十一話「宣戦布告!!」
僕はオールマイトの後を追うように着いて行き、校舎の隅に移動した
正直言って雄英校内の周りは広大だからどこに行っても聞こえないと思うのだけど、オールマイトは周りに誰もいないか何度も見渡して確認する
「すまないね少年、大事な休み時間の途中に呼び出してしまって」
「い、いいえ…大丈夫です」
「体調の方は…うん、問題なさそうだね」
僕は下から上へと見ながら安否の確認をする
「それで…」
「…重要な話っていうのは…?」
「大丈夫、話っていっても休憩時間内に収める程度さ」
「さて、早速本題に入るが…」
「今日から、私と一緒に修行をしないか、という話なのだが…!」
「え」
“オールマイトと修行”
あの…オールマイトと…!?
「君の「呪力」と呼ばれる特異体質から得られるエネルギーについては私らも各々調査に出回ったのだが…」
「大した情報も残っておらずその詳細も分からない」
「ただ、その力を扱える経験は以前君はしたのだろう?」
「…まぁ、完全に扱えてるかと言われると自信はないですけども」
「突然上振れる事は戦闘訓練の時にありました」
以前宿儺が話した様に僕の身体が乗っ取られる毎に彼が得た経験やスキルが、僕の肉体そのものが記憶される。
練習や鍛錬を積まなくても、ある程度の感覚が僕の中で“覚えている”事で戦闘訓練の時のように無意識でも使えるようになった。
「うんうん…あの黒い雷の事だね」
「それ、今出せと言われたら出来るかい?」
「…」
「すみません、出来ないと思います」
「というか、以前出すつまりでやろうとしたんですが…その時はてんで駄目だったもので…」
「そうか…」
そう聞いたオールマイトは顔を伏せ数秒間の無言を貫く。
「これは私の推測なのだが、あの黒い雷はゲームでいうクリティカルヒットのような現象の物だと思っている」
「あれを出すのには幾つかの条件を要するのだろうね」
「つまり、その技に関してあまり依存する訳にはいかない…という事で!」
「君には特別メニューを用意してきた!」
「…オールマイトが組んだトレーニングって事ですか!?」
オールマイト考案…と聞くと僕のレベルでついていけるかどうか不安だけど、ナンバーワンに指導して頂けるのは最高峰の雄英だからこそ実現出来る贅沢だ
「ああ、とはいえ…今回やって貰うのは体力増強を目的としたメニューではない」
「というか、君の基礎体力や身体の強度は入学当初から既に出来上がっていると私は見ている」
「初日の把握テストでも、無個性であれだけの結果を出せるのだからな」
「そうとなれば今の君に必要なのはつまる所“呪力”と言われる物のコントロール…今日からそれをやって貰う」
オールマイトがそういいながら、紙に書かれた1日のトレーニングメニューを僕の前に出した。
ふと、僕は過去に宿儺から聞いたとある話を思い出す______
呪力とは、謂わば“負の感情から生成される自然のエネルギーの一種…。それは負の感情が増幅すればするほど力自体も増幅する。つまり、そうなれば急激な感情の爆発を起こせば大きな力を発揮するという事だけど、それが良いと言う訳ではない。大きなエネルギーを発してしまえば
身体から溢れ俗に言う“呪力ロス”を引き起こす要因に陥ってしまう。その為、感情の起伏を抑える事は重要な事なのだ
宿儺のような呪力を扱う人間にとって最も大切なのは感情のコントロールだと言う。大きくもなく、小さくもない…常に一定を保つ事で呪力を能率よう回せるのだという。つまりオールマイトのいうトレーニングというのは…
「感情のコントロール…ということですか?」
「正解!」
「負の感情を制御する為には君の集中力を今よりも高める必要がある」
「その為に…これも持ってきた!」
ドサ!と山積みになった物を何処からか取り出したオールマイトの手にあるのはビデオのDVDだった。そしてその殆どが恋愛関連の映画で、その他にはホラーやバラエティーなどの様々なジャンルの作品がある。
もしかして…これを全部見るって事…!?
