ミスター・ミームにありがとうと言って。
※壊された虚構ハブのif番外編です。
※壊された虚構とは、北朝鮮が壊滅して世界のヴェールが捲られ、財団含め異常存在にまつわる物事が民間人にバレている世界線のことです。
思考や創造を司る物やらセフィラにおいて海王星を象徴するオブジェクトクラスという表記に目を細め、円居は静かに端末をスリープ状態に戻した。疲れていて、白昼夢でも見ているのかもしれない。
「残念ながら現実だぞ」
夢じゃなかった。円居は直視し難い惨状を再確認し、背後に現れたブライトの方へ向き直った。
「何なんですかこれ?」
「サイト-19のSCiPnetで発生している電子的異常だ。ネットワーク上でKeterという単語を使うと、該当用語がPeterに改竄される。ついでに、画像が添付されているタイプの報告書は全ての写真が陳腐な落書きに差し替えられる」
「なんだそれ」
異常性の中身はシンプルな部類だが、入ってくる情報の全てがシュールで反応に困る。円居はしばらくサイト-19には来ていなかったのだが、一体いつからこんなトンチキに陥っていたのだろうか。
「一か月ぐらい前から悩まされていて、AICの訓練による修正と回避を試みたが無駄だった」
「財団の技術でも太刀打ちできないのか……」
「というより、これの作り手が定期的に改良を加えているようだ。犯人を捕まえない限りいたちごっこだな」
「なら、今は特定待ちですか?」
「いや、犯人はとっくに分かっている。PoI-6882……GAW*1の構成員だ」
「GAWって確かSCP-2658を作った……」
「ああ。Discordで権威批判を楽しみつつ、時折傍迷惑な代物を作る連中だ」
GAWは比較的年若い層のネットユーザーが集まった要注意団体だ。中には大学生と思しきメンバーも在籍しており、いうなれば大学の同好会などに近い雰囲気の集団である。そのため統率力が高いわけでもなく、財団ともそこまで激しく敵対しているわけではない。だが、当然ながら親しいわけでもない。
「元々財団はGAWの対処優先度を高く設定していなかった。確かに2658のように一歩間違えば経済を破壊しかねない物を作る連中だが、それでも被害としては軽微だったからな。それに、GAWの構成員には現実改変者もいる。下手に刺激して、四方八方で暴走されたら敵わない」
「その辺は統率力がなくて、一か所に固まらない組織だからこそって感じですね」
現実改変者を擁する要注意団体というと、他には蛇の手や失神交響楽などがいる。あれらと比べればGAWの所業は可愛いものだ。蛇の手は財団施設に平然と忍び込んでくるし、失神交響楽は当たり前のように一つの地域全体を立ち入れない状態にもするのだ。その辺の被害と比べれば、ネット上で怪しげな異常性が出回るのはまだマシと言えるだろう。
「だが、今は訳が違う。ここ最近のGAWの行動は目に余る……これもまたヴェールが損なわれた弊害だな。民間人の目を気にしなければいけなくなり、財団が派手に動けないと高を括っている」
「実際、今はもう昔のようにはいきませんからね……」
かつて財団とGOCがXK-クラス終焉シナリオ*2を回避しようとした結果、北朝鮮は壊滅的な被害を受けた。それによりヴェールは捲られ、人々はこの世に人智の及ばぬもの──異常存在が実在することを広く知るようになったのだ。
これにより財団もGOCも、異常存在を確保あるいは破壊する際にあまり自由に動けなくなってしまった。昔は街中で騒ぎが起きても記憶処理と適当なカバーストーリーでどうにかなったが、あれは人々に『オカルトみたいな出来事が実在するわけがない』という思い込みがあったからこそ通用していたのだ。人々がオカルトの実在を確信し、尤もらしい作り話の方を疑ってかかるようになればもう今まで通りとはいかない。
「要はカバーストーリーがいらないぐらい密やかに追い詰めないといけないわけですけど、それって都市部じゃ結構難しいですよねぇ……」
「ただのPoIならともかく、相手は前々から財団の存在を知っていてその躱し方も堂に入っているときた。おまけに、今や民間人が相手にとっては便利な防波堤になり、我々にとっては踏んだらまずいトラバサミ状態……まあ、本当の緊急時ならこの状態からでもどさくさに紛れて始末する手段はなくもないが」
「えっ」
「幸いにして今回はすでに穏便な解決手段が考案されている」
