「ああ。途中から乙女ゲームに一家言ある研究員を収容チームに入れたからな」
「乙女ゲームに一家言ある研究員!?」
「逸樹はさ、財団やGOCを擬人化した乙女ゲームって聞いてどう思う?」
「は?」
「どう思う?」
「いや、どうもこうも気が狂ってるとしか……誰がそんなもの楽しむんですか? 財団職員? GOC構成員?」
この人遂に気が狂ったのか、あるいはクスリでもキメたのか。
そんな内心が透けて見える目を向けられ、ブライトは無言で肩を竦めた。例の一件を記憶処理されているのが残念だ。もし覚えていたらもっと面白い反応が見れただろうに。
「そういう妄想を楽しんでいる現実改変者がいてね。SCP-5513っていうんだけど」
「世界は広いですね……自分の命を狙ってくる組織にメロつくなんて。被虐趣味?」
「そういうんじゃないと思うよ。妄想の中では財団もGOCも5513に甘い言葉を吐いているからね」
「……ちょっと想像力の限界を試されている気分です」
「報告書読む? 5513を大人しくさせるために職員が擬人化キャラクターに扮し、お望み通りの台詞を吐かされている記録があるよ」
「可哀想……今、本当に心の底から同情しています」
財団職員の業務はどれも過酷とはいえ、何事にも限度はあるべきだ。命が懸っていないだけマシとも取れるが、人間はただ生存していればいいだけの存在ではない。誰にだって守るべき尊厳はある。
「というか、そんな惨い方法を取ってまで収容しているのは何故ですか? 財団の方針的に殺すなり眠らせるなりしてるものだと……」
「うーん……全力で乙女ゲームを楽しむっていうふざけた特性の割に、思ったより能力が強いんだよね。人を一瞬で香港まで転移させ、おまけに記憶まで消すとか平然とこなすし」
それは確かに強い。現実改変者の強さはピンキリだが、空間や記憶といった目に見えないものを改変できるのはそこそこ強い部類に入る。
「というか、そこまで強いなら他者の感情を弄ることもできそうですけど……」
「そういう兆候は全くないな。あくまで自分の行動により“キャラクター”から自発的な好意を引き出すことをお望みらしい」
「……結果だけ見れば、他者を洗脳するという一線だけは超えるに超えられないちょっとの純粋さみたいな感じなのに、なんで全然心温まる気配がないんでしょうね」
「誰かとのちゃんとした恋愛ならともかく、不特定多数との“ゲーム”に過ぎないからだろう。そういった嗜好そのものを否定する気はないが、間違っても現実に持ち込むもんじゃないな」
「それはそう」
どんな趣味を持っていようと、他者に迷惑をかけていないのならそれは許されるべきだろう。幼女が好きだろうと、人妻が好きだろうと。けど、実在する人間を脅迫じみたやり方で動かし、自分だけ満たされようとするのなら話は別だ。幼女が好きだからといって実際に触れるなど許されるはずもなく、人妻が好きだからといって夫婦仲を引き裂いていいわけがない。
「まあ、収容から数年経っても事態が今より悪化する兆候はないし、急ぐ必要はないってことで後回しになっていたんだけどね……いや、研究員がちょっと焼かれたりする事件はあったんだけど」
「茶番に付き合わされた挙句に外傷を負わされている……!」
「思い込みが強すぎてこっちから望んだ形での干渉はほぼ不可能だし、もう起きたまま収容している必要もないだろうという結論に至ったんだ。尤も、眠らせようにもこれがまた難航している。どうにも乙女ゲームの世界観とやらに守られているようで、麻酔もSRAもあまり効果がない」
「こわ……」
確かにSRAに耐性を持っている現実改変者はたまにいるのだが、何故SCP-5513に限ってこうも恐ろしく感じるのだろうか。構図的に愛の力で限界を超えている、みたいな薄ら寒さがあるからかもしれない。ちなみに、ここでいう愛の力は支配欲や所有欲に言い換えることができる。
「で、君の出番だ」
「シゴトデスカラネ」
「そんなに心を閉ざさないでくれよ。ちょっと近づき、5513を君の効果範囲に入れた上で一芝居打ってもらうだけだから」
「全然“だけ”じゃない言葉で締め括らなかったですか? 一芝居って何?」
「ほら、5513が君の異常性を突破することはないと想定してはいるものの、現実改変者は暴走すると何をしでかすか分からないだろう? 特に、最も懸念すべきは彼女が“世界観”をかなぐり捨て、何でもありの状態になってしまうことだ。極力そういった事態を避けるためにも、こちらも彼女のいうゲームらしく振る舞うというわけさ」
本当か? 面白がってないか?
そんな疑いの眼差しを向けるも、ブライトの表情からは何も読み取れない。伊達に長生きしてないらしい。
「はい、これ衣装と台本」
「衣装まであるんですか!?」
「そんなに難しい演技は必要ないから安心していい。彼女の世界観に則って追い詰め、明確に動揺した瞬間に麻酔銃を撃ち込めばいいだけさ。現実改変者は動揺したり、激昂して思考力が鈍った瞬間が一番弱くなるからね。そのタイミングなら確実に眠るだろう」
「心配してるのはそこじゃなくてですね」
「頑張るんだよ、逸樹! これまで5513の収容チームがずっとやってきたことなんだから!」
「それ言われると嫌って言い難くなるのでやめてもらっていいですか?」
男が立っていた。
真っ黒なロングコート。真っ黒で、のっぺらぼうみたいなお面。
ぽっかりと空いた穴のように、黒々とした男が立っていた。
この世界には一片の欠けもあってはならないのに。
こうしてたまにバグが出るのだから困る。
でもまあ、バグは直せばいい。
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男が立っている。
変わらずに立ち続けている。
まるで、自分はバグじゃないと言わんばかりに。
男が指を鳴らすと、隣にいたSCPは踵を返した。
そのまま振り返ることなく去っていく。
SCPは止まらなかった。それに、何も起こらなかった。
あり得ない!あり得ない!あり得ない!
このゲームに繧キ繧ケ繝?Βなんてあるわけがない!
だってこのゲームは遘√′菴懊▲縺溘b縺ョ縺ェ縺ョ縺?縺九i?
仕方なかったのだ。
頑張ってるのに全然好感度が上がらなかったから。
こうでもしないとエンディングに辿り着けないから。
銃口が見えた。
SCP-5513が倒れ込むのを確認し、待機していた保安部隊と収容スペシャリストが出てくる。これから先、SCP-5513は眠ったまま収容されることになるのだろう。さらにその先でSCP-5513がどんな扱いになるのかは分からないが──何にせよ、数年間過酷な業務をこなしてきた収容チームもしばしの休息を手に入れられるだろう。彼らの喜ぶ様を思い描いて気持ちを落ち着けようとしつつ、結局円居は仮面を外して深く溜息を吐いた。
「収容試行を残す必要があるとはいえ、コスプレして演技してるところが記録に残るの嫌だな……」
タイトル: SCP-5513 - SCP財団は私のカレ
原語版タイトル: SCP-5513 - The SCP Foundation Is My Boyfriend
訳者: Utsuki_K
原語版作者: Azmoeth Jikandia
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-5513
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-5513
ライセンス: CC BY-SA 3.0