十話「ヒーローの卵」
◇◇◇◇◇◇
「ここ…は」
何ては言ったけど、僕にとってそれは、何度も見た天井…身体の痛みや不調は特に感じられず、問題ないと判断した上で起き上がるとそこにはかなり痩せ細った男の人が椅子に座って僕の隣にいた
面識のない初対面であったがその男の人は僕の名前を知っていた
「君とはよくここで会うね、緑谷少年」
「…」
「(この人…誰だっけ)」
自分は起きたばかりの頭を回す、思考を巡らせた結果僕は驚きの答えにたどり着いた
「…!ま、まさか」
「これは…君にさえも秘密にしてた事なのだが今回の事とその戒めも含めて全てに君に話そう」
「これが、私の真の姿だ」
僕がよく知る人物…最も尊敬し、強く聡いヒーロー…オールマイトの面影がその時男の人と合致した。
「お、オールマイトなの…?その姿は」
「ああ」
その姿を露わにした彼は己の昔の話をしだす
「十何年前の話さ、私がとあるヴィランとの襲撃にあった際に大きな怪我を負ってしまってね。幸い撃退する事は出来たのだが、その代償として身体の弊害として活動時間が大きく狭まってしまったのだ」
「今では一時間程でしか維持出来ない状況だ」
その話は、今から五年程遡る
それは突如としてヴィランの襲撃にあったオールマイトが不意の一撃喰らったと当時多くのマスメディア社が一斉報道される程話題を読んだ衝撃の事件だった。その話はネットで瞬く間に広まり一時期は“毒毒チェーンソー”と呼ばれるヴィランから喰らってしまったのでは囁かれていた。
とはいえ真相の程は闇に隠され引退の話が持ち上がったもののNo. 1ヒーローの威厳はそう簡単に崩れる事はなくすぐさま復帰した事からその事件は時を過ぎる事に忘れ去っていった…
そして今、その話を久しぶりに聞いた僕は昨日のように新鮮に感じ、固唾を飲んでその話を耳に受ける
「そ、そんな…」
「私が遅れてしまったのも活動時間を目一杯使ってしまってね…目先の事件を解決してしまったが故のミスだった」
「本当に申し訳ない」
疲労からか椅子に座ったまま僕に向かって陳謝するオールマイト…僕なんかに頭を下げられる日が来るとは思ってもいなかった
「…い、いやいや!!とんでもないですよ…むしろ、僕がもっと強くてやられないように立ち回れてばこんな事には…」
そう、そんな事は決してなかった。僕の判断の誤りで今回のようなコダゴタが生まれてしまったのだ。最も適切な行動が出来ていれば、オールマイトが脳無を倒しそのまま終わりを迎える事が出来ていたと思っている
「…」
「あの後、どうなったんですか…」
「僕が気絶してから、何が起きたか分からなくて」
僕の記憶はあの海に沈んでいった所から途切れていた。だから、今どういう状況なのか未だに分かっていない
「…」
「分からなくて、いい」
オールマイトは常に安心と希望をもたらす存在、放たれる一言は人々の不安を幾度となく掻き消してくれた…。
しかしそれとは裏腹に、オールマイトから放たれた言葉には何か
「皆無事に生還し、相澤君も重症だが一命を取り留めた…私達職員があの後早急に対処しヴィランを撃滅させたよ」
「よかった…」
「USJの件だが」
「かなりの大損壊で救助訓練の再開はもう少し後になるそうだ」
「とはいえ、君が責任を負う事はない…それもこれも雄英側が全て責任を持つという形で公安からも話をしている」
「…僕」
「よく、分からないんです…こんな力をいきなり授かってしまって…どうしたらいいか分からなくて」
「第一、あの人の事よく分かっていないから余計…」
「…君は雄英の生徒であり私ヒーロー社会において大切な未来の卵でもある」
「私には特に君を育てる義務がある」
「だから、君を見捨てる事はしない」
「…!」
「気張っていこうぜ!緑谷少年!」
「は…」
「はい!」
「イテテ…」
保健室から出たオールマイトは脇腹の古傷に痛みを感じ己の老いが早まっていることを実感する。
「五年前…か」
