しあわせをのぞむならば   作:華歳ムツキ

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「なんか健康状態を確認される回数がめちゃくちゃ増えたんだけど何なの……こわ……」-SCP-████


ただの紙の箱に見えるだろう?

財団に収容されてから早3日。慣れたとは言いづらいが、一応平穏に過ごしている。

見知らぬ白い部屋で目覚めた時は頭の中も真っ白になったが、とりあえず酷い目には遭っていない。採血とか何かのよく分からない検査だとか、何人かの白衣の人が来て色々聞かれたりだとか──落ち着かない状態ではあるものの、今のところ命の危険は感じていない。

とはいえ、心配なのは財団が何故自分を収容したのか分からないことだ。現実改変能力は確かに失っているはずだし、そもそも財団は滅多に現実改変者は収容しない。かといって、今の自分に何か他の異変があるとも思えない。少なくとも自覚できる範囲では普通だ。

それでも収容に踏み切ったのだから、財団は何かしらの異常性を確認しているのだろう。自分について財団の方が何か掴んでいるのも中々に恐ろしい状況だ。当人にも教えてくれよと言いたくなるが、果たして財団が人型オブジェクトにどのような対応をするのかは分からない。対象がどの程度危険か、加えて収容されている状況に対し従順かによって変わるのだろうが──

 

 

「やあ、████。はじめまして」

 

 

答えの出ない考え事をする日々の中、その日は少し変わった研究員がやってきた。

白衣なので研究員であることは一目でわかるし、容貌が取り立てて変なわけでもない。癖のある茶髪に緑の目をした青年だ。ただ、何故か目を惹くほど派手な首飾りを付けている。アラビアの占い師がつけていそうな、大きな赤い石が印象的なペンダントだ。どうして研究員がそんなものを身に付けているのだろうか。

 

 

「私はジャック・ブライト。今回、君の実験を行うことになった博士だ」

「……どうも」

「うーん、緊張しているみたいだね……どうやら備え付けられた娯楽用品にもあまり手をつけていないみたいだ。ゲームが好きだと聞いていたんだが、気に入らなかったかい? それとも……そんな気分じゃない?」

 

 

確かにゲームは好きだ。ただ、それを財団の人相手に話した覚えはない──なんてのは財団相手には無意味なのだろう。公権力すら物ともしない財団からすれば、人の自宅に入っていって生活環境を調べるぐらいは朝飯前に違いない。それどころかそれまでの人生をどんな風に歩んできたか、どういった人間関係を築いていたか、書面と聴取で調査できる範囲は全て筒抜けだと思った方がいいのだろう。

 

 

「まあ、無理もない。我々が管理しているアノマリーの中には、君のように元は一般人だった者もいるが……大抵、ある程度の年齢に達していると収容初期には激しいストレスを訴える。当人が収容された方がマシだと思っている場合を除いてね。そういった事例と比べれば、君は比較的に落ち着いているとも言える」

 

 

落ち着くしかないとも言える。財団についてよく知っているからだ。まずもって戦えない身では、財団が保有する戦力から逃げ出すことは不可能に近い。仮にいくつもの幸運が重なって外に出られたとして、警察すら丸め込める財団の監視網を掻い潜るのにもさらなる奇跡が必要になる。

 

 

「君の生活態度の良さ、加えてストレスの原因が先行きの不安や現状の不透明さであろうことを考慮し、君自身のことと今後のことを少し話しておこうと思う」

「……いいんですか?」

「勿論。何でもかんでも話せるわけじゃないが、君がストレスで体調を崩すような状況は我々としても望ましくない。何より、基本的な検査は一通り終わったため、君は今後様々な実験に連れ出されるようになる。その際、自身の状況が掴めていた方が実験も円滑に進むだろうからね」

 

 

説明してくれるのは有難いし、財団としての言い分は理解できるが──この人、驚くほど包み隠さないな。説明役の人選をミスしていないだろうか。尤も、考えようによっては変に懐柔しようとしてこない態度の方が好感を持てるかもしれないが。

 

 

「我々が何かしら異常なもの……一般的な知識では説明のつかないものを収容している組織だというのは聞いているね?」

「はい」

「君をここに連れてきたのも、君にそうした異常性が見つかったからだ。勿論、これは自覚がないだろう。君の異常性は非常に気付きにくいものだからだ」

 

 

ブライト博士はそう言うと、入室時に持ち込んだケースから紙製の小箱を取り出した。お店で見かけるようなきちんとした箱ではなく、一枚の大きな紙を折って作ったような箱だ。懐かしい。子供の頃に折り紙でこういうものを作ったような気がする。

 

 

「これはただの紙の箱に見えるかもしれないが、歴としたアノマリーの一種だ。今まで実に多種多様な実験が行われて……」

 

 

不意に、ブライト博士は奇妙な表情で口を噤んだ。まるで自分の言動が自分で信じられないかのように、テーブルに置いた紙の箱を凝視している。

 

 

「待て、どういうことだ? 多種多様な実験? サイトを一つ吹き飛ばしたオブジェクトを? しかも……実験がしたければ誰でも自由に行っていいだって?」

 

 

急にぶつぶつと呟いたかと思えば、最後にこちらの顔を凝視して目を瞠った。かと思えば、すぐに懐に持っていた端末を手に取った。

 

 

「アルト、ジャックだ。すぐにSCP-████の収容セルまで来てくれ……問題? いいや、彼自身に問題はない。そもそも彼は暴れたとして、私を倒せるかすら怪しいという結論に達しているだろう?」

 

 

