残念ながら私はどこぞの馬鹿がやらかしたことの後始末に行かなければいかなくなり、パーティーには参加できなくなってしまった……そこで! 悔しいのでサプライズを用意しておいたぞ!
良い年越しを、クソッタレ!- J.B.
トレバーはグラスに注がれたビールを眺め、ふと嫌な予感を抱いた。今日はクリスマスじゃないし、目の前にあるのもシャンパンじゃない。だから不吉な記憶を想起して身構える要素などないはずなのに、どうにも異様な寒気が背筋に纏わりついて離れなかった。
何故だろうか。今年は仕事の都合により故郷での年越しではなく、アメリカにあるサイト-19のパーティーに参加しているからだろうか。確かに、このサイトで起きた数々の事件はイギリスでも小耳に挟んでいるが、少なくともめでたい席の雰囲気としては地元と大差ないはずだ。酒と料理が振る舞われ、あちこちで人々が賑やかに過ごしている。あまり違わないはずだ。
「だからね! 私は今年、不完全燃焼だったのよ! だって、可愛い子とほとんどFu〇kできなかったんだもの!」
「ライツ博士、せめてそういう話題を口にするのなら声を落としてください……」
いや、ちょっと賑やかすぎるかもしれない。遠くの方でライツが勢いよく立ち上がり、豪快に問題発言を飛ばすのを隣席のグラスが必死に止めようとしていた。止められていないが。
まあ、年越しパーティーともなれば多少羽目を外す者もいるだろう。それが普段から肉欲全開のライツ博士なら尚更──
「ギアーズ! 聞いてくれ、僕は……僕は君の一番になりたいんだ! そのためなら邪魔者を爆破することだってできる!」
「落ち着いてください。現在の私に爆破を要するほど明確に敵対している相手はいません」
やはり何かおかしい気がする。トレバー以外の職員もそう感じたのか、周囲が少しざわついた。
人々の視線を辿っていけば、これまた遠くに座っているアイスバーグがテーブルに手を突き、勢い込んでギアーズに迫っているのが見えた。勿論、アイスバーグがギアースに熱をあげているのは誰もが知るところだが、同時に彼は見栄っ張りなところがあるため、衆目に晒されている状況であのような大声を上げるのは珍しい。酒に酔っているからだろうか──
「クレフ、私はもう我慢なりません!」
「はあ?」
「あなたのせいで私がこれまでどれだけの被害を受けたか分かりますか!? おまけに、一度は逃れたと思ったのに……平穏を知った後、再び地獄へ連れ戻される辛さが分かりますか!?」
「地獄はさすがに言いすぎだろ……」
「では何と言えと? 肥溜め? 掃き溜め? それとも泥沼? もううんざりです!」
続いて声を上げたのは、クレフ博士の助手であるエージェント・アダムス。彼女がその職位に満足していないのは噂として知っていたが、酒に呑まれたとはいえあそこまで激しく抗議するほどだとは。
「今すぐあなたの頭に風穴を開けて、そこに品位と配慮を詰め込んでやる!」
「ちょっ、おまっ……!」
遂にアダムスは椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がり、斜め前に座っていたクレフの脳天目掛けてナイフを振り下ろした。カトラリーで頭蓋骨を粉砕するのは相当難しいはずだが、ひょっとするとアダムスならできるのではないかと思うほどの速度だ。並みのエージェントだったら反応するまでもなく、額から血を垂れ流す羽目になっていただろう。
だが、今回は訓練部門の長でもあるクレフが標的だったため、危なげなく回避して難を逃れていた。つまり、風穴を開けたかったアダムスからしてみれば不満の残る結果なわけで。
「っ、おい! ぼさっとしてないで、誰かこいつを取り押さえろ!」
「えっ! あっ……アダムス、落ち着いて!」
追撃も寸前で躱したところで、クレフに促されて席を立ったエージェント・ラメントがアダムスを羽交い絞めにした。これはさすがに只事ではないと判断した他のエージェント達も立ち上がり、ラメントに加勢したり、凶器になりそうなものを慌てて片づけたりしている。
だが、その間にも火が燃え移るかのように連鎖的な怒声や悲鳴が響き渡り、パーティー会場は瞬く間に火薬庫のような有様になってしまった。深酔いしていた同僚すら酔いが醒めた様子で、呆然と辺りを見渡していた──幸か不幸か、何が起きているか分からないという混乱はすぐ解消されることになる。
「おい、これって3634じゃないか?」
片づけた凶器類をカウンター付近に集めていたエージェントの一人が、ボトルの陰に隠れていたコルク抜きを摘まみ上げた。トレバーにとって忘れたくても忘れられない、洒落た鍵の形をしたコルク抜きだ。効果自体は何一つ洒落ていないが。
SCP-3634はアルコール飲料の栓抜きに使った場合、その中身を3634-Aに変化させる。そして3634-Aを摂取すると、嘘や建前を口にできなくなるのだ。要は自白剤のようなものだが、より酷いのが口数を減らすことでは対策できず、3634-Aには摂取した対象の口数を極端に増やす効果もある。