出久に吐いた過去の出来事にはまだ明かしていない事実が一つあった。確かに、ヴィランの一撃をもろに喰らって後遺症を残してしまった事は事実だった。しかし、その者の姿と経歴…あまつさえ名前すらも不明な謎のヴィランはあれ以降姿を見ることはなかった。
そう、犯罪数を大きく減らし多くの犯罪者達が捕えられた絶対的ヒーローオールマイトが“唯一”逃した”と言われているその男は…五年たった今でも鮮明に彼の中には覚えていた。
唯一知っているとすればその姿、五条袈裟を着た飄々とした男である以外は知る由もなかった
「宿儺…思っていたよりも厄介な相手だな」
それよりも、彼が注視していたのはあの悪魔と言わざるおえない宿儺の様子だった。未だにその真意と目的が定かではない彼には一種の恐怖さえも覚えていたのだ
「大丈夫か」
横に現れたのは先程人数チェックを行っていた塚内。彼らは古くからの友人でありヴィランを追う事に幾多から世話になっている男だった。
当然過去の出来事についても塚内は周知している
「ああ…ちょっと喰らったが、なんて事は…」
「…前に聞いた彼の力は“個性”ではないという話だが…どうやら本当みたいだな」
「あの大規模な攻撃と傷を治癒する再生能力…どれも個性とは逸脱した力で私に対抗できる兵器を殲滅させたという」
それは塚内が切島の発言から耳にした情報。100メートル先でも目視出来るほどの規模のデカい攻撃を幾度となく繰り出しまるで“嵐のような斬撃”が降り注いだと言われていた。
「脳無がどれ程の力を有しているかは分からんが、そいつを完封できる辺り私と同等の力を持っていると思ってもいい」
「…勝てるのか、そんな奴に」
塚内のみならずオールマイトの実力は言うまでもない、しかし規格外かつ未知数な力を持つ宿儺にまた対峙した際に一体どちからが軍配に上がるか…
しかしその杞憂を晴らすように笑顔でこう答える
「勝つさ」
「…と、言いたい所だが」
「正直、数年前の私であればなんとか…というだけで今の力少しキツイかな」
「ただ」
「今を駆けるヒーローの卵達…あの子達となら勝機は必ずある筈だ」
「それだけ確信している」
自分が徐々に劣っている事は早朝の出来事でも充分な程に痛感していた。その姿はそれは頂点に立つ男とは思えぬ程の脆弱なもので塚内も否定する事も出来なかった。しかし、ヒーローの輝き未来はそこにあると保健室の方へと視線を向ける。
「今では親の個性を継ぐことで強力な個性へと変化していっているからな」
「それだけじゃないさ…A組の皆は一人一人悪に屈しない強き心を持っている」
「まだ一週間も経っていないというのに、ここまで連携したチームプレイが出来るとは…向かうまでは杞憂な思いを馳せていたが、大したものだよ」
「あの宿儺は力以外の序列を知らない…故に、彼にとってはあの子達を取るに足らない存在でしか認知していないのだろう」
「だとすれば、それは大きな誤算」
彼は二ッ、と不敵な笑みを浮かべる
「牙を剥けるのが私だけだと思ってるのなら、痛い目見せるぜ、呪いの王よ」
爆豪、轟、緑谷と世代を追うこどに強まる個性と悪に屈しない誉れ高いといえる強き心が今そこにはあるのだとオールマイトは強く思っていた。
そしてその芽を育てるのが自分の役目なのだと残り火を抱く彼は後進の育成に全てを注ぐ事を意を決した。それが彼が先生という立場になった理由でありその覚悟の表れでもあった。
激動な一日はこうして終わり二日後の休暇を経て削れ切った精神とその身体を癒した。
あの後動ける程に回復した僕はお母さんに安否の連絡をかける。お母さんは案の定大粒の涙を流し僕の事を深く心配をしていた。僕は多くの人に迷惑をかけてしまった、オールマイトのように強く聡いヒーローになる第一歩は最悪な形で躓いてしまったが、あの一言のおかげで自分を強く保つが出来そうだと僕はオールマイトに心の中で感謝した。何より大好きなヒーローにそう勇気付けてくれた事が大きかったけど、いつもテレビでしか見ていなかった為、空想に等しいと感じていた人間が思っていた通りのヒーローだったことが何よりも嬉しかった…それが大きかったのかもしれない