何やらとんでもない発言が聞こえた気がするが、あまり深掘りしない方がいいらしい。
「……どんな手段ですか?」
「多少小賢しかろうと所詮はキレやすい若者だ。煽り立てて自らトラブルを引き起こすようにしてやればいい」
「近隣住民やマスコミから怪しまれたとしても、尤もらしい火種があったのだと言い訳が利くようにするってことですか。しかし、そんなに上手いこと食いつく火種を用意できるものですか?」
理屈としては分かるが、ネットコミュニティで特定の誰かを強く食いつかせ、わざとトラブルまでもっていくのは口で言うほど簡単なことではない。今時ネット弁慶など珍しくもないが、大半の人々はそれが現実に波及する前に警戒なり恐怖なりで手を引くだろう。
仮に行き着くところまで行ってしまうとすれば、それは相手に余程強い恨みがある場合ぐらいだ。意図的にそういう恨みを作れるのか、という話になってくる。
「これがまた面白いことに、お誂え向きのアノマリーがいるんだ」
「ネ、ネットトラブルを引き起こせるアノマリー……?」
「いや、厳密にいうとSNSで確実にバズれる人型オブジェクトなんだが」
「確実にバズれる人型オブジェクト!?」
既視感。異常性の中身は全く違うのに、最初にPeter云々の説明を聞いた時と同じ感覚がする。内容はシンプルなのに、あまりにもしょうもなくて脳が理解を拒否する感覚だ。
「GAWは何故だかワンダーテインメント博士にご執心でね。特に、奴が作るリトル・ミスターズのパクリ作品をよく作る。件のバズりアノマリーはその一人さ」
「え、つまりGAWが作ったアノマリーでGAWを追い詰めるんですか? 人型オブジェクトってことは多分自我があるタイプですよね? 協力してくれるんですか?」
勿論、財団には他人の意思を無視して行動を強制する手段もある。敵のスパイなどを尋問する場合、それらは割と躊躇わずに使われるらしい。
だが、人型オブジェクトに対して使われることは滅多にない。保護の理念に反するからだ。それに、行動の強制は短期的に見て旨味があっても、長期的に見れば人型オブジェクトからの反感による健康被害や収容違反のリスクを招く。おまけに誰がどう見てもやむを得ないと断言できる状況でもない限り、倫理委員会から即刻勧告が入るだろう。果たしてサイト-19の業務が大いに影響を受けている状況が“やむを得ない”と断言できるかどうかは倫理委員会のみぞ知ることだ。
「その辺は心配せずとも快く助力するだろう。何せ、彼は自らの意志でGAWの元から逃げてきたのだから」
「へえ、仲悪かったんですね」
「そりゃそうだろう。アノマリーとはいえきちんと知性がある生き物だぞ? 生まれた直後、インスタでバズりたいからお前を生み出したなんて言われたら心証最悪だ」
「あ、ああ……確かに」
生んでもらった恩も一発で吹き飛ぶような展開だ。そもそもバズるためにアノマリーを作るにしても、せめて知性を持つ人型オブジェクトの形を避けるべきだったのではないだろうか。生み出された側も反応に困るだろうし、生んだ側も逃げられて散々だ。誰も幸せになっていない。
「で、今日逸樹に会いに来たのはそいつ……SCP-2842が理由ってわけ。2842は前々から異常性を活かした情報収集という側面で機動部隊入りを希望していたんだが、如何せん異常性の行使に必要な知識以外は日常生活に困らない最低限しか持ってなくてね。ひとまずはエージェントになるために必要な基礎訓練を積ませているんだが、これがまた難航している」
「まあ、学校にも通ってないわけですからね」
「今までならともかく、今後の財団にとって2842はさらに便利な存在になっていくだろう。そのためにも彼に訓練で挫けてもらっては困る。そこで、同じアノマリーという立場で一足早くエージェントになっている君と面談の機会を持ち、目標を再認識してもらおうって算段さ。彼自身も君のことを知ったら興味を示してね。5148の対処を頼むご褒美がてら、しばし君とお喋りする時間を設けたんだ。目的を考えればアイリスやレオラでもいいんだが、やっぱり同性同士の方が気楽かと思ってね」
「その前振り結構プレッシャーなんですけど……エージェントになるためのお役立ち情報とか、崇高な理想とか語れませんよ」
「そんなこと話す必要ないさ。気軽に話してくれたらいい。明日の午後二時にセッティングしてあるからあとはよろしく」
bluntfiend:hetcopogg最近gaycopmp4に会ったか?
