また、ジョーク記事に限らずif世界線など、別軸全般も番外編として取り扱うかもしれません。
カナダ某所、半ばゴーストタウンと化している田舎町の一角にて、ブライトと円居は顔を見合わせた。そして、すぐに目の前の車両へ視線を戻す。
「……これ、051じゃないですか?」
「ああ。量産された可能性があるからには、複数台あるんじゃないかとは噂されていたが……こんなところでお目に掛かれるとはね。元の持ち主はこいつが空を飛べることを知っていたんだろうか」
「知らないでしょう」
「分からないぞ?」
「知っていれば手放すはずがありません」
「……尤もだ」
目の前にあるのは家宅と共に放棄されたオンボロ車──ではない。一見すると辛うじて走れる程度の古ぼけた車だが、これは歴としたアノマリーである。
財団は随分前にこいつと同型の車を収容しており、現在はSCP-051のナンバーが割り振られている。異常性は至ってシンプルで、051は謂わば空飛ぶ車だ。勿論、かつて大戦時に軍が空陸両用の車両を作ろうと目論み、作り出した不格好な空飛ぶジープとは訳が違う。051は一般的な車両と全く同じ見た目でありながら、ボタン一つで空までひとっ飛びという優れ物だ。高度も数十メートルなんてちゃちなものではなく、飛行機と同じ高さで飛べるのだから素晴らしい。
その素晴らしさは財団職員の心をもがっちりと掴み、051が収容された直後には施設周辺でUFOの目撃証言が500%アップしたほどだ。当然、O5は051の警備を強化し、クラス4職員でなければ保管庫に入れないようにした。だが、財団のクラス4職員といえばクレフやコンドラキといったやんちゃ揃いの魔境状態なので、果たしてその制限にどのぐらい意味があったかは微妙なところだ。
特に、コンドラキに関しては名指しで近づけるなと忠告があったほどだ。そして、保管庫に立ち入るなど論外と見做された人物がここにもう一人──
「よし、これに乗って帰ろう」
「言うと思った」
ブライトは目を輝かせながら、円居に「さっさと鍵を開けろ」というジェスチャーを示した。エージェントは時折やむを得ずその辺から車を調達する必要に迫られることがあるため、鍵がなくとも扉をこじ開け、強引にエンジンをかける技術を習得しているのだ。
もしここに円居が居合わせていなければ、ブライトはどれだけ051に乗りたくとも我慢するしかなかったわけである。そう考えると、この状況はブライトにとって絶好のチャンスなのかもしれない。
「絶対怒られますよ……またUFOの目撃例が増えるじゃないですか」
「確かに、今日は快晴だからな。きっと地上からもよく見えるだろう……だが、物事は悪い面にばかり目を向けるもんじゃない。考えてもみろ。これが曇天だったら目撃はされなかったかもしれないが、視界不良の中で空を飛ぶ羽目になったんだ」
「ああ、霧の中で車を走らせるのって緊張しますからね。そういう感じだと考えると確かに嫌……そうじゃなくて。なんで乗ることは決定しているんですか」
「逆に聞くが、君は乗りたくないのか? 空飛ぶ車だぞ?」
「別に……」
「バック・トゥ・ザ・フューチャーごっこしたくないか?」
「観たことないのでしたくならないですね」
「何だって!? 久々にジェネレーションギャップを感じた……ああ、分かった。君の年代ならこっちだな? ハリーポッターごっこをしたくないか?」
「したいです」
円居は神妙な顔で掌を返した。脳裏に浮かぶのは、ハリーとロンが空飛ぶ車でホグワーツ特急の上を飛んでいく情景──とても心躍る想像だ。暴れ柳に突っ込むのは御免だが、あれと同じことができると思うと確かに飛んでみたい。
「じゃあ、今から開けますね。どっちが運転しますか?」
「私は運転したい。君も運転したいなら、施設へ帰る前に一旦どこかで降りて代わるか?」
「いえ、僕は助手席でもいいですよ。ハリーポジションだと考えれば悪くないです」
慣れた手つきで鍵をこじ開け、強引にエンジンをかけた車にブライト共々乗り込む。ブライトはいつか051に乗ってやるという決意の下操作は頭に入れてあったのか、思いの外スムーズに空の旅へと繰り出した。
「おお……! ヘリや飛行機には何度も乗りましたが、それとは全く違った乗り心地ですね」
「中々いいじゃないか! しかも、これを持ち帰ることでもう一つ楽しいことがある」
「すでに収容されていた051と合わせて二台になるので、飛行カーチェイスができる?」
「君も分かってきたじゃないか」
補遺4:20██/██/██二台目のSCP-051が回収されました。捜査は引き続き行われています。
ブライトと円居にKeter任務を割り振れ!早速空中カーレースをし始めた連中にもだ!- O5-██
勿論そうするつもりだが、彼らはKeter任務に慣れているからかあまり気にしていないようだ。代案を考えた方がいいだろう。- O5-██
▼△▼△▼
後日、円居は日本支部を訪れていた。先日の楽しい空中走行の代償として、円居にとって嫌そうな任務が割り振られたらしい。
ちなみに、ブライトはヨリックを連れて長期出張に行く羽目になって頭を抱えていた。出張中、ヨリックの手癖の悪さと調子のいい軽口に見舞われ、ブライトの脳の血管が無事でいられるかが心配だ。
尤も、円居も円居で他人の心配をしている場合ではない。今回の任務はSCP-1210-JP-Jによって引き起こされたサイト-81██内の不和──
「今こそ決着をつける機会だ! これはどう見たってワシだろう!」