「お早う〜…USJの件、皆ご苦労だった」
__相澤先生復帰早ェ______!!?
久しぶりの雄英でホームルームで立っていた包帯だらけの相澤先生を見て皆は心の中でそう叫んだ。ここまでタフで丈夫な人は僕も中々いないだろうと通常運転で始める先生を見て僕はそう思った。すると、意外と心配性な切島君が立ち上がりながらその容態を尋ねる
「先生、怪我大丈夫なんスか?」
「婆さんの治療でなんとか動けりゃ問題無いよ、そんな事よりも…」
「緑谷」
「ッ!は、はい!」
睨んでるつもりはないだろうけど、僕の方へと視線を向ける相澤先生に僕は謎に臆してしまう。
「大方の事情はオールマイトから聞いた…もう既に釘を打たれてるかと思うから長くは言わん」
「十三号の説明の通り、お前の持つ個性は人を殺めてしまうことが出来る。自分でもよく分かっているだろう…だから、それを念頭に置いて個性の使い方を学べ」
「いいな」
「…!」
僕が宿儺と同居している事実に関しては雄英高職員の数名と校長先生、そしてリカバリーガールのみ知る極秘事項となっておりその一人として相澤先生も含まれている。極めて特殊に例と言われている為根津校長の判断によって僕は雄英の中で保護されると同時に早期対策と能力の詳細調査が進められる事となった。場合によって隔離施設へと送り込まれる事もあった為雄英側は公安側の意見を却下し幾つかの条件を持ちかけてなんとか回避される事となった。本当に、感謝をしても仕切れない計らいであった
「はい!頑張ります…!」
だから、こそ裏切るような事をしたくない相澤先生の隠された真意を読み取り僕はそう強く返事した
「それで、だ」
「まだ、戦いは終わったわけではない」
「!!」
その言葉を聞いた僕達は目を点にしながら驚愕した。
「またヴィランの襲撃が来るのか?」
そんな不安をよぎる想像が巡る中、先生は口を開きこう続けた
「年に一度行われる祭典…雄英生徒にとっては一代チャンスとも言われる大舞台だ」
「雄英体育祭が迫っている!」
クソ学校っぽいの来たァ______!!!