「今回の修行はこれを見るだけ」
「なんだが…見る際にはこれを必ず持つこと!」
ポイ、とオールマイトは空き缶を投げ渡す。
「常に一定の呪力を保ちながら、その空き缶を潰さない程度まで調整して私が選んだこの映画を見てもらう」
「君、こういうの苦手でしょ」
ギクリ、と芯を突かれたような言葉が僕の胸を刺す。映画といえばオールマイト関連のヒーローものでしか手に取った事がないから、それ以外は未知の領域とも言えるだろう。ましてやこういう物を見ようとは人生で一切思わなかったし…
しかし、オールマイトはだからこそ選んだのだろう
「君ね、性格的には結構流されやすい方だと思うのだよ」
「良くも悪くも激情型…タイプは違うがそれこそ爆豪少年と似たようなもんだね」
「その場合、相手の挑発やその空気に飲まされてしまえば君の呪力出力がブレて思うようにパフォーマンスを発揮出来ない欠点が生まれてしまう」
「逆に、それだけ解消できれば君は他のヒーローよりも引けを取らない人間になるだろう!」
「…でも、僕は個性もないのにそれだけで本当に…」
「…全く、君は本当に心配性だな…!私を見なさいよ!」
「え?」
フン!とオールマイトは力を入れるとお馴染みの姿へと急激に変貌させる。これは俗に言う“マッスルフォーム”…活動時間を温存している為その姿に変える事はないけれど…
「ここにいる人間は何を持ってナンバーワンに登り詰めたのだ?」
「…正義感?」
「いや、それも大事だけど…そうじゃなくて!」
どうやら、違うみたいだ…
「結局ね、有象無象のヒーロー社会で結局場を制するのは、これだよ!」
ムキッ!!と自慢の筋肉を魅せつけるようにポーズを構えた。
「とにかくフィジカル!!それだけを突き詰めればどのような相手であろうと怖い物なしさ!!」
オールマイトの個性はとにかく身体能力をパワーアップさせる“増強型”…極めてシンプルだが、オールマイトの場合パワーが規格外過ぎて一つのパンチで天候を変えてしまう程だ。
「そして、君の得意は私と同じ“それ”さ!小手先の技うんぬんよりも、基礎体力の向上こそ君の優先すべきものだ…!」
「うぅ"っ」
そう熱く説いている最中で血反吐を吐きながらすぐさま“トゥルーフォーム”へと早変わりしてしまった。興奮はしたがわざわざ変身した意味はあったのだろうか…?
「オールマイト!?」
「まぁ…ともかくこれからは視聴覚室を借りて特訓の臨むといい」
「申請の方は、もう済ませたから」
「流石…準備が早い…!」
そんなこんなでオールマイトとの“秘密の特訓”に明け暮れる毎日を迎える事となった僕…とはいったものの、一見ただ映画鑑賞をしているだけに見えてしまう為僕がイメージした特訓とは真逆だった。しかし呪力のコントロールとは言ってもそれは容易な物ではなかった…
『秋江…』
『僕は君の事が…』
「…!!」
恋愛映画の一番のシーンで風船が破裂するような音が炸裂する。どうしてもそういった場面で呪力の制御が大きく振れてしまう。クソナードたる所以なのか、割れた缶を一々掃除する様は自分でも情けなく感じてしまう…
「これ、本当に強くなるのかな…」
その台詞を吐くという事はトップヒーローの考えを否定してしまうのと同じ事だが、やはりどうしても強くなっている実感というのが沸かない。
体育祭まであと二日…こんな調子でいいのかと未視聴のディスクの山を見ながらそう不安を募らせる。
そして、気づけば開催当日まで時があっという間には過ぎていった…。体育祭の開会式が執り行われる前に僕たちA組は決まられた控室で待機していた。
「いや〜!ついに当日だね!デク君!」
ブンブンと腕を振りながらもうすぐ行われる祭典に興奮する麗日さん。
「もう緊張し過ぎてて夜寝られんかったよ〜!」
「近いよ麗日さぁん…!」
テンションが高くなると麗日さんはこうやって近距離で話しかけてくる…一週間ずっと映画を鑑賞していたから多少の耐性はつくと思っていたけれどクソナードっぷりはあいも変わらず健在だ…
「しかし、君も前日まで鍛錬に努めているようだったが…一体何をしていたのだ?」
「我々に内緒にやっているものだから、気になっていたのだぞ」
ビシッ、とキレのよい挙動をしながら飯田くんがそう尋ねる。僕が行っていた“特訓”は皆が帰る頃に始めていた。これは周りに見られない為…というか放課後一人で恋愛映画に齧り付いてる所を目撃なんかされれば誤魔化しようがない。むしろ、変な噂されてしまうだろう。なんて言えばいいのか言葉が詰まっていた僕の横から、一人の男の人が物騒な顔つきで近づいてきた
「緑谷」
「と、轟君…!」
彼が僕の名を呼ぶと賑やかな雰囲気が一変し冷えた感覚が周囲に漂う。彼と話した事は一度もない…だからこそ彼と話すのには背中がヒリつくような緊張が走る
「はっきり言う」
「お前が未だにどういう人間なのか、俺にはよく分からねぇ」
「(え…)」
長い間の後で放った一言はいえないけれど妙にズレたものだった。