何か今さらっと失礼なことを言われた気がする。実際、武術の心得でもない限り、自分より体格のいい成人男性を張り倒すのは難しそうだが。

 

 

「とにかく、電話だと説明しにくい。というより、今ここで伝えたとして君が信じるかどうか分からない……いいか? 彼の傍で話さなきゃ駄目だ。私も彼の目の前で事態を認識して、初めておかしいと気付いたんだ。分かったらとっととこっちに来てくれ……ああ、そうだな……いや、機動部隊は手配しなくていい。彼の異常性の効果範囲がまだよくわからない以上、大人数になったら彼の異常性の効果を受けられる者と、受けられない者の間でトラブルが生じるかもしれない……最悪、君と機動部隊の乱闘が発生してもいいのなら手配してもらっても構わないがね……ああ、早く。待っている」

 

 

慌ただしく誰かと──ああ、そうだ、アルトというのは確か最初に会った金髪の人の名前だ。その人との会話を終えると、ブライト博士は先程よりもずっと神妙な顔で居住まいを正した。

 

 

「はあ……さすがに少し虚を衝かれたが、説明を続けよう」

「えっと、大丈夫なんですか……?」

 

 

よく分からないが、今何か明らかに予期せぬ異常事態が発生していたことだけは感じ取れる。だというのに、ブライト博士は大して気にした様子もなく肩を竦めた。

 

 

「大丈夫だ。少なくとも、君の傍なら問題ない」

「……?」

「君からすると信じ難いかもしれないが、この箱は外からの刺激に応じて様々な反応を示すオブジェクトでね。例えば……そうだな、これを燃やそうとした博士が消失したりした」

「は?」

「はたまた、これを警備職員が撃ったら他の全警備職員諸共消失した」

「なんて?」

 

 

場所と状況次第では出来の悪いホラ吹きだと思っただろうが──ここは財団である。どれだけとんでもないことだろうと起こり得るのが恐ろしい。何より、そんなものが剥き出しで目の前に置かれているのが一番恐ろしい。

 

 

「ああ、そう身構えずとも大丈夫さ。最初の説明に戻るが、君の異常性とは他のオブジェクトが有する異常性を抑制するものだ。君の傍に限っては、このやたらめったら実験をさせたがる面倒なオブジェクトも……今やただの紙箱に過ぎない、有難いことにね」

「……?……???」

 

 

訳が分からない。いや、この人がこんな状況で壮大な作り話をする必要はなさそうだが、発言が本当だとしても抑制されているせいで自分の目では確かめられない。

というか、自分は一体いつからそんな体質になってしまったのか。あの時、イエローストーン公園に行くためにとある椅子を使った時は無事に射出されたはずだ。まさか世界が再編され、若返った拍子に新たな体質を獲得したのか──そう考えるのが妥当だが、そんな珍妙なことが起きるというのか。

 

 

「とはいえ、すべての異常性を抑制するわけじゃない。この施設では低危険度のアノマリーは自由に出歩くことが許可されているものもあるんだが、君を移送する過程でそれらの異常性が抑制された様子はなかった」

 

 

ああ、なら例の椅子は無害判定だったのかも──いやそんなわけあるか。確かに妙な破壊耐性のお陰で怪我一つしなかったものの、一度座ったが最後2時間も強制的に空の旅をさせられるんだぞ。仮にあれが無害になってしまうなら、本当に命の危険があるもの以外は抑制できないことになる。油断はできない。

 

 

「果たして君の異常性はどこまで効果があるのか、効果範囲はどれぐらいか……そういったことを確かめるため、今後は何度も実験が行われるだろう。君からしてみたらこの説明のように、奇妙な経験の連続になるかもしれないが……悪いようにはしないから安心してくれ。我々の理念は確保・収容・保護、アノマリーである君の命は保証しよう」

 

 

その時、部屋のドアがノックされた。

 

 

「よし、君への基本的な説明はひとまずこれぐらいにしておこう。これについて同僚と相談しなければいけないから、そこに座ってじっとしていてくれ」

 

 

▼△▼△▼

 

 

補遺4342-2:SCP-████とのクロステストにより、SCP-4342が強力な精神影響を有していることが判明。オブジェクトクラス再評価、および収容手順の見直しが行われた。現在は暫定的にSCP-████の収容室に隣接した監視室に耐火金庫を設置し、保管されている。O5の承認がない限り、どのような場合であっても持ち出しを禁止する。

 

補遺4342-3:SCP-4342は保管しているという状況すら、経年変化実験だと見做して何らかの被害を及ぼす。これらの影響もSCP-████の効果範囲内では抑制されるが、傷病や寿命によって異常性の喪失が起こり得る人型オブジェクトに頼った収容は安定性が高いとは言い難い。SCP-████とのクロステストまで財団ですらSCP-4342の精神影響を受けていたことを鑑み、SCP-4342の早期終了を要請する。

 




タイトル: SCP-4342 - 実験は継続されなければならない
原語版タイトル: SCP-4342 - Testing Shall Continue
訳者: Fennecist
原語版作者: Tanhony
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-4342
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-4342
ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: ブライト博士の人事ファイル
原語版タイトル: Personnel Director Bright's Personnel File
訳者: Dr Devan
原語版作者: AdminBright
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/dr-bright-s-personnel-file
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/dr-bright-s-personnel-file
ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: クレフ博士の人事ファイル
原語版タイトル: Dr Clef's Personnel File
訳者: Dr Devan
原語版作者: DrClef
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/drclef-member-page
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/drclef-member-page
ライセンス: CC BY-SA 3.0
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