hetcopogg:うん?
hetcopogg:昨日会ったけどどうして?
bluntfiend:ここんところ浮上頻度が落ちてるだろ
bluntfiend:先月財団に喧嘩売るって息巻いてたばっかだし、何かあったのかと思ってな
lesbian_gengar:おやおや、いつになく心配性じゃないか
bluntfiend:財団がやばいのは事実だろ
bluntfiend:気をつけるに越したことはない
lesbian_gengar:お前だっていつぞやに財団の時間を無駄にしてたじゃないか*3
bluntfiend:あれは結果そうなっただけだし、財団に直接手を出したわけじゃない
lesbian_gengar:まあね
hetcopogg:まあ大丈夫だと思うよ
hetcopogg:インスタですげーイカした人見つけてお熱なんだとさ
jockjamsvol6:浮気かぁ?
hetcopogg:言ってろ
bluntfiend:それならいいんだが
bones:そんなに心配するなんて、何か良くない兆候でもあったのかい?
bluntfiend:そういうのはない
bluntfiend:ただ、妙に嫌な予感がするだけだ
「あんたが円居? 初めましてだな。会えて嬉しいよ……成人してるんだよな?」
「こんにちは、2842。幼く見えるかもしれませんがちゃんと大人ですよ」
「アジア系は幼く見えるとは聞いてたけどマジなんだな」
円居をまじまじと見つめるSCP-2842に釣られ、同じように見つめ返した。
SCP-2842は21歳らしいので実は円居と同じ歳だ。しかし、モンゴロイド系とコーカソイド系の身体的特徴の違いから、見た目だけならSCP-2842の方が年上に見える。一方で、どこか素直な雰囲気を漂わせる様は幼げにも思えた。
「なあなあ、早速いくつか訊きたいことがあるんだがいいか?」
「どうぞ」
「あんたは何年ぐらい訓練してからエージェントになったんだ?」
「五年ですね」
「五年!?」
「フィールドエージェントは戦闘訓練も受けなければいけないので……あと、銃器の扱いや車の運転とかも覚える必要があります」
「ああ、確かに。車を走らせることができたらどこへ行くのにも便利だもんな。俺も財団に来る前、彷徨っていた頃は車を使えたらどれだけいいかと思ったことさ」
「苦労されたんですね」
「まあな。危うく警察にも捕まりそうになったし……けど、今はこうしてリアルの繋がりがある。生まれた事情が事情だから、誰かと繋がることなんてできないと思ってたが……世の中捨てたもんじゃないな」
多くの人間にとって財団に確保されることは人生の崩壊を意味するのだが、SCP-2842に関して言えば厳密には“人間”とは異なるため収容生活の感じ方も全く違うらしい。特に、財団職員は人型オブジェクトと過度に親しくなるのは避けるにせよ、SCP-2842の素性を理解した上である程度は歩み寄ってくれるのだ。自身の生い立ちに不満を持っていたSCP-2842からすれば、それなりに居心地が良いのだろう。人間ではなかろうと、知性を持つ生き物にとって自己を肯定されるというのは重要なことなのだ。
「あんたの他にも似たようなエージェントはいるんだろ? 皆そのぐらい長く訓練を受けるのか?」
「アイリスさんやレオラですね。アイリスさんは僕より先輩なので訓練課程についてはあまり知らないんですが、レオラは確か三年か四年ほど訓練を受けていましたよ。機動部隊入りするエージェントだから、訓練課程も僕とは随分違ったようです」
「各業務に特化した訓練を受けるってことだな。まあ、俺も外で戦うわけじゃないのに戦闘訓練なんて受けさせられても困るしな……勉強だけでも大変だってのに」
「今はどんなことを勉強しているんですか?」
「んー……確かハイスクール卒業までに習うこと全般って言ってたな。普通の奴は学校に通って覚えるんだろ?」
「そうですね……僕も高校一年の途中までは学校で勉強していました」
「学校って楽しいもんなのか?」
一瞬虚を衝かれた。収容される前に過ごしていた普通の生活、学校での生活について訊かれるのは随分と久々だったからだ。大半の人間は人型オブジェクトに対し、収容前の暮らしぶりについて尋ねたりしない。それが研究のため必要なインタビューならともかく、もう元に戻らない人生について私的に訊くには無遠慮な質問になるからだ。
たまたま円居が収容前の生活に未練がない人間だったからよかったが、今回面談していたのがレオラ辺りだったら空気が凍り付いていたかもしれない。そんな意図は全くなかったのだろうが、ブライトの人選が功を奏したようだ。
