするぐらいこちらに興味津々だったのに、今回は早々に立ち去ったのも何か知られたくないことがあったんだろう」

 

 

しかし、世の神秘を隠したい彼らがわざわざ秘密を暴くような真似をする理由がない。彼らが原因だったとしても、当人達ですら意図せぬ結果だったのかもしれない。

 

 

「彼らの内ずっと片方しか喋ってなかったのは、もしかすると存外古典的な思惑だったりして」

「あの若者が何らかの特異体質だと?」

「確証はないけどね」

 

 

僕の故郷では力づくで王冠が奪われることも珍しくなかったからこそ、王は謁見の際に取り巻きの群衆に紛れ、玉座には影武者を座らせることも多かった。より重要な存在が不用意に注目されることがないように、他の者が敢えて目立つ振る舞いをするのは古典的ながらも有効な手段だ。

 

 

「やれやれ……かつてはオデュッセウスにモーリュ*1を渡してやった僕が、まさか時を経て魔法を無効化される側になってしまうとは」

「ああ、あの煎じて飲めば魔法にかからなくなるとかいう……しかし、もし立っているだけで幻術を破れるのなら薬草より性質が悪いですね。受ける側としては防ぐ手立てがありません」

「確かにそうだ。なら、どちらかというとガンバンテイン*2かな」

「北欧で求婚に使われたという?」

「そうそう。使い道によっては物凄く強力な武器になっただろうに、まさかただの一度だけ活用された使い道がまさかの求婚っていう」

 

 

聞く者によっては宝の持ち腐れだと卒倒しそうな話だが、神々にとって惚れた腫れたは一大事なので仕方のないことなのかもしれない。それこそガンバンテインの持ち主だったフレイからしてみれば、求婚が成功さえするなら貴重な杖や剣を手放しても惜しくなかったのだろう。

 

 

「社長、そろそろ時間が押しています。余所の婚姻譚に思いを馳せるのはそろそろ切り上げてください」

「おっと、確かにもう急がなきゃならない時間かな」

 

 


 

 

急ぎ足で会場に向かい、例年通り三割程度集まった招待客に開会の挨拶をすればあとは気軽なものだ。尤も、今年は普段と違うこともあった。

 

 

「クレイオー? 驚いたな、今年は来てくれたのか」

「ええ。今年はとても良いことがあったから飲みたい気分なの」

 

 

無数にいるいとこ、ムーサ九姉妹の一員であるクレイオーが来ていた。ムーサの誰かがこうして出席するのはたまにあることだが、その中でもクレイオーが訪れるのは初めてかもしれない。陽気なタレイアはこういった宴会騒ぎを好むのだが。

 

 

「良いことって?」

「あなたは耳が早いから知っているかもしれないけれど、私は時折人間達の学びの場を眺めているの。尤も、メルポメネーのせいであまり落ち着いて見られないのだけど」

「ああ、それは……何となく想像がつくね」

 

 

クレイオーは歴史と英雄詩、メルポメネーは悲劇と挽歌を司る。クレイオーが正しい歴史が語り継がれているか確かめている時、メルポメネーはそれをより悲劇的に脚色したがるのだ。クレイオーが怒り心頭で喚いている姿が目に浮かぶかのようだった。

 

 

「あの子ったら本当に悪趣味! 学びの努力を欠かさない人間へ向けて、馬鹿みたいに負の感情を煽り立てて話を滅茶苦茶にしようとするのよ!」

「人間にとってもいい迷惑だろうね」

「本当に! でも、今年は見所のある人間がいたの。彼らはメルポメネーの横槍に耐え、初めて正しく学びを語り継いだのよ……嗚呼! こんなに嬉しいことが起こるなんて!」

 

 

歴史を司るムーサとして正しい学びが守られたのも喜ばしいのは確かだろうが、それ以上に腹立たしい姉妹に一泡吹かせてやれたのが心底嬉しいのだろう。ムーサでありながら楽器を携えていないクレイオーだが、それでもその心の内を表すように今にも歌い出しそうなほど上機嫌だ。

 

 

「それにしても、歴史を学ぶといえば基本的には学生……要は子供だろう? メルポメネーの横槍に耐えられるなんて、幼くして随分と精神力の強い子がいたものだね」

「ああ、いいえ。あの時覗き込んでいたのは学び舎ではなくて……不思議な場所だったわね」

「へえ、どんな場所だったんだい?」

「それなりに年嵩の人間が多かったわ。あんな年齢になっても学び続けるなんて、中々見所があるわね。それに、私達の干渉に少し気付いていたのかも……何か自覚的に抗おうとする意志を感じたもの」

 

 

神の干渉に気付き、特に動じるまでもなく冷静に抗う人間。ほんの数時間前に遭遇した財団の二人組を思い出し、確証はないながらも奇妙な巡り合わせを感じた。

 

 

「もしかすると財団かな……」

「財団? 彼らのことを知っているの?」

「確かなことは言えないけどね。この世の神秘を理解し、社会の平穏を維持しようと頑張っている人間の組織があるんだよ」

「気になるわ! よければ教えてちょうだいよ」

「そうだね。じゃあ、少しだけ──」

 

*1
かつてオデュッセウスが立ち寄った島にキルケーという魔女が住んでおり、彼女が島を訪れる者を豚に変えていたため、その対策としてオデュッセウスはヘルメスから魔法を打ち消す薬草モーリュを受け取った。

*2
フレイが巨人族で最も美しい女ゲルズに求婚する際、フレイの剣や馬と共に従者スキールニルに預けられた。その後は返したという話もなく、どの話にも登場しなくなるため、剣と同じくスキールニルが持ったままラグナロクを迎えたと思われる。




タイトル: クリスマスの神々
作者: FattyAcid
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/deities-of-christmas-2021
ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: SCP-1988-JP - 平成コンビニ神話伝
作者: FattyAcid
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-1988-jp
ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: SCP-4160 - 歴史から学ばない者達
原語版タイトル: SCP-4160 - Those Who Don't Learn From History
訳者: kai58
原語版作者: Jacob Conwell
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-4160
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-4160
ライセンス: CC BY-SA 3.0
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