そればかりか、対象は我慢と自制心をどこぞに置き忘れてしまうらしく、3634-Aが体内に残っている間ずっと本能にのみ従って行動するため──この先はとてもではないが思い出したくない。トレバーは酒とは無関係の頭痛で吐き気を覚え、あれを回収した時のことを忘れようと歯を食い縛った。
「なんか傍に紙も落ちて──」
SCP-3634を拾ったエージェント達がそこからは声を潜めたため、離れたところに座っているトレバーにはよく聞こえなくなった。それに、室内に響き渡る様々な声は大きくなる一方で、仮に近くの席だったとしてもきちんと聞き取るのは難しかっただろう。
「うわぁっ!?」
悲鳴と共に影が宙を舞ったため、何事かと目を向けると──綺麗に放物線を描いて飛んでいくラメントの背中が見えた。どうやらアダムスに投げ飛ばされたらしい。
一番邪魔だったラメントの拘束を振り切った瞬間、アダムスは他エージェントの制止も全て解き、テーブルを飛び越えて憎い上司の元へ肉迫した。が、クレフもラメントが飛ぶ様を呑気に見ていたわけではない。おそらくラメントが振り解かれた時点でアダムスが迫ってくるのは察していたのか、彼女がテーブルを乗り越える時にはすでに会場の出入り口に辿り着いていた。
そして、つむじ風のような勢いで二人分の影が外へと走り去っていく。ドアが開け放たれたことで室内の騒ぎは廊下まで流れていき、何だ何だと野次馬が集まり始めていた。
「どうなるんだこれ……」
クレフは背後から迫る足音を聞きつつ、冷静にどこに向かうか算段していた。
一番手っ取り早いのは、どこぞで麻酔銃でも借りてぶち込んでやることだ。こちとら上司なのだから何も遠慮することはない。上司に歯向かう部下にはこれぐらいして然るべきである。いっそのこと直接殴り倒せたら楽なのだが、アダムスの上級エージェントの肩書は伊達じゃない。さすがに押し負ける気はしないが、反撃で何発か食らう可能性は否定できない。折角の年越しを痣をこさえて迎えるのは御免だ。
だが、生憎と麻酔銃が置いてあるような警備室や武器庫は、どちらもここからだとかなり遠い。こういう時はサイト-19の無駄に広々とした間取りが嫌になる。クレフのオフィスならまだ近いが、あそこに置いてあるのはどれも実弾だ。
二番目に良案だと言えるのは円居の捕獲だ。あの異常性でアダムスをおかしくしている精神影響を取っ払えばいい。正気に戻ってもどさくさに紛れて殴ってくる可能性はあるが、それはそれで今後そのネタで散々強請れるので良しとしよう。
問題は円居がどこにいるかだ。パーティーが始まる一時間ほど前に会った時「今年はサイト-19で年越しすることになりそうです」と言っていたため、今晩はここに泊まっているのは間違いない。もしすでに寝る支度でもしているなら、現在地点は宿舎だ。
だが、今の時刻は午後11時。日付を超すまでまだ1時間もある。ならば──
「円居!」
「はい!?」
勢いよく休憩室に飛び込むと、予想通り円居は室内のソファーで漫画を読んでいた。円居はサイト-17以外で夜更かしする場合、そのサイトで最も多くの本が置いてある休憩室に入り浸る。加えて、年越しの日付を超すタイミングでテレビを見たいらしく、毎年12月31日は必ず夜更かししていた。今年も例年通りのパターンで行動していて何よりだ。
「えっ、本当に何……?」
クレフは困惑している円居には何も伝えないまま、ソファーから引っ張り上げて首に腕を回した。これで驚いた円居が逃げ出そうとしても大丈夫だ。逃がしはしない。
「ちょっ、何なんですか!?」
「しーっ……来るぞ」
「は?」
次の瞬間、開け放たれたままになっていた出入口からアダムスが現れた。先程までとは打って変わり、勢いよく飛び込んでくる様子はない。相変わらず苦々しげにこちらを見てはいるが、これはいつものことなので問題ない。
「やれやれ、ようやく落ち着いたみたいだな」
「ええ、残念ながら」
「残念ってお前なぁ……」
「罪のない円居に感謝してくださいね。他の相手だったらギリギリどさくさに紛れて殴っていたと思います」
「おい、本当に効果なくなってんのか? 正直すぎないか?」
「サー、早いところ円居を連れて会場に戻ってください。意図せず暴露大会に参加させられた皆が可哀想でしょう。働く気がないのであれば、さっさと円居を私に渡してください」
「円居がいなきゃ殴ってたとか言われた直後に渡すか! 円居、行くぞ!」
「その前に状況を説明してください……!」
その後、円居には良いことと悪いことが一つずつあった。
悪いことはSCP-3634によって地獄絵図と化した会場に踏み込み、未だ暴れる職員達の影響を無効化して回らなければいけなかったこと。中には影響が突如として消えたことで、常日頃から胸に秘めていた思いを暴露してしまった事実に崩れ落ちる者も少なからずいた。