緊張から歓喜へとジェットコースターのように急降下するようにビッグイベントでもある「雄英体育祭」開催に胸を躍らせた
これからくる大きな祭典が頭に離れずにいた僕は、気づけば昼の休み時間を迎える事となり食堂へと向かっていた。
体育祭がどれほど凄いかと言われると同じくスポーツの祭典であるオリンピックと同等か下手すればそれ以上の盛り上がりを見せる程、現代では雄英生徒による個性を競う姿は人々に大きな影響をもたらしている。
一般の方は勿論多くのスポンサーもサイドキック候補の視察として見る為、それが「年に一度のチャンス」いわれる要因の一つなのだ
「デク君、久しぶり!!怪我大丈夫!!?ちゃんとご飯食べれてる!!?」
「う、麗日さんん!?」
グイ、と一気に近づきながら畳み掛けるように言い詰める。未だに女子との距離感に慣れていない僕はいつものキョドりを見せる。
ただ、こうしてまともに話すのは少し久しぶりだ
「雄英に戻る際に君だけその場にいなかったから麗日君は特に心配をしていたのだぞ」
「勿論、僕もだが!」
ムス!とメガネの奥の瞳こそは見えなかったが僕に強く怒っている事は分かる。
「心配させて面目ない…」
「全くだよ、もう!」
「緑谷〜」
すると僕の机の上からゆっくり現れたのは怖い形相で泣く峰田君だった。
「おわっ!?み、峰田君!?」
「お前があの化け物と戦ってる時めっちゃ怖かったぞ…なんで戦う時だけ性格変わんだよ〜!」
「…なんか、普段の緑谷ちゃんとは別人みたいだったわ」
峰田君のそんな言葉に同意するように梅雨ちゃんも割って入りあの時の異常事態を思い返していた。当然だけど、“あの人”の事についてはクラスメイトには口出しする事は禁じられている。過度な混乱を招く可能性があるという理由だが、いつまで無理を通せるかは分からない
「ごめんね二人共…」
だから、とりあえず謝る事しか出来ない
「でも、無事でよかったわ」
ニコ、と梅雨ちゃんは僕の無事を確かめそう言ってくれた。
「緑谷君〜…」
またもやそんな声が聞こえた僕は峰田君だと確信し、声の方へと振り向いた
「何、峰田く…」
「と、みせかけて私が低姿勢で来た⭐︎」
「おおおお、オールマイトオオ!?」
筋骨隆々の体格であるのにも拘らず丸く縮こまって僕に声をかけるその様子はギャップとシュールが入り混ざっていてなんともいえない雰囲気だった
「少年、ちょっと来て頂戴」
「な、何ですか…?」
誘われるがままに招かれた僕はオールマイトについていく
「最近、オールマイトと二人になる事が多いな…彼は」
「ケロ…USJの時は緑谷ちゃんを助けたのはオールマイトだったのよね」
「アイツってすげぇよなぁ、個性も強えしオールマイトにも目を掛けられるしよー…なろう主人公かよ!」
口に指を当てながらその時を思い出す梅雨ちゃんとコミック的展開に羨望の眼差しでそんな言葉を垂れこぼす峰田君。その後ろで麗日さんが僕の背中を神妙な顔つきで見ていた。
「…」
「(なんだろう)」
「(最初は元気一杯で、いつも通りに話しかけてみたけど、やっぱり私達が知っているいつものデク君だったからすごく安心したけど…)」
「(でもやっぱり、間には大きな穴があるように感じるのは…なんでなんだろう…)」
その細やかな違和感は戦闘訓練で僕とペアになってから徐々に抱き始めていた。同じ志しを持つ物同士で、これから高め合いながら接していくのだろうと麗日さんはそう思っていたけれど、僕の力が“逸脱したもの”なのではと隔絶されたような感覚が彼女の中で芽生え初めていた。
他のクラスメイト達はまだそこまで親交もない為緑谷出久は“すごい個性を持った才能マン”という程でしか認識していない。
そんな僕に対しての認識は今回の襲撃事件にて大きく変わってしまった。
それは、中学を卒業したばかりのかわよい少年とはとても思えぬ程の猛威を振るうその“鬼神”の姿
「…」
「皆」
「ん?」
「どうしたの?お茶子ちゃん」
麗日さんの呼びかけに梅雨ちゃんと峰田君、飯田君が振り返る
「デク君さ…」
「多分だけど私達に内緒にしてる事、あると思うんだ」
今思えば、隠し倒せる訳がなかった。やがてその違和感が僕に向けられるのはそう遠くない話なのだから______
そこまで進展のない回ですが、僕としてはキャラクター達の心情を大事に書くタイプなので戦闘シーンよりも割合が多くなるかもしれません。
それと、所々場面を端折ってしまう事もあるのですがその辺りは原作とほぼ変更点がないと思ってもらえればと…