whiteclover 20██/█/█(火)16:07:10 #90702128
最近、いろんな板で噂になってるやつがあるだろ。魂が救われるおまじないとかいうやつ。
俺が思うに、あれは魂を救うようなもんじゃない。とんだパチモンだ。
どんなやつか知らない人のために、最初に例のおまじないについて触れておく。効能は読んで字の如くだ。
手順は以下の通り。
1.花瓶、ホオズキ、ランプとかの光源を用意する
2.水を張った花瓶に自分の涙を一滴以上垂らして、そこにホオズキを生ける
3.入浴して体を綺麗にする
4.6畳より広い部屋で寝る用意をして、扉や窓は完全に施錠する(5畳だと多分ちょっと足りない)
5.枕元に2で用意した花瓶を置いて、ホオズキが照らされるように光源を置く
6.ホオズキを照らす光源を除く全ての灯りを消す
7.花瓶に向かって目を閉じて「許されますように」とか「救われますように」と念じる
8.午前0時から午前1時の間に寝る
かなり複雑だよな。最近結構見かけるけど、実際に試した奴は少ないと思う。だからこそ試したんだ。まじない自体は有名な割に、体験談はほとんど見かけなかったから。
夢の中は教会になっていた。中には神父がいるんだが、頭が花瓶になってる。比喩とか被り物じゃなくて、本当に花瓶なんだ。ホオズキが生けられた花瓶。
そいつはこっちを見つけると、丁寧な口調で挨拶とか教会の説明をした後、告解するかどうか聞いてくる。この時点までは正直変わったところは感じなかった。告解も、してもしなくてもいいって感じだ。
けど、あれだけ面倒な手間をかけてここまで来ているんだ。大抵の奴はこんなところで引き返さないだろう?俺だって引き返さなかった。
でも、多分それが間違いだった。懺悔室っていう部屋……小さすぎて箱みたいな場所に入った途端、罪を告白しなきゃならないって強烈な感覚に襲われたんだ。
俺は……数年前に子供を殺したことを告白した。未来ある幼い子供の命を無下にして、おまけに死体を家族の元に帰してやることすらなかった。死体は山に捨てたんだと。
誤解されないように断っておくが、この告白は本当のことじゃない。俺は確かに全くの潔白とは言えないが、犯した罪といえば精々コンビニで雨の日に誰かの傘を盗んだことぐらいだ。間違っても人を殺すなんて大それたことはやったことがない。
けど、懺悔室の中にいる間はそれに違和感を持たなかった。自分は本当にそういうことをしたことがあると信じ切っていたし、その罪を必ず償わなければいけないと思ったんだ。神父から罪を許すと言われた時は、得難いほどの幸福さえ感じていた。
目が覚めた後、俺はまだ存在しない罪を信じ切っていた。このままではいけないと、警察に自首するために家を飛び出したぐらいだ。
でも、警察に向かっている最中に突然我に返った。何がきっかけだったのかはよく分からないが、とにかく急に気付いたんだ。俺はそんなことした覚えはないって。
冷や水を浴びせられた気分だったよ。あの神父はとんだパチモンだ。何の目的があってあんなことをしているのかは分からないが、俺はあいつのせいで危うく人生を棒に振るところだった。
はっきり言って胸糞悪い。もう一度教会に乗り込んで、いけ好かない花瓶を叩き割って文句を言ってやりたいぐらいだ。
けど、懺悔室の中に入った時のことを思うとそんな勇気は出ない。問答無用で懺悔室に引きずり込んで、またありもしない濡れ衣を着せられたらどうしたらいい?今回我に返ったのはたまたまで、次は気付けなかったらどうしたらいい?