「えっと、まあ……そうですね。結構楽しいですよ。学生の間は当たり前の生活すぎてあまり意識しないんですが、あの楽しさは大人になってから振り返ってみて改めて実感するものですね」
「あんたとしてはどんなことが楽しかったんだ?」
「うーん……僕は意外と体育祭とか文化祭とかの行事より、毎日学校に通う何気ない生活自体が楽しかった気がしますね」
「文化祭? ダンスパーティーみたいなもんか?」*4
「ああ、こっちには文化祭がないんでしたっけ……なんて言ったらいいんでしょうね。一応様々な文化を学ぶことが目的ですし、ダイバーシティデイとかが近いんでしょうか。生徒達がクラスや部活ごとに展示物や模擬店などの出し物をするものなんですけど──」
hetcopogg:やばい
hetcopogg:マジでヤバい
hetcopogg:gaycopmp4が財団に捕まった
lesbian_gengar:マジで言ってる?
hetcopogg:こんな冗談言わない
hetcopogg:どうしたらいい?
hetcopogg:何の前触れもなく、気付いたらいなくなってて
hetcopogg:何もできなくt
bones:気持ちは分かるけど落ち着いて
jockjamsvol6:もしかして先月の件か?
lesbian_gengar:今更?
juliachildenthusiast:ずっと被害が出てたなら、あいつらにとっては今更ではないだろうな
hetcopogg:今重要なのは財団の動機なんかじゃない
hetcopogg:bluntfiendどうにかしてgaycopmp4を助ける方法はない?
bluntfiend:考えてみる
bluntfiend:けど、あんまり期待はするな
bluntfiend:あの時gaycopmp4にも忠告したが、財団は直接手出しされたら容赦しない
bluntfiend:俺達が今まで悠々自適に過ごせていたのも、結局はあいつらを本気で怒らせてなかったからだ
lesbian_gengar:しかし、あいつらは一体どうやってマスコミに気取られず動けたんだ?
タイトル: SCP-5148 - クリフォト
原語版タイトル: SCP-5148 - Qlippoth
訳者: Red_Selppa
原語版作者: Uncle Nicolini
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-5148
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-5148
ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: SCP-2842 - あなたが手に入れたミーム
原語版タイトル: SCP-2842 - It's A Meme, You Dip
訳者: kidonoi
原語版作者: Communism will win
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-2842
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-2842
ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: SCP-2293 - 内輪ネタ
原語版タイトル: SCP-2293 - An Inside Joke
訳者: C-Dives
原語版作者: kinchtheknifeblade
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-2293
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-2293
ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: SCP-2658 - 説得力あるプロキシ
原語版タイトル: SCP-2658 - A Convincing Proxy
訳者: C-Dives
原語版作者: eggs
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-2658
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-2658
ライセンス: CC BY-SA 3.0