良いことは、参加者がほとんどいなくなった会場には手つかずの料理がたくさん残っており、豪華な夕飯と共に年越しを迎えられたことだ。ロブスターのグリルにマヨネーズソースを掛けたものが特に美味しかった。
「ところで、結局犯人は誰だったんですか?」
「どうせブライトだろ」
タイトル: SCP-3634 - 酒中に真実
原語版タイトル: SCP-3634 - In Vino Veritas
訳者: C-Dives
原語版作者: Ihp
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-3634
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-3634
ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: ライツ博士の人事ファイル
原語版タイトル: Dr. Rights' Personnel File
訳者: Ikr_4185
原語版作者: agatharights
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/dr-rights-personnel-file
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/dr-rights-personnel-file
ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: グラス博士の人事ファイル
原語版タイトル: Dr Glass' Personnel File
訳者: Ikr_4185
原語版作者: Pair Of Ducks
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/dr-glass-personnel-file
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/dr-glass-personnel-file
ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: ギアーズ博士の人事ファイル
原語版タイトル: Dr.Gears' Personnel File
訳者: (user deleted)
原語版作者: Dr Gears
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/dr-gears-s-personnel-file
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/dr-gears-s-personnel-file
ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: "アイスバーグ"の人事ファイル
原語版タイトル: "Iceberg" Personnel File
訳者: (user deleted)
原語版作者: Iceberg 7
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/iceberg-personnel-file
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/iceberg-personnel-file
ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: クレフ博士の人事ファイル
原語版タイトル: Dr Clef's Personnel File
訳者: Dr Devan
原語版作者: DrClef
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/drclef-member-page
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/drclef-member-page
ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: エージェント・ラメントの人事ファイル
原語版タイトル: Agent Lament's Personnel File
訳者: Ikr_4185
原語版作者: TroyL
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/agent-lament-s-personnel-file
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/agent-lament-s-personnel-file
ライセンス: CC BY-SA 3.0