無理だ。またやる気にはなれない。
俺ができることといえば、せめてこのことを書いて他の好奇心旺盛な犠牲者が出ないことを願うだけだ。あのおまじないは絶対に試さない方がいい。
自分の人生が大事ならな。
インターホンの音で目が覚めた。どうやら転寝していたらしい。デスクに伏せていた背中が酷く痛む。ベッドに行く間もなく、気絶するように眠っていたようだ。
無理もない。昨晩はあんなことがあったのだ。睡眠時間はそれなりにあったように思うが、実際のところ疲れが取れてはいなかったのだろう。それと、リアルじゃ誰にも言えないほど荒唐無稽な話をネットで打ち明けられて、多少なりとも気が楽になったのも大きい。
開いたままになっていたパラウォッチをぼんやりと眺めていると、こちらを急かすようにもう一度インターホンが鳴った。しつこい来客だ。パソコンの隅に表示された時計を確かめれば、現在時刻は夜の十時。子供でもない限りまだ起きているであろう時間だが、他人の家を訪ねるにはかなり遅い時間だ。そんな非常識な来客など無視してしまえばいいのではないかと思ったが──再三響き渡ったインターホンの音に根負けし、渋々席を立った。
ドアの覗き窓からアパートの廊下を確認すると、そこにはスーツにジャンパーを着込んだ男が立っていた。何かの業者のような格好だ。水道やガスの点検に訪れる業者はこういった格好をしていることが多い。
となれば、こんな時間に訪ねてきたのも近隣で何かしらトラブルがあったのかもしれない。そう当たりをつけると多少は警戒心も解け、ドアの向こうへ声を投げかけた。
「どちらさん?」
「ああ、夜分遅くに申し訳ありません。私、██ガスの者ですが……先程、この上の階の方からガス漏れの通報がありまして」
「はあ……」
「安全のため、階下の部屋もガス漏れしていないか確かめる必要があります。こんな時間にお手数をおかけして大変申し訳ありませんが、すぐ済みますので家に上がらせていただいてもよろしいでしょうか?」
「あー……今日じゃないとまずいですか?」
「そうですね。ガスは異臭がするため漏れればすぐ気付けると思われる方も多いですが、実際のところ長い時間をかけて漏れ続けていると鼻が慣れてしまい、微量の漏れであれば気付けないこともあります。それだけなら少量ですし問題ないのですが、気付かないまま万が一火を使えば部屋が吹き飛ぶほどの事故になりかねませんので……」
「部屋が……」
ぞっとする話だ。しかし、そういう話は確かに聞いたことがある。被害の程度はどのぐらい漏れていたかによるだろうが、場合によっては部屋どころか建物が倒壊するほどの騒ぎになることもあるらしい。そうなったら間違いなく家主は即死するだろうし、損害賠償などで家族にも迷惑をかけるだろう。最悪の展開を想像すると強情に突っ撥ねるのは気が引けてしまい、気乗りしないながらも玄関の鍵を開けた。
「ありがとうございます。すぐ済みますので」
「ああ、はい。申し訳ないんですが、来客用のスリッパとか常備してなくて……そのまま上がってもらっ──」
バチッ。
エージェントからの報告を聞き終え、ブライトは通話を切った。
「今日の夕方頃に見つかった体験談の主を捕捉したようだ。部屋も調べて不審な点がなければ、今まで通り記憶処理を行った後に解放することになった」
「それは何よりです」
「ああ。2012-JPの収容チームも今日は驚いただろうからな……まさかたまたま2012-JPを試した人間が、自首しに行く道端で君とすれ違ったことで我に返るとは」
「僕もびっくりしましたよ……」
SCP-2012-JPは一定の手順を踏むことで見れる夢であり、財団はどこからともなくweb上に現れた手順に関する情報を監視している。未だ最初の発信者は判明していないが、手順が相当煩雑であり、いざ実行した時に起こる結果も相まってこれまで大きな騒ぎにはなっていなかった。
SCP-2012-JPを見た場合、実行者は強烈な罪悪感に駆られ、かつて犯した罪の償いをしようとする。そのせいで面白半分にネットへ体験談を投稿する者もおらず、仮に手順の情報が漏れたとしても眉唾な与太話としてしか受け取られなかったのだ。
しかし、今日の夕方になって突如いやに真実味のある体験談がwebクローラに引っ掛かった。調べてみるとこの人物の行動範囲と円居の外出範囲が重なっており、たまたますれ違った拍子にSCP-2012-JPによる影響下から脱したようだが──何とも奇跡的な巡り合わせもあったものである。
「そういえば、この時間帯に民間人の家へ押しかける時ってどんな風に身分を偽るんですか?」
「一番多いのはガス業者だな。誰がどう考えても放置すれば大惨事になる代物だから、少しばかり深刻げに話してやれば通りやすい言い訳だ」
「それはそうですけど……警察とかじゃないんですね」
「警察を名乗るとなると、一々警察側に連絡しなきゃらないのがなぁ……今時、警察手帳を見せても疑ってかかる奴はいるし、そういう奴は警察署に電話して確かめようとするからな」
「事前に根回しをしておかないといけないってことですね」
「どうしても他に尤もらしい身分がない場合は警官を名乗るだろうが、街中ならガス業者以外にも水道やらセールスマンやら色々と候補はある。わざわざ煩雑な手間をかけてまで警官を名乗ることは少ないだろうな。どうしても警官に行かせなきゃならない場合でも、警察に潜入してるエージェントを行かせた方が幾分か話が早い」
「財団の潜入エージェントって本当にどこにでもいますね……」
「何なら君がこの前立ち寄った牛丼屋の店員も潜入エージェントだったぞ」
「は?」
円居は先日行った牛丼屋の記憶を掘り返した。店員は二人しかいなかったが、どちらが潜入エージェントだったのか話を聞いた今でもぴんとこない。潜入エージェントはそういう訓練を受けているのだから当然なのだろうが──
「待ってください。ブライト博士と一緒に行った店ですよね? つまり、ブライト博士は気付いてたってことですか?」
「私は曲りなりにも人事局長だぞ? 民間人と特殊な人間の見分けがつかないわけないだろう」
「えっ、すご……久々に心の底からブライト博士を尊敬しました」
「……久々に?」
室内に沈黙が落ちた。円居はブライトとしばし見つめ合った後、壁掛け時計を見遣る。
「実験開始まで一時間を切りましたし、ブライト博士はそろそろ退室してください」
「まだ話は終わってないんだが?」
瞼を開けると礼拝堂の中にいた。奥には祭壇があり、壁には大きなステンドグラスが見える。眠った時間は深夜だったが、ステンドグラスは真昼のように照らされて鮮やかなガラスを輝かせていた。一般的に日本人が想像するような、如何にもな聖堂の景色だ。何も知らなければ神秘的な美しさに感嘆していたかもしれないが、諸々の背景事情を知った上で見ると張りぼてを眺めているようで白けてしまう。
「いらっしゃいませ。当教会へようこそお越しくださいました」
「ああ、どうも」
祭壇の脇、よく見れば箱のような物が置かれた辺り──ここは赦しの秘蹟しか執り行っていないというから、おそらくは懺悔室であろう小部屋の近くから神父が現れた。話には聞いていたが、本当に花瓶頭である。歩く度に生けられたホオズキが揺れる様は何ともシュールだ。
「告解をご希望ですか?」
「いえ、今日はお尋ねしたいことがあって……██年前の連続殺人事件についてなのですが」
一言尋ねた瞬間、神父の纏う雰囲気が変わるのを肌で感じられた。表情を読み取るべき顔もないというのに、不思議と緊張感や敵意というのは伝わってくるものだ。
「帰れ」
「今回は随分と性急ですね。以前尋ねた件で警戒させてしまったのでしょうか? ですが、今回は何としてもお話しを──」
「帰れって言っているんだ」
報告書に記載されていた通りの流れだ。神父は我慢ならないとばかりに近づき、円居の頭めがけて手を伸ばした──が、逆に腕を掴まれて放り投げられる。教会の床は石造りなのでさぞや痛いだろうが、手加減する理由はなかった。
「な、なんで……」
「なんで動けるんだ、でしょうか? 突発的な事態とはいえ、訓練を受けたエージェントが一般人の掴みかかりを避けられなかったことは確かに疑問を感じていましたが……今こうして不思議がっている様を見る限り、あなたは懺悔室の外であっても多少であれば相手の行動を制御できるようですね」
動揺のあまり立ち上がれずにいる神父に近づきながら、懐に手を入れた。不思議なもので、今の円居は眠りに落ちた時と全く同じ装備だ。愛用の銃も、スタンガンも、ナイフも──手錠もちゃんと入っている。その手錠を取り出し、逃げようとする神父の腕を捻り上げて手首に掛けた。