「ええ、いい機会ですからはっきり言わせてもらいますがね、これは誰が見てもウサギです!」
「落ち着いてください……」
円居に任されたのは、SCP-1210-JP-Jによって派閥問題が起きたサイト-81██のトラブル収拾である。
元々の原因は見た者に口論を発生させるSCP-1210-JP-Jなのだが、今やその限りではない疑惑が出てきたのだ。要は単純に仲が悪い。
確かに、切っ掛けは認識災害だとしても長らくそれが当たり前の状態となれば、不自然に生まれた感情を自分のものだと錯覚してもおかしくはない。これだから認識災害は厄介なのだ。
実際、今目の前にいる各派閥代表の──
「いいでしょう、今回は都合のいいことに中立の第三者がいます。聞いてみましょう」
「そうだな。円居くん、正直に言ってくれ。これはワシだろう?」
「ちょっと! 彼の思考を誘導しようとしないでください。円居くんが本当の答えを出せなくなるでしょう?」
「誘導しようとしているのはそちらもだろう!」
羊派閥代表の明田博士と、狼派閥代表の大神田博士の口論は未だに続いている。すでに円居の異常性範囲内に入っているにも関わらずだ。
元から不仲だったのがSCP-1210-JP-Jによって加速したのか、SCP-1210-JP-Jによる影響が根深すぎたのかは分からないが、これでは話が進まない。いや、別に結論を出せという任務でもなし、隙を見て立ち去るべきなのかもしれない。
今回の主な仕事はサイト-81██を見て回ってSCP-1210-JP-Jの話題を振り、相手がどのような反応をするか記録していくことだ。円居が傍にいても尚激しい反応を見せる場合、配置換えも見当される。
とりあえず明田博士と大神田博士が手遅れなのは理解できたので、もうさっさと立ち去りたいのだが──
「そもそも体型はほぼ人間で、顔だけ狼になる狼人間が“狼”人間なんですよ? その理屈で言えば、最初に見つかったのは間違いなく狼ですし、目の前にいるのはワシです」
「あー……」
「ほら! ほら、聞きました!? 円居くんも今、言われてみればそうだなという反応だったでしょう!」
「いや、あの……」
「君の暴論に呆れて声が出ただけじゃないのか? 円居くん、そうだろう?」
しまった。音一つ出さずに立ち去ればよかったのに、思わず「言われてみればそうだな」と思ってしまった。いやでも、さすがにキメラの話題から狼人間を引き合いに出されたら、誰だってこういう反応になるんじゃないだろうか。
それとも、あれはちゃんと名称が両者の特徴を取って狼人間なのだから、件のキメラも狼羊にすべきということになるんだろうか。そうなったらまた狼と羊のどちらが先頭に来るのかで揉めそうだ。
それはそれとして本当にどうしよう。不用意な燃料を投下された二人の口論は激しさを増している。ここは失言してしまった責任を取り、どうにか宥め──
「ええい、もう我慢ならん! こうなったら最も手っ取り早く確実な手段で結論を出そうじゃないか!」
「望むところです! 口論とは、反論する口が開けなくなれば自ずと結論が出る……ハァーッ!」
「うわーっ!?」
大神田博士の腕が目にも止まらぬ速度でブレた瞬間、会議室に置かれていた長机が弾け飛んだ。
かと思えば、その直線上にいた明田博士が瞬間移動し、勢いよく踏み込んで数個の椅子を巻き上げる。
数秒も経たない内に嵐が通り過ぎたような有様になった会議室を認識した瞬間、円居は迅速に部屋の外へ飛び出した。その間も、背後からは人体同士の打ち合いとは思えない轟音が響いている。
「警備員、こっちに来てください! 乱闘です!」
タイトル:空飛ぶジープ
言語版タイトル:Flying Jeep
訳者:Kasugai_Kanagu
原語版作者:SpoonOfEvil
ソース:http://scp-jp.wikidot.com/scp-051-arc
原語版ソース:https://scp-wiki.wikidot.com/scp-051-arc
ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: SCP-1210-JP-J - キメラれねぇ
作者: bamboon
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-1210-jp-j
ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: SCP-710-JP-J - 財団神拳
作者: Kwana
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-710-jp-j
ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: ブライト博士の人事ファイル
原語版タイトル: Personnel Director Bright's Personnel File
訳者: Dr Devan
原語版作者: AdminBright
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/dr-bright-s-personnel-file
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/dr-bright-s-personnel-file
ライセンス: CC BY-SA 3.0