「USJん時、こっちじゃあまり話題に出ていなかったが…」
「脳無っつーデカい化け物と戦って勝った話が雄英で持ちきりなのはお前、知ってるだろ?」
あの日から少し後が経ったが、その事を振り返す轟君の真意が分からず僕はこう返す
「…何が言いたいの、轟君…」
「だから、今回の体育祭じゃお前が一位になるのは必然だと騒いでる…」
体育祭で誰が一位になるかは雄英の経営科でも僕の名前が多く上がっていたという。トップヒーローは学生時代から逸話を残すと昔からそう言われている。ただ、そんな話題が上がっているばっかりに、他の皆が良く思っているかと言われればそうでもない。特に、上を行こうとする者なら尚更だ
「お前にとっちゃ俺たちは他愛もねーかもしれねぇが…俺はお前に勝つつもりでいる」
「轟、そういうやめようぜ…大事な時期なのは分かってるつもりだけどよ…」
場がピリついていたのを感じていた切島君が轟君に対して鎮めようとするも、轟君はあくまでその意思を変えるつもりはない
「いつまでも仲良しこよしでやってるようじゃ理想のヒーローにはなれねぇんだよ」
そう言い残しながら僕から離れ椅子に座った。
シン…と皆が無言を貫く中、もう一人僕の元へとやってきた。
「か、かっちゃん」
「デク、細けぇことは一旦置いといてやる…」
細かい事、というのは襲撃事件や体育祭での話題の事だろう
「この体育祭で一位になン のは俺だ…!テメェじゃねえッ!」
「二人共ぶっ殺して俺が一番だッ!!分かったかクソデクッ!!」
ケァッ!と大声で僕にいつもの悪態をつきながらも轟君同様に僕に宣戦布告をぶちかます。
あれから僕とかっちゃんも関わる機会がなかった。募る話、もあるだろうけれど…今は友達ごっこなんかしてる場はない。お互いの夢をかけたこの舞台では皆が“ライバル”なのだから
「…う、うん…頑張る…!」
「緑谷…!」
上鳴君とその他数人が立ち上がり僕に向かってこう言った
「正直な話、轟が言ってた事はあながち間違いでもねぇ…」
「俺らだって、お前の後を追ってる訳にはいかねーからよ…!!」
「上鳴君…!」
「そ、そうだぜ!オイラだって…!」
「勿論、私らも同じ気持ちだよ!」
「打倒緑谷君だ…!」
麗日さん、飯田君も続け様にそう言いかけた。
「(みんなは僕に勝つために、この体育祭で全てをかけるつまりで挑んできている…)」
「(みんながその意気に見合えるように、僕も全力を尽くして挑むんだ…)」
「(轟君、かっちゃん、麗日さんに飯田君…)」
「(どれも強い人達ばかりだ…)」
「(僕だって負けるわけにはいかないんだ…!)」
今回は試験や襲撃事件とは訳が違う…これ以上の惨劇を起こさない為にも宿儺の力をここで持ち出す訳にはいかない…そうなれば、僕に残されたのは生まれ持った体質だけで皆を競り合わなくてはならない。それでも…僕は皆の意思に応えるんだ…!
「緑谷君」
「え?」
「僕もだよ⭐︎」
ポン、と肩に手を置いた青山君が変なタイミングでその台詞を口にする。うん、と僕は淡白な態度で返事してしまった
◇◇◇◇◇
『やって来たぜェ雄英高校体育祭ィィィ!!! 青き春真ん中の若人共が”我こそは!!”と言わんばかりに覇を競う年に一度の大・大・大バトル! 』
『…覇を競うんじゃなくてしのぎを削ってくれよ』
『ったく細けェことはいいんだよイレイザー! 』
『今回の目玉はリスナー達も分かってるよなァ!? ヴィランの襲撃を受けたにも拘らず、鋼の精神で雄英史上最大規模の受難を乗り越えた奇跡の超新星!!!』
『カモン!ヒーロー科! 1年! A組ィ!!』
DJの血が騒ぎたてるプレゼントマイクのノリに乗った言葉で数千人の観客達が歓声を上げる。高校のイベントなのかと思わせる程その盛り上がり凄まじくそこにいるだけで足がすくんでしまう
A組に続けように各科の生徒達が入場口へと続々と現れる。こうやって全ての生徒が集まると雄英の規模のデカさを実感出来る。
サポート科、経営科が並び終え、全ての参加者が
集まると壇上に一人の女性ヒーローが現れる。
18禁ヒーロー“ミッドナイト”______
個性の性質上、肌色が極端露出しておりそのコスチュームはお茶の間を凍らせてしまうような過激な姿が特徴的だ。これでも結構緩和されており当時ほぼ裸だった時期があったのだが、これがコスチュームの規定に引っかかり数年の時を経過し今の至っている。
というか、そもそも18禁と言われているのに高校にいていいのか…?という矛盾が生じてしまうがそれはさて置き…
「選手宣誓」
「1年A組、緑谷出久!」
僕の名が上がると、観客席の声がが止まり生徒たちの目は僕の方へと一気に向ける。
「はい!」
僕は壇上に上がると大勢の生徒達が並んでいる光景が視界いっぱいに広がる。これから僕はこの人達と戦う事になるA組は勿論B組や普通科の人達ともだ…
「宣誓」
「僕が…」
「一番に、なります…っ!」