「くそっ……何の権利があってこんなことを……!」
「あなたが他人に罪を擦り付けるのも、別に権利があってのことではないでしょう」
「はっ、何を根拠に? ただの言いがかりだ!」
「あなたが“ゆるした”殺人事件の遺骨を全て調べましたが、いずれも同様の手口で殺害されたことが判明しています。また、複数の遺骨が全て同じ時期に連続して殺されたものだということも分かっています。殺人の流行トレンドなんてあるわけもなし、これをただの偶然と言い張るのは些か無理があるのでは?」
「ふん、証拠は?」
「ありませんね」
「そら見たことか! それなら──」
「しかし、世の中には法を介さずとも人を“処理”できる存在もいるんですよ」
「何? お前、警察じゃないのか……?」
「それは今重要なことではありません」
神父もといPoI-D-2012-JPと押し問答する気はない。円居がここへ送り込まれたのは、PoI-D-2012-JPから少しでも情報を引き出すためだ。尋ねたからといって新たな情報が得られる保証はないが、追い出されることなく会話が成立するだけマシである。
「単刀直入にお聞きしますが、現実側のあなたは今どこにいるのでしょうか?」
「……どこにもいない。敢えていうなら墓の中だろうよ」
「確かに、あなたの元になった人物は死刑囚として処刑済みですがね」
財団が最も気にしているのはPoI-D-2012-JPの所在地だ。というのも、PoI-D-2012-JPの挙動は単なる霊能力の独り歩きと考えるには複雑すぎる。ただ単に生前の殺人歴を擦り付けるのではなく、おそらくはその対象を選んでいるのだ。これは数年前の殺人を負わせる上で当時の年齢、犯行現場と生活圏の距離感など、不自然にならないようにできる限界を考慮しているためだろう。
勿論、これだけでPoI-D-2012-JPが今もどこかで生きているだとか、死後幽霊になって彷徨っているだとかを断定することはできない。最初に栗谷相手に嘯いていた通り、本当に夢の中にしか存在しない可能性もある。だが、仮に存在していれば幽霊だろうと確実に収容できるため、財団としては現実のどこかに存在していてほしい気持ちが強い。財団は確実性を重んじるのだ。
「ですが、墓の中というのは違うのでは? あなたの遺骨は遺族が引き取りを拒否したため、拘置所の納骨堂に安置されたそうですよ」
「……は?」
呆けたように吐息を零したPoI-D-2012-JPを見下ろしながら、少し意外に感じた。遺族が引き取りを拒否するとは微塵も考えていなかったのだろうか。だとすれば随分と傲慢だ。身内から死刑判決を受けるほどの犯罪者が出たとなれば、遺族が置かれた状況は壮絶なものとなる。口さがない人々にどんな目で見られただろうか。そういった想像もできず、死んだ後ならさすがに受け入れてくれると思っていたのなら──どうしようもなく想像力が欠如していて呆れてしまう。尤も、そういう人格の持ち主だからこそ、生前は力のない子供ばかり殺して回り、死後に至っても自身の余罪を他者に擦り付けていられるのだろう。
「神父さん……いえ、███さん。呆けていないでちょっとお話ししましょうか」
※鬼灯の花言葉は「心の平安」や「偽り」
タイトル: SCP-2012-JP - ざんその教会
作者: toritsukushima
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-2012-jp
ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: ブライト博士の人事ファイル
原語版タイトル: Personnel Director Bright's Personnel File
訳者: Dr Devan
原語版作者: AdminBright
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/dr-bright-s-personnel-file
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/dr-bright-s-personnel-file
ライセンス: CC BY-